表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
凡庸なるパラディオン ~平凡な僕らは、それでも世界を守り抜く~  作者: bene
1章:パラディオンとしての初任務のお話
17/142

1.出会いと始まり

 彼らは、パラディオンとして活動を始めてから1年目になる者たちだった。

 優秀な魔法使いと弓使い、そして斧使いと槍使いで編成を組み、とある害獣の生息地とされる場所へと向かっていた。


 彼らは1年目としては多くの害獣を駆除してきた、いわば期待の星。

 今回も問題なく害獣を駆除できるだろうと、彼らは思っていた。無論、油断をしていた訳ではない。十二分に準備をし、生息地であろう場所に入ってもなお彼らは油断せず、慎重に進んでいた。

 パラディオン内でも評価が高かったのも、そういった理由である。どんな現場でも油断をしない彼らは、いずれはパラディオンの中でも重要な部分を担うであろうと、そう誰もが信じて疑っていなかった。

 しかし、彼らはその場所から帰ってくる事はなかった。

 そこまでは良くある話である。どんなに優れたパラディオン達であっても、僅かなミスで全滅する事はそう珍しい事ではない。害獣と相対するという事は、そういう物だからだ。


 だが、問題はそれだけでは終わらなかった。

 続いて送られたパラディオン達は僅か2日でほぼ壊滅し、ただ一人だけ本部へと逃げ帰ってきたのだが、彼らからの報告は俄には信じがたい物だったのだ。




 重傷を負いながらも、ほうほうの体で戻ってきた男は息も絶え絶えに、こう伝えた。

 ――行方不明だったパラディオン達に、仲間を殺された。他の仲間も皆狂ってしまった、と。




 /




 ウィル達が過ごしていた養成所から、馬車で数日。東西南北、そして中央に国家を有するこの世界――イストリアの、その中央から程なく離れた場所に、その建造物はあった。

 城と見紛う程に堅牢で、それ自体が一つの都市としての機能を持ち、5つあるどの国家にも属さないその城塞都市。それが、オラクルを頭とした組織であるパラディオンの本部である。

 東西南北にも同規模のパラディオンの支部があり、各々が各国家で起こっている害獣等による被害への対処にあたっていた。


 この世界において人類の驚異であるのは、何も悪神の使徒ばかりではない。無論それらが最強最悪の敵である事に代わりはないが、同等の力を持つオラクル達がその対処にあたっている事もあり、実際に国家に被害を与えているのは害獣達だった。

 農作物への被害、水源への被害、地方の農村への被害、枚挙を挙げれば暇がない程に害獣による被害は多く、中には中規模の都市が壊滅する大事にまで発展するものまである。

 故に、オラクルと比較するとパラディオンへの国家からの依頼は非常に多い。危険度の高い害獣だけではなく、そうではない害獣もパラディオンの仕事。週に一度の休日――それも時々というか、結構な頻度で消えるが――以外は、パラディオンは働き詰めで。


 しかし、今日は特別だった。何しろ新しい仲間が増えるのである。中央にあるパラディオンの本部には東西南北から新しくパラディオンとなる、各地の養成所の卒業生が集まっていた。


 北方からは、筋骨隆々とし身の丈も高い地霊族(ドワーフ)が。

 西方からは、線が細く切れ長の耳を持ち、見目麗しい妖精族(エルフ)が。

 南方からは、幼児と見紛うほどに小さく愛らしい小人族(リトル)が。

 東方からは、獣のような耳と尻尾を生やした、獣の特徴を持つ獣人族(ビースト)が。

 そして、中央からは所謂人間――他の種族のような特徴を持たない人間族(ヒューマ)が。


 生まれも種族も違う、しかし信念が同じ者たちが一同に介する特別な日。本部は新たに加わる新しい仲間たちに、一種のお祭り騒ぎになっていた。




 /




 馬車に揺られること数日。僕らはようやくパラディオン達が拠点としている施設、その本部へと辿り着いた。

 此処まで連れてきてくれた行者さんにお礼を述べつつ馬車から降りれば、既に門の前は多くの人々でごった返しており。僕等がいた養成所に居た以外にも、多くの種族が入り乱れていて。

 僕もミラもその様子に少し気圧されていると、背後から唐突に陽気に声をかけられた。


「お、今度のはヒューマか。お前さん達もパラディオンに?」

「あ、はい。貴方も――」


 ――パラディオンに?と問い返そうとして。振り返った僕は、硬直してしまった。

 そこに居たのは、まるで巨大な岩のような男性だった。養成所に居たアルゴル先生と同等の背丈、そして更に筋骨隆々とした男性。それなりに背丈が高い筈のミラでさえ子供に見えるようなその男性は、ぽかんとしている僕らを見て邪気のない笑顔を浮かべる。


「ははは、何だドワーフを見るのは初めてか?驚かせてすまんかったな!」

「い、いや、此方こそ済まなかった。貴方もパラディオンに……なるのだな、当たり前か」

「うむ!同じ養成所からは俺一人で正直参っておったのだ!いやあ、話ができそうな相手で助かった!」


 むんずと、大きな手で僕とミラの手を掴めば、上下に軽く振って。それだけで僕は軽く持ち上げられそうになりながらも――明るく陽気なドワーフの彼に、少し緊張が解れた。

 そうだった、ここに居るのは僕らと同じ、新しくパラディオンに人達なんだから緊張する必要もないんだな、と自分を納得させる。


「えっと、はじめまして。僕はウィル=オルブライトと言います」

「私はミラ=カーバインだ。宜しく頼むぞ、えっと――」

「おお、自己紹介がまだだったな!俺はギース!ギース=ドレミアだ!宜しく頼むぞ、ウィル、ミラ!」


 がはは、と豪快に笑いながら、ドワーフの男性……ギースは僕らの手を力強く握って、上下に揺らす。

 その力強さに思わず苦笑しつつも、何処からどう見ても悪くは見えないギースと僕らは暫くの間共に過ごすことになった。


 彼、ギース=ドレミアは南方の国家の生まれで、鉱夫の両親の元で生まれ育った。決して裕福な暮らしではなかったが、それでも明るい母と頼り甲斐のある父と3人で幸せに暮らしていたらしい。

 そんなある時、一家の居る鉱山都市が害獣による被害にあった。害獣の名前は「岩喰らい」。岩石や鉱石を主食とするその害獣に巣食われた鉱山は直ちに封鎖され、ギース達一家だけではなくその鉱山都市自体が存亡の危機に立たされた。

 そんな時、助けに来てくれた――正確には、国家からの依頼を受けた――パラディオン達が堪らなく輝いて見えたのだ、と。ギースは何処か英雄譚でも語るかのように、嬉しそうに話してくれた。


「あれから俺はもう、パラディオンになる為に死に物狂いでな!今日はついに念願が叶うわけだ!」

「ふふ、そうか」


 楽しげな、嬉しげなギースの声に釣られて笑みを零しつつ、ミラが言葉を返す。


「お前さん達はどうしてパラディオンを?」

「私は……そうだな、高貴なる者に伴う義務(ノブレスオブリージュ)という奴だ」

「のぶれす……?」

「……良き才能を持った者の義務、とでも捉えてくれればいい」


 訝しげな顔をしたギースに、ミラは少し可笑しそうにしながらそう返せば、彼女自身のことを言葉少なく語り始めた。

 高いレベルの才能を持っていた事。周囲と比較して、明らかに自分が優秀だと自覚していた事。それ故に、自分はそうでない者を守る側になろうとしたのだ、と。


「――まあ、養成所で多少その辺りを捻じ曲げられたが」

「ふむ?」

「あ、あはは……」


 ……ミラがそういう理由でパラディオンを目指していたとは、知らなかった。自分からそういう事は聞かなかったのだから、当たり前か。

 しかし成る程、それなら昔ミラが僕との組手で負けた後に異様に悔しそうにしていたのも納得できる。あの頃は僕が勝つと殺意の籠もった目で睨まれるから、内心少し怯えていたものだ。今ではもう、そんな事も無いのだけれど。


 ミラの言葉に首を捻りつつ、しかし浮かんだ疑問を聞くべきではないと考えたのか。ギースは小さく頷けば、僕の方へと視線を向けてきた。


「では、次はお前さんだな。どういった理由でパラディオンに?」

「あ……あー……」


 ギースの好奇心が、今度は僕の方へと向く。どうしたものか、正直な所聞いても楽しいものではないと思うのだけれど。

 ……でも、話さないのは今話してくれた2人に余りにも悪いか。


「……聞いても楽しいものじゃないよ?」

「ははは、そんな事は気にするな!俺も気にせん!」


 前置きをして尚、そう言われてしまえば話さない理由も無い。僕は自分の両親、それに姉の事。そして彼らに恥じないようにパラディオンを目指した、と簡単に事の経緯を口にした。

 それを聞いたギースは、暫くの間硬直していたが――やがて、真剣な表情でガシッと、痛いくらいの力で僕の両手を掴めば、興奮した様子で口を開く。


「お、おおおお、お前はあの『剣の聖女』の弟だったのか!?何と羨ましい……!!!」

「え、あ、う、うん」

「是非!!是非!!お姉さんからサインを貰ってきてくれ!頼む!!」

「お、おい!急にどうした!?」


 僕の肩を掴んでがっくんがっくん揺らしてくるギースを、慌ててミラが止めに入る。そこでようやく正気に……もとい、冷静になったのか。ギースは頭を掻きながら、恥ずかしそうに顔を赤らめた。


「い、いや面目ない。つい興奮してしまった……パラディオンに憧れているのは本当だし、当然なんだが……実をいうと、オラクルの大ファンでな?その中でも特に剣の聖女と言われている、エミリア=オルブライトのファンなのだ」

「ああ、成る程……」

「なので、その……サインを……」


 先程までの陽気な態度はなりを潜め、必死さすら感じる程のギースの態度に苦笑してしまう。でも確かに、そういう人も居るのか。姉さんは史上最年少でオラクルになった、この世界でも知らない者が居ないくらいの有名人なのだし。

 取り敢えずギースの手をどかして、首を左右にふる。そうしてあげたいのは山々だけれど――


「……ごめんね?姉さんにも母さんにも、滅多に会えないから」

「む……」


 ――そう、僕はここ数年2人に顔を合わせてすら居なかった。手紙は送られてきているし送り返してもいるが、直接会ったのは大分昔の話だ。

 なのでサインを貰ってくれ、と言われても難しい。というか無理だ。オラクルとして活動している姉さん達に会う機会なんて、早々無いのだから。


「……いや、そうであったな。すまん!俺としたことが我を失っていたようだ!」


 そういった事情を察してくれたのか、ギースは心底申し訳なさそうに、僕の頭よりも低く頭を下げた。頭を上げる頃には先程のような陽気な表情に戻っており……バンバン、と肩を軽く叩いてきて。


「まあ、改めて宜しく頼むぞ!二人共!」


 変になってしまった空気を戻そうとしているのか、ギースは笑いながらそう口にした。

 僕とミラは顔を見合わせながら、少しだけ可笑しそうに笑うとギースに向き直り、頷いて――


「――大変おまたせしました!卒業生の方々はこちらへどうぞー!!」


 ――それと同時に、門の方から女性の声が聞こえてきた。

 それまで門の前で屯していた他の人達も、やっとか、と表情を明るくしながら誘導に従って歩き出す。丁度いいといえば良いタイミングだった。


「それじゃあ行こうか」


 2人は僕の言葉に頷けば、周囲の人達の流れに乗るように歩き始める。さあ、いよいよだ。

 僕は胸が高鳴るのを感じながら――隣の2人も仄かに頬を紅潮させているのを見れば、同じ気持ちなんだな、なんて何処か嬉しく思いつつ、並んで門の先へと進んでいった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ