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凡庸なるパラディオン ~平凡な僕らは、それでも世界を守り抜く~  作者: bene
6章:永劫の生命を与えるモノのお話
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6.悍ましき者達

「――では、これより害獣の駆除を開始する。未知の害獣が存在する可能性もある、全員警戒の元継接人の駆除に当たれ!」

「はいっ!!」


 継接人の発生された洞窟の前。

 そして――同時に、既にパラディオンが2班全滅したその洞窟の前で、僕達パラディオンは小隊を組み、任務に当たっていた。

 指揮はベテランであるパラディオンが取ることになっており、僕らはその指揮の元で継接人を駆除することになっていて。


「よし、油断せずにいこうか」

「そうだな……と、そう言えば、アルシエル」

「……な、に?」


 他のパラディオン達に続き、僕らも洞窟へと足を踏み入れれば……途端に空気が変わったのを感じつつ。

 ミラは僕の言葉に頷きつつ、何かを思い出したようにアルシエルの方へと視線を向けた。

 アルシエルはきょとん、とした様子で小首を傾げ……それにミラは少し微笑ましそうにしながら、質問を続けていく。


「確か、アルシエルは以前に継接人を相手にした事があるんだったな。何か、注意はあるか?」

「ん……と。ミ、ラ……達、なら……くろ、う……しない、と、おも……う、けど」


 ミラの言葉に、アルシエルは少し考えるようにしながら、ゆっくりと言葉を口にして。

 そして、とんとん、と胸元を叩くと……ラビエリがじぃっとそれを見ているのに気付いたのか、顔を赤らめながら両腕で胸を隠した。


「……っ、え……っち……っ」

「え、ちょ……ち、違うよ!? 僕はただアルシエルのしてる事を見てただけで――」

「はははっ、まあこいつが助平なのは今更だろう。で、そこがどうしたんだ?」


 ……ちょっとラビエリが可哀想な気がするけれど、これも素行の差だろうか。

 割とそういう色事というか、何というか……そういうの好きだからなぁ、ラビエリ。

 まあ、それはさておいて。可笑しそうに笑いながらギースが問いかければ、アルシエルは小さく頷いて。


「――か、く。しん、ぞう……み、たい……の、こわさ……ない、と……だめ」

「ん……それはつまり、そこを壊さない限りは死なない、という事か?」

「……んっ」


 ミラの言葉に、アルシエルはこくん、と頷けば……成る程、と僕らも小さく頷いた。

 つまり、末端を幾ら切って落としても意味はなく。やるのであれば心臓を――核を破壊しなければ、意味がないという事。

 確かに教本にも核を破壊するまでは油断しないこと、と書かれていたし、そういう事なのだろう。


「ふむ……成る程、核は何か目印のようなモノはあるのか?」

「ん……と。す……ごく、どっくん、ど……っくん、し……て、る……よ?」

「……どっくんどっくん?」

「まあ、面倒なら丸焼きにしちゃえば良いんじゃないかな。確か教本だとそれも有効だってあったし」

「……ん。そ……れ、でも、良いと……お、もう」


 アルシエルのどこか可愛らしい比喩に、ミラは首をかしげるけれど。

 まあ、いざという時はラビエリが言ったように核ごと全てを焼いてしまう、というのが確実なんだろう。

 普段は僕ら前衛が継接人を抑えつつ、アルシエルに核を狙撃してもらって……数が増えてきたら、僕とラビエリで焼いて駆除するのが良いのかな、多分。


「――雑談はそこまでにして下さい、皆さん」


 そんな事を考えていると。

 僕らの声を遮るようにリズが声をあげれば……僕らは言葉を止めて、リズの視線の先。

 何処まで続くか判らない暗闇の中を、見た。


「……これは、また」

「中々……エグい見た目だな」


 ――暗闇の奥から現れたのは、人型の何かだった。

 シルエットだけならば人と勘違いしたかもしれないけれど、僕らの持っている光源にその姿が照らし出されれば……人間とは間違いようがない、そんな姿をしていて。

 頭の所には二の腕が、両腕があるべき場所には太ももと、その先からは腕が……そんな悪趣味なパッチワークで造られた、悍ましい何かが、ぺた、ぺた、と音を立てながら僕らの方へと向かってきていて。


 その余りにも悍ましい姿に、ギースもミラも……そして、僕らも身構えて。

 継接人との交戦に入ろうと、武器を抜いたその瞬間――……


「――ん」


 トスッ、という軽い音と共に、継接人の胸元を矢が貫いたかと思えば。

 ぐらりと体を揺らしながら、継接人は倒れ……そして、動かなくなってしまった。

 ……振り返れば、アルシエルは弓を携えつつ小首をかしげていて。


「……ど……した、の?」

「ああ……いや、うん、そうだったな」

「よく考えりゃ、こいつ自体は養成所の演習で相手にするような奴だったか」


 不思議そうにするアルシエルに苦笑しながら、僕らは少し脱力してしまった。

 ……そう言えば、そうだった。

 継接人は、アルシエルが実地演習で相手にした害獣であって、言わば僕らが相手にした花蜘蛛と同じようなもの。

 であるなら、当然駆除も比較的容易な部類だし……継接人自体には、そこまで警戒する必要は無いのだろう。

 無論害獣は害獣だし、危険なことは危険なのでしっかりと駆除はしなければならないけれども。


「しかし、凄いですねアルシエルさん。どうやって核を見分けたんですか?」

「え……と、どっくん、ど……くん、してる……か、ら」

「……成る程、いえ、そうでしたね。私には少し難しそうです」


 一撃で継接人を仕留めたアルシエルに感嘆しつつ、リズはどうやったのかを問いかけたけれど。

 それがアルシエルの目によるものだと理解すれば、苦笑しつつ肩を落とし……それを、アルシエルは不思議そうな表情で見つめていた。


 ……ともあれ、この分であれば継接人は問題ないだろう。

 他の班も既に交戦しているみたいだけれど、やはり問題なく駆除出来ているみたいだし――となれば、問題が有るとすればやはりそれ以外か。

 そもそも、この程度の害獣相手にパラディオン達が2回も壊滅するとは思えない。

 こんな害獣相手にやられるなら、そもそもパラディオンになる前に弾かれているだろうし――何より、あのカイン=アラベイルがこの程度の相手にやられる筈もない。

 話で聞く限りは彼の剣の才能は姉さんに近い物があったのだし、剣で対処出来るような相手に負ける道理がないのだ。


 ――だとすれば。


「ひっ――な、何だ、こいつは……!?」

「これは……あ、ぁ……っ!」


「……っ、ウィル!」

「うん、判ってる!!」


 小隊の一角から、どよめきと共に悲鳴が上がり始める。

 まるで信じられない物を見たとでもいうかのようなその声に、妙な悪寒が走った。


 ――そう、だとすれば。

 ここにはもう一つ……或いはそれ以上の数の、他の害獣が居るという事になる。

 しかもそれは、剣だけではどうしようもないような難敵である筈で。


「――菴輔〒縺昴s縺ェ逶ョ縺ァ菫コ繧定ヲ九k繧薙□」

「っ、な、何だ……!?」

「……っ、ひ、ぃっ!?」


 暗闇の先から聞こえた、悍ましい音に、声に、ミラは思わず体を竦め。

 小隊の一角で起こっている戦闘が見えてしまったのか、アルシエルは悲鳴を上げた。

 ……僕も、多分ギースやラビエリ、それに何時だって冷静なリズも――体を悪寒で震わせたと、思う。

 それほどまでに、聞こえてきた声は粘着質で、不快で……聞いているだけで鳥肌が立つような、そんな何か、で。


「アルシエル、大丈夫?」

「ん……だ、だい、じょ……ぶ、いそが、ない、と……っ!!」

「急ぐ……って、まさか」

「……いけない、全員援護を!」


 声に、音に足を止めていたパラディオン達が、リズの声に我に返ったのか。

 交戦しているであろう班の援護へと向かえば――そこには、それなりに場数を踏んで来た筈のパラディオン達でさえ、そして僕らでさえ言葉を失う、そんな光景が広がっていた。


 ――そこに居たのは、紫がかった腐肉の塊だった。

 その塊からは、捻じくれた足と、いやに長い腕が生えていて――その腕は、交戦していたであろうパラディオンの頭を、軽く引きちぎり……否、にぎり、潰していて。

 でも、僕らが言葉を失ったのはそこではなかった。

 仲間が死ぬ、血が飛び散る。そんな事は、有ってほしくはないけれど……そう、珍しいことでも無いから。


 僕らが言葉を失ったのは、その塊についていた顔。

 へばりつくようについているその顔は――明らかに、人間のもの、で。


「……驕輔≧繧薙□縲∽ソコ縺ッ縺溘□蜉ゥ縺代※縺サ縺励¥縺ヲ」

「――っ、総員、油断するな!尋常じゃない膂力だ、前衛は絶対に掴まれるなよ!!」


 それが、明らかに人ではない声を、音を上げながら。

 まるでこちらに縋るように腕を伸ばしてくるのを見れば――リーダーであるベテランのパラディオンは、恐れを振り払うように声を上げて。


 僕らはその声にハッとすれば、目の前に居る腐肉の塊に……人の顔をしたそれに、刃を向けた。


「豁「繧√※縺上l縲√♀鬘倥>縺?蜉ゥ縺代※縺上l」

「……っ、アルシエル、アレの核は見えないのですか!?」

「……み、え……ない……っ!うう、ん……っ」


 声を聴くだけで体が竦みそうになりながらも、周囲のパラディオン達は攻撃を始めて。

 僕らもそれに向けて――容易く握りつぶされた彼らの二の舞にならないように、遠距離から魔法や弓で攻め始めた。

 ……だが、腐肉の塊はまるで止まる様子はなく、僕らの方へと向かってくる。

 リズは継接人と同じように出来ないか、とアルシエルを見たが、アルシエルは首を左右に振って――……


「……ぜ、んぶ……ぜんぶ、どくん、ど……くん、して……っ!な……に、これ……!?」

「全部……って」


 アルシエルの言葉に、腐肉の塊へと視線を向ける。

 ……あの体が全て、核? だとすれば――倒す、手段は。


「――っ、ラビエリ!全力で燃やすよ!」

「了解!ちょっと臭いそうだけどね……っ!」


 ラビエリに声をかければ、周囲のパラディオン達もやることを理解したのか。

 前衛で何とか腐肉の塊を抑えていたギース達は、咄嗟に後ろへと飛び退いて――その瞬間、腐肉の塊は炎に包まれた。

 ラビエリ自身の魔法と、僕の魔法――それに意図を察した他のパラディオン達で同時に炎を叩き込み、腐肉の塊を焼き尽くしていく。


「縺ゅ▼縺 縺ゅ▽縺 縺ゅ▼縺 雖後□霎槭a繧肴ョコ縺吶◇豁「繧√※荳九&縺」

「……っ、酷い、臭い……」

「げ、ほ……っ、吸うなリズ、毒の可能性もある……ッ」

「布で覆っとけ、少しは違うだろう」


 聞くに堪えない声を、そして凄まじい悪臭を撒き散らしながら、腐肉の塊は燃えて、燃えて、燃えて。

 その声もやがて収まっていけば――後に残ったのは、ドス黒い、崩れた炭の塊だけ。


 まだ漂っている悪臭に、毒の可能性もあるからと僕らは鼻と口を布で覆いつつ、炭となったソレを見た。

 流石にここまですれば死んだのだろう、崩れ落ちたソレはもう動く様子も――……


「……っ、ひ、ぁ……っ」

「ど、どうしたのさ、アルシエル?」

「い……き、てる……いき、てる……っ!!」

「……冗談はよしてくれ、そんな訳が――」


 有ってたまるか、と。どこかそう願うようにギースは口にして、固まってしまった。

 ……動いていた。

 炭になって黒焦げになり、崩れ落ちた今でも、それは変わることなく蠢いていた。

 もっとも、こちらに危害を与えるような行動はもう出来そうには無かったけれど――それでも、それは間違いなく生きて、いて。


「……何なんだ、これは」


 ベテランから見ても、全く未知の存在なのか。

 リーダーであるパラディオンは少し怯えを、恐怖を見せつつもそう口にすれば……未だに蠢いているソレを、氷漬けにする事で一先ず動きを封じる事にした。

 ……正しい判断だと思う。

 ここまで破壊されてもなお生きている存在を放置するのは危険すぎるし、こうやって行動不能にしておくのが一番良い、筈だ。


「――縺ソ繧薙↑縲√h縺九▲縺」

「縺溘☆縺代※縺上□縺輔> 菴薙′縺翫°縺励>繧薙〒縺」


「……おいおいおいおい、冗談だろ」

「成る程、な……これは、全滅するわけだ」


 ――何とか腐肉の塊を行動不能にして一安心していた僕らの耳に、洞窟の奥から先程のような声が響いてくる。

 ああ、そうか――だから、全滅したのか、と。

 のんきにも、僕は納得してしまった。


 洞窟の奥から、次々と……先程のような、しかし形がまるで違う腐肉の塊達が、ずるりずるりと這いずり、べちゃ、べちゃ、と歩き、こちらへと向かってきていて。

 見ているだけでも正気を失いそうなそれらを見ながら……僕らは、再び腐肉の塊達と交戦し始めた。

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