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凡庸なるパラディオン ~平凡な僕らは、それでも世界を守り抜く~  作者: bene
6章:永劫の生命を与えるモノのお話
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10.突破、そして

「――んぬっ、おおぉぉぉっ!!!」

「縺溘☆縺代※縺溘☆縺代※縺溘☆縺代※」


 悍ましい声を上げる腐肉の塊を、その腕を、ギースは気合とともに受け止めた。

 腐り果て膨れ上がった見てくれからは想像もつかない膂力のそれを、斧の刃で受けつつ――そのまま押し込んでいけば、その細長い腕はずるり、と裂けていって。

 どす黒く悪臭を放つ血を撒き散らしながら、裂けた腕を引くようにして後退した腐肉の塊を、ギースはその健脚で蹴り倒し――……


「繧、繧ソ繧、豁「繧√※繧、繧ソ繧、」

「……すまんな、後で必ず開放してやる」


 少しだけ憐れむようにそう言いつつ、一時でもその足を止められるようにと、腐肉の塊の両脚を切断した。

 それで出来る足止めは、本当に僅かなもの。

 彼らは足を……足に見える部分を切り落とされても、まるで意に介する事なく。手に見える部分を足代わりに、這いずるように動き続ける。


 ただ、それでも――僅かな時間は稼ぐことが出来た。

 その間に、僕らは彼らから距離を通るように洞窟を駆け抜けて――その途中で、ギースは足を止めると地面に手をついた。


「す、ぅ……っ、余り得意ではないんだが、な!」


 ギースの言葉とともに、彼の周囲の地面が僅かに変化する。

 洞窟の地面はほぼ平らだったソレから、緩やかな傾斜へと変わり――……


「――十分だよ、早くこっちへ!!」

「おう、そう急かすな――!!」


 それを見たラビエリは叫びながらギースを呼んだ。何が十分なのか、なんて言わなくても分かるのか。

 ギースは慌てた様子で立ち上がり、走り――その後ろから、彼らがずるり、ずるりと這いずり寄ってくる。

 這いずっていると言うのにその速度は決して遅くはなく、まるで蛇か百足かといった速さでギースへと迫り。


 ミラと僕、そしてリズとアルシエルは彼らに向けて投擲用の槍を投げ、矢を放ち、そして雷撃を放っていく。

 決して有効打にはならないけれど、それでも僅かに彼らの足取りを止める事は出来て――その間に、ギースは転がり込むように僕らの元へと駆け込めば。


「――よし、『凍り付け』!!」


 その瞬間に、ラビエリは緩やかな傾斜となっているその場所を、その表面を凍てつかせた。

 急速に冷えた岩肌は凍り、そして水気を帯びて――……


「縺吶∋縲√k」

「縺ョ縺阪↑縺輔>繧磯が鬲斐h」

「驥阪>縺ョ縺大虚縺代↑縺」


 ……そして、凍りついた傾斜に足を滑らせた彼らは次々と転んで、倒れて、折り重なって。

 ぐちゅ、ぶちゅ、と音を立てながら、聞くに堪えない声を撒き散らし……僕は小さく息を吐き出した。


「――よし、今の内に逃げよう。皆大丈夫?」

「おう……は、ぁ、少し疲れたが大丈夫だ」

「少しはダイエットを考えたらどうだ? 酒の飲み過ぎで腹が重たいだろう」

「はっはっは、俺に死ねと言うか!」


 僕の言葉にギースは額の汗を拭いつつ立ち上がり。

 ミラに軽くからかわれても、割と余裕を持って返しているのを見れば、僕らはそんな2人の様子にホッとしながら洞窟を戻り始めた。

 幸いというべきか、ある程度距離を取れば完全に見失ってしまったからか、背後から追いかけてくるような音もせず。

 アルシエルにも見て貰ったけれど、どうやら彼らも諦めてくれたようで。


「……は、ぁ。何とかなったね、皆」

「まあ倒すので無ければ、私達だけでも何とかな……無論、このままではダメだが」

「兎も角、彼を早いところ皆の元へ連れていきましょう」


 ミラとリズの言葉に頷きつつ、軽く呼吸を整えれば……彼、カイン=アラベイルの方へと視線を向けた。

 彼は相変わらず憔悴しきった様子ではあったものの、先程と比べれば幾分か落ち着きを取り戻したようで。

 何やら、ぽつりぽつりと呟きこそしているものの、取り乱した様子もなく。


「あ……の……だ、い……じょ、ぶ……?」


 ……以前の事をまだ覚えているからか。

 アルシエルは少し不安そうに、しかしそれでも心配そうに、カインに声をかけた。

 ラビエリが少し身構えたのを手で制しつつも、僕はカインの様子を見て。


「……う……る、さいな……っ。弱っちい、癖に……なんで……っ」

「ん……よ、かった」

「――……っ」


 以前とは状況が違う事もあり、カインは特にアルシエルに突っかかる事も、嘲る事もなく。

 まだ言葉を返せているその様子に、アルシエルが僅かに笑みを零せば……酷く悔しそうな、そんな素振りを見せた。


 ……この分なら、前みたいに問題が起こる事は心配しないでも大丈夫そうだ。

 その事に少し安堵しつつ、僕らは来た道を先程と同様に戻っていく。

 遠くに彼らを見つければ戦闘を避けるようにして歩き、避けられない場合は音で気を引くなどして可能な限り戦わずに済むように努力して。


「……どう、して」


 そうして進んで、戻っていくと……再び、カインが乾いて割れている唇を開いた。

 掠れた声は狂気ではなく、純粋な疑問を孕んでおり。


「どう……して、弱っちいのに……雑魚なのに、戦えてる、んだよ……っ」


 ――そんな言葉を口にすれば、赤く血走った瞳で僕を睨むように見上げてきた。

 その様子に一瞬だけミラが身構えるけれど……うん、多分大丈夫だろう。

 彼はただ疑問を口にしているだけで、以前のように……アルシエルやラビエリにそうしたように、危害を加えるような意図はないだろうから。


「……僕には、ミラ達が居るからね」

「その、仲間も……雑魚、じゃないか……っ!一人じゃ、あの化物どもだって、倒せやしない……っ、癖にぃ……!!」


 髪の毛を掻きむしりながら、掠れた声でカインはそう言うと歯ぎしりを鳴らした。


 ……成る程、この口ぶりだと彼はたった一人で腐肉の塊と化した彼らを相手どれるのだろう。

 僕らは全員でかかっても1体倒すのにさえ時間がかかるし……ああやって足止めだけに徹するのであれば、それなりには戦えるけれども。

 この洞窟で何日もの間一人で生き延びてきた、という事は、彼は恐らく単独で何体も、何体も倒してきたのだ。


 それは、本当に凄いことだと素直に思う。

 僕でもミラでも……ううん、僕が知りうる限りでは父さんと母さん、そして姉さんくらいしかそんな事が出来る人は居ない筈で。

 それをさも当然のように行えてしまうカインは、きっと本当にオラクルに成り得る才能を持っているのだろう。


「それは、まあ。僕らは君と比べたら、きっと弱いんだろうけれど――僕らは一人じゃないから、ね」

「……な、にを」

「足りない所を、出来ない所を補ってくれる仲間が居るから。だから、戦えるんだ」

「……っ、き、れい事……を……一人じゃ、何も出来ないだけじゃ、ないか……」


 まあ、実際彼の言葉は間違っていない。

 僕一人ではこの洞窟じゃ何日生きられるかも怪しいし、きっとそう長くない時間で彼らの仲間入りをしてしまうだろう。

 ……僕は、一人じゃきっと……ううん、本当に弱い存在だから。


「だから、皆に頼るんだよ。情けないかもしれないけれど、僕らは君程凄い才能なんて持ち合わせていないから」

「~~~~……っ、もう、良い……雑魚のたわごとなんて、聞くんじゃ……無かった」


 僕の言葉にカインは吐き捨てるようにそう言えば、それっきり黙りこくってしまった。

 そんな彼の様子に、ミラは軽く肩を竦め……僕も、小さく息を漏らす。


 ……まあ、才能ある彼からしてみれば、きっと僕の言葉は詭弁にしか聞こえないのだろう。

 僕らと姉さんが見えているものが大きく違ったように、きっと彼と僕らが見えているものも違うのだ。

 ……だからといって、素行が悪すぎるのだけはどうしようもないけれど。

 これを期に、変わってくれたらなぁ。なんて思いつつ。


「ん――ようやくか。見えてきたぞ、ウィル」

「ふー……何とか戻ってこれたな」

「まあ、目的の害獣は見つけられなかったけど……手掛かりは得たし、上々だよね」

「ん……は、ふ」

「……疲れているようですね、しばらく休んで下さい、アルシエル。貴女が一番疲れているでしょうから」


 ミラの言葉に、僕は視線を前へと向ければ安堵の息を漏らした。


 視界の先に見える、薄ぼんやりとした灯り。

 既に幾つかの班は割り当てられた箇所を調査し終えていたのだろう、休憩している様子で。

 僕らは少し疲れた様子のアルシエルを気遣いつつ、彼らに手を振りながら合流し、少しの間休憩する事にしたのだった。




 /




 ――詭弁だと、思った。

 何が仲間と補い合うだ、何が仲間が居るから戦えるだ。

 そんなものは戯言(ざれごと)だ。戯言(たわごと)だ。

 僕はあんな雑魚達とは違う。一人だって戦える。

 事実、あの化物どもを何匹も、何匹も切り刻んで――それでも、化物どもは死ななかった、けれど。


「……」


 仲間だ何だと言っているあの男が、小柄な子供のような顔をしたあの男が、心底気に食わない。

 僕よりもずっと弱い癖に。才能なんて無い癖に。

 僕と剣を交えたら、1秒だってもたず首を刎ねられる癖に――どうして。


 ――どうして、そんな笑っていられるんだ。

 どうして、こんな――……


「……く、そ……っ」


 ……どうして、こんなにも。それを見て、僕が苦しくならなきゃいけないんだ。

 こんな気分にならなくちゃあならないんだ……!!

 許さない、許さない、許さない……っ、僕にこんな感情を抱かせた、男。

 そう……たし、か……ウィル。ウィル、ウィル、ウィル――絶対に、お前だけは――……!!

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