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凡庸なるパラディオン ~平凡な僕らは、それでも世界を守り抜く~  作者: bene
4章:一時の静養と妖精鍛冶師のお話
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4.作りたいものと、求められるもの

明くる日の昼過ぎ。

 工房の外で待っていると、仕事を終えたのか、或いは休みをとったのか。

 先日の言葉通り、私服に着替えたカミラがやってきた。


「待たせたかしら?」

「いえ、午後からの約束でしたし大丈夫です。それじゃあ行きましょうか」


 軽く言葉をかわすと、あらかじめ行こうと思っていた場所へと足を向ける。

 彼女の方は、こちらが何処へ連れて行くつもりなのか、少し楽しみにしているようで。


「で、何処に連れてくつもり?」

「それは行ってのお楽しみ……ってもったいぶる程でも無いですね」


 そもそも、そんなに遠出するつもりもない。

 工房から少し歩けば、今日行くつもりだった場所は既に視界の中にあった。

 僕が指さした先にあったのは、書物庫。

 パラディオン達が集めた、或いは作成した書物が貯蔵されている場所で――


「……帰る」

「ま、待って下さいっ。大丈夫です、きっと面白いですから!」

「えぇ……? んー……まあ、昨日奢ってもらったし……ちょっとだけよ?」


 ――それを見て、踵を返そうとしたカミラを慌てて押し留める。

 彼女はそれでも渋い顔をしていたものの、ため息を漏らせばそう言って、渋々と歩き始めた。

 ……危ない、危ない。まさか見るなり踵を返されるとは思ってなかった。

 そんなにつまらない場所かなぁ、書物庫。僕個人としては、色んな本があって楽しい場所だと思うのだけれど。



 そんな事を考えながら、書物庫へと入れば――そこには、壁一面の本棚が並んでいた。

 赤い絨毯が敷かれた床にも、入り切らなかった本が積まれており。

 テーブルの周りにはゆったりとした、少し高級そうな椅子が並べてあって、それを燭台の灯りが仄かに照らしていた。


「……へ、ぇ」


 僕は何度か入った事があるけれど、カミラは初めてだったのか。

 少し感心したような、呆気にとられたような顔をしながら、カミラは書物庫の中に入ると部屋の真ん中まで歩き、周囲を見回して。

 そんな彼女に少し可笑しくなりながら、僕は彼女の分も含めて、受付を済ませた。


「イメージと違った?」

「え……あ、べ、別にそんな事は無いわ」


 カミラは少しだけ恥ずかしそうにするけれど、こほん、と咳払いをすれば僕を見下ろして。


「……で? ここで何をするわけ?」

「何を……って、こういう所でするのは決まってるでしょ」


 僕はそれが入っているであろう本棚の前に行くと、幾つか見繕って本を取り……怪我をしている僕を見かねてか、カミラにも幾つか持ってもらって。

 それをテーブルの上に並べれば、座り心地の良い椅子に腰掛けた。


「勉強、しよっか」

「……はぁっ!?」


 カミラの声に、周囲の視線が突き刺さる。

 彼女も流石に周囲からそういった目で見られると辛いのか、口を抑えつつ椅子に座って。


「……あのねぇ。私はわざわざ早く仕事を終わらせてきたの。なのに何が悲しくて今更勉強なんざ――」

「多分、それがカミラさんに一番欠けてるものだから、だよ」

「はぁ? 少なくともアンタよりずっと頭は……」


 額に青筋を浮かべているような、そんな怒気を孕んだ言葉にひるむこと無く、持ってきた本を開く。

 カミラはため息を吐き出しながら、開かれた本の内容を見て――そして、眉を潜めた。


「……なに、これ」

「僕らパラディオンが戦ってきた害獣について、書かれてる本。読んだこと、ある?」

「そんな訳ないじゃない、だって私は鍛冶職人よ? 害獣と戦うわけじゃ、無いし」

「じゃあ、いい機会だからちょっと勉強しようか」


 少し強めにそう言うと、カミラ少しだけ考えるようにしてから小さくため息を吐き出して、開いた本の内容に目を落とし。

 僕はそれを見ながら……何とか彼女の興味を引けたことに、安堵した。

 一度すると決めてしまえば真剣にもなるのか、カミラは黙々と害獣について記された本を読み、わからない事があれば遠慮すること無く僕に言葉を投げかけていく。


「ねえ、なんでコイツらこんな事してるわけ?」

「害獣はそういうものだからね。人間を害する為の生態をしてるんだ」

「……こいつら、どうやって増えてるの?」

「大抵の場合は人間を捕食して、かな。中には例外も居るけど」

「ふーん……」


 一応、僕もパラディオンとしてそれなりに……とはいっても、1年に満たない程度だけれど、戦ってきたから、ある程度の質問には応えることが出来た。

 その度に、カミラは納得したり、何それ? といったような顔をしたり。

 しかし、読んでいてつまらないわけではないのか、彼女はもうやめようとか、そういった事は口にしなかった。


「……ねえ、アンタはこういうのと戦ってるわけ?」

「僕だけじゃなくて、パラディオンは皆そうだね」

「そっか……なんだ、結構凄いじゃん」


 本を一冊読み終える頃になって、カミラは僕に向けて少しだけ……本当に少しだけ感心したような、そんな笑顔を見せる。


「で、パラディオン様はどうして私にこの本を読ませたわけ? 自慢?」

「あはは、まさか。ただ、僕らがどんな事をしてるのかを知ってほしかったんだ」

「……なんで? 私は鍛冶師だし、関係ないでしょ」


 僕の言葉に、カミラは不思議そうに首をかしげる。

 ……まあ、確かに普通の鍛冶師なら関係の無い事なのかもしれない。


「そんな事は無いよ。だって、カミラさんが作る武器は、僕らが使うんだから」


 でも、彼女はそうじゃあない。

 彼女が作る武器は、彼女が居る工房が作る武器は、僕らパラディオン達が使うものだ。

 彼女たちがいい武器を作ればそれだけ僕らは楽になるし、粗悪品を押し付けられればキツく――最悪、死ぬ事になる。

 以前の彼女が僕に出した武器が、まさにそれだ。

 最初の1匹や2匹を楽に倒せた所で、途中で折れてしまったらそこまで。安くはないお金を支払ったのにそんな武器を渡されたら、堪らない。


「……そ、っか」


 僕の言葉で初めてそれを認識したのか。

 カミラは特に反論も、言葉を重ねる事もせずに口元に指を当てて、少し考え込むように黙り込んだ。


「……次の本、貸して」

「ん、解った」


 そして、カミラは再び他の本へと視線を向ければ、ぶっきらぼうにそう言いつつ本を読み込み始め。

 先程のように判らないことを質問する事も無く――まるで呼吸さえ忘れたかのように、静かに、静かにページを捲り。

 集中しているのだろう。僕に視線をくれる事もなく、彼女はひたすらに文字を追い、ページを捲り続け。

 結局一冊読み終えるまで、その状態を維持したまま。カミラは本を閉じると、思い切り息を吸い込み、吐いて……それから、深々と僕の方へと頭を下げた。


「――っとに、ごめん。私、勘違いしてた」


 彼女の言葉は、今までのように見下したものや茶化したようなものではなく、とても真剣なもので。


「そりゃあ、工房長だって怒るよね。当たり前だよ。アンタ達が求めてるモノが、全然見えてなかった」

「カミラさん……」

「アンタ達が求めてるのを満たした上で、私が作りたい物を作る!要はそういうことでしょ?」

「……カミラさん?」


 ……彼女が得た結論は、僕が思っていたものとは少し違うような気がするけれど。

 でも、彼女自身は新しい見識に目をキラキラと輝かせながら、ぐっと握り拳を掲げていて。


「よし、とりあえずこれと、これとこれと……この本は借りてくわ。今日はありがと、じゃあね!」

「ちょ……っ!?」


 僕の言葉を聞くことも無く、彼女は受付に本の山を叩きつけて。

 その本の山を抱えるようにしながら、明るく大声でそう言うと、嵐のように書物庫を去っていった。


「……あの、ウィルさん。ああ言う方を連れてこられると困るのですが」

「ご、ごめんなさい……!!」


 受付の人に思い切り睨みつけられてしまうと、申し訳無さに縮こまってしまう。

 ……ああいうのも職人気質というのだろうか?

 兎も角、これで少しでも彼女の方向性が、変わってくれると良いのだけれど。


「良いですか? 書物庫は静かに過ごす場所なのです。あのように騒がれてはこちらとしても――」


 ……そんな事を考えつつ。僕は小一時間、書物庫で注意され続けた。

 とりあえず、もう二度とカミラをここには連れてこないようにしよう。

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