8.穏やかな日々の終わり
休暇は何事も無く、穏やかに過ぎていった。
僕は今後の対策のために工房を訪れては、ああでもない、こうでもないとカミラと話し合い。
「――才能に寄らない武器と、壊れない剣……だなんて滅茶苦茶言ってくれるよねぇ、本当」
「うぐっ」
「そんなもん言われたって、簡単に用意できる訳ないのに……いやまあ、取り敢えずで作っては見たけども」
そうして、取り敢えずは出来上がったものを前にしつつ、カミラは小さく息を吐き出した。
……それを言われてしまうと、いや、本当に申し訳なくなる。
カインにこれから先狙われていく、という事を考えるとそういった物が必要になるのは、本当の事だったのだけれど。
「良い? 一応言っておくけど、こっちは普段は使わないようにね」
そう言いながら、彼女はテーブルの上に置かれた物に軽く触れた。
そこに置かれていたものは、2つ。
片方は小振りの、片手でも扱いやすそうな剣。
そしてもう一つは……少し仰々しいような気もする、篭手……のような、何かだった。
篭手のような、といったのはそれがとても防具として機能するような物に見えなかったからだ。
まあそれは当たり前だろう。
何しろ、僕がカミラに相談したのは才能に関係のない武器であって、防具ではないのだから。
「扱い方に関しては取り説を用意しておいたわ。ただ――剣は置いとくとしても、こっちは使い勝手は最悪だから注意してね」
「……最悪なんだ?」
「いろいろな部分でね。継戦能力は皆無、費用対効果も最悪、防具としてはギミック過多で耐久性だって低いし――」
……そこまで言われると、少し身構えてしまう。
いやまあ、性能度外視でお願いしたのは僕の方なのだけれども。
製作者にそんな嫌なお墨付きを貰ってしまうと、それを手に取る気持ちが萎えてしまいそうで。
「――そのかわり、才能のあるなしに関わらず同じ性能を発揮するようにはなってる、筈よ。多分、きっと、恐らくは」
「ん……有難う、カミラ」
「やめてよ、そんなので礼を言うの。私としてはこっちのが自信作なんだから」
そう言いながら、彼女がため息混じりに差し出してきたのは、一振りの剣だった。
装飾も何もない、刀身も若干短いその剣は本当に小振りで。
僕はそれを手に取ると――小さく、声を漏らしてしまった。
「結構重い、ね」
「ん。ウィルの筋力なら片手で行けると思ったけど……難しい?」
「ううん、多分大丈夫。見た目よりも重たかったから、さ」
僕の言葉に、カミラはうんうんと頷きながら小さな鉱石をテーブルの上に置いて。
それを指先で軽く弄るようにしつつ、言葉を続けていく。
「その剣はね、少し特殊な鉱石で出来てるの。普通は建築物の一部とかに使う奴なんだけど、凄く頑丈でね」
カミラはその鉱石を両手で持ち上げつつ、ちょいちょいと僕に手を差し出すように求め。
言われたとおりに両手を差し出せば――ずしん、と。
とてもその大きさからは信じられないような重さを感じ、危うく僕はその鉱石を取りこぼしそうになってしまった。
勿論、とても持てないとかそんな重さではないのだけれど――何と言えばいいのだろうか。
外見からは予想ができない重さ、というか。成る程、確かに頑丈そうな鉱石で。
「それ、単純な加工しか出来ないから苦労したんだよ? そんな物を剣にするなんて普通しないからさ」
「そうなの? 頑丈ならそれこそ武器や防具に向いてそうだけど」
「……重い上に単純な加工しか出来ないんだってば。普通の剣の大きさで作ったら、思いだけの鈍らの出来上がりだし……鎧なんて作ろうものなら、筋トレ用みたいになっちゃうのよ」
カミラの言葉に、改めて小振りな剣を持ち上げてみる。
……確かに、この大きさの時点で片手で扱うのはギリギリ、と言った重さで。
これで槍や斧なんて作ろうものなら、重すぎてとてもじゃないけれど扱えないものになってしまうだろう。
「一応言っておくけど、切れ味には一切期待しないでね。剣の形をした鈍器だと思うこと」
「ん……解った、有難うカミラ」
「……本当は切れ味もなんとかしたかったんだけどね。見た目だけの刃を作るので精一杯だったから」
そう言ってため息を吐くと、カミラは少しだけ申し訳なさそうに苦笑した。
僕の無茶ぶりにしっかりと応えてくれたカミラは、本当にすごい人だと思う。
これなら――いや、これでもきっとまるで足りないのだろうけれど。
ここまで用意してもらったなら、後は僕自身の力でカインとの差を誤魔化していくしかないだろう。
「良い、特にその篭手は扱いに気をつけてよ? 壊れたり使えなくなったら、直ぐに工房に持ってくること」
「うん、有難うカミラ!」
僕は剣と篭手を包むと、そのまま工房を後にした。
篭手に関しては多分、練習も出来ないだろうし。というか作ってもらって早々に工房行きにしたら、カミラにハンマーで殴られそうな気がするし。
取り敢えず部屋に戻ったら彼女の用意してくれた取扱説明書を良く読んで、それから次の害獣駆除の時に、試しに使ってみるとしよう。
「――あ、ウィルさん。ちょっと良いですか?」
「え? あ、はい」
……そんな事を考えていると、不意に誰かから声をかけられた。
振り返ってみれば、そこに居たのは何時も手紙を届けてくれている行者の人で。
その手には一通の手紙が握られており――ああ、なるほど。
「ちょうど良かった、ウィルさんあてにお手紙です」
「有難う、ご苦労さまです」
「いえいえ。それでは、失礼しますね」
恐らくは僕の部屋に手紙を持っていく途中だったのだろう。
偶々僕を見かけた彼は、僕に手紙を手渡すと軽く会釈してから廊下を走っていった。
……行者さんは行者さんで、きっと忙しいんだろうなぁ、と。
彼の慌ただしい様子に内心少し感謝しつつ、僕は手紙の差出人を確認して――そこに書いてある名前に、思わず笑みを零してしまった。
そこに書かれていた名前は、フィリア。
フィリア=オルブライト――つまり、僕の母さんからの手紙で。
僕は部屋まで待ちきれずに便箋を開くと、久方ぶりの母さんからの手紙に視線を落としていく。
いつもの挨拶と、近況報告。
そこに記されているのはいつものような内容だったけれど、母さんからのものというだけでも心が暖かくなってしまう。
……姉さんからの手紙もまあ嬉しいのだけれど、姉さんの場合は何というか、こう。
近況報告もあるのだけれど、僕に会いたいとか、そういうのが結構あるから……うん。
姉さんのことは好きだけれど、手紙の書き方は正直上手ではないと思う。
「――ん?」
そんな事を考えながら苦笑しつつ、母さんからの手紙に目を通していけば……最後の方。
文末の方に、普段の母さんの手紙には書かれていない言葉が、書かれていた。
――近日中に、そちらへ向かいます。
きっと貴方にも手伝ってもらう事になりますので、準備をしておいて下さい。
「母さんが来る、んだ」
その文面に嬉しくなる反面、不安が胸を過る。
文面から察するに、恐らくは――以前姉さんが本部を訪れた時のような、大規模な戦いが始まるのだろう。
……以前の北限遠征では、決して少なくない数のパラディオンが戦死、或いは働く事が不可能になった。
それを考えれば、少なくともそれと同等か、或いはそれ以上の困難がやってくる可能性は非常に高く――……
「……よし」
休暇で少し緩んでいた気持ちが、引き締まるのを感じる。
僕は軽く頬を張ると、自分の部屋へと足早に向かった。
取り敢えずは皆を呼んで、情報を共有しておこう。母さんからの手紙もだけれど、カミラに作ってもらったものも見てもらわなければ。
――そろそろ短いようで長かった休暇も終わる。
少し休暇の穏やかさに後ろ髪は引かれるけど、皆と一緒にパラディオンとしての日々に戻るとしよう。
短いですが、七章はこれでお終いです。
次回から八章になります。明日はちょっと更新をお休みする、かも。




