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魂狙撃手の静かなる世界大戦  作者: 難読
第一章 大国と小国
2/5

新暦785年 大国と小国⑴

世界には大きく分けて二つの大陸、その国土のままに国として存在していた。

大国と小国、それぞれの意見があった。


大国は世界統一を目指し、小国を自国の配下にすべく、


「国土も経済力も申し分ない我が国に加わり統一し、世界をよりよくすべし」


と、促していた。しかし小国は、


「我らにも誇りがある。何より大国よりも知力や技術力に長けており、我らは独立国として大国の元には降らない」


と宣言し、常に相容れぬ両国の密かな睨み合いが続いていた。


そんなピリピリとした国の中枢で育ったとある少年と少女二人は、いつ終わるとも分からぬ国同士の仲違いに愛想を尽かしつつも、厳しい管理下の元暮らしていた。何を隠そう彼らは王族である。王族である二人は城下に向かうことは禁じられていた。


だが、とある日視察として町へ下った大国の息子…即ち王子であるが、今はまだ物心ついて外で遊ぶことが純粋に楽しい時期。監視の目をくぐり抜けて視察をサボるのも朝飯前。


いつものように少年スーヴァは、ぐんぐんと走り抜けるとあっという間に王都と護衛を遥か遠くにし、今日は何をしようかと思ったところで、王都では目にかからぬような広場を見つける。


「うわぁ……なんだここ……!」


ここはお互いの国が領海と領空の占有の関係で、自国共に「自国の領土だ」と主張して止まぬ、いわば「国境なき領土」である。


見知らぬ草花や、昆虫の姿。この世界にこのような場所があるのだと知り、今までにない好奇心を揺さぶられていた。すると、ちょうどそこに、一人の娘を見つけたのだ。止まぬ好奇心から、即座に話しかける。


「ねぇ、何してるの?」


「え? 私は今、お花を見てるの」


彼女は見るからに高貴な装いで、手に携えた花と併せて、まるで有名な絵画に映し出されたような美しい少女だった。


「どれを見てるの? その、黄色いお花? 確かにかわいいね」


「違うわ、隣の赤いほうが可愛いじゃない。」


「えぇ、そうかなぁ。でも、どっちも可愛い。それに、君も可愛いよね。名前は?」


「私? 私は、レイラ。貴方は?」


「僕はスーヴァだよ。よかったら一緒に遊ぼう!」


幼心ながら、スーヴァはあえて彼女の身分を聞くことをしなかった。それはお互いにこんな辺鄙な場所にいることが物語っていたのだ。「自分たちは庶民ではない」と。


スーヴァは自分の身分も隠したが、お互いに友達もいなく一人でいることを察してか、身もふたもない話で盛り上がり、すぐに仲良くなった。それからというもの、監視の目をかいくぐって二人で会うようになった。


「ねぇスーヴァ、あの木に登りたいんだけど」


「女の子じゃ危ないよ、風船が取りたいんだろ? ちょっと待ってな、取ってくるから」


「ありがとう!」


それは重く息苦しい戦争という現実から逃れる、至福の時間だった。



「レイラ、それは何をしてるんだい?」


「これはもう枯れちゃったお花で首飾りを作ってるの。はい、スーヴァにあげる」


「え、いいの? 嬉しいな。」


幼いながらも唯一の楽しみだったが、その二人が仲良くなる度に、皮肉にも国同士の仲は雲行きが怪しくなっていた。そして二人もそれを感じ取っており、いつ会えなくなるかを不安に語る日々が続いた。


「ねぇ、もし会えなくなったらどうする?」


「え、そんなこと言わないでよスーヴァ。でも……母君も向こうの国は危ないって。スーヴァは向こうの国の人でしょ?でも、危ないなんてことないよね?」


「うん、そんなことないよ。むしろ僕たちは、レイラの国が危険だって言ってる。大人は身勝手なんだ、勝手に言わせとけばいいよ。」


「そうだよね、ありがとうスーヴァ。私ね、スーヴァとなら大丈夫だから。」


「僕も、レイラといれば大丈夫。きっと会えなくなったとしても、また何処かで会えるよ。」


二人は力強く握手を交わした。今にも泣き出しそうなレイラを、スーヴァはなだめるようにして花を手渡した。レイラは涙をこらえて精一杯の笑顔を見せると、スーヴァもつられて笑った。


そしてついにその時が来た、両国は痺れを切らし、大国は小国への侵略戦争を始めたのだ。力の差は歴然と思われたが、小国は技術力を武器に、数で攻める大国の攻撃を凌いで行った。


そうして始まった戦争は、想像以上に熾烈を極め、長くなることが予測された。当然二人はその後、しばらく会えていなかった。どちらかがなんとか約束の場所へ訪れても、すれ違うばかり。


とある日に会えないとわかっていても、スーヴァは毎日のように怒号が飛び交う王宮へ留まっていたくなかった。そうして喚き合う貴族と父親との会議の隙をついて、例の場所へと訪れた。おそらく彼女が来ることはないだろう。けれど、あの時の楽しかった記憶を思い出せば、少しはこの気持ちが晴れるかもしれないと。


「そりゃ、いるわけないよね。……ん? あれはなんだろう……」


いつも二人が決まって遊ぶのは、大きな木だった。日陰でお昼寝もできる、木登りも楽しんだ、大きな幹の周りをぐるぐる駆け回り、かくれんぼだってできた。そんな幹の樹洞に、一通の封筒を見つけたのだ。


「これは……レイラからの手紙……?」


そこにはきれいな字で、スーヴァへと書いてあった。思わず唾を飲み込むと、すぐに封筒から便箋を取り出した。


〈スーヴァへ。やっぱり、お城の見張り番が増えちゃって、なかなか外に出られません。だから、これからはもう会えないかもしれないけど、スーヴァが言ってくれた通り、絶対また、どこかで必ず会おうね〉


「レイラ……そうだ、これで終わりなんて嫌だ。」


彼はそう呟いて辺りから枝と泥を調達して筆の代わりに用いて手紙に返事を書いた。そして、それを同じところへ隠した。彼女が無事であるように、この戦争が…一刻も早く終わるように。


---だが、終わってみれば戦争が終結するまでには8年の月日を費やした。

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