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凡庸なるパラディオン ~平凡な僕らは、それでも世界を守り抜く~  作者: bene
6章:永劫の生命を与えるモノのお話
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4.エンカウント

「……ったく、こんな雑魚にやられるとかほんっとに凡人はクズだねぇ」


 ――村から程なく離れた洞窟の中。

 次から次へと現れる継接人を一太刀の元に斬り伏せながら、カイン=アラベイルは悪態をついた。

 彼が負った傷は一つもなく、同時に彼のパーティも彼以外は殆ど継接人を相手にしては居らず。

 勿論、他の仲間がサボっているという訳ではなく――……


「ほら、水!言われる前に持ってきなよ、グズだなぁ!」

「は、はいっ」


 カインに急かされて、仲間の一人であるリトルの女性は彼に革袋を手渡した。

 他の3人も同様に、ヒューマの女性、ビーストの女性、そしてドワーフの女性と、彼の周りには女性しか居らず。

 彼女たちもパラディオンであるが故に、戦う事はできるものの。


「君らは僕の世話係(・・・)なんだからさぁ。その辺ちゃんとしないとダメだよ?」

「は、い……もうしわけ、ありません……」

「ま、別に良いけどね。君たちは凡人なんだし? 僕が守ってやるから、精々頑張んなよ」


 ――それを、リーダーであるカインが禁じていた。

 凡人である彼女達はただ自分を世話すればいいと断じ、彼女達は一切戦う事無く彼に給仕し、世話をするだけで良いと、そう言ったのだ。

 最初こそ彼女たちは反発したものの、カインの実力を見ればそれが『最適な判断』だと思い知らされてしまって。


「か、カインさん!果物を……」

「ん、あんがと。君らも適当に休憩取っていいよ」


 カインに果物を給餌した彼女も、かつては己が剣で人々を救う事を夢見てパラディオンになったが――彼の才能を見た瞬間、『それが自分でなくても良いんだ』と気付いてしまい。

 他の女性達も同様で、その事に気付いてしまった彼女達はそんな彼に尽くすようになっていた。


 ……無論、それが正解という訳ではないものの。

 事実として、カインのパーティはこれでしっかりと成果をあげており、彼女達はより卑屈に、そしてカインへと尽くすようになっていった。


 何十体もの継接人を処理し終えたカインは刀身についた血を拭いつつ、小さく息を漏らす。

 疲労、という訳ではなく変化のない作業のような駆除に飽きてきたのか、彼はその場に腰掛けると先程のリトルの女性を呼んで。


「え……か、カインさん、こんな所で――」

「うるさいな。暇なんだよ、ちょっと付き合え」


 そして、何をするつもりなのか。

 物陰へと女性を連れ込めば、そのまま少し離れた場所まで歩いていってしまった。


 カインが居なくなれば、3人は小さく息を漏らしながら、予め持ってきていた携行食を口にして、小さく息を漏らす。


「……私達、こんなで良いのかな」

「知らないよ。でも、カインさん凄く強いし……私達がやることなんて、ないし」

「そうだよ、手を出したら邪魔になっちゃうもん」


 そんな風に言葉を交わしながら、カインとリトルの女性が戻ってくるまでの間、彼女たちは何時も通りに時間を潰す算段だった。

 こうして任務中にカインが女性を連れて何処かに行くことはそんなに珍しいことでもなく。

 彼女たちは皆それぞれ、一度はカインに連れて行かれた経験もある為、それが危険なことではないと理解はしており。


「でも、思ったより怖い人じゃなくてよかったよ」

「そだね、ちゃんと言う通りにしてれば怒らないし……文句は言うけど」

「ちゃんと私達の事守ってくれてるもんね――……?」


 思ったよりも悪くはない、というのを良いと捉えながら、彼女たちは笑みを零し――唐突に、何処からか聞こえた音に立ち上がった。

 彼女たちも一応はパラディオンなのだから当然戦いの心得はあり、一応は持ってきていた武器を手に取りつつ周囲を警戒する。

 洞窟は薄暗く、視界は悪いものの。明らかに何かが居る、という事は彼女たちにも理解できて。


「……わ、私達だけでも、継接人くらいなら」


 一人がそう呟けば、二人はそれに同意するように小さく頷いた。

 事実、継接人はそこまで驚異となる害獣ではなく、彼女たちでも十二分に倒せるであろう程度で……




「――縺ソ縺、縺代◆」

「……へっ?」


 ……唯一彼女たちにとって誤算だったのは。

 暗がりから顔を出したそれ(・・)が、継接人でも、ましてや継接竜でもなかった事だろう。

 彼女たちは、間の抜けた声を上げれば――……




「……あれ? おーい、何処行ったんだ?」

「おかしい、ですね。荷物置きっぱなしです」


 しばらく後。すっきりとした様子で戻ってきたカインは、三人の姿が見えないことに首をひねった。

 カインは彼女たちのことを給仕係か荷物持ちか程度にしか思ってはいないものの、その人となり程度はおおよそながら理解していた。

 彼女たちの心は既に折れており、カインに依存するような状況から抜け出せるとは思えず。

 荷物も残っている事から、カイン達を置いていったという訳では無いことは明らかで。


「……ちっ。まさかとは思うけど、あんな雑魚にやられたんじゃ――」

「あ……ま、まってください、カインさん。何か、聞こえませんか……?」

「ん……?」


 リトルの女性の声に、カインは耳を澄ませた。

 静かな洞窟の中、確かに入口の方から何かが這ってくるような、そんな音が聞こえてきて。


「――繧ォ繧、繝ウ 縺輔s 縺溘☆縺代※」


 ――そして、続けて聞こえてきた悍ましい声に、カインはパラディオンになって初めて背筋を凍りつかせた。

 とても人とは思えないその声と這いずり音は、徐々に徐々にカイン達へと近づいており――それは、継接人ではない事は明らかで。


「縺?◆縺 蟇偵> 闍ヲ縺励>」

「繧ォ繧、繝ウ縺輔s 蜉ゥ縺代※ 遘√〒縺」

「ひ――ひ、いいぃぃいぃいぃっ!?」


 徐々に大きくなる悍ましい声とともに現れたそれに、リトルの女性が悲鳴を上げて尻餅をついた。

 もし彼女が悲鳴をあげなかったのならば、恐らくはカインが悲鳴を上げていただろう。

 それほどまでに目の前に現れたそれは醜悪で、悍ましく――……


「……嘘でしょ、これ」


 ……そして、カインが見たことのあるカタチをしていた。

 それは、腐肉を継ぎ合わせたような肉の塊で、手足が六本ずつ生えており。うぞうぞと、その手足で地べたを這いずりながら、カインの元へと近づいていて。

 そして、その肉塊には、顔らしい物が三つあり……その何れもが、腐り落ちる寸前の醜悪さを晒していながらも、面影はしっかりと残っていた。


 その醜悪な肉塊についていたのは、カインが連れていた3人の顔に、他ならなかった。


「お、い」

「あ、ああぁぁぁ……っ」

「おい!継接人ってのはこんな事もするのかよ!?」

「し、しらない、しらない――こんな事する害獣なんて、知らないよぉぉっ!!!」


 カインの言葉に、少女は半狂乱になって泣き叫ぶ。

 鼻を突くような刺激臭に、カインは顔をしかめこそすれど、彼女を責める気にはなれなかった。

 先程まで一緒に居たはずの仲間が、醜悪な怪物に――害獣になっていたのだ、カインとて胸の内は恐怖で一杯で。


「ち――気分の悪い!」


 しかし、彼も比肩するものの無いと言われた程の剣の才能の持ち主であり。

 吐き捨てるようにそう言いながら剣を振るえば、瞬く間にその醜悪な肉塊は両断され――


「逞帙> 豁「繧√※ 縺ェ繧薙〒」

「蜉ゥ縺代※ 蜉ゥ縺代※ 蜉ゥ縺代※」

「繧ォ繧、繝ウ縺輔s 遘∫函縺阪※」

「……っ、クソっ、クソぉっ!!死ねっ、死ね死ね死ね――っ!!!」


 それでもなお悍ましい声をあげ続けるその肉塊に、彼は剣を振るい続けた。

 肉塊は細切れになり、肉片となって。

 僅かな名残だったその顔さえも細切れにしてしまえば、悍ましい声を発する器官は無くなり。

 そして……カインが息を荒くする頃には、そこには腐ったような臭いのする血溜まりが床に広がっていた。


 それでもなお、細切れになり肉片と化した今でもそれは蠢いており――しかし、その状態では声を上げることも、動くことさえも叶わないからか、カインは小さく息を吸い、吐いて。

 気持ちを落ち着かせれば、リトルの女性の方へと振り返り……


「……おい、こっちはもう大丈夫だから――」

「は、は、い……っ、ありが、とうございます、カイン、さ……?」


 自分を呼んだカインに、リトルの女性はボロボロに泣きながらも立ち上がって。

 ……自分を見ている筈のカインが、何故か自分ではなく、その後ろを見ている事に気付いてしまえば。


「え……」

「馬鹿、早くこっちにこいグズ!!」


 ――振り返って、リトルの女性は後悔した。

 そこにあったのは、継接人でもなければ継接竜でもない。


「――縺偵s縺阪□縺ュ 蜷帙◆縺。繧 縺偵s縺阪↓縺励※縺ゅ£繧医≧」

「あ」


 おおきな、おおきな黒い鳥の頭。

 それと、叫ぶカインの声。

 それが、リトルの女性が最後に目にし、耳にしたものだった。

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