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凡庸なるパラディオン ~平凡な僕らは、それでも世界を守り抜く~  作者: bene
4章:一時の静養と妖精鍛冶師のお話
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1.一時の別れ

 早朝。

 まだ日が昇って間もない時間、本部の正門前に僕は姉さんを見送りに来ていた。

 ミラ達や他のパラディオン達は気を利かしてくれたのか、この場には僕と姉さんしか居らず。


「――ウィル、本当に1人で大丈夫? 寂しくない?」

「大丈夫、僕だってもう大人なんだから」


 この問答も、もう何度目か。

 姉さんは僕を心配そうに見つめながら、頬を撫でて。もう幾度目か判らないため息を漏らすと、酷く名残惜しそうに、頬から手を離した。

 ……まあ、僕の方も怪我をしてしまったのだから、姉さんが心配するのも仕方のない事なのかも知れない。

 かすり傷とかじゃなく、割と大怪我だし。僕も逆の立場なら、きっと心配していただろう。


「良い、ウィル。ちゃんと休んでしっかり治して、治ってからも無理はしないのよ」

「うん、大丈夫。姉さんも、身体には気をつけて」

「ええ、勿論」


 ぎゅう、と姉さんが傷に障らない程度に、僕を抱きしめる。

 仄かな甘い香りと、柔らかな抱擁に僕は目を細め……軽く、姉さんを抱き返した。

 次にこの温もりに触れられるのは、何時になることか。

 お互い無事だとしても、次は何年も後になるかも知れないと思うと、正直な話をすれば、僕だって名残惜しい。


 ……でも、僕にも姉さんにも、お互いやるべき事がある。もう、昔とは違うのだ。


「……姉さん、元気で」

「ウィルも、ね。何か有れば、手紙に書くのよ」


 姉さんもそれを解っているのだろう。

 そう告げるのと同時に僕から離れれば、軽く手を振って――一陣の風が吹いたかと思えば、次の瞬間には姿を消して。

 馬車を使うこともなく、姉さん……エミリア=オルブライトは、次の戦いへと旅立っていった。


 ほんの少しだけ、胸が締め付けられるような感覚を覚えてしまう。

 姉さんとは結構話したり、触れ合ったりしたつもりだったけれど――もっと、話しておけば良かったな、なんて。

 今更そんな感情を抱きながら、そんな自分に苦笑しつつ、僕は自分の部屋へと足を向けた。




 /




「……ん……じゃ、ぁ」

「それじゃまあ、行ってくるぞ!」

「良いか、私達が居ない間に無茶をするんじゃないぞ」

「まあ、その怪我じゃ無理も出来ないだろうけどね」

「うん、行ってらっしゃい」


 僕が怪我でしばらく動けない事を受けて、僕らのパーティーは一時的に解散する事になった。

 4人では任務に支障をきたす、というのもあるだろうけれど、一番の原因は北限遠征で多数の離脱者が出てしまった事だろう。

 歯抜けになってしまったパーティーを再編するまでの間、当然だけれどパラディオン達へと送られた任務を放置しておくわけにも行かない。

 その為、一時的に離脱者が出たパーティーを解体、再編する事になったのだ。

 僕らの場合は離脱者が出た訳ではないので、僕が復帰するまでの間。ミラ達は個別に別のパーティーを組んで任務にあたる事になっていて。

 まあいい経験になるだろう、とミラ達は行っていたけれど……まあ、うん、僕が心配してどうなる事でもないか。


「……さて、と。僕もやる事やらないとね」


 また少し……本当に少しだけ、寂しい気持ちになった自分を鼓舞するように頬を軽く叩けば、僕は予め行くと決めていた場所へと足を向ける。

 今までは支給品で満足していたけれど、それが通用しないような害獣と、これから先も出会わないとも限らないのだ。

 僕らがこれからもパラディオンとしてやっていく為にも、皆が任務に行っている間に自分が出来る事をやっておかなくちゃ。


 工房の方へと足を運ぶと、まだ中にも入っていないのに熱気が伝わってくる。

 耳を澄まさずとも、中からは鉄を打つ音、そして喧々囂々とした声が聞こえてきて。


「……大丈夫、かな」


 外からでも分かるほどに忙しそうな工房の様子に、少しだけ緊張しながら……扉を開けると、取り敢えず中の様子を覗き込んだ。

 扉を開けた途端に感じる熱気は、鍛冶によるものだけでは無さそうで。

 怒声のようにも聞こえるような指示が飛び交う、人による熱気も凄まじく――思わず、気圧されてしまいそうになる。

 と言うよりは、実際気圧されてしまっていたのだろう。

 工房の中でも一際声を張り上げていた初老であろうドワーフの職人が、扉を半開きにしたまま中の様子を見ていた僕を見れば、眉をひそめ――


「――あぁ? 何だぁ、テメェ」


 ――とてもドスの聞いた声で、そして厳しい顔つきで、僕の方を睨んできた。




 /




「なんだ、パラディオンだったのか。てっきりどこぞのガキでも紛れ込んできたのかと思ったぜ」

「あはは……」

「ちゃんと肉食え、肉。んな小せぇままじゃ害獣に踏み潰されんぞ」


 追い出されるのかと思ったのもつかの間。

 僕はテーブルを挟みながら、厳つい顔の職人――否、工房長と話していた。

 最初は部外者と勘違いされていたものの、着ていた服や負っている怪我でそうではないのを理解したらしく。

 最初と変わらず、無愛想ながらも工房長は僕を客として応対してくれていた。


「で、工房に何の用だ」

「はい。ええっと――幾つか、発注をお願いしたくて」

「ふむ、フルオーダーか」


 工房長は差し出した用紙をひったくれば、顎髭(あごひげ)を撫でるようにしつつ、用紙に書いてある文字を端から端まで時間を掛けて目を通し。

 ふぅむ、と小さく声を漏らした後、用紙をテーブルの上に置くと腕を組んだ。


「女ビースト用の弓に、女ヒューマ用の槍。男ドワーフ用の斧に、男リトル用の防具……と、他3人用の防具か。

 武器に防具、特に防具は種族もバラバラとなると高く付くぞ、払えんのか?」

「ええ、今まで余り使ってませんでしたし。あと、遠征で多少余裕ができましたから」

「おいおい、この間の北限遠征に行ってたのか!? 何だ、見かけによらずやるじゃあねぇか坊主!」


 バンバンと、僕の頭を軽く叩きつつ、工房長は何処か楽しげに笑う。

 この間の北限遠征は本部でも話題になっていたけれど……成る程、こういう場合は実績を示す意味合いもあるのか。

 工房長の僕を見る目が、頼りない新人を見るようなソレから、対等な相手を見るようなものへと変わるのが、僕からもはっきりと解った。


「となりゃあ、受けてやりたい――所、なんだがなぁ」

「何か、問題でも?」

「坊主も工房の様子を見たろ?」


 ……そう言えば、先程中を覗き込んだ時、妙に工房の中が慌ただしかったような気がする。

 何しろパラディオン達の装備や本部で扱われている部品などを一手に担っている場所だ、そういう物なのだろうと思っていたけれど……


「……もしかして、繁忙期とかですか?」

「いいや、まあ確かにそいつも有るんだが……この間の北限遠征とか、色々重なっちまってなぁ。

 支給品作るだけでも一杯一杯でな、手の空いてる職人が少ねぇんだよ」


 成る程、確かにこの間の北限遠征は激戦だったし、支給品の破損も多かった。

 それに加えて繁忙期ともなれば、工房がにわかに忙しくなってしまうのも仕方のない事なのだろう。


「一応、腕の良い職人もいるっちゃあいるんだが、なぁ」

「……何か、問題でも?」

「ああいや、アイツも腕は良いんだ、腕は。だがいかんせん、鍛冶師としちゃあ半人前――」


「――誰が、半人前ですって?」


 渋い顔をした工場長の言葉を遮るように、この場には似つかわしくない、凛とした女性の声が響く。

 声のした方を見れば、そこには――厳ついドワーフの男性たちに混じり、格好こそ鍛冶師らしいものの、線の細い女性が立っていた。

 しかも、その女性はドワーフではなく。

 少し煤で汚れた色白な肌に、橙色の瞳と長く伸びた耳。そして、灰色の髪の毛をポニーテールに纏めた、妖精族(エルフ)だったのだ。


「……ちっ。相変わらず地獄耳だな」

「聞こえてたわよ。良いじゃない、受ければ。私に仕事を回してくれればフルオーダー4人分くらい、直ぐに済ませてやるわ」

「ダメだ、テメェにはフルオーダーを任せるにはまだ早すぎる」

「あら、私の腕は貴方より遥かに上よ? そんな事、とっくに理解してるでしょうに」


 エルフの女性はそう言いながら、工房長を何処か見下したような、そんな視線を向けて。

 そして、直ぐに僕の方へと向き直った。

 少し煤で汚れた顔のまま、僕の身体の足先から頭まで眺めて――


「……ふぅん、弱そうね。まあ良いわ、私が作った武器を使えば多少はマシになるでしょうし」

「おい、カミラ!テメェに仕事を回した覚えはねぇぞ!!」

「私の分の仕事はとっくに終わって手が空いてる。新しい仕事が来た。なら私がやるのが当然でしょう。お分かり?」


 ――高圧的な言葉を飛ばした後、カミラと呼ばれたエルフの女性はテーブルに置かれた用紙を少しだけ見てから投げ捨てて、鍛冶場の方へと戻っていく。

 終始工房長の事を尊敬するような様子もなく――そんなカミラの様子に、工房長は頭を抱えながら、大きくため息を吐き出した。


「……すまねぇ、坊主。後であの馬鹿にゃキツく言っておくからよ」

「い、いえ、大丈夫です。ええと、さっき言ってた腕『は』良い鍛冶師っていうのはもしかして……」

「ああ、アイツの事だ」


 どっかりと椅子に座り込みながら、工房長は少し疲れた様子で目頭を抑える。

 ……まあ、無理も無い話だ。僕から見たって、あのカミラというエルフの女性は傍若無人が過ぎる。

 工房長があれだけ強く言ってもまるで堪えない所を見るに、きっと普段からああなのだろう。


「ああなっちまうと俺の言う事も聞きやしねぇ。多分、どうしようもねぇ物を作っちまうだろうな」

「あれ、でも腕は良いんですよね?」

「ああ、そりゃあ俺も認めてる。アイツの鍛冶師としての才能はマジで天才だ。本部が出来て以来っつっても過言じゃねぇ」


 だが、と。カミラが天才である事を認めつつも、工房長は深くため息を吐き出した。


「――まあ、それだけだ。アイツは鍛冶師としちゃあ、半人前かそれ以下なんだよ」


 才能は本物だと言うのに、鍛冶師としては半人前以下だ、というその言葉に首をひねる。

 鍛冶師としての才能があるのであれば、鍛冶師として半人前というのはおかしいような気がするのだけれど。


 ……もしかしたら、彼女の素行が悪いとか、なのだろうか?

 確かに彼女の先程の態度には目に余るものがあった。どんなに才能があったとしても、目上の相手を軽んじていい訳じゃない。

 少なくとも、表面上では多少なりと敬意を払ったって良いはずなのに。


 しかし、どうにも工房長が言っているのはそういう事ではないような、そんな気がしてならない。

 もっと――そう、態度とかそういう事じゃなく。それ以前の部分で、工房長はカミラが半人前だと、そう言っているような気がする。


「兎も角、だ。アイツが勝手に作っちまった分はアイツに補填させる。坊主の注文は工房が落ち着くまで、しばらく待っててくれ」

「あ、はい。その……もしよかったら、あの人が作った物を見に来ても、大丈夫ですか?」

「ああ、別に構わねぇよ。何なら持ってったって構わねぇさ、どうせガラクタだろうがな」

「――ちょっと、聞こえたわよ!?」


 工房長が才能があると認めているのに、半人前だという彼女が作り出す物。

 それに少し興味が湧いてしまって、僕は後日、改めて工房に来ることを約束した。

 工房長が言うに、他の鍛冶師の手が空くのはまだ先――おおよそ半月後とのことで。

 それまでの時間を、僕は身体を動かさずに済む魔法の訓練や、工房の様子を見学する事に費やす事にした。

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