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8.帰還と、これから

 北限から戻れば、馬車が僕らを待っていた。

 行者さん達に手厚く迎えられながら馬車に乗り込めば、疲労が出たのだろう。

 揺れる馬車の中で皆一様に、泥のように眠りこけて……もちろん、僕も例外ではなく。次に目を覚ました頃には、既に外からの寒さも大分和らいでいた。

 外はまだ雪景色ではあったものの、それでも北限とは比べるべくもない。馬車の進む先を見れば、遠くには緑も見え始めていて――……


「ん……ふあ、ぁ」

「おはよう、ギース」

「ああ、おはようさん……っ、ふあ、ぁ」


 ぐぐっと伸びをしながら、ギースは大きく欠伸をすると眠たげに目を擦る。

 まだ眠たいのだろう、のっそりとした動きで荷物を漁り始めれば、酒瓶を取り出して。

 ごくん、ごくん、と。まるで水でも飲むかのような気軽さで、その中身を半分程飲めば、酒臭い息を思い切り吐き出した。


「……っ、はぁ、目が覚めた。しかし、大分暖かくなってきたなぁ」

「そうだね、雪の境目も見えてきたし」

「おお、そうか……むう、しかし惜しいことをした」


 何か、やり残した事でも有ったのか。顎に手を当てつつ、珍しくどこか深刻そうな顔をして唸るギースに首を傾げて。


「――折角北に行ったのだ。酒を幾つか補充しておきたかったんだが」


 割と真剣な表情をしながらそんな事を口にすれば、心底残念そうに肩を落とした。

 そんな彼に思わず苦笑しつつ――ああ、そう言えば北にはギースの故郷があるんだっけ、なんて事をふと思い出す。

 酒、なんて言っているが……本当は、ギースは両親の所に顔を出したかったんじゃなかろうか?


「やっぱり、故郷に顔を出したかった?」

「ん……まあ、なぁ。ははは、見透かされてたか」


 少しだけ照れくさそうに、苦笑しながら頬をかく彼を見て、僕も笑みを零してしまう。

 ――今回は北限への遠征だったし、村や街からの依頼でもなかったから、寄る機会もなかったけれど。

 もし機会があれば――ううん、パラディオンとして活動を続けている限りは、そういう機会もあるだろうし、その時にはギースの故郷を案内してもらうのも、良いかも知れない。

 ……もちろん、任務が終わった後での話だけれども。


「きっと、また機会はあるよ」

「そうさな、その時には俺が皆を案内しよう。酒も飯も美味い、良いところだぞ――他には何にも無いがな!」

「……ん……っ、何だ、何の話だ……?」


 ギースの自慢とも卑下ともとれる言葉に笑っていると、目を覚ましたのか。

 ミラ達も欠伸混じりに体を起こせば、馬車の中は段々と賑やかになってきた。

 外からは先輩達の笑い声も時折聞こえてくるし、多分他の馬車もそんな感じなんだろう。

 行きはこれから大変な任務が有るから静かだったけれど、今はもうそれも終わって、後は帰るだけなのだから、当たり前といえば当たり前か。

 僕らだって、さっきからもう気が緩みっ放しだし。ギースが出したお酒に口を付けたりもしてるくらいだもの。


「――しかし」


 そんな、弛緩した空気の中。ミラは少し真剣そうな表情を浮かべると、僕の方へと視線を向けてきた。


「ウィルは、戻ったらしばらくは休養だな」

「……ん」

「そっか、そりゃそうだよね。怪我人を連れてくわけには行かないし」

「一ヶ月……く、らい……?」


 ……そうか、自分のことなのにすっかり忘れていた。

 一応左手は無事とはいっても、利き手じゃない方で武器は振るえないし。

 歩いたり程度は問題ないとは言っても、激しい運動となれば、折れた肋骨あたりがズキズキと痛むし。

 魔法は一応使えるから、全く役に立たないなんて事は無いだろうけれど――いや、うん、ダメだ。

 どう考えたって、一緒に行くだけで全員を危険に晒す未来しか見えない。


「……ごめん」

「何、心配するな。そう長い時間でも無いしな」

「そうそう、しっかり休んで早く治してよね?」


 申し訳無さに頭を下げると、ぽんぽん、と軽く頭を撫でられる。

 他の皆も、特に顔をしかめたりとか、そういう事はなくて――少しだけ、ホッとしてしまった。


「そうだなぁ、リーダー不在は正直困る」

「……う、ん。いな、い……と、たい……へん」

「……うん?」


 ――はて。

 何か、今妙な単語が、聞こえたような気がするが、気のせいだろうか。


「ああ、だから治療に専念してしっかりと――」

「ちょ、ちょっと待って。何、リーダーって」


 ミラの言葉を遮るように疑問を口にすると、僕以外の全員がきょとんとして。

 互いに顔を見合わせるようにしつつ――僕の方を、指さした。


「何って、このパーティーのリーダーはお前だろう、ウィル」

「うむ。何を今更って話だと思うが」

「だよね。指示も出してるし」

「ほうこ、くしょ……も、かいて……る、もの」

「――うぐ」


 ……どうやら、いつの間にかこのパーティーのリーダーは僕という事になっていたらしい。

 確かに指示を出したりもするし、報告書を書いたりもするけれど……でもそれは、実力的には劣ってる分を補うためにやっているだけで。

 決して、僕はリーダーなんて柄じゃあ無いと思うのだけれど――……


「……まさか、本気で解っとらんかったのか、ウィル」

「僕はもう暗黙の了解だとばっかり」

「……うん、全然、全く、これっぽっちも」


 少し驚いた、というような顔をされるけれど、一番驚いてるのは僕の方だ。

 ……気付いたらリーダーにされているとか、驚かない訳がない。僕は精々、自分のことはパーティーの中衛程度にしか考えてなかったし。


「ちょっと聞きたいんだが……では、ウィルは誰がリーダーだと思っていたんだ?」

「えっと、それはまあ、ミラじゃないかと」

「あはは、無い無い!負けず嫌いで割と猪突猛進な所があるのにリーダーとか――痛ッ!?」

「――猪突猛進で悪かったな」

「……いい、す……ぎ」

「ははは、少しは背が伸びたんじゃあないか?」


 ミラがリーダーと聞いて大笑いしたラビエリの頭上に、げんこつが落ちる。

 頭を抑えて悶絶するラビエリを見ながら、アルシエルは呆れた表情を見せながらポツリと呟き、ギースは心底可笑しそうに笑う。


 ――そんな光景を見ながら、僕は……リーダー、と言われたのをちょっとだけ重荷に感じはしたけれど、それ以上に、彼らにそう思われている事に嬉しくなってしまった。


「まあ、兎も角。私達のリーダーはお前だ、ウィル。重荷に思うのなら、考えるが」

「……ううん。ありがとう、頑張るよ」

「そうか――まあ、先ずは」


 ミラは何処か嬉しそうに笑みを浮かべつつ、僕の身体を軽く、本当に軽く、ぽんぽんと叩き。

 途端に、腕、脇腹、足――全身に、ズキズキとした痛みが走る。


「お、おぉぉ……っ」

「その怪我を治してから、だな。しっかり休むんだぞ」


 ……軽く悶絶する僕を見ながら、ミラは柔らかく微笑んで、頭を撫でてくれたけど。

 わざわざ叩かないでも良いのに、なんて。そんな事を思いつつ、それを何とか口に出さずに抑え込んだ。




 任務が終わり、沸き立つパラディオン達を乗せながら、馬車は進んでいく。

 やがて雪も少なくなり、草地が見え始めて。来る時は冷ややかに感じた風も、今となっては暖かに感じた。


 皆が寝ている隣で、北部から中央へと移り変わっていく景色を眺めつつ、徐々に暖かくなっていく空気に小さく息を漏らす。

 ……さて、本部に戻ったらどうするべきか。

 治療に専念すべきなのは解ってはいるものの、その間何も出来ないというのは、正直辛い。

 武器を持って訓練、なんてしたら間違いなくミラにげんこつを落とされるし……走り込みも多分怒られる。

 となれば、教本とかの書物を読むか、4人の物資の補充か、それくらいしか出来ない気はするのだけれど――


「……それだけで1ヶ月近く、かぁ」


 ――間違いなく、身体を持て余すだろうなぁ。

 でも、仕方がない事なのかもしれない。怪我をしたのは自分だし、ここで無茶をして完治が遠のいたら、それこそ目も当てられない。

 ここはやはり、大人しく養生するしか無いのだろうか。


「もしかして、お困りですか?」

「え、ああ。口に出てましたか」


 そんな風に考えていると、行者さんが声をかけてくれた。

 行者さんは少し可笑しそうにしつつ、小さく頷いて――うん、気をつけよう。ぶつぶつと独り言を言ってるのを聞かれるのは、恥ずかしい。


「でもダメですよ、怪我人は怪我を治すのがお仕事なんですから」

「あはは、解ってはいるんですけどね」


 まあ、結局は行者さんの言う通りなのだろう。

 怪我を治すのが仕事と言われてしまえば、ぐうの音も出ない。自分に出来るのは、早く怪我を治して前線に復帰する事。ただそれだけなのだ。


「――あ、でも。そうですね、鍛冶師の所に顔を出すのはどうです?」

「鍛冶師、ですか?」


 突然出てきた鍛冶師、という言葉に首をひねる。

 そう言えば、本部にはパラディオン達に支給される武器や防具、はたまた馬車の車輪などを作っている工房があった。

 養生している間は、そういう所で手伝う、という事だろうか?


「皆さん、悪神の使徒の討伐に同行された方ですし。特注品とか作ってもらえるかも知れませんよ」

「……特注品」


 成る程、そう言えば確かに――姉さんが扱っていた武器や身につけていた物は、僕らパラディオン達が扱っているものとは大きく異なっていた。

 今まで色んなパラディオンを見てきたけれど、彼らの中にも支給品とは明らかに違う獲物を扱っている人が居た、気がする。


 つまりは、それが特注品。注文をした相手に合わせて作る、一品物(フルオーダー)

 支給品と異なり量産よりも性能に比重を置いた、いわゆる名剣や名槍と呼ばれるようなそれらは、中堅以上のパラディオン達の一種のステータスでもあった。

 切れ味はさる事ながら、頑丈さ、扱いやすさ等は支給品とは比較にならず。それだけではなく、例えば毒を仕込んだりと言った特殊な機構を組み込んだ物まである、らしい。

 もちろん良いことばかりではなく、紛失した際に再度注文しなければいけなかったり、注文自体に莫大な費用が掛かったりと問題も多いのだが――……


「今回の遠征で結構お金も入るでしょうし。聞いてみるのも悪くないんじゃないですか?」

「確かに、それは良いかも知れないですね。休んでいる間にちょっと行ってみます」


 行者さんに礼を言いつつ、一品物かぁ、と、ぼんやりと思いを巡らせる。

 ……今回、あの白くて巨大な害獣と戦って一番辛かったのは、こちらの力量不足も有るのだろうけれど……何よりも、相手にろくにダメージを与えられないのが一番問題だったような気がする。

 あの毛皮を貫くには渾身の一撃じゃなければ難しかったし、それでさえ相手にはろくにダメージが通っていなかった。


 ああいう場面で一品物を使ったりしたら、もっと楽に対処できたのだろうか。

 例えば、凄く重い斧とか。凄い切れ味の剣や槍とか。はたまた、凄く強い弓とか。

 それさえあれば、今回のように一体倒しただけで疲弊して集中力がきれる、なんて事も無いのかも知れない。


「――うん、決まった」


 であるなら――まあ、多少お金がかかるとしても躊躇う理由は無いだろう。

 僕は全員分作るのにどれくらいかかるのかな、なんて考えながら、皆の寝顔を見て……そのまま、眠りについた。

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