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凡庸なるパラディオン ~平凡な僕らは、それでも世界を守り抜く~  作者: bene
6章:永劫の生命を与えるモノのお話
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12.決行直前

 ――腐肉の塊へと変貌したパラディオンを行動不能にした後、僕らは戻ってきた彼女と共にこの事態を引き起こした害獣への方策を練った。

 先ず、相手の爪を受けないように心がける事。

 先程のパラディオンの変貌を見るに、どうやら一度その爪に傷付けられたなら既に危険らしく。

 万が一傷付けられたなら、即座にその傷口を抉り取るなり、末端であるのなら……切断するなりの処置を取らないと、腐肉の塊の仲間入りをしてしまう、ようで。


「……大丈夫かい、カンナ?」

「ええ、大丈夫よ」


 リーダーの言葉に、彼女は――カンナさんは冷たくそう応えた。

 ……ただ、彼女が冷静ではない事は僕の目にも明らかで。リーダーもそれは解っているのだろうけれど、それ以上の言葉は口にせずに、皆に向き直った。


「しかし、参ったな……思わぬ形で周知されちまったってのも、あるが」

「そう、ですね……僕の所は大丈夫みたいです、けど」


 先程の戦闘の後、意図的ではないとはいえど周知されてしまった――腐肉の塊が元人間だという事実は、それを知らされていなかったパラディオン達には衝撃だったようで。

 その場で胃液を吐き散らす者、真っ青になってへたり込む者など、その影響はとても大きく……戦意喪失してしまった者も、何名か出てしまっていて。

 これからその大元を叩くと言うのに、その直前になって数名とは言えど欠けてしまった事は、僕らにとって大きな痛手だった。


「とは言え、起きてしまったことは仕方ないさ。彼らにはカインと共に入り口に戻ってもらおう」

「……そう、ね。今回の相手の事を考えると、居るだけ邪魔に……というか、危険になってしまうもの」


 リーダー達の言葉に、僕らは小さく頷いた。

 ……少し厳しいようかもしれないけれど、事実なのだから仕方がない。

 今回の害獣は、人間を――或いは生き物を害獣に変えてしまう、そんな悍ましい害獣なのだから、戦えなくなってしまった人は敵になる(・・・・)可能性が非常に高いのだ。

 犠牲者がそのまま敵となる性質上、彼らをこれ以上この場にとどまらせる事は、それだけでリスクが増していく事になるのだから、そうしてもらう他ないだろう。


 集まっていた各班のリーダーの内の一人がソレを周知しに戻れば、ふと……先程返事して以降、黙りこくっていたカンナさんは小さく息を吐き、軽く手を上げた。


「……件の怪物だけれど。私に1つ案が有るわ」

「案……と言うと?」


 リーダーの言葉に、カンナは小さく頷きながら、僕らを見て――そして、自分の胸元に手をあてれば。


「囮を、使いましょう」


 ――誰もが考え、しかしそのリスクを考えて口にしなかったその言葉を、彼女は淡々と口にした。






「――正気なのか、囮作戦なんて」

「だが……それくらいしか手が無さそうなのも、また事実だろう」


 そうして、僕は皆の元に戻った後。

 数十分の休憩の後、この洞窟に潜む害獣を駆除する作戦を決行するという事を伝え、その作戦の詳細を皆に周知した……の、だが。

 その内容にミラは難色を示し、ギースは一応は納得しつつも顔を顰めていた。


 ……当たり前だ、何しろこの作戦は有効ではあるだろうけれど、致命的な欠陥がある。

 考えるまでもない、囮役は命の危険に晒される、という事だ。

 今回の害獣は攻撃を受ければ――たとえ掠り傷で有ったとしても致命傷となる、そんな相手で。

 そんな害獣相手に囮などしてしまえば、その囮役がどうなるかなど、想像に難くはない。

 無論、今回囮をする彼女(・・)は僕らよりも遥かに経験を積んでいるパラディオンだ、そんな事を理解してない訳がないのだけれど……


「……本人が志願した以上、私達が言っても詮無き事でしょう」

「そりゃあ、そうだけどさ……もっと、何か手が有ったりしないかな」

「ん……僕らも考えはしたけど……」


 ……あの場で、結局彼女の――カンナさんの案以上の物はあがる事はなく。

 リーダーは最後まで、彼女の身を案じてはいたものの、彼女も譲る事はなく。

 結局、彼女に押し切られるような形で今回の作戦に決まってしまった。


「……で、も。でも……わ、たし……たち、が……おそ、われる……ま、えに……っ」

「そう、だな。彼女が傷付けられるよりも早く、相手を仕留めれば……それで済む話ではある、か」


 アルシエルの言葉に、ミラは小さく頷くとその頭を優しく撫でて、微笑む。

 ……そう、それが理想だ。出来るのであれば、それが一番いい。

 彼女が襲いかかられる寸前に、僕らが害獣を仕留めてしまえばそれで……これ以上、誰も犠牲を出さずに済むのだから。


 僕もアルシエルの言葉に小さく頷けば、立ち上がって、軽く伸びをした。

 ……どうにも、緊張しすぎてるような気がする。

 久々の小隊での行動、以前の雪原よりある意味視界の悪い洞窟の暗闇、そして――相手にする害獣の異常性。

 その全てが知らず知らずの内に、考えを悲観的な方へ、悲観的な方へと引きずっているような、そんな気がして。


「――よし、アルシエルの言う通りだ。僕らは彼女が……カンナさんが傷付けられるよりも早く、件の鳥頭の害獣を片付ける。それを目標にしよう」

「……ああ、そうだな。それでこそだ」

「危ない危ない、って言ってるばかりじゃあ何も変わらんものな」


 だから、僕は努めて明るく、そう言葉にした。

 自分に、そしてミラ達に言い聞かせるようにそう言うと、皆の表情も少しは明るくなって。


「……わ……たし、がんば……る、ね」

「アルシエルだけじゃなくて僕らも、ね。一人で意気込みすぎじゃだめだよ?」

「そうですね、ラビエリやギースくらい肩の力を抜いて良いんですよ、アルシエルさん」

「……おいおい、何だかトゲのある言い方だなぁ」

「僕らが日頃真面目じゃないみたいじゃないか、それじゃあ」

「おや、違いましたか?」

「いや、違わないな」


 ――ああ、ようやくいつもの空気に戻ったような、そんな気がする。

 それもほんの僅かな間だけなのかも知れないけれど、これから先の事を考えれば今の内にリラックスしておいたほうがきっと良い。


 危険があるのは、囮役だけじゃあない。

 戦闘が始まれば皆、掠り傷1つだけでああなってしまう可能性があるんだ。

 一応、即座に傷口を抉り取るとか、末端部分だったら切り落とすとか……対処がまったくない訳じゃないけれど、それも効果があるかは判らないし――……


「――ウィル」

「あ……」


 ……そんな事を考えていると、ミラに軽く肩を抱き寄せられた。

 顔に、出ていたのだろうか。

 皆が明るい雰囲気で話している中、ミラは僕の方を抱き寄せたまま、軽く体を預けて。


「……大丈夫だ。きっと上手くいくさ」

「ん……そう、だね」


 その体が少し震えている事に気づけば、僕も彼女の肩――には手が回らないので、腕のあたりを軽く抱き寄せた。

 ……うん、こうして居ると少なからず、心は落ち着いてくれるようで。

 我ながら現金だなぁ、なんて思いつつも……作戦が決行されるまでの間、僕らは身を寄せ合うようにしながら、努めて明るく振る舞い、胸の底に残る不安を押し殺した。




 /




 ――暗闇の中、一人白く息を吐く。

 私の回りには誰も居ない。2人はあの姿に成り果てて、残り2人は戦意を失って洞窟を後にした。

 彼らは無事洞窟から出られただろうか? それが、今の私の心残りだった。


「寒い、わね」


 洞窟の中は、ひんやりと肌寒く……ここに来るまではずっと一緒だった仲間達が居なくなったからだろう、尚更に寒く感じられてしまう。

 酷く、寂しい。

 パラディオンになった時から覚悟はしていたのに。

 自分たちの周りで同僚が死ぬ事なんて、何度も見てきたのに――いざ、自分の仲間が死んでしまうとこんなにも寂しく、心が空虚になってしまうなんて。


「――大丈夫よ、リル」


 バラバラにされ、氷漬けにされたリル達の事を思い出す。

 ……空虚になっていた心に、熱が灯る。

 ドス黒く燃え上がる炎が、まだ私をここに留まらせていてくれた。


 鳥頭の害獣。

 きっとそいつは暗がりから爪で軽くリルを傷付けた後は、私達を観察していたのだろう。

 いつ変貌するのか、いつ私達が悲鳴を上げるのか――襲われて、殺し合うのか。

 ああ……そう思うだけで、寒くて、冷たかった体の隅々まで熱が行き渡る。


 ――大丈夫。

 リル達は、必ず……その不死という名の地獄から、開放してみせる。


 リル達が目の前で成り果ててしまったからこそ、気付けた(・・・・)こと。

 それさえあれば、問題はない……絶対に、あの鳥頭の害獣を取り逃がさずに、殺す事ができる筈だ。


「……ごめんね、二人共」


 ――ああ、ただ本当に。

 残してしまうであろう二人の事だけが、気がかりで――私は暗闇の中で一人、誰に言う訳でも無くポツリと呟いた。


 ……既に作戦は始まっている。

 今までの鳥頭の行動を鑑みれば、一人で洞窟の中を彷徨っている私は絶好の獲物だろう。


 ――思い知らせてやる。

 どちらが獲物で、どちらが狩人なのか。

 そして、お前が犯した罪の重さを。


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