コンビニにイケメンが来た!
書いてみたいと思っていたんですが、完結させるのって難しいですね。と思って連載から短編に変えました。
「いらっしゃいませ~、こんばんわ~。」
21:28
あと30分で今日は上がりというときに、その男はやって来た。
雑誌コーナーで週刊雑誌を手に取り、そのままペットボトルのジュースを選ぶ。
それをお菓子を補充しながら、目をやり、いつレジに来ても大丈夫なようにする。
陰ができ、誰かの足が見えたのでとっさに謝り顔をあげると、そこには見覚えのある顔が見えた。目があったのでもう一度軽く謝り、広げていたお菓子を隅に避けて邪魔にならないようレジへと向かう。
ーーーー鷹野仁也。
彼はこの辺りに住む高校生の憧れで、私の同級生だ。彼が学校に来ると周りがうるさくなるからすぐわかる。それくらいの人気がある。私もあの顔は大好きだ。とても美しいと思う。芸術品と言っても良い。話しかけたい。仲良くなりたい。と皆言う。
「いらっしゃいませー。」
彼の周りには不良と呼ばれそうな見た目の人達が常に群がっている。一般人はそれに怯えて声をかけられないし、彼も人に興味がないらしく、声を聞いたことがあると言うだけで、その人は1日持て囃されるというぐらいに喋らない。つまり、私が同じ学校で隣のクラスだなんて、絶対にこの人が知ってるわけないのである。うん。声は関係なかった。
「270円、189円、2点で459円になります。」
とりまこちらも知らん顔だ。一般人の私は畏れ多いので顔をまっすぐ見れないし、声もいつもより小さめだ。いつもはもう少しプライスレスな笑顔なんだよ。
それにしても、お菓子コーナーに来たからお菓子でも買うのかと思えば、さすがなり。こんな時間に食べませんよね。美人は1日にしたならず、ということですね。さすがです。私は帰りに、今日でた新発売のポテチを買って帰るつもりだ。
視線を感じて、少しだけ顔を上げると恐ろしく美しい御容貌が…!無表情でもなんという美しさ!
ーーーではなく、ヒィッ!!!
睨まれてる!!!
すみません!さーせんした!
死んでまた生まれなおします!!
いえ!すみません!
「……からあげ一つ。」
ーーーえ?
まさか、夢?
「からあげ一つ」
鷹野が喋った!!
ク◯ラが立った!並みの凄さです。
声も透き通るように美しいとはもうレッドカード出してもいいんでない?いやむしろここから出したらいけないのかもしれない。彼を狙った犯罪者が外に彷徨いているのではあるまいな。
せっせとからあげを袋に詰めながら外を伺うが、それらしき人物はいなさそうだ。ふぅ。
でもまさか、天下の鷹野がからあげをお口になされるとは。適度な油も美人には必要なのかもしれない。ちなみに私はからあげを2本今すぐ食べたい。
袋に商品を詰めながら、感じるのは視線、視線、視線!!
おい!私はなぁ!
小学生の頃に田崎っていう名字をもじられて、たさ菌って陰で言われるぐらいのいじめられっ子だったんだぞ!適度なブスなんだ!そんなに見つめたってからあげサービスはしませんよ!!
額に汗をかきながら、なんとか会計を済ませ、お辞儀をする。やれやれ、今夜は大物がきてしまったぜ。明日の朝刊1面記事かなこりゃ。額の汗を気にしつつ顔を正面にあげる。
なんと!
まだいた。
しかも今度はバッチリ目が合っちゃったので離しずらいことこの上ない。額の汗は滝のように流れている。いやこれは比喩だ。そのぐらい焦っているだけだ。不潔じゃないよ!
からあげは入れたよな?うん。これは王様の見送れという指示か?そういえばまたお越し下さいませ。は言っていない。むしろなんか怖いので次からは私のいない曜日でお願いします。でも美しいので、また見たいこともあるわけではなくなくもなくない。
仕方ない。ここは私のプライスレススマイル付きの、「またお越し下さいませ~」
どうだ!ついでにここぞとばかりに頭も下げたので、私はもう無敵である。
そうして、ようやく足音が遠ざかったので頭も徐々にあげる。まぬけなベル音が、王様のお帰りを告げた。後ろ姿の足のラインが素敵でした。と遺書には記そう。
+++
濃ゆい時間およそ10分だったが、まだお菓子の品だしが残っていたことを思い出し、時間より早く終わらないように、ゆっくりと出していく。いや、丁寧に出してるだけなんです。
ようやく22時になり、裏で飲料補充に勤しんでいた21歳大学生の男性が出て来たので、引き継ぎをしてから上がる。
「おつかれーしたー。」
なんてやる気のない挨拶だ。てめぇが裏で涼しい思いをしていた時に、こっちは汗を垂れ流して働いてたんだぞ!ふん。だが、ここは私が大人になってやろう。そして明日も飲料補充をするがいい。私は知っている。明日大量に飲み物が納品されることを。ブヒヒッ。おっと。
忘れないように新発売ポテチも買い、さすがにからあげは諦め、挨拶を交わして店を出る。
真夏のジメッとした暑さが一気に身体に襲い掛かり、店内に戻りたくなる。夜の癖になんて暑さだ。はやく秋になればいい。
早く家に帰ろう。と目線を横に向けたとき、なにかが電柱に凭れているシルエット。え、おばけ?怖いんですけどー。けど怖がると余計にくるんでしょ?冷静に無視するよ?だれか!
家に帰るのに電柱の前を通る。通りすぎる手前で、街灯の明かりで見えた顔は、おばけなどではなく(そもそも足があった)先程私をビショビショにした(※汗です)鷹野であった。いや、あの立ってるだけで何故か美しいシルエットでなんとなくわかってました。
先程、店員とお客様という立場だった手前気まずいので、小さくお辞儀をして通りすぎる。嵐は去った。というか嵐から逃げた?
一体なにをしていたのだろう。考えたが、一体全体私程度のものが神とさえ呼ばれる彼の何をわかると言うのだ。次元の違う存在について考えても仕方のないことよ。フッ。あー、四次元ポケット欲しい。
流れ星でも流れやしないかと夜空を仰いだ時に気づいた。足音がひとつ多いだ、と……?
ヤバイよ。祟りだよ。後ろ振り返っても誰もいないんでしょ?でも振り返らずにはいられないのが人の性なんだよ。
何気ないふりをして、振り返った先にいたのは、王様、神様、美人様。
oh!
首じゃなくて頭を掻き毟りたいYO!どうやら、王様の帰る先も私と同じ方向らしい。偶然だね~☆
彼と私ではコンパスの長さが全然違うので、抜かれるはずなのだが今夜はゆっくり帰りたいのか、その長くスラリとした足を有効に活用していない。むしろ私の鈍足と同じペースだ。
考え事をしていたら、いつの間にか家の前を通りすぎていたので、慌てて少し戻る。見える範囲に鷹野の姿はない。一目最後に見たかったような気もするが、同じ学校であるので一目くらいいつでも見れるかと思い直して家に入った。
+++
「いらっしゃいませーこんばんわー。」
コンビニで働いていると、どうしても常連を覚えてしまう。その人の顔を見ただけでタバコも用意できるし、揚げ物もその人が来てもいいように用意しておくようにしている。
よって、21時半~22時にからあげがあるようになったのは仕方ないことである。
彼が買うものは決まっている。ジュースとからあげ。たまに雑誌がそこに加わる。私の知る限りでは、ここ1ヶ月は欠かさず来ているのだが、他の人にそれとなく聞いても知らないという。なんという怪奇現象。
今は夏休みということもあり週5の3時間で入ってるせいもあるかもしれないが、鷹野率100%だ。そしてその美しいお姿を見れる私は、もしかしたら幸せなのかもしれない。昨日まではそう思っておりました。
帰り道に毎回彼と遭遇するようになったが、偶然と思うことにした。「まさか私を待っているの?」という乙女脳は、鏡を見てすぐに否定された。そもそもそんな勘違いをするなんて、おこがましいほど彼は別世界の人なのだから。
それでも、日に日に後ろを歩く距離が縮んでいる気がしてならなかったし、昨日はすぐ後ろを歩いてたような?いや、でも……。
「お疲れ様です。」
店を出た瞬間走る。50m走の実力は11秒ジャストだ。3回記録をとって、1番よかった記録だから誤差0.5、6秒の違いはあるが大丈夫だ問題ない。
なにもかも勘違い。あんなこと考えちゃう自分が恥ずかしい。とりあえずなんか申し訳ないから走ろう。毎回私と帰り道一緒でストーカーと勘違いされているかもしれない。前歩いてるけどなんか逆に?みたいな!
後ろをチラチラ気にしすぎてたせいか、走りながら考え事してたせいか、はたまた両方か誰かにぶつかった。咄嗟に口からは謝罪の言葉が出てくるが、なにせ相手が悪かった。
「おいおいおいおいおいおいおいおい!いってぇーよ!骨が折れたんだけどどーしてくれんのーーー??」
おいおいおいおいおいおいおいおい!骨が折れたってはずなのに、何故そんなに元気なんだよ!少しは痛がれこのチョイ悪不良野郎!嘘だろ!わかってんだよ!!
「おいおいおいおいおい聞いてんのかー?」
「はっ、ひ!すっすいませんっ!」
接客なら普通に話せるのに、普段の生活でそれを発揮できない自分がにくぃいいい!!
どんどん壁に追い込まれ、気付けば逃げずらい場所に誘導されていた。これはまずい。財布に入っているのは3千ちょいだが、この不良が許してくれるだろうか。というか、本音は渡したくないよ。
「誠意ってもんをよぉ見せてもらわんとなー?」
約3時間半のお金なのに!最近は本当に汗を流して働いているのに!
「……おい、触んな。」
ーーーん?
最近よく耳にする声が聞こえたと思って、振り向いたらおいおい君(命名)が吹き飛びました。
「えっ、もしかしてHERO?」
なんとそこには常連客のヒーロー鷹野の姿が。
……怖すぎるわ!月明かりで見える鷹野の顔は無表情だ。目が怒りを伝えてくる。いつもバイト先で見てた顔は良い方だったのか!
飛んでったおいおい君に見向きもせず、向かってくる鷹野から目を反らせずにいると、目の前まで来た鷹野は手を私の頬に添えて見下ろす。
「走ったら危ないだろ?な?」
手を頬から首へゆっくりと下げ、親指が喉元を触る。コロサレル。恐怖に首をコクコクと上下させれば、その手は更に下がり手を掴む。とりあえず、2度とバイト帰りは走らないでおこうと思う。
その日から毎回偶然後ろにいるし、日に日に距離が短くなってる気がするなー?と思っていた鷹野が、後ろではなく隣に。走らないようになのか手を捕まれる。に変わった。
+++
夏休みが終わり、新学期1日目の学校は昼前に終わった。暑すぎる教室から、風を求めて屋上への階段を上る。鍵はかかっていると入学当初に聞いたが、教室に居ずらかったときブラブラしていて見つけたのだ。この屋上の扉は開く。ただ、ドアが錆び付いてかなり開けにくいが。
そして、この屋上の扉の秘密を知っているのはもう1人いる。
「おっす。」
同じクラスの矢吹唯。見た目から想像容易い立派な不良である。そんな不良との出会いは特に語るほどのこともなく、たまたま屋上で知り合い、コミュ力神な矢吹が話し掛けてきたのが始まりだ。それから屋上で会えば話すようになり、今では日頃の悩みを言い合えるほど仲が良いと思っている。そんな知り合い以上友人未満の矢吹に現状をふわっとさせて相談してみる。
「え、それってストーカーじゃん?」
「…………!!」
先週のおいおい君ぶっ飛び事件からバイト帰りは鷹野が家まで送ってくれている?のだと思う。たぶん自分が飛ばしたおいおい君が私に仕返しに来るのが、責任感のある鷹野には許せないのだろう。というか、そんな感じのことを単語で言われた気がする。よく聞き取れなかった。
「で、でもイケメンだし、顔が綺麗だし、格好いいんだよ!?」
「いや意味同じだし」
鋭いツッコミナイスです。何故か鷹野を庇う感じになってしまったが、そう言われると、美しすぎたせいか全然そっちに思考がいかなかった。なんてことだ!ストーカーは私じゃなくて鷹野の方だったのか!
「……え゛、なんで」
告白されたこともしたこともない、辛うじて小学生低学年の頃に淡い初恋をしていたことがあるくらいだ。それも、自分に自信のない私によく話し掛けてくれるというだけの理由で好きになっただけで、今では思い出すことも少ない。そんな私に恋人を通り越してストーカーだと?うん、ありえない。と言うことは、いったい私はあの鷹野様になにをしてしまったんだ……!
「ところでそいつ俺が知ってるやつー?それとなく脅しておいてやろうか?」
矢吹の目がギラリと輝く。まるで獲物を見つけた虎のようだ。
「うーん、たぶん?いや、知ってるね」
「マジか。じゃあラクショーっしょ。」
鷹野有名だしね。楽勝?そうなのか?そう言えばこいつ普通に話してると忘れがちだけど不良なんだっけ。仲良いのかも。それとなく、もう大丈夫だから送り迎えはいらない。って伝えて貰えたりするのかな?というか、私が不愉快ことしてたなら矢吹に免じて許して貰えたりしないかなー……。
「いや、大丈夫。」
考えたのは、地味な私のことで矢吹みたいな勝ち組からフォローを入れて貰った後のことだ。恥ずかしい。勘違いしてると思われるのが恥ずかしい。虎の威を借りたいが、勘違いブスと思われる方が現状よりつらい。しばらくすれば鷹野はいなくなるだろうが、比較的仲の良い矢吹の記憶には残る。うん。だから自力でどうにかしよう。
「……ふーん。なら時間変えるってのは?土日だけになるけど、夏休み終わったし、昼間だったら危なくないからそいつも諦めるだろ。てかそうしろよ。」
な?と念を圧されるように肩を掴まれ、まっすぐな視線を送られれば、小心者のハートが勝手に首を縦に振っていた。普通に目が怖いんですけどー……?
もともと日数は減らす予定だったし、すぐテスト期間に入るから今週のバイトは土日だけにしていたから、丁度よかったのかもしれない。
ーーーって、鷹野はそんな事情知らないから今日もいるかも?!金曜は夏休み中ずっと入ってたし……。
「そのストーカーになにか言う必要はないからな?」
ギックーーン。
「マサーカキョウハソクカエールヨ!」
「送る。」
善意?を踏みにじるようで心苦しいがこれは寄り道せず帰るしかないようだ……。
+++
22:00
先週までなら引き継いで5分後には店を出ている時間だ。しかし、今日の私は一味違う。机に参考書を開いて勉強中というハチマキをつけてお勉強中。なのに、教育ママもビックリな程進んでいない。それもこれも21時過ぎから降りだした雨のせいだ。雨は弱くなるどころか、だんだんと音が厳しくなっているように感じる。
「うううぅぅ、さすがにいないよね?店にいなかったら帰るよね?」
1分毎に時計を気にしているから一向に捗らない。ノートには数式ではなく、ぐちゃぐちゃの円が無数にあり、今もよくわからかい線を引いている。
22:30
「さすがに帰ったでしょー!」
23:10
「夜勤の人にちょっとだけ電話してみようかな……?」
23:20
「あ、もしもし!お仕事中すみません!田崎です。確認して貰いたいことがあるんですけど、はい!すみません……」
23:28
「ーーーなにしてるんですか」
傘を差し出して雨に少しでも当たらないように、彼を中に入れる。走ったせいで息が苦しいのに、身長がかなり違うせいで背伸びをしなければ届かないからなかなか辛い。傘を持ってくれないかな?と思っていると手が掴まれ、顔と顔の距離が近くなる。
もうだめだ。勘違いでもいいから迎えに行かなきゃ。と思ってここまで来たけど、やっぱりこの人、私のこと好きなんじゃない……?
「もう大丈夫です。時間変えるし、夏休み終わって日数も減らすんです。だ、だからーーー。」
近いと思っていた顔との距離がゼロになり、口が塞がれる。伝わってくる体温は異常と思える程熱くて、息も出来ず、朦朧としてくるも、片隅ではうわーー、やっぱり顔イケメン!肌綺麗!と考えてしまう。てかこれファーストキスだねー。ハハハ。ん?息継ぎしたの考えたらセカンドキスも?まぁ格好良いからラッキーか。
そのまま抱き上げられ、スタスタと歩き始める鷹野。ん?傘閉じたら私も濡れるじゃーん!
「どこに?と下ろしてくれれば歩けます。」
という声は発する度に口を塞がれたので、4回目を過ぎる頃には恥ずかしくて言えなくなった。まぁ、無言になったらなったでいろんなところにしてきたんだが……。
鷹野が迷いなく進んで行くので、いつも通り送ってくれてるものだと思えば、家を通りすぎた先のいつも学校行くときに通る、綺麗なマンションに入っていく。謎だが喋るとあれなので喋れない。鍵のジャラジャラした音とドアを開ける音が聞こえ鷹野の顔を疑問を訴える感じに見つめたら、またされた。くそ恥ずい。
そのままお風呂場に向かったと思えば、お湯を出し始め抱っこされたままシャワーを浴びる羽目に!てか服着てるんだけどー?という思いが通じたのか、鷹野が私の服を剥ぎ取っていく。や、やめてくれー!!
抗議の声を上げようとしたら、それまでより一層深いキスをされて、必死でもがいてる内に生まれた時の姿に!ひぇええ!声での抗議は諦め肩をバシバシ叩くとゆっくりと下ろされた。いやいや!この状態で?!しかも鷹野も服を脱ぎ始めたのでどこに目を向ければ良いのかわからない。私は混乱している!
脱ぎ終わった鷹野は再び私を抱える。その頃には混乱した思考がもうどーしようもないし、諦めて鷹野に任せよう。と混乱した思考に落ち着いたので、デリケートラインを手で隠すだけにして大人しくしていたが、それがいけなかったのか……。
気づいたときには朝チュンでした!
「莉子」
名前を呼ばれジッと見つめられる。
困った。
いつの間にか私は鷹野仁也のことが好きになっていたようだ。
完