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凡庸なるパラディオン ~平凡な僕らは、それでも世界を守り抜く~  作者: bene
1章:パラディオンとしての初任務のお話
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2.歓迎会

「おお……」

「これは、また……」

「……凄いなぁ」


 本部への門をくぐって、三人揃って先ず出たのがそんな言葉だった。

 城塞都市のようになっている本部の内部は、活気に溢れていた。成る程、パラディオンの本部と言っても内部に居るのはパラディオンだけではない。日用品を扱っている商店、嗜好品を取り揃えた行商人、中には花屋と言ったものまであり、自分たちが養成所以前に住んでいた町と比べるとその差は歴然。

 首都に行ったらこんな感じなのかな、という感想すら抱いてしまう程に立派な建物が並んだその光景に、僕らは圧倒されていた。


 周りの人達もそうなのか、おお、なんて声をあげながら通りを進んでいく。僕らもその流れに任せるように、周囲の建造物に目を奪われながら足を前に進めた。


「ふむ、しかし立派ではあるが……成る程、実用性重視と言った所だな!」

「実用性?」

「見てみろ、どの建物も華美な装飾はされておらんだろう?そのかわり何れの造りも堅牢だ」


 ギースの言葉に建物を見上げてみれば、成る程確かにどの建物も無駄な装飾と言ったものが見当たらない。有るのは精々看板と、それに花といった程度だろうか。

 そして、建築に詳しいわけじゃないから判らないけれど――それらの全てが頑丈なように見えた。素人目に見てもそうなのだ、恐らくはそうなのだろう、多分。


「これならデカい害獣が体当たりをしても平気だろうな!まあ、わざわざ狩られに来るバカな害獣などおらんだろうが!」

「そんな間抜けな害獣、今頃生き残っては居ないだろうさ」


 がはは、と笑いながらギースが建物を褒めちぎれば、ミラは冗談めかしてそんな事を言いつつ、通りの先に何かを見つけたのか、お、と小さく声を漏らした。

 ギースもミラに釣られたのか、視線をそちらへと向ければ、おお、と声をあげて。


 ……僕と言えば、背が低いのもあって彼らの見ている物を見ることが出来ていなかった。悲しい話だけれど、僕はミラやギースだけではなく周囲の人達と比較しても、露骨に背が低い。こんな人集りでは、先の光景は殆ど見ることが出来ないのだ。


「何?なにか見えた?」

「ん……そうか、ウィルは見えないか」


 僕の言葉にミラは少し意地の悪そうな笑みを浮かべつつ、荷物を降ろし。僕にもそうするように告げてきたので、荷物を降ろせば――


「――そらっ、これで見えるだろう」

「わ……ちょ、ちょ――っ!?」


 ――背後から両脇に手を入れたかと思えば、ひょい、と思い切り持ち上げてきた。

 軽々と抱えられてしまった僕は、ミラより少し高い視線に慌てつつ、そしてこんな人混みでまるで子供みたいにされている事に顔を熱くした。

 流石に、流石にこれは恥ずかしい。確かにこれなら見えるだろうけれど、同年代の、それも女の人に抱き上げられるとか羞恥プレイがすぎるのではないだろうか!


「み、ミラっ!降ろして……っ」

「ほら、見てみろ」


 顔を熱くしながらじたばたとして居る僕に、ミラは可笑しそうにしながらそう言って。僕は渋々そちらへ視線を向ければ――


「……あ」

「うむ、あれが俺達のこれからの職場、という訳だな!」


 ――僕とミラの様子を面白がって見ていたギースの言葉に、僕は思わず胸を高鳴らせてしまった。

 通りの先、恐らくはこの城塞都市の中央。そこには、城と見紛うような巨大で無骨な建造物が建っていて。周囲の人達は皆、その建物へと向かっており……そこまで見た所で、ミラは疲れたのか、ようやく僕を地面へと降ろしてくれた。


「ふぅ……うん、軽いなウィルは」

「……絶対ミラより大きくなってやる」

「ははは、まあ難しかろうなぁ!」


 ミラに抗議の視線を向けるが、特に効果はなく。寧ろ何処かそれを面白がっているかのようで……ギースにまでそう言われてしまえば、僕は大きくため息を吐き出しながら肩を落として、荷物を持つと2人より先に歩き始めた。


「と、と、怒るなウィル、ちょっとからかっただけじゃないか」

「もう止めてよね、ああいうのは……もう」


 慌てて荷物を拾い上げながら、申し訳なさそうに、しかし笑いながら言うミラにそう返し、そんな僕らを見てギースは笑いながら、先程見えた建物へと進んでいく。


 そこそこの距離はあったものの、十数分もすればその建物へと僕らは辿り着いた。中からは楽しげで、そしてやかましい声が聞こえてきて。一体中はどうなってるんだろう、なんて期待に胸を膨らませつつ、僕らは中へと入っていった。




 /




 城塞都市の中心にある、パラディオンの本部。普段は出払っているパラディオン達もその日に限り――相当無茶をしてスケジュールを空けて――新しく加わる仲間たちを出迎える為に集まっていた。

 本部へと入ってきた新人を前もって準備しておいた歓迎用の広間に案内し、料理の並んだテーブルへと案内する。

 既にホールにはぎっしり――という程ではないが、全てのテーブルが埋まる程度には人が集まっており。やがて、新しく入ってくる人間も居なくなれば、その広間の中央。少し高い台に登った男性は他のパラディオンに確認をとってから、うんうんと頷いた。


 そして、こほん。と小さく咳払いをすれば口を開き――


「――ようこそ、新たな仲間たちよ!今日は思う存分騒いでくれ給え!!」


 ――男性のその言葉と同時に、広間に歓声があがった。新人たちではなく、準備をしていたパラディオン達の歓声である。

 新人たちは最初はその様子に戸惑っていたが、気さくに話しかけてくるパラディオン――謂わば先輩達に徐々に馴染んでいき、故郷の話や養成所での話に花を咲かせ始めた。


 そう、この日は特別。

 明日からは先輩達にはパラディオンとしての日常が待っており、新人達には()()が待っている。

 そんな日々に備える為に、初日はパラディオン達と新人とのコミュニケーションの場として、歓迎会を開くというのが通例となっているのだ。


 本部まで来た新人達もそれを察したのか――養成所から無事、パラディオンとなる認可を受けて卒業した者達なのだから当然だろうが、積極的にコミュニケーションをとっていく。

 隣りにいる者が明日のパートナーになるかもしれない。そう思えば、当然のことだろう。

 ウィル達も当然のように周囲と何気ない話や自分の持っている才能の話、養成所での思い出など。そんなとりとめのない話を交わし、歓迎会を楽しんでいた。




 /




「……おお、お前も楽しんでいるか!いやあ、酒が美味いのは助かるな!」

「おかえり、ギースさ……酒臭っ」


 気さくに話しかけてきたギースからは、強い酒の臭いがした。成る程、そういえばドワーフは未成年から飲酒OKなんだったか。思わず鼻をつまめば、ギースはすまんすまん、と笑いながら少し離れた所に腰を下ろす。


 色んな人と話して、交流して。少し疲れた僕は、広間の隅で壁に寄りかかって休んでいた。

 人付き合いが得意ではないと自覚していたけれど、幸いここの人達は僕に偏見を持たずに接してくれたおかげで何とかなった……まあ、子供扱いされる事は何度か有ったけれど。身長が身長なのだから仕方ない。


「しかしまあ、随分と明るいもんだのう。俺はてっきりもっとピリピリしたもんだと思ってたが」

「多分、明日からそうなるんだと思いますよ。今日はきっと特別です」

「それはそれで残念だがなぁ」


 ギースの言葉に苦笑しつつ、まあ確かに、と僕も同意した。こんな日々が続くならそれはきっと幸せなのだろうし。

 でも、僕たちはパラディオンで――多分明日にでも、害獣達の駆除にあたらなければならないだろう。

 ――花園での事を思い出すだけで、背筋に嫌な汗が流れる。ああいう相手と、これからずっと戦っていく事になるのだ、僕らは。


「ははは、心配しなさんな!一人で仕事をするわけでもなし!」

「っ……そうだね、うん」


 バシバシと背中を叩かれれば、息をつまらせながらもギースに感謝する。

 そうだった、別にあの時のように2人で戦う訳でもない。これからは、僕よりもずっと頼りになるであろう仲間と一緒に戦うのだ。

 だから、不安はあっても――そう、少なくともあの時よりは怖くはない。


「……ん?」


 さて、もうそろそろまだ話してない人達と話してみようかな、とギースに軽く手を振ってから人混みに戻ろうとすれば――ふと、広間の隅に蹲ってる女性が目に入った。

 もしかして、悪酔いでもしてしまったのだろうか。他の人達は気づいてないようだし、声をかけたほうが良いのかもしれない。

 そんな事を考えつつ、彼女の元まで歩く。

 彼女は、僕ほどではないけれど小柄だった。若草色の髪の毛に、頭からは一対の獣――そう、ちょうどネコのような耳を生やしていて。その姿で、彼女がビーストだというのは一目で理解できた。


「えっと、大丈夫……ですか?」


 僕の言葉に、ビーストの女性は顔を上げる。顔色が悪い、とかそういう事はなく、ただ何処か不思議そうに橙色の瞳で僕の顔を見上げていた。

 かくん、と首を傾げながら、女性はしばらくの間僕を不思議そうに見ていたが――やがて、得心がいったかのように頷けば、すっくと立ち上がり。


「――もしか、して……まい、ご?」

「え」


 ――僕の顔を覗き込むようにしながら、そんな事をのたまった。


「ここ……パラディオン、の、本部……だから。子供は……だめ」

「ちょ……ち、違う、違いますっ!僕は今日ここに来た新人ですっ!」

「……あ、ら」


 手を引いて連れ出そうとする彼女に慌てて弁明すれば、彼女は不思議そうに首を傾げる。

 ……正直、言葉が通じてるのかどうかが少し不安だけれど、意思の疎通が出来ないという訳ではないらしい。


「……ごめん、なさいね?人と、話すの……苦手、だから」


 ――ああ、成る程。人と話すのが苦手で、人混みにいると辛かったから隅で休んでいたのか。

 だとしたら、余計なお世話だったのだろう。途端になんだか恥ずかしくなってきた。


「あー……その、僕の方こそごめんなさい。休んでいたのを邪魔したみたいで」

「うう、ん。良いの……私は、アルシエル。貴方、は?」

「えっと、僕は……ウィル。ウィル=オルブライトです」

「そ、う。それじゃ、また……ね」


 名前を告げ合えば、それだけ。彼女は柔らかく微笑んだ後、今度はまた別の隅っこへと移動し、座り込んで。

 彼女がそれで会話を切り上げた以上、僕から話しかけるのもしつこいか、とその場を離れる。


 ――その日の歓迎会は深夜まで続いた。

 僕と言えば結局途中でダウンしてしまい、途中で充てがわれた自室に避難。

 歓迎会の音を聞きながら、そう言えば今日は自主鍛錬してないな、なんて思いつつ――その癖普段よりも数倍溜まってるような気がする疲労に身を委ねて、眠りへと落ちていった。

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