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凡庸なるパラディオン ~平凡な僕らは、それでも世界を守り抜く~  作者: bene
4章:一時の静養と妖精鍛冶師のお話
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6.その時何が起こったか

 ――任務は、順調に進んでいた筈だった。

 普段とは違う4人を連れての害獣駆除は多少心配はあったものの、特に問題はなく進み。

 翌日には行者と落ち合い、報告書を提出して終わり。

 その、筈だったのに。




「――ミラさん、もう終わりで良いんですか?」

「ん? ああ、私達ではこれ以上の駆除は難しいからな」


 四人の中でも一際真面目そうなヘリオにそう応えつつ、私は拠点の荷物を纏めていた。

 まだまだ経験不足を感じる所はあれど、彼らは外見相応の実力を備えていて、特に害獣駆除に困る事はなく。

 ……だからだろう。

 ヘリオは少し不満そうな顔をしてから、一人武器を手にして立ち上がった。


「おいヘリオ、何処へ行くんだ?」

「まだ拠点の撤収には時間が掛かるでしょう。私は周辺の害獣を見てきます」

「勝手な単独行動をするな!おい――ああ、もう」


 呼び止める声も聞かずに、ヘリオは拠点から離れていく。

 ……馬鹿なことをしてくれる。

 確かに害獣駆除に苦労することはなかったが、それはあくまで5人だったからであって、彼一人の実力では断じて無い。

 彼が一人で害獣と出くわせば、折角無傷で終わっていた所に要らない傷を――下手をすれば無駄に命を散らす事になる。


「……あ、あの。私、見てきます」

「済まない、頼む。あとなにか文句を言っていても気にしないで良い、無理やり引っ張ってきてくれ」

「は、はいっ」


 それを解っている子も居たのか、妖精族の少女――ラクレアは、私に深々と頭を下げてからヘリオの後を追うように歩いていった。

 全く、ここまで順調だったというのに……いや、順調だったからこそか。

 彼らはパラディオンになってから、比較的脅威度の低い害獣を相手にしてきたパーティーで、害獣で大きな怪我も負った事は無い。

 今回私がこのグループに入れられたのは、実家の都合でパラディオンを続けられなくなった子が出たから、という話だし――本当の意味で、命の危険を感じた事が無いのだろう。


「ったく、困っちまいますよね」

「……そうだな。私達も片付けが終わったら彼らを追おう」

「そうっすね。まあヘリオも馬鹿じゃないから大丈夫だと思いますけど……おい、ビット!お前も手伝ってくれよ!」

「う、うん」


 ビーストであるエディに大声を出され、リトルであるビットはその体を小さく震わせた。

 言葉も少なく、皆の後ろをおっかなびっくり着いてきている彼は、どうにも臆病なようで。

 最初はアルシエルのように口下手なのかと思ったけれど、私の方から丁寧に話しかけても愛想笑いを浮かべるだけな辺り、多分本当に臆病なだけなのだろう。

 それでも、ビットは後衛としてしっかりと仕事はしているし、余り問題があるとは思わないが。


 5人から3人に減れば、多少は手間取ったものの。

 粗方荷物も纏め終わり、私達は自分達の獲物を片手にヘリオ達が向かった先へと、彼らを迎えに行く事にした。

 二人の足音は奥へ、奥へと向かっており。私達もそれを辿るように歩いていく。


「おーい!ヘリオ、ラクレアー!もう帰るぞー!!」


 しかし、エディが何度大声で呼びかけても、2人の声はおろか姿さえ見えず。

 十数分程3人で手分けして探しても、彼らの居た痕跡さえも見つけることが出来なかった。

 ……背中に、妙な悪寒が走る。


「……おかしいな」

「ええ、あいつら何処まで行っちまったんでしょうか」

「違う、そうじゃない」


 私の言葉に、エディもビットも首を傾げて、私が何を言いたいのかわからない様子だった。

 ああもう、いつもの4人ならとっくの昔に察してくれている筈なのに……!!


 ……いや、落ち着こう。

 彼らとウィルたちを比べたって仕方がない。もしかしたら、ウィルだって普段私達にこんな感情を抱いていたのかも知れないし。

 そう考えることにしつつ、私は深呼吸をして――そして、武器を構えた。


「気をつけろ――多分だが、報告外の害獣が居る」

「え……か、考えすぎじゃないっすか?」

「そ、そ、そうですよ、そんな事滅多に――」

「滅多にないは、無いではないんだ」


 相変わらず楽天的に考えている2人に少しだけ苛立ちつつも、私は周囲に視線を向ける。

 幸い、まだ未知の相手は見えないが――油断は、するべきではない。


「もし取り越し苦労なら笑って済ませれば良い。だが……2人がここまで来ても姿が見えないのは、明らかに異常だ」

「それは……確かに」

「で、でも……」

「良いから警戒しろ。先に進むぞ」


 2人に呼び掛けながら、私はヘリオ達の足跡を更に追っていく。

 ……よく見れば、足跡は段々と強く、地面を蹴ったかのようになっていて。

 それが2人分……という事は、恐らく2人は合流した後で、何かに襲われた、という事に他ならない。


「……急ぐぞ、二人共」

「え? あ、わ、わかったっす」

「ま、まってください……っ」


 ――正直な所を言えば、私は焦っていたのだと思う。

 自分がリーダーとなって4人を率いてきたのに、最後の最後で2人欠ける、なんて最悪な想像が頭を過ぎり、その時の私は冷静な判断が出来なくなっていた。

 駆けるように足跡を追えば、その先にはやがて2人の着ていた物が見えてきて――血の痕は見えず、2人がまだ生きていると思い、後ろの2人を置いて駆け出して。


「……なんだ、これは……?」


 だが……足跡の終点。

 2人が逃げてきた終着点に有ったものは、2人の身につけていたものだけ。

 衣類や装備だけが残っており、それ以外には何も残っていないその状況は、余りにも異常で――私は、手遅れになってから気付いた。


 ――これは、罠だ。


「いかん、逃げろ!!」

「え、何を――あ」

「え……ひ、ひいいぃぃぃっ!?」


 気づき、叫ぶのが余りにも遅すぎた。

 やっと私に追いついた2人が、悲鳴を上げる。

 振り返った私が見たものは――透明な、目を凝らさなければ見えない何か(・・)に包まれ、空中に浮かび上がったエディの姿だった。


「――っ!? ~~~~……っっ!!!」

「く……っ、ビット!魔法であの害獣に攻撃を――」

「ひぃっ、ひっ、ひいぃぃぃぃ……っ!!!」

「――ビット?!」


 ビットの魔法なら、あの空中にいる透明な害獣に攻撃を加えて、彼を助けられるかも知れない。

 そう思い、彼に声を掛けたが……彼は既に半狂乱に陥っており。

 その場に杖を投げ捨てれば、信じ難いことに一人でその場から逃げ出してしまった。


 ……いや、仕方のないことか。

 きっと本当に死の危険を感じたのは、今回が初めてだったのだろう。

 魔法に頼れないのなら仕方がない。私は槍を構えれば、それを思い切り――中にいるエディには当たらないように、透明な何かに向けて投げつけた。


 矢のように飛んだ槍は透明ななにかに確かに突き刺さり、ぶしゃあぁっ、と何かが噴き出すような音と共に、べちゃり、とエディが地面へと落ちて。


「……っ、げほっ、ごほ……っ!!」

「大丈夫かエディ――!?」


 慌てて彼へと駆け寄った私が見たものは――信じ難い光景だった。

 当のエディも、自分がどうなっているのかに気がついたのか、ひっ、と悲鳴を上げて。


「う、嘘だろ……やだ、嫌だ、いやだ……っ!たすけ、みらさ、たしゅ、け」

「エディッ!? エディッ!!」


 助けて、と言い切る事もできずに、ぺちゃり、と。

 先程あったヘリオ達の衣類のように――目の前で、最初から何もなかったかのようにエディは消えてしまった。


 私のせいだ。

 私が、もっと強くヘリオを引き止めておくべきだった。

 ラクレアを行かせるべきではなかった。

 エディ達を、先に行者の元へ向かわせるべきだった。

 たくさんの後悔が胸に押し寄せてきて、頭が真っ白になり――


「――……ッ!!!」


 ――それでも、身体は動いた。

 上から降り注ぐように飛びかかってきた透明な害獣を辛うじて躱し、私は荒く息を吐く。

 ……槍は、未だにあの害獣に突き刺さったまま。

 武器は無く、魔法は仕えず、仲間も無く、相手は未知。

 どう考えても最悪な状況だが、それでも身体が動いたのはエミリアさんのお陰だろう。


「……まだ、ビットが生きている」


 ならば、彼が逃げる時間を稼ぐのが私の仕事だ。

 ……そして、時間を稼いだならば私も何とか逃げてみせよう。

 また会おうと、仲間達に約束しているのだ。

 それを違えるつもりは毛頭ない。


「来い、化物――!!」


 声すら上げない、目を離せばすぐに見えなくなりそうな、そんな相手を前に。

 私は自分を鼓舞するように叫べば、近くに落ちている石を投げて応戦して――……




 /




 数日後、生き延びたビットの証言を元に、パラディオン達がその正体不明の害獣が現れた場所へと赴いた。

 数日掛けた末に発見されたのは、ヘリオ=ロッソ、ラクレア=アトラム、エディ=ラース、以上3名の衣類と装備品。

 ……そして、ミラ=カーバインの槍と、衣類の一部だけだった。

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