7.駆除できない害獣
「逞帙>逞帙>豁「繧√※豁「繧√※豁「繧√※」
「――っ、こいつで、最後……っ!!」
――手足を切断されてもなお、地べたでのたうちながら奇声をあげる腐肉の塊に、槍を突き立てる。
現状、腐肉の塊達への対処は2つ。
1つは、炭化するまで焼き尽くした後に凍結することで、一時的に行動不能にする事。
そして、もう1つは――こうして、手足を落として地面に縫い止めてしまう事。
槍を何本も突き刺し、地面に縫い留めれば如何に駆除が困難であれど何かをすることは出来ないようで。
「謚懊>縺ヲ縺企。倥>逞帙>雖後□」
「……これだと、黙らせられないのがキツいけど、ね」
「仕方がないだろう、現状はこうするしか無い――殺す手段が、見当たらない害獣が居るなんてな」
地面に縫い留められながらも、悍ましい声を、音を鳴らし続ける腐肉の塊にミラは辟易したかのように呟き、肩を落とした。
――そう、僕らはこれを……この害獣を殺す手段を、今の所何一つ確立出来ていなかった。
切り潰した。
燃やした。
凍らせた。
毒も試した――そして、その上でこの腐肉の塊を殺す事は、叶わなかった。
「……認めたくはないですが、不死……という可能性も、考慮すべきなのかも知れませんね」
「冗談はよしてよ、リズ。現実主義者な君がソレをいうと凄く笑えない」
リズの言葉に、ラビエリは心底勘弁して欲しいと言った表情で肩を落とす。
……無理もない話だ、リズの言葉は決して冗談で口にしたものではない。
ラビエリだって気付いている筈なのだ、この……目の前の害獣を殺す手段を、僕らが現状持ち得ていないという事は。
……それはつまり、少なくとも今この場においてはこの害獣は不死であり、不死身であるという事を。
「まあ、取り敢えずの対処は出来てよかったが……アルシエル、周囲にコイツらの影は見えるか?」
「……うう、ん。居な……い、みた……い」
「それは何より、だな。私も少し一息つきたかったところだ」
ギースの言葉にアルシエルが頭を振れば、ミラは小さく息を漏らしながらその場に腰を降ろした。
僕もそれに習うように腰掛ければ、思考を巡らせる。
まず、パラディオン達が立て続けに壊滅した原因はこの腐肉の塊が原因で間違い無いだろう。
いかなる手段を持ってしても駆除する事さえ不可能な害獣。
いや、その不死という特性よりも……ソレ以上に、その悍ましい外見こそがこの害獣の本領なのかもしれない。
事実、僕は見ただけで吐き気がした。
人間的な特徴を持った害獣、というのであれば継接人もそうではあったけれど、この腐肉の塊は更に悪趣味だ。
何しろ、これには人の顔がある。そして、その顔から人ではない声が溢れ出る。
それだけでも僕らが受ける精神的なダメージは図り知れず――……
「……それ、に」
「どうかしたのか、ウィル? 顔色が悪いぞ……?」
「ん……大丈夫、ありがとうミラ」
ミラの言葉に返しながら、僕は頭を振った。
……ありえない、事だ。
有ってはならない事だ、そんな事は。
大体、そんな確証は何処にもない。確証もないのに、そんな事を考えるのは馬鹿げてる。
「――この班のリーダーは君かな?」
「いえ、私ではなく彼です。ウィル、呼ばれていますよ」
「え、あ……は、はい、何か有りましたか?」
そんな事に思考を巡らせていると、不意にリズから声をかけられて振り返った。
そこに居たのは……そう、確か。今回小隊を率いる事になった、ベテランの――……
「君がリーダーか。済まない、少し話があってね」
構わないかい? という彼の言葉に、僕は二つ返事で頷いた。
年齢は恐らく40手前であろうその人は、そんな僕に気さくに笑みを浮かべると洞窟の中を歩き出して。
僕は、ミラ達にちょっと行ってくるよ、と手を振れば、彼の後をついて洞窟の少し奥まった場所へと歩いていった。
そこには、既に連れてこられていたのか。7人程のパラディオン達が――皆、僕よりも年上で経験豊富そうな人達が、僕らのことを待っていたようで。
「……彼が最後?」
「ああ。今残っている班では、だけどね」
僕は少し緊張しつつ、彼らの元へと案内されれば……コホン、と。
僕を連れてきた、小隊のリーダーは小さく咳払いをすると僕らに視線を向けた。
「――さて。君たちも薄々気付いているとは思うが、今回遭遇した害獣だけれど」
「不死身野郎か。何か駆除の手立てでも?」
「いや、残念ながらそれはまだだ。ただ――リーダーである君たちには、知っておいて欲しい事があってね」
そう言いながら、彼は何やら赤黒く濡れた何かを、チャリン、と鳴らして。
……よく見ればそれは、僕らが持っている認識票だった。
パラディオンならば誰もが持っている、仮に遺体の損壊が激しくてもそれが誰なのかを示すために必要なモノ。
赤黒く……血で濡れているのは、多分先程の交戦で亡くなったパラディオンの物だからなのだろう。
彼はそれを指先で軽く揺らすと――僅かに躊躇いを見せながら、言葉を続けた。
「――このタグは、今回編成された小隊のモノじゃあない」
「……? どういう事?」
「これは、あの害獣の体の中から発見されたものだ」
――その言葉に、そして先程の『薄々気付いている』という言葉に。
僕は背筋が凍りつくような、そんな悪寒を覚えてしまった。
「つまり、害獣に食われた……前の二班の、って事か?」
「そうだったら、良かったんだけどね」
ああ、そうだろう。
それならどんなに良かった事だろうか。
もしそうであったのなら――少なくとも、そのパラディオンは人らしく死ねているのだ。
怒られるのかも知れないが、それでも……それでも、僕がさっきした想像よりは、何倍も良い。
多分、きっと……この中の何人かは既に察してしまったのだろう。
僕と同じように顔を青褪めさせながら、口元を抑えて――……
「このタグの子を見知っているパラディオンが小隊の中に居たからね。確認してもらったんだ……正直、悪いことをしたと思ってるよ」
「……待てよ、よせよ。冗談言うなよ――」
問い返していた彼も気付いたのだろう。気付いてしまったのだろう。
頭を振りながら、顔を真っ青にしてそのタグへと視線を向けて。
「――パニックを抑えるために、リーダーである君達だけに伝えておくよ。今回の害獣は恐らく皆、元人間だ」
そして、僕らの、小隊のリーダーである彼は、はっきりとそう口にした。
胸の奥からこみ上げてくる吐き気を押さえ込みつつ、何とか耐える。
……吐きそうだった。胃液を全て吐き出してしまいたかった。
でも、この場にいる誰もがそうせずに耐えていた……そうしてしまったら、もうこの先耐える事が出来そうに無かったから。
「僕は彼らが不死なのもそれが関係していると思う。つまり、彼らを害獣にしやがった奴が居るんだ」
「……っ、つまりは、そいつを」
「そうだ。今から僕らの目標は――僕らの仲間を。そして、人間の尊厳を踏み躙った害獣を討ち滅ぼす。それになった」
……そうか。
あれが……腐肉の塊が元人間だっていうなら、つまりはそれを行った害獣が居るという事に他ならない。
これが現象だとは思えないし、思いたくもないけれど。
この不死性がその害獣に起因しているという可能性は、現状だとかなり高いように思えて。
「……僕らは、何をすれば?」
「うん。この洞窟はかなり広く、枝分かれしているからね。君達には各々の班を率いてそれぞれのルートを調査して欲しいんだ」
「調査……ね、つまり戦闘は避けろって事で良い?」
「ああ。あくまでも無用な戦闘は、というだけだけれど――もし彼らを害獣に変えやがった奴と思しき害獣を見つけたら、戦闘せずに一度引いて欲しい」
僕らが小さく頷くと、彼も頷いて。
そうして、僕らは各々の班の元へと戻っていった。
……あの害獣が元人間であるという事実は、ミラ達には話さない方が良いだろう。
彼が全員の前でソレを周知しなかったのはパニックを避ける為だろうし、何より――その事実を知ったことで害獣に手を出せなくなる事を避ける為、というのもあるだろうから。
僕だって正直な所を言えば、もうあの腐肉の塊達と……彼らと戦いたくはなくなってしまっていた。
僕でさえそうなんだから、優しいアルシエルとかに至っては完全に戦えなくなってしまう可能性がある。
でも、それではダメだ。
たとえ元が人間であったとしても、今の彼らは既に害獣になってしまった。
先程の戦いからしてもそうだ。彼らは容赦なくパラディオン達を殺していったし……お蔭で、既に1つの班が壊滅してしまっている。
……容赦をしては、いけないんだ。
「戻ったか。何の話だったんだ、ウィル?」
「ん――ここからは各々の班で洞窟を調査していこうっていう話になってね」
ミラ達の元へと戻れば、僕は先程リーダーから話された事を――アレが元人間だという事を除いて、伝えた。
リズは何かに気付いたように視線を伏せていたけれど……元々鋭い彼女のことだし、もしかしたら薄々察していたのかも知れない。
「……つまりここからは害獣を生み出す害獣を駆除する、って事か」
「成る程ね、了解だよ。元を断たないとキリがないし」
「ああ、それに……私の時のように、こいつ等の不死性がその害獣によるものという可能性もあるからな」
「ん……っ。わ、たし……も、がんば……る、ね」
「……そうですね。では行きましょうか、ウィル」
「――うん、行こうか」
少し僕を気遣うような響きのあるリズの声に、小さく笑みを零しながら。
僕らは、小隊から分かれて……リーダーから指示された方へと歩き出した。
……早く、彼らを不死から開放してあげなければ。
そう、心に強く決めながら。




