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アリさんは働かない  作者: アリアリア
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未知へ



アクリル壁の天頂に至り、充実感に満ち満ちて、しかしそればかりに囚われてもいられない、アント目的を忘れない! 重力という絶対法則に逆らって、がっつりきっかり、自分の意志で駆け下りる。さあさ、ここからは時間との大勝負、子供部屋に直行だ。日夜、触覚を張り巡らせてチビ、デカ、リトルとビッグなヒューマンたちの行動範囲を調べ尽くしたアントにわからぬことはなし。


 ホモサピエンスは見習うべきだ、抜き足差し足、忍び足、気にしなくても足音しない、素敵なアントの特性を! まぁ、体重なんて無きに等しいし、足音しないの当然だけど。それでも気をつけソロリソロリ、たどり着いたぞ子供部屋! 


 固く閉ざされた扉を見つめ、アントはふふっと触覚鳴らす。アリさんである俺から見れば、こんなものないも同然だ。優雅に堂々、ドアの隙間を我が物顔で、アント隙間をくぐり抜け、ついに子供部屋に侵入ス! ふふ、感じる、感じるぞ。2段ベットで健やかに、寝息を立てるヒューマン2体を。


 音から察するにチビヒューマンは下の段。肉体サイズを鑑みるに、至極当然、妥当な配置だ。アントちょっと見なおしたよ、チビもリトルもちゃんと社会性があったんだって。 でも、全然アントに気づかないのはマイナス点だ。これだからホモサピエンスはいただけない、自然界では生きられない。これがキャットだったなら、謎の臨戦態勢を見せてくれるよ。フシャーって面白おかしく叫びながらね。キャットのすごいところはさ、他にもあってさ。地獄より来たり魔物である、ゴキブリという糞野郎ども殺してくれる優秀なハンターだってこと。だからアント、猫は好きだよ、可愛いし。


 さて、そろそろ目的のものを見つけないとね。あれだよ、あれあれ、チビヒューマンがデカサピエンスと家出るときに、いつも持ってる黄色いカバン。車に引かれたりしないよう、見分けが簡単につくように、持たされているあのカバン。しかし、動かぬものでは自慢の触覚も頼りにならない。なのでここは複眼だ。多面体的な視覚野を全力をもって駆動して、目一杯目を見開いて、探して探して探しぬく。カバンはどこだ、カバンはどこだ……。


 あ、あったぞ、机の上からだらりと下がる肩紐を、見事複眼捉えきる。後は単純、机を目指して大侵攻、木製机なぞ地面と変わらぬ、アクリルよりも御しやすい。そういえば話変わるけど、この家ほんとにいいね、ここまでかなり歩いたけど悍ましいゴキブリ一匹いやしない。こういうところはアント本当に感心するよ。ここのヒューマン、良いヒューマン。


 よし、登り切ったら早速カバンに侵入しよう、ジッパー? チャック? どちらで読んでもいいけれど、開いている僅かな隙間に潜入だ! ガサゴソガサゴソ、潜り込む、しかし、こうして閉じてるぎざぎざを見てると怖いよね、もしも挟まれたら痛いじゃすまない、アリさんの体が、ア/リさんになっちゃうよ。ほんと、人間の発明は恐ろしい、どれもアント用にできてない。人間社会とともに生きるアント界はデンジャラス、恐怖と狂気に包まれている。それでも、ニヒルでロンリーなアントは頑張るよ、ハードなボイルドを連れ立って。


 さてと、鞄の中にはいったら多くのアントはどうすると思う? 安全のために裏ポケットを目指すんだ。しかしそれは二流のアントの思考です。一流アントはジッパー(チャック)のすぐ裏側に陣取るものよ、ベストはもちろん両サイド、どちらかの端っこね。理由は単純明快だ、強度があって持たれた時につぶれにくく、ちょうどアリさんが隠れられるスペースが有る。端を選ぶのはもっと単純、カバンを開いた時に端まで、きっちり開けるホモサピエンスは少ないのだ! ここまでくれば後はひたすら耐えるだけ。朝陽が輝くその時まで、アリさんはとっても我慢強いアントです。


 チュンチュンチュン、忌々しき鳥類どもの闘争音が幕開けとなり、アントの体は宙を舞う。六足全てをがっちり絡めておいて正解だった。一歩間違えばアリさんシェイクの完成だ。


「みーちゃん、一人でお着替えできる?」

「うん、みーこ、できる~……」


 カバン越しでさえガンガンと、デカサピエンスの声がまるで音波兵器であるかのようにアントの小さな触覚、揺さぶり尽くす。アントにとってホモサピエンスの成体はただそれだけで最終兵器。しかし、まだまだアント甘かった。これよりさらに先があるなんて……。


「けんたも、夏休みだからっていつまでも寝てないでたまには早く起きなさいッ!」

「……ん~」


 先程までが十アントデシベルとするのなら、これは百アントデシベルはくだらない、。大気を破壊せんとばかりに音波が濁流のごとく押し寄せる、アントの触覚に押し寄せる。もはや触覚だけじゃない、アントの体はミスター・シェイクだ。ママン、ママン、みーこママン、少し抑えてくれないか。ホモ・サピエンスである貴方の声に、アントは少しグロッキー。そしてさっさとママンに従え、リトルヒューマンッ! お前のせいで苦しんでんだよ、もしも死んだらどうしてくれる! 化けて出るぞ、絶対出るぞ、毎日毎夜、二十四時間、耳元でずっとず~っとカサカサしまくってやるからな!


「まま~……」

「み~ちゃん、お着替えできてえらいね! はい、カバンかけてパチパチ~! はい、眠くない?」

「眠くない~……」

「なら、朝ごはん食べに行こっか、お兄ちゃんなんてほっといて」

「うん、ほっとく~……」


 ジェットコ-スターのように急激に、カバンが上下に揺られたと思ったら、アントはカバンごとチビサピエンスの肩にかかる。思ったよりも順調だと思った瞬間、パチパチと両手を叩く音とともに、ブルンブルンとカバンが揺れる。やめてやめなさい、チビヒューマン。両手パチパチは良いからさ、肩紐一緒に巻き込むな。てか、パチパチってなんだろう? 両手を叩くことに何か意味があるんだろうか、毎朝なってた謎の音の正体を知ったが、逆に疑問が増える始末。試しに両足は無理なので、自慢の大顎鳴らしてみるが、さっぱり気持ちがわからない。ヒューマン特有の非合理と、結論づけてアントはカバンとともに運ばれる。どうやら食卓に向かうらしい……。


なら、カバンをチビヒューマンに持たせるなよ! 踏んづけたらどうしてくれる。一歩間違えば銘菓アントせんべいよ? ま、そこは個体名『みーこ』と言う名のホモサピエンスの、物を大切にする心を信じよう。さあさ、ヒューマンはやくしろ。髪を整え、飯を食らい、ホイクエンなる未体験ゾーンへ潜入だ!



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