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5.恋愛初心者同士のデートは、初々しく

「……わ、あ」

「ふむ――思ったよりも、これは」


 出店の立ち並ぶその通りに近づくと、そこから溢れる活気に僕らは思わず声を漏らしてしまった。

 子供たちははしゃぎ、大人達も物珍しい品々に楽しげにしていて。

 そんな沢山の客を相手にしながら、行商人達は稼ぎ時だと大張り切りしているようだった。


 僕とミラは人混みではぐれないように、と互いの手を軽く握ってからその人混みの中を歩き始めた。

 ミラは兎も角、僕は周囲から比べても背が低いのもあって、ちょっと苦しかったけれど……成る程、実際にこうして見てみると面白い。

 出店はそれぞれまるで趣の異なる品を並べており、宝飾品を置いてある所もあれば日用雑貨や食料品を置いてある場所もあって。

 場所によっては古書や武具といった物を置いている店まであり――……


「おお、ウィル。槍と剣を置いてある店もあるぞ」

「本当? ちょっと見てみようか」


 ミラの背だと遠くまで見えるのだろう。

 そんな出店を見つけたらしいミラは、僕の手を引いて歩き始めた。

 ……出来れば僕が手を引いて彼女を引っ張ってあげたいなぁ、と思わなくもないのだけれど。

 この人混みだと僕は遠くは良く見えないし、うん、まあ仕方ないだろう。

 少し歩けば、成る程。

 剣や槍、後は宝飾品といったものを置いてある出店が確かにそこにあって――店主は僕らを見れば、明るく笑みを浮かべた。


「――おお、いらっしゃい!護身用か家の飾りにどうだい、一つ」

「ふむ、見せてもらっても構わないか?」

「勿論!手に取って見ていってくれ!」


 店主の言葉にミラは小さく頷けば、置いてあった槍を手に取り、握る。

 見てみると全体的に装飾部分が多く、華美と言った印象があり……多分、店主の言う通りこれは実用するものではなく装飾用なのだろう。

 ミラは流石に振るうことはしなかったものの、穂先まで見れば小さく苦笑して。


「……そうだな、飾りには良さそうだが……スペースが無いからな、済まない」

「そうか、残念。どうだい、そっちの坊やは」

「あはは、僕も遠慮しておきます」


 僕らが断れば、店主は残念そうにはしたものの、笑顔を絶やす事はなく。

 ……流石というべきなのだろう、その笑顔を直ぐ様他の客へと向ければ、先程のように出店の品々をその客へと勧めていき。

 彼のその様子に、僕らは小さく笑みを零せば他の出店へと視線を向けつつ、再び歩き始めた。


「――実の所をいえば、綺麗な物も嫌いではないのだがな」

「ん、そうなんだ?」

「ああ、だが……今の私の部屋にはあれを飾るスペースは無いだろう?」


 確かに。

 僕の部屋もミラの部屋も同じ間取り――というかパラディオンの部屋は大体そうなのだけれど。

 生活するには何不自由なく出来る分、装飾品というか、ああいう物を置くスペースのような物は意外な程に少なかった。

 ギースは酒樽を置いたり、ラビエリは本を山積みにして置いたりしていたけれど、それだけで部屋が手狭に感じる程だったし……


 ……そんな事を考えていると、不意に鼻に甘い香りが届いた。

 先程ミラと一緒に食べたものとはまた違う、甘い香り。

 少し香ばしいその香りはミラにも届いていたのか、彼女もきょろきょろと視線を彷徨わせていて。

 そして何かを見つけたのか、彼女の視線はある一点で止まった。


 ……止まったのだけれど、彼女は何故かそのまま動くことはなく、何処か気恥ずかしそうに僕の方をちらり、ちらりと見つめていて。

 どうしたのだろう、と少し考えてから――ああ、そうか、と僕は笑みを零してしまった。


「いいよ、ミラ。一緒に食べよう?」

「あ……ああ、有難う」


 僕が少し強く手を握りつつそう言うと、彼女は表情を綻ばせて。

 僕は彼女の手を軽く引くようにしながら、人混みの中を歩いていく。

 幸いというか、甘く香ばしい香りが漂ってきているから人混みの中でも迷うこと無く、ミラが見ていた場所へと向かう事ができて。


 その場所にたどり着けば、そこには――何やら綿のようなものを棒で刺した、見たこともないモノが置いてあった。


「おお、いらっしゃい坊主。綿菓子、買っていくかい?」

「綿菓子……ですか?」


 聞き覚えのない言葉に僕も、そしてミラも首を捻る。

 並んでいる物は確かに綿のように見えるけれど……もしかして、これを食べるのだろうか?

 首を捻る僕らに店主は少しだけ可笑しそうに笑えば、何やら細かい穴の空いた筒のようなものに粒の粗い砂糖を入れて、蓋をして。


「そら、見てな――っ」


 その言葉と同時に、恐らく店主は魔法を使ったのだろう。

 筒状の鍋のような物の底に火を灯せば、同時に先程の筒をくるくる、くるくると回転させ始めた。

 周囲に香ばしい砂糖の焦げた匂いが漂い始め、店主はそれを確認してから棒を鍋に入れると、何もないその場所をかき混ぜるように、くるくると棒を回していき――……


「お、おお……!?」

「へへ、どういうものか判ったかい、嬢ちゃん」


 ――ミラが声を上げてなかったら、きっと僕が声を上げていたと思う。

 何もついていなかった筈の棒にはなにやら細い、細い糸のようなものが付着していて。

 店主がくるくると棒を回す度に、それは大きく、大きく――そう、文字通り店頭に並んでいる綿に変わっていった。

 綿菓子とはつまり、砂糖をか細い糸のようにして、綿のように纏めたもののようで。

 出来上がった綿菓子を、店主はそのままミラの方へと差し出した。


「あいよ、嬢ちゃん」

「え――い、いや、待て。私はまだ代金は」

「そんなにいい顔されちまったんじゃあやらない方が悪い気になるからな、構わねぇさ」


 ミラは戸惑ってはいたものの、ぐいっと差し出されてしまえば断りきれず、綿菓子を受け取って。

 そして、ふわりと漂ってくる砂糖の甘い香りにこくん、と喉を鳴らせば――はむ、と口を付けた。


「……っ♪」

「ん……ふふ、有難うございます、店主さん。えっと、僕の分もいいですか?」

「おう、勿論だ……っと」


 店主に2つ分(・・・)の代金を手渡せば、彼は目を丸くしていたけれど。

 僕がミラの方を見れば、何処か納得した様子で。


 ……ミラは初めて食べる綿菓子に夢中に鳴っているのか、表情を綻ばせつつ、はむ、はむ、とそれを口に収めており。

 そんな彼女を見れば、僕は思わず自分の頬も緩んでしまうのも感じながら――こんな良いものを見せてもらったのだし、お礼も含めて、とミラの分の代金も手渡したのだ。

 どういう意図かは伝わったらしく、店主は僕の分の綿菓子を差し出せば、ちょいちょいと手招きをして。


「――もしかして坊主、お嬢ちゃんの彼氏か?」

「……っ」

「成る程なぁ。いいトコ見せたいなら、ちゃんと形の残る(・・・・)モンを買ってやるんだぜ」


 店主の言葉に思わず反応してしまえば、彼は気持ちのいい笑みを浮かべながら僕の背を叩き。

 僕は自分の顔が熱くなるのを感じつつも、ぺこりと彼に頭を下げれば、まだ綿菓子に夢中になっているミラと手を繋いで……雑踏から少し離れた場所を歩き始めた。


 綿菓子に口をつければ、柔らかな、というよりは溶けるような感触と、口に広がる甘みに僕は舌鼓を打ちつつ、先程言われた言葉を思い返す。

 ミラはやっぱり甘いものが大好きみたいだし、こういったプレゼントだって喜ぶとは思うのだけれど――……


「……形の残る、ものかぁ」

「ん……どうかしたのか、ウィル?」

「あ、ううん、何でもないよ」


 ポツリと呟いた言葉を聞いていたのか、ミラは首をひねり。

 既に綿が殆どついていないそれを惜しむように口にしつつ――これならもう一本くらい買っておけばよかったかな、なんて思いながら。

 改めて、僕は口の中を甘くしつつ思考を巡らせていく。


 ……僕も、解ってはいるのだ。

 こういったお菓子とか、食べ物とかじゃなくて……もっとこう、何か良いものをミラにあげたい、と。

 ただ、ミラの部屋……というか、僕たちパラディオンの部屋は豪華な物を置くには余りにも向いていないし、彼女自身受け取っても困るだけで。

 最初はあの宝飾品のついた槍なんかどうだろう、とか少し考えたけれど、ミラ自身飾る場所が無いと言っていたし。


 と、なれば――後は、もっと小さなモノ、だろうか。

 例えば身に付けるような、ものとか。

 ただ、ネックレスのようなものだと戦闘中に引っかかって危ないかも知れないし――……


「――あ」


 そんな事を考えていると、ふと僕の視界に通り過ぎていく人の姿が……その人が身につけているモノが、目に映った。

 それは小さくて、例え戦闘中であっても何処かに行くことはなさそうな――それでいて、綺麗なモノで。

 恐らくは隣りにいる男性に貰ったのだろう、嬉しそうにそれを男性に見せながら――そのまま、雑踏の中へと消えていった。


 そうだ、これならちょうど良いかも。

 と言うか、なんで僕は思いつかなかったんだろう。こんなにプレゼントにちょうど良いものも無いだろうに。


「ミラ、ちょっと良い?」

「はむ……ん、勿論だ。さっきから私が連れ回してばかりだからな」


 僕の言葉にミラは柔らかく微笑むと、軽く僕の手を握り返してくれた。

 とくん、と胸が高鳴り、暖かくなるのを感じつつ……僕はミラに頷くと、そのまま先程の二人が歩いてきた方へと向かって進んでいく。


 もしかしたらこの通りのものではないかも、と少しだけ不安を覚えはしたものの。

 ミラにそういった物をプレゼントする、プレゼント出来る、という事に僕は少なからず心を躍らせながら、それを売っているであろう出店を求めて雑踏の中を歩き続けた。

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