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僕と妖怪少女と常日頃 Re:salvation  作者: 工藤将太
第2章【陰陽道所属の世界】
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第2章42話 「鬼の咆哮」

もうすぐで第2章最終話です。


私は今でも夢に見る。

私には家族がいた。

父と母とそして今知り合う人には教えてすらいない妹を含めた3人である。

百鬼夜行に属していた父は規則を破り母と私と妹で峰崎家当主、

峰崎紗々の手助けもあり反百鬼夜行派へと夜逃げを決行した。

でも……そこに……奴が―――


―――許さない


「―――これで何人目?また憑く気?

 どいつに?陰陽師?妖怪?

 良いよ、憑いてみろ。どうせ私が殺す」


目だけが見える仮面を被った鬼のような姿の人物は立ち上がらずに

そのまま後ろへと下がろうとする人間に対して呟いた。

人間の片腕は落ち、だが悲鳴を上げることもなく鬼のような人物に

対して驚きの表情を浮かべる。鬼のような人物は呟いた。


「通に柚子にいざこざを止めようとした北園姉弟に陰陽師、

 妖怪……それで私の戦意を削げるとでも?

 ―――舐めるなよ?私はお前にだけ復讐するために今の今まで生きている。

 ならこの程度の死体、その倍を築き上げても良いくらいだ。

 復活者、”アナスタシオス”……今度はどの肉体に乗り移るんだ?

 死体か?だったらみじん切りにしてやる。知人か?

 ―――もう両断してる。じゃあ次は?……早くしろよ化け物」


すると人間はおよそ常人とは思えない顔で真黒く笑い

そして瞳をその鬼のような人物へと当て、呟いた。


「どっちが化け物だよ……なぁ?」


「もう良い、早く次を持ってこい」


鬼のような人物は人間を切り裂いた。

刀は既に複数の血や体液が染みついている。

だが構わず宣言通り骨も肉もまとめてみじん切りにすると目を下におろす。

周りには見知った顔の人物が驚愕と恐怖に塗れた顔で上半身や下半身、

頭などを切り裂かれて絶命しているのが見えた。

だが彼女は凛としてその状況を一瞥するだけですぐに見上げて足音のする方へと刀を構えた。

刀の先には血がこびりつき滴っている。

だが彼女はその血も最早炎に揺らめいてかただの光景としか見てない様子だった。

そしてやってきた男に対して彼女は刃を突き放ちその威力と反動をモノにし男に近づく。

すぐさま刀を常人振り回せない位置から振り回し死角ごと突き破った。

男はぐっ、と嗚咽するかのような声を漏らしながら奥の

炎がまだ回っていない後ろの方へと飛ぶ。

後ずさる、ではなく彼女がそうさせたのだった。


(なんだコイツ?あの惨劇の中でまだ生きていた?

 にしても見てくれは私並みの剣士と伺える。

 じゃあいったい?……まぁどうに―――殺せばそれでいいだけだ)


彼女は休憩する暇も与えずすぐさま近寄って短刀を振り回すかのように

死角を何度も突いては相手の攻撃と行動を躱しながら

一本の刀だけで斬撃をお見舞いしていく。男はそれを両手だけを使い防御する。

だけれど防御が崩れる瞬間に彼女は空いた両手へと刀を通すかのようにして心臓を狙い討った。

だがその攻撃は男が真剣白羽取りの要領で両腕を使い止め、

そのまま男は蹴りを彼女の鳩尾へとヒットさせ

後方へと飛ばすと男は咳き込みをしながら彼女の方を見やる。

そして男は煙と炎が上がる飛ばした方向に彼女がいないのを悟ると

すぐさま今唯一死角となっている足元を見るとそこには鬼神の如く素早い動きで

刀を下から上へと薙ぎ払い、そしてまた上から下へと振り下ろそうとするのを

男は持っていた刀を抜き横方向に止めた。


「ぐっ……!」


「案外強いのね、貴方

 でもお陰で分かったわ、貴方は復活者”アナスタシオス”じゃない」


男はアナスタシオスじゃないという言葉に驚き肩を震わせる。

その刹那彼女は男が十字架のような状態で止める刀の向きを

男と同じ角度にすると男の攻撃は彼女へと、

だがそれを素早く避けて彼女の攻撃だけが男の左腕を直撃させた。

男はまずい、とだけ声を漏らして何かをする。

それに彼女は気付いて刀をそのまま横に薙ぎ祓うこともなく後方へと跳び刀を構える。


「―――知ってるの?それとも自分と同じ名前だったから驚いた?

 そうよね、貴方は知らないものね。

 そうよ、そうよ、本当あなたって自分勝手だもの。

 だからだから殺したの殺したの……じゃあ私は?

 私は?一人遺された私はどうして?」


「……?―――お前、まさか……」


「あなたさえ、あなたさえいなければこんなことにはならなかった。

 あなたさえいなければ私がここで家族を友達を殺すことはなかった。

 全部、全部全部全部全部全部全部全部貴方が!

 あなたが悪い悪い悪い悪い悪い

 ねぇどうして?私だけを見逃したの?どうして私だけを犯したの?」


オッドアイの眼はギョロっと虚空を見つめ彼女は首が折れるように頭を横へ倒す。

ボキッという音に彼女は手足の複数の関節を外すと先ほどと同じ素早い動きで男に近づくと、

外れた関節をヨーヨーのように振り回して握った刀を男に近づけ、その瞬間に

関節を入れてその反動で身体を前にそのまま刺し穿つ。

先ほどとは威力が落ちているがそれでも相手を屠るには十分なトリッキーな戦法だった。

そのまま死体に突き刺さる刀を複数回収して先ほどまで1本で戦っていた彼女の姿は

今じゃ10数本を器用に束ねて男へと攻撃を仕掛けていく。

だが攻撃した刀は途中男に振り落とされ、だが両手にある2本だけは落とさず

そのままその2本で継続的に攻撃を仕掛ける。

男は息をはぁはぁと漏らしながら刀を構えるがそのとき立ち眩みそのまま下に膝をついてしまう。

幸いにも距離は取っていたために追撃は来ない。

そして病み上がりの身体はきついのか男はフラフラとした状態でなおると彼女に向き直り


「―――由理」


と呟くと彼女は一瞬反応するが先ほどまでのおかしくなった様子は変わらずに

はぁはぁと息遣いをしながら得物を見定めるような

4本足の態勢を取って彼女、香山由理は男、山城慶を見つめた。

由理は今、対峙しているのが慶だとはきっと気づいてはいない。

慶もまた気付かせようとしてもこの状態であれば無理で無意味なことくらい知っている。

であれば尚更けじめをつけなくちゃいけないと慶は考えていた。


(こんなことになったのはきっと俺のせいだ、すまない由理

 ……君には使いたくなかったけれど本命、”青龍刀”で君を無力化する。)


一方で彼女は既に我を忘れたかのような顔で男を見つめる。

最早総大将としてではなく一匹の獣としてそこに成り立っていた。

無論彼女を憑依する気もこの原因を作った男は望んでいないし憑依もきっとできない。

彼女は仮面の奥に見えるオッドアイをギョロギョロとさせながら構えて呟く。


『―――妖怪変化、状態遷移モード【変異】』


「来るか……ああ、来い。

 俺がお前を、この世界を終わらせる。

 そうして俺は次へと向かう―――妖怪変化、状態遷移モード【鬼人】」


慶は鬼と人が交わり鬼の特徴が露出した姿へと、由理は

4足から両足で立ちつつゾンビのような振る舞いで

首をだらんと前へと垂れるとすぐに見上げてその目はしっかりと慶を見つめていた。


『コロス』


「……!!」


由理の持つ2つの刀は通常斬撃の後に来るもう一波の強い波のように

連続で不安定かつ乱雑に、だが確かに得物を狙い討つかのようにして

慶の急所を叩きに行っていく。そして急所に入る攻撃を

事前に鬼の眼で追いながらすべてを叩き伏せるが由理は一度も疲労を見せずに

ただ黙々と斬撃だけが放っていく。

その斬撃はあらぬ方向へも飛び百鬼夜行内の屋根を支える支柱も

木材も鉄も何もかもが切断されたり燃えたりして戦う2人の場所は今にも倒壊しようとしていた。

だがそんなことよりも、と2人は真剣に刀を交えていく。

由理は先ほどまでフラフラとした様子で斬りつけていたが

先ほどよりも尋常じゃなく素早くなり更に更に、と行動が早くなり

止まって動いているかのような姿で急所を当てやすくなるよう、

他の部位目掛けて的確に当てる。

慶もまたそれに合わせるが早くなるにつれ的確には捌けずあちこちが斬りつけられ

血が次第に服に染み出ていくのを慶は目を伏せて向き直った。

そして激戦のなか遂に由理の持つ1本の刀が衝撃に耐え切れず折れると

それを必死に抑え込んでいた慶の刀が由理の左腕目掛けて飛び

そのまま慶は由理の左腕を斬り落とすと、由理は一瞬後方に跳ぼうとするが

それはすぐにハッタリとなり由理はもう1本の刀で慶の首元を狙う。

だがその刀は易々と止められだが男の仮面を外すのに成功した。

ゆりもまた左腕を落とされた刹那に仮面にひびが入り、

慶の仮面が落ちた瞬間の由理の仮面もまた割れる。


『コロスコロスコロスコロ―――……えっ……?」


「うっ……!ぐっ……」


慶は由理の刀を止めることには成功したモノの怪我の後遺症のためか

左腕を抑えつつそのままもう一度膝を地につこうとした瞬間、

今まさに戦っていた相手がそれを受け止める。


「……、はぁ……はぁ……」


「う、そ……な……んで……?」


話したいことは山ほどある、いやあった。

だがもうそれを話せるほど対等な関係ではないことは

この場ではもう分かり切った、明白なものである。

だから慶はよろめきながら立ち上がって由理を前に見つめた。


「……助けに、来た」


―――嘘だ、俺は今彼女を殺そうとした。


「……どう、して……あのとき、だった貴方は……」


もしや偽物では?そんな思考回路が今の彼女を動かしてはいない。

今の彼女を動かしているのはきっと喜びだろう。

慶もまた自分を見て泣きそうになる由理を見てほぼ満身創痍な状態になってしまい

留めを刺すことが出来なくなる。


「無理を……させた。―――俺のせいだ。」


本当に俺のせいだ。


「―――いや!貴方のせいじゃない。

 私のせい……みんな憑りつかれてだから

 私みんなを……あぁ……どうしてこんな……」


やめてくれ、由理。

俺は君を……と慶は考えるも最早その気力もなくなり由理が正気に

戻ったためかこれ以上攻撃はできないと考えが導き出されてしまう。

由理は血しぶきのかかっていない唯一の白い肌に涙を流しながら慶の胸元に泣きつく。

慶はそれを抱きしめて謝罪をしようとした。

だけれどそれは代わりにありがとうへと変わる。

生きていてくれてありがとう。

何故か今はそう言いたかった。


「……ありがとう、由理……生きていてくれて。」


その時だった。


「ありがとうだなんて―――うぐっ……?!

 ま、さ……か……」


由理は首を抑えて息を求めるようにもがき

そのまま後ずさりをして近づく慶を放した。


「こ、な……タイミン、グで……くそっ……」


由理は何者かに憑かれる感覚に陥り瞬時にそれがこの場にいるもう1人の男だと気付くと

由理は刀を構えてそれを慶へと向けてしまう。

慶は由理を見て驚き構えようとするが由理の顔を見て何があったのかを悟る。

由理は必死に耐えて慶に近づくようなことはせず足を止めていた。

だが筋肉は震え少し前へと傾いている。

すると由理はしかめっ面から覚悟を決めた顔に戻ると

その刀を自分の両足の腱を瞬時に斬り裂きそのまま倒れる刹那

由理はその刀を自分の心臓目掛けて突き刺した。

突き刺した刀は抜きそのまま燃える畳の上に突き刺す。

あっという間のことに慶は驚愕しすぐに吐血する由理に近寄り駆け付けると

由理は咳と血を吐きつつ抱えられながら右側にいる慶を見つめた。

そうして右手で慶の頬を触りながら呟く。


「よか、った……」


「何が良かったんだよ、由理……!

 どうして、こんな……!!」


「はぁ……はぁ……私あんだけ戦えていたのに、どうして、だろうね?

 慶を見たら、なぜだか安心……しちゃって気ぃ抜いちゃった……のかな?

 ……はぁ……できなかった。

 ねぇ、慶?あなたも……彼を、復活者を追って、いる……でしょう?

 だったら、もしもできるなら、次の私を捕まえて……私のことを訊いて?」


「……?!なんで、そんな、世界なんて一つだろ?

 なんでこんなときに冗談言えるんだよ、由理」


「冗談、じゃないよ

 そんな力もそん、ざいするもの……けい……もしもその力をもって、いるなら

 わたしを、みつけて家族の……事件を訊いて?きっと……あなたのために、なる。」


由理は微笑みながら慶を見つめた。

慶は涙を堪えながら由理を抱きかかえる。

由理の瞼は次第に閉じ掛け由理はチラッと刀を見つめ慶に振り返って呟いた。


「さい、ごに……けい、」


「っ……?!やめろ、最後だなんて……!

 やめてくれ、もう!誰も失いたくないんだ……!」


「わたし、の刀……わたしの分身、名を無尽刀槻むじんとうつき

 尽きることのないわたしの力……受け取って?」


刀は血には濡れど一切の刃こぼれがなくひびも割れず強くそこに突き刺さっていた。

慶は由理を床に伏せさせ無尽刀槻の刀を取る。

重量感はあれどその綺麗な曲線と赤く塗れてはいるけれど

未だ輝く刀身はとても力強く綺麗だった。まるで彼女のように。

刀身に付くものをすべて布で取り由理が持つ鞘を取り収めるとそれを見届け由理は小さく


「ありがとう」


と呟き微笑んで目を閉じた。

殺そうとした相手だった。

でも今は今までの思い出と彼女の信念が垣間見えたためか

自分はなんてことをしたのだろうか?その思いに囚われて……

息もなく前よりも冷たくなった彼女を前に慶は咆哮するかのように天井を見上げて叫ぶ。

泣き叫ぶも誰も応えずただそこには声だけが木霊した。


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