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凡庸なるパラディオン ~平凡な僕らは、それでも世界を守り抜く~  作者: bene
6章:永劫の生命を与えるモノのお話
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9.思わぬ再会

 ……洞窟の中は、おびただしい数の彼らで溢れかえっていた。

 当然と言えば、当然だろう。何しろこの洞窟には人間を害獣に作り変えてしまう、そんな悍ましい怪物が存在していて――その洞窟で、僕らが……パラディオン達が来るよりも以前から、何人もの犠牲者が出ているのだから。


「……リズ、犠牲者の数って分かる?」

「正確には判りません、が――パラディオン達だけでも既に15近く。一般の人の犠牲をあわせたら、軽く見積もっても30を超えるかも知れません」

「数自体はそこまででもないが……そりゃあ、気が滅入るな」


 ギースの言葉に、僕も小さく息を吐き出した。

 ……つまりは、軽く見積もっても30体彼らが――腐肉の塊と化した犠牲者達が、存在する事になる。

 それらは全て不死身であり、駆除することは……殺してあげる事は出来ず、一時的に拘束して動きを止める事しか出来なくて。


 ――そんな相手に大量に囲まれたら、どうなるか。考えなくても解ってしまう。


「……アルシエル、群れが見えたら言ってね」

「ん……っ」


 ラビエリの言葉にアルシエルは小さく頷きつつ、前へと進んでいく。

 僕らのパーティに彼女が居た事は、本当に幸いだった。

 何しろこの暗闇の中で、カンテラとかの灯りだけで遠くの相手の姿を確認するのは中々に難しい。

 気付いたときには囲まれて詰み――なんて事も、往々にしてあり得る話だ。


 だが、アルシエルの目はソレを未然に防いでくれていた。

 この暗闇の中でもある程度は見通す事ができるのか、僕らでは見えない暗闇の奥に潜んでいるソレでさえも、アルシエルはしっかりと捉えており。


「……こ、ち……あぶ……ない、から……はじっこ……とお、る……ね」

「了解だ――ギース、音を立てるなよ?」

「わぁっとるわ、こんな所でヘマをするかよ」


 ミラの言葉にギースは笑いながらそう言うと、アルシエルに言われた通りに壁沿いをそろり、そろりと歩き始めた。

 ……暗闇で見えないけれど、その先には何かが居るのか。

 ずるり、べちゃり、ぐちゃり、と。聞いているだけで気が滅入りそうな、心が削れそうな音が響いており――……


「……あの、アルシエル。何が居るのですか……?」


 その音がどうしても気になってしまうのか。

 小さな小さな、微かな声でリズはアルシエルにそんな事を聞いて。


「……て、あし……ない、のと……顔……いっぱい、の、と……足……ばっか、り……のと」

「う――ご、ごめんなさい、聞いた私が愚かでした……っ」


 アルシエルが声を少し震わせながらあげた特徴に、リズは口元を抑えつつ頭を振った。

 ……どうやら最低でも4体以上は、この暗闇の先に居るらしい。

 どうか彼らが正気を失っていますように、と僕は願いつつも、息を殺し、先へと進んでいく。

 そうして先に進んでいくと……不意に、アルシエルが足を止めた。


「どうしたの、アルシエル?」

「……だ……れか、い……る」

「――まさか、件の奴か」

「わ……から、ない……け、ど」


 僕らにはまるで見通せない暗闇の中。

 アルシエルは見えているからか、弓を引き絞り――暗闇の中にいる誰かに、矢を放とうとして――僕は慌てて、それを止めた。

 一応洞窟が他のルートとつながっている、という事はないと思うのだけれど……そもそも、僕らはまだその怪物の姿を知らないのだ。

 だと言うのに、見かけた見慣れない人影を怪物と断じて射掛けるのは、流石に危ない。

 万が一生存者だったりしたら、目も当てられないし。


「うぃ……る?」

「……ストップ。ちょっと待って、その……そこにいる何かの特徴は?」

「え……と……何か……ふ、く? みたいなの、きて、て……ぼろ、ぼろで……」


 ……うん、やっぱり止めて正解だったかも知れない。

 服を着ているのなら、それはやはり生存者である可能性が高いし――そうでなかったとしても、まだ距離には余裕がある。


「どうする、接触するか?」

「ん――……」


「――お、い。そこに、誰か居るのか?」


 ――ミラに問いかけられて、少し悩んでいると。

 不意に、暗闇の奥から――腐肉の塊の出す声ではなく、人の声がした。

 アルシエルに視線を向ければ、こくん、と小さく頷いて……よかった、止めて本当によかった。

 僕は心底安堵しつつ、アルシエルが見ている方へと視線を向けて。


「安心して下さい、僕らはパラディオンです。この洞窟の調査に来ました」

「あ……あ、ぁ……ああ、ああ……っ!やっと、やっと来たのか、ウスノロども……っ!!」


 僕の言葉に返ってきたのは、どこか狂気を孕んだようにも感じられる、掠れた――しかしどこか聞き覚えのある声だった。

 暗闇の中から幽鬼のように姿を表したのは、真っ白なボサボサの髪を降ろした、頬のコケたエルフの男性、で……


「おそ、い……遅い、遅い、遅いんだよぉ……っ!はやく……早く、僕をここから連れ出してくれ、早く……!!」

「――まさか、お前……カイン=アラベイルか!?」

「う、そ……ぜ、全、ぜん……顔、ちが……!」

「そんな事はどうでも良いんだよ!早く、早く……っ!!早くしないと、奴が……()が来る!!」


 ミラ達の言葉に、白髪の男は――カイン=アラベイルは、半狂乱になって叫びだした。

 僕が慌てて彼の口を押さえれば、彼にも僕の意図は伝わったのだろう。

 ふぅ、ふぅ、と呼吸を荒くしながらも、口を閉じ……そして、頷いた。

 その顔はかつてのような軽薄さは微塵もなく、ただただ憔悴しきった老人のような、そんな顔に成り果ててしまっていて……一体何があればこんな事になるのか、と思いつつも、僕はゆっくりと来た道を戻り始めた。


「……他の仲間は?」

「し……んだ。リトルの奴、も……ヒューマのも、ドワーフのも、ビーストのも……っ」

「災難、だったな」

「……なん、なんだよ……何なんだよ、アレは……っ、あれはぁ……っ」


 小さな声で確認を取るギースとミラに、カインは髪を掻きむしりながら声をあげる。

 ……気持ちは、判らないでもない。

 きっと彼は――彼も、仲間を腐肉の塊へと変えられてしまったのだろう。

 それを見てしまえば、もうきっと正気ではいられない。こうなってしまうのも、仕方のないことで――……


「あんな、鳥頭(・・)に……くそっ、くそぉ……っ」

「――待って、今何て?」


 ……そんな中。

 カインが口にした言葉に、僕は問い返した。

 カインは相変わらず憔悴しきった様子で、呼吸を荒くしながら、しばらくの間僕を血走った目で見つめていたけれど。


「……っ、鳥頭だよ、鳥頭ァっ!!アイツに、アイツに全部やられたんだ!!リトルのあの子が、目の前で、ブクブクって――」

「カイン=アラベイル。貴方はこの惨状の原因を――大元の姿を知っているのですか?」

「そうだよ!あの黒い、黒い鳥頭に――ッ!!!」


 再び半狂乱になって叫びだしたカインの言葉に、リズは目を見開いた。

 ――知っているのだ、この男は。

 こうなった原因である、害獣を生み出す害獣の姿を見ているのだ。

 なら、急いで戻らなければ。戻って、全員にその姿を周知すれば――その特徴を、行動を周知すれば――……っ!!


「――ぁ……あ……まず……い、かも……っ」

「どうした、アルシエル――」


「――隕九▽縺代◆」

「繧ォ繧、繝ウ縺輔s縺ソ縺、縺代◆」

「縺ソ縺、縺代◆縺ソ縺、縺代◆縺ソ縺、縺代◆」


 ……でも、その前に。

 どうやら今のカインの声で周囲にいた彼らが、僕らに気付いたらしい。

 ずるり、べちょり、ぐちゃりと、悍ましい音を鳴らしながら……四方八方から、あの背筋の凍るような声をあげて、彼らは僕らへと迫ってきているのが解った。


「縺溘☆縺代※繧医♂ 縺ォ縺偵↑縺?〒」

「縺溘☆縺代※縺上k縺励>縺ョ縺企。倥>縺溘☆縺代※」


「……こりゃあ、素通りは無理か?」

「とは言え全部を相手にするのは……難しい、な」

「カイン、貴方は――いえ、良いです、そこで大人しくしていて下さい」


 カインはその声と音に、その場で蹲りながら歯をガチガチと鳴らして……見ているだけで、戦えなくなってしまっているのが解ってしまい。

 ギースとミラの言う通り、素通りはできず、かと言って全てと戦うのは無理にも程があり――僕は小さく息を吸い、吐くと視線を前へと向けた。


「――何とか元いた場所へと戻る方向を突破しよう。突破した後はギースは落とし穴、ラビエリは地面を凍らせて足止めして、全力疾走で」

「妥当な案ですね、それで行きましょう」

「任せろ、私とギースで何とか道を開くさ」

「おう、力仕事は俺らの担当だからな」

「――ん。しょう……め、ん……ひ、だり……が、て、うす……かも」

「よし……じゃあウィル、いこう――!」


 作戦を決めれば、僕らはカインを守るようにしつつも走り、道を切り開くために――犠牲者でもある彼らへと、斬りかかって――……。




「……な、んで。ど……うして……よわ、っちい……のに……っ」


 ――その最中。

 カインが何やらぶつぶつと呟いていた気がするけれど、僕らにはそれに構う余裕なんて微塵もなかった。

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