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13.僕と、彼女の今後Ⅲ

「その、エミリアさん」

「……」

「……義姉さん」

「何かしら、ミラさん」

「どうして、こんなにぴったりくっついて……?」

「ふふ、昔から妹が欲しかったのよねー……♡」


 返事になっていない返事に少し頭を抱えるようにしながら、小さく息を漏らす。

 ……一体どうして、こんな事になっているのだろうか。






 エミリアさん――もとい義姉さんとの会話の後、彼女はウィルが良くなるまでの間この街に駐留する、という事になった。

 私もウィルも、義姉さんにそんな余裕があるのかと問いかけたものの、つい先日悪神の使徒と一戦交えたばかりらしく、しばらくはやり合う事も無いだろう、との事で。

 どういう理屈なのかは判らなかったけれど、オラクルである義姉さんが『心配しないで大丈夫よ』と自信満々に口にしていたのだから、きっと大丈夫なのだろう。


 ともあれ、同じ宿に泊まることになった私達と義姉さんは軽く談笑し、一緒に食事をとって。

 後はお互いの部屋で眠るだけ、だった筈だったのだけれど――……


「あ、ミラさんはお姉ちゃんと一緒にお風呂に入りましょう?」

「ん……明日でも良いかと思っていたんですが」

「明日でも良いなら今日でも良いわよね♪さ、お姉ちゃんと一緒にお風呂に行きましょうっ」


 ……何故か、義姉さんは私を宿に備え付けのこぢんまりとした浴場に引っ張り込んだ。

 いや、それは別に構わない。

 裸の付き合いという奴だろう、その――そう、何れは義姉さんとも正式に家族になるわけだし、こういう機会を設ける事は悪くない事だとは思う。


 思うの、だが。


「んー……♪ミラさんはしっかりした体つきなのね。私や母さんとは大違いだわ」

「ま、まあその、前に出て戦うのが役目ですから……」


 ――何故、こう。

 ぴったりと体をくっつけながら、一緒に湯船に浸かっているのだろうか……?

 義姉さんは私と同じく背が高い方ではあるけれど、とても女性的な体つきで。

 その柔らかな肢体を絡めるようにくっつけてくる、過度としか言いようのないスキンシップに私は戸惑いを隠す事が出来なかった。


 同性とは言えど、エミリアさんの体は柔らかく、心地よく。

 その気がない私でさえ、少し妙な気持ちになってしまう程で……正直、困ってしまう。


「ね、義姉さん。その、そろそろ離れてもらえると」

「だーめ、もっとちゃんとスキンシップさせて?」

「――……っ!?!?」


 妙に慣れた手付きで私の体をなぞるようにされてしまえば、私はあられもない声を上げてしまった。

 義姉さんはそんな私を見ながら嬉しそうに笑みを零し、更にその靭やかな指先を――……


 ……閑話、休題。


 ゆでダコのように赤くなってしまっているのだろう、異様なまでに熱い顔と体に水を浴びせて冷ましながら、少し荒く吐息を漏らす。

 そんな私を見ながら、義姉さんはにこにこと笑みを浮かべつつ……視線が合うと、ひらひらと手を振って。


「はぁ……昔はウィルとも一緒に入っていたのだけれど、ここ数年はさっぱりだったから嬉しいわ」

「――ウィルと、まさか今みたいな事を」

「? 家族のスキンシップだもの、当然でしょう?」


 心底不思議そうな顔をする義姉さんを見て、私は頭から思い切り水を被りつつ――ウィルに、少しだけ同情してしまった。

 もしかしてフィリアさんもそうなんだろうか、なんて思いつつ私はようやく収まってきた熱に小さく息を漏らし。


「……それで、私を呼んだ理由はなんですか、義姉さん。ただ……その、スキンシップが目的だったという訳では無い、ですよね」

「ん、そうね。ねえ、ミラさん」


 私の言葉に小さく頷けば、義姉さんは湯船の縁に肘を付きながら私の方を見て。


「――パラディオンを続けたい、と言っていたけれど。現実問題として、今のまま働けると思う?」


 とても優しい声色で――しかし、厳しい現実を私に突きつけた。

 その言葉に私は体を硬直させながら、視線を伏せる。


 ……解っては、居るのだ。

 ウィルはまだ厳重注意や減俸で済むだろうけれど、私は多分そうはいかない。

 害獣混じりが、害獣から人々を守るパラディオンという場所に居ていい筈がないのだ。

 それでも皆は庇ってくれるかもしれないが、万が一私がそうだと露見したならば――しかもそれが本部に居たとなれば、パラディオンの名は地に落ちるだろう。


 そう思ってしまうと、考えてしまうと、どうしても気持ちは重く、重く沈んでしまい――……


「ああ、ごめんなさい……そんな顔をしないでミラさん、貴女を悲しませたかったわけじゃないのよ」

「あ……い、いえ、大丈夫です」


 表情にでていたのか。

 義姉さんはいつの間にか湯船から上がって、私のことを優しく抱きしめて、いて。

 目尻を拭われたことを考えると、もしかして泣いてしまっていたのだろうか、なんて考えつつ……義姉さんは私の頭を撫でながら、言葉を続けていく。


「私が言いたかったのはね、ミラさん。働き方を変えてみるのはどうかしら、という事なの」

「働き方、を……?」


 私の言葉に義姉さんは笑みを零すと、小さく頷いた。

 ……働き方を変える、というのはどういう事だろうか?

 表に出ない事務方に、とか……裏方に回るとか、そういう事なのかもしれない。

 確かに、それなら……少なくとも、一般の人々と触れ合う機会が無い、本部から出る事が無い場所の者になったなら、問題は少ないのかもしれない、が。


「――最近、害獣に対して大きく遅れを取っていると感じたことは、無い?」


 しかし義姉さんの言葉を鑑みると、どうやらその考えは的外れだったらしい。

 考える。害獣に遅れを取っている……というのは、たしかにそうだ。

 元々パラディオンは通報が有ってから向かうような形式をとっている以上、基本的には後手に回るようになっている。

 それは、この広い世界でパラディオンがバラけて害獣を探す、なんていうのが余りにも非効率で非現実的だからこそ生まれたやり方だけれど――……


「……確かに、少し……東方の一件もありましたし」

「アレに関してはイレギュラーも良い所だと思うけれど、今後も起きないとは限らないものね。だから、今ちょっとした枠組みを作ろうという話があがっているのよ」

「枠組み、ですか?」


 義姉さんは小さく頷きながら、私を抱いていた腕を緩めるといらっしゃい、と湯船に入るように促して。

 私はこくん、と頷くと……そのまま、義姉さんと並んで暖かなお湯の中に浸かった。

 先程のように過剰なスキンシップをすることもなく、義姉さんは軽く伸びをしながら話を続けていく。


 ――今、パラディオンの中では今までどおりではダメだ、という意見が噴出しているらしい。

 年々大きくなる被害、増える負担……そして、つい先日に起きた東方支部の潰走。

 今のままではそう遠くない内に害獣を抑えきれなくなってしまうのではないだろうか、という不安……否、現実に彼らも対策を練っているのだそうだ。


 対策は当然1つではなく多数あるのだけれど、義姉さんが挙げてくれたのはそのうちの1つ――遊撃隊、というもので。

 地方・地域・部署を問わず生存圏を旅するように行き来し、近辺から害獣の被害が出れば即座に対応するという、ある意味、常に最前線に立たされているような……そんな存在らしい。


「この部隊に入れば同じ場所に留まる事は殆ど無くなるから、ミラさんの目の事が露見する可能性は限りなく低くなると思うわ。勿論その、もの凄くキツいとは思うけれど」

「……そう、ですね」


 そう、たしかに凄まじくキツいのだと思う。

 遊撃隊と言えば聞こえは良いのかもしれないけれど、つまりは休む間もなく――そして帰る場所さえなく、延々と害獣と戦い続けるような、そんな立場という事で。

 今のように本部に戻ってから僅かに休暇を得たりだとか、そんな事は多分無くなってしまうのだろう。


 でも。でも、それは――私がかつて憧れていたものに酷く似ているように、思えた。

 お伽噺の、皆を救う英雄。

 私はかつてそれをオラクルに見ていたけれど――パラディオンもそうではあったけれど。

 より皆に近く、より皆を早く守れるようになるというのであれば、それはきっと素敵な事で。


「少し、考えさせてもらっても良いですか?」

「ええ、勿論。ウィルとも……ギースくん達ともしっかり相談して、それから決めて頂戴な。ダメそうだったら、またお姉ちゃんが何かしら考えてあげるから」

「……ありがとう、義姉さん」


 心からの感謝を口にすれば、義姉さんは嬉しそうに笑みを浮かべた。

 ……その後、また少しスキンシップをされてしまったけれど。

 私は、まだ――まだパラディオンで居ても良いんだという事が、本当に嬉しくて。


 ウィルに……それに、皆に相談してみて、それでもし良かったらこれからも一緒に居られたら良いな、と。

 そんな幸せな未来を思い浮かべつつ、私は湯船から上がればどうやってウィルに説明しようかと、軽く頭を悩ませた。

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