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殺人選択劇  作者: サンダ
2/3

第1話  老朽化した施設

 男は目覚め、ベットから上半身だけ起こす。

夢を見ていた気がする。

玉虫色の靄の塊の中に手を伸ばし何かを掴もうとするが、何も感触がない。

おそらく、届いていない。そんな無意味な夢を。

いや、そもそも夢など意味はない。と男―――名はグライ。は思った。


 ベッドから離れ、身支度を整える。

と言っても、傭兵の身だしなみは、一派人とはかけ離れている。

共通する点といえば、寝ぐせのついた黒髪を、昨日のうちに桶に貯めておいた水で直すぐらいであり、

後は、皮鎧に片手剣は勿論、戦闘に使用する装具ばかりで着飾る。

戦闘外で必要なものといえば、少々の金と非常食ぐらいである。

それらも、いざとなれば目つぶしぐらいには使えるが…それは勿体ない。

支給される物資や賃金は限られているのだ。


 室内から出ようとして、グライは一度、自身の部屋を見直した。

施設の中ではあるが、数年前までは、このように一人部屋を持つ事などできなかった。

この部屋に満足しているわけではない。

ベッドを2つ置いたら歩くスペースも残されていないこんな狭い部屋でも、

以前はそれ以下だったからだ。

部屋のスペースは同じぐらいだが、3人で使用するのだ。

ベッドは3段―――というより、そうしないと寝るスペースすら確保できない。

個人的スペースなどは無い、まるで家畜同然の扱いだった。

それと比較すれば、現在の暮らしは自由極まりない。


 部屋から出る。

埃やダニの臭いがする通路を通り抜けると、ちょっとした広間に出る。

建物内では一番開放感があるのかもしれない。

とは言え、ここには2階部分に行ける階段があるが、その先はほとんど知らない。

言わば、使()()()側が居る部屋などが存在する。

位置的にも、構造的にも施設の中心部分が現在地点である。

ここから北に戻れば傭兵たちの寝床があり、南へ行けば町がある。

他にも訓練場や売店など、ある程度は傭兵が困らない設備が設置されている。


 「よう、グライ。何、ボーっとしてんだ?」

枯れた声が聞こえる。

振り向くと、そこにはスキンヘッドの大柄な男が階段に腰掛けていた。

「バーダイブか、半月ぶりぐらいか?」

顔見知りの、仲が良いといってもいい部類の傭兵仲間である。

見た目で分かるように筋力で相手を圧倒する重戦士タイプだ。

「そうだなー、お前はフォン村の護衛に参加しなかったもんなぁ」

傭兵の中には彼のように声がしゃがれるものも少なくない。

砂地や荒れ地で多人数の戦闘があれば砂ぼこりは舞うし、怒号が飛び交う。

他にも、毒や怪我によるものもある。

バーダイブは立ち上がると、グライの肩に腕を掛け、

「久々に会った記念だ。食堂に行こうぜ、奢ってやるよ」と言った。

先の護衛とやらで儲けたようである。


 返事など待たず、バーダイブは歩きだした。

その後ろで、グライは一瞬立ち止まる。

少しだけ躊躇いがあった。

食堂には、おそらく()がいるだろうからだ。


 先日、女は言った。

『コイツ』を殺してくれと。

断りはした。

しかし、頭から離れない。

何故なら―――その殺害対象は、同じ施設の傭兵仲間だからである。

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