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凡庸なるパラディオン ~平凡な僕らは、それでも世界を守り抜く~  作者: bene
4章:一時の静養と妖精鍛冶師のお話
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7.僕らに出来ること

 ――ミラ=カーバインが率いるパーティーが壊滅して半月が過ぎた。

 生き残ったビットからの報告、そして現場に残されていた今までに類のない痕跡に、本部は新種の害獣が現れたと判断。

 当面の間は害獣が現れた近辺を封鎖し、近隣の村にも注意を呼び掛けつつ数名のパラディオン達を駐留させるという形で対処することに決まった。


 それと同時に、ミラ=カーバイン達の捜索は打ち切り。

 消息不明という扱いではあったものの、それは事実上の『死亡扱い』であり――……




 /




 ギースにラビエリ、アルシエルが任務から戻ってきた翌日。

 それを知った彼らを、僕は自分の部屋へと招いてテーブルを囲んでいた。


「……っざけるな!!あいつが、ミラがそう簡単に死ぬものかよ!!」


 それを聞いたギースは、苛立つように拳をテーブルに叩きつけながら叫ぶ。

 ラビエリも、アルシエルも沈痛な面持ちで、視線を下げたままで。

 僕はそんな彼らの様子を見つつ、小さく息を漏らす。


 ……僕の方はと言えば、ミラが行方不明になったと聞いてから一日程、記憶がない。

 多分、それ程――僕にとってミラという存在は大きかったのだろう。

 いや、考えるまでもなかったか。彼女が大事な存在だなんて、最初から判りきっていたのだし。


 彼らより僕が冷静で居られたのは、単純に知ってから時間が過ぎたから、というだけの話に過ぎない。

 だから、激高した様子のギースも、沈み込んだ様子のラビエリとアルシエルも、責める気にはなれなかった。


「……っ、クソッ」


 怒りを吐き出し、それでもなお怒りが冷めないのか。

 苛立つようにギースは立ち上がると、部屋から出ていこうとして――


「待ちなよギース、どこへ行くのさ」

「どこへ? 当たり前だろう!こんな発表をしやがった奴の所だ!!」

「……っ、やめ、な……よ……っ」

「お前らは悔しくないのか!? 死体が見つかったわけでもないのに死亡扱いだぞ!!本部はミラを見捨てたんだ!!」

「……やめ……て……っ!!」


 ――ギースの吐き出した言葉に、アルシエルは耳をふさいで蹲った。

 それを見て、ギースはようやく熱が冷めたのか。しまったといった表情を浮かべてから、唇を噛み……改めて、椅子に腰掛ける。


「……落ち着きなよ、ギース。別に本部が悪い訳じゃないさ」

「だが……っ、じゃあ、このまま諦めろってのか?」

「そうは、言ってないだろ? ただ、本部は規定通りに物事を決めただけだって言ってるのさ」

「……それは、そうだが」


 そう、アルシエルの言う通り。

 本部は別に特別なことをした訳ではなく、規定通り――一定期間消息不明となったパラディオンを、死亡扱いとしただけなのだ。

 ミラが特別悪い扱いをされた訳では、断じてない。

 ……僕もそう納得するのに、飲み込むのには、時間は掛かったけれど。

 ともあれ、ギースも少しは落ち着いたようだし……これでやっと、本題に入れそうだ。


「――皆、落ち着いた?」

「ん……あ、ああ、まあ……な」

「僕は最初から落ち着いてるよ」

「……ウィ、ル。私……たち、呼んだ、の……りゆ、う。ある、でしょ……?」


 アルシエルの言葉に頷きつつ、僕は机の上に大小幾つかの包みを並べていく。

 それは、カミラが作ってくれた一品物で。

 ギース用の戦斧に、アルシエル用の合成弓。おまけで作ってくれた、僕用の長剣。

 そして、人数分の軽装鎧と――ミラ用の、ハルバード。その全てを机の上に置くと、ギース達はそれに視線を向けて。


「……こいつは?」

「僕が静養中に、工房で発注して作ってもらった装備。前の遠征の時に、支給品だけじゃ苦しいって判ったからさ」

「あれ、僕の武器は無いの?」

「ラビエ、リ……武器……いら、な……い、でしょ……」

「まあ、そうだけどさぁ。すっごいの用意してくれたって良かったのに」


 小さく笑いながらアルシエルがそう言えば、ラビエリは少しだけ唇を尖らせた。

 とはいっても、その口ぶりからして多分ふざけているだけだろう。

 重くなっていた場の空気を少しでも軽くしようとしてくれているラビエリに、僕は心の中で感謝した。


「おお、コイツはまた――見事だなぁ」


 戦斧を手にしたギースはその重量感と、そして重厚な刃に感嘆の声を漏らしつつ、軽く持ち上げて。


「手にもしっくり来る。悪くない」

「おいおい、部屋の中で振り回さないでよ?」

「……あぶ……な、い……よ?」

「わぁっとるわ。俺だってそんな事はせんよ」


 そんなギースに、ラビエリとアルシエルは冗談めかしてそう言いながら、笑った。

 ……まだ彼らの表情は少し硬いけれど。

 これなら、本題に入っても多分大丈夫、だろう。


「皆、聞いて欲しい」


 僕が小さく呟くと、彼らはこちらに視線を向けた。

 単純に発注した装備を手渡す為だけに呼んだわけじゃないことは、彼らも解っているのだろう。

 先程までは冷静では無かったけれど、ギースもラビエリも、アルシエルも、ちゃんと話し合いが出来る状態にはなっていて。


「――僕は、これから上に嘆願して『新種』の捜索に加えてもらおうと思ってるんだ」

「新種って……」

「うん、ミラ達が遭遇した未知の害獣の事」


 唯一逃げ帰った――生き残ったビットというリトルの子の証言では、ミラは最後まで戦っていた、となっていた。

 新種に囚われたエディと助けるために、槍一つで立ち向かっていて……そんな彼女を置いて逃げたのだと。


 ――つまり、誰もミラが死亡した所は確認していないのだ。


「僕はまだ、ミラの事を諦めたくない。本部が死亡扱いにしたとしても……この目で、それを確認するまでは認めたくないんだ」


 だから、僕は。

 パラディオンにあるまじき事かも知れないけれど、新種の捜索に加わって、行方不明になったミラを、せめてその痕跡だけでも探そうと。

 そのつもりだと、彼らに伝えた。

 ……自分でも子供っぽいとは思うけれど。養成所時代に初めて出来た友人と、このまま永遠に別れるなんて納得が出来なかったから。


「無論、これはパーティーとしてじゃなくて僕個人としてやるつもりだけど……もし。もしも、僕と同じ気持ちで居てくれるなら――一緒に、来て欲しい」


 そう口にして……それを聞いた三人は、きょとんとした顔を見せた。

 ……うん、判ってる。

 ミラ達でさえ為す術もなく壊滅した『新種』の捜索は、恐らくは北限遠征と同等か――或いは、それ以上の危険が伴う事になる。

 それを、『新種』への対処だけではなくミラの捜索も同時に行うというのであれば、尚更で。

 命の危険が伴うというのに、同行してもらおうなんて。そんな虫のいい話――……


「……何言ってるんだ、当たり前だろうが」


 でも、そんな僕の思考を裏切るように。

 ギースは不思議そうな顔をしつつ、さも当然のようにそう口にした。


「おいおい……まさか俺が仲間を見捨てるような薄情な奴だとでも思ってたのか?」

「いや、そういう訳じゃないけど――でも、良いの?」

「当たり前だろう!置いていこうとしても着いていくからな!!」


 ハハハ、と笑いながらギースは僕の肩を叩く。

 リハビリを終えて完治したとは言えど、少し痛かったけれど……それ以上に、ギースの言葉が嬉しくて。


「わ……たし、も。こう、いう……時、こそ……私、の……で、ばん」

「アルシエル……っ、有難う!」

「ん……♪わ、たし……も。ミラ……大、じ……だから」


 アルシエルも机の上の合成弓を手に取れば、小さく呟いた。

 感謝の言葉を口にすれば、彼女にしては本当に珍しく……はっきりとした、笑みを零し。


「……僕としては、正直リスクが高すぎるのはゴメンなんだけどね」


 そして、ラビエリはそんな言葉を口にしつつ。

 彼用の小さな防具を手に取ると、それを扱い回しながら、小さくため息を漏らせば。


「でも、正直さ。ミラが居ないとこのパーティー、華が無いんだよね」

「えっと……それじゃあ」

「良いよ、行ってあげる。仕方ないとは思っても、僕も納得はしてないしね」


 そう言いながら、ラビエリも頷いて――僕は、改めて皆と出会えてよかったと、心の底から思った。

 皆となら、きっとミラを見つけ出せると。

 こみ上げてきたものを何とか押さえ込みながら頷けば、立ち上がる。


「……よし、じゃあミラを探しに――迎えに、行こう」

「おうともさ、リーダー!」

「ん……っ」

「まあ、まずは新種の捜索隊に加わらないとね。手続きとか忙しいぞー……」




 ――そうして、数日後。

 北限遠征に同行した実績があったのが良かったらしく、無事に書類や審査をパスした僕らは、『新種』の捜索隊に加わった。

 目的は『新種』の発見及び駆除と、そして僕らにおいてはミラを発見して保護する事。


「……必ず、迎えに行くからね」


 自分に言い聞かせるようにそう言いながら、僕はどうかミラが無事でありますように、と。

 そう、女神様に祈った。

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