第2章40話 「リスク」
由理の嫌な予感はすぐに的中し百鬼夜行内部のでは
爆発に似た轟音が外にも響かせていた。
それは由理達が来た後慶が百鬼夜行へと足を踏み入れてすぐのこと、
由理達は慶が響かせたであろう轟音でその違和感と異常を間近で聞くこととなる。
柚子が確認を行いながら通がその異常を書き留めたりそれを
反鬼の本部へと連絡している中で由理はその百鬼夜行に足を踏み入れようとしていた。
初め由理が行く、ということに柚子は否定気味だったが、
それを許したのは他でもない通でその理由は
先の由理の数回小声で呟いた嫌な予感、というのだった。
『確かに今行くのは危険です。でもあなたはそれを承知で行く方……
止めた、という事実は残しますがそれでも大丈夫ですよね?』
『用意周到だなぁ……。あ、そうだ!
ここには柚子と通の、私含めて3人しかいないんだし本音聞いても良い?
―――私の親友として2人はどういう意見?畏まらなくて良いから答えて?』
そう言い首を傾げる由理に通は呆れ気味になりながら
『……由理は昔からこういう勘が鋭い。
お前がそうなんだろう、って言うならそうなんだろうさ。』
それを聞きえへへと笑う由理に柚子もまた恐る恐る呟いた。
『わっ、私も……由理さっ……ちゃんがしたいことなら良いんじゃないかな。
私は由理ちゃんが信じたものを信じるよ』
2人の返事に由理はハッと驚きながら目を輝かせてうん!と頷く。
そして由理は柚子、通に状況の報告及び周囲の警戒に当たらせ
慶のいる百鬼夜行の内部へと足を進ませた。
進んですぐに既に響いたであろう音が大きくなっていることに気付き
由理はその音のする方へと足を早める。そしてしばらく走った後急に
音は静まり由理はそれでも走るのをやめなかった。
それが功を奏したのか声にもならない悲鳴が辿り着いた障子が
閉まる部屋で響いたのを由理は確認しその障子を蹴破る。
そして中にいる人物を見て由理は驚いた。
(慶……!そしてあそこにいるのは……山城源代……?!)
他者から見て慶の姿は酷く主に左胸から左腕にかけて
大きな切れ込みがあり既に血も一部が黒くなってしまっている。
おまけに左腕はほとんど切り離されており逃げ出そうにも
足の腱が切断されているため動けない。
由理は慶の姿を見て涙を浮かべて今まさに最後の一突きを
入れようとする源代の首を齧りそしてそのまま首の大体の部分を喰い取り、
透明な見えない何かを胸に忍ばせていた短刀で斬り突き離しよろけた
身体を左脚で回し蹴りで叩き込み突き飛ばした。
喰い取った部分はぺっ、と捨てて慶の身体に向き合いそっと
左腕が落ちないように腕で優しく包み込む。口をポカンと開け
放心に近い状態の慶は既に瀕死の重体だった。
由理は身体を妖怪変化で一時的に強化し脱力したままの慶を
持ち上げるとそのままその一室を後にして柚子と通のいる百鬼夜行裏の森林へと急ぐ。
急ぐなか由理はふと後ろを見て一室にいる人物を目撃する。
由理にはその姿に覚えがあった。
幸い由理はその者に気付かれなかったが由理だけは気付き唇を血が出るほど噛みしめる。
だが今は慶の救助が先だと森林へと足を踏み入れた。
由理は柚子と通に合流しようとするがその場所に2人の姿はない。
『……柚子と通は……?まさか……いや。
ここから見ればさっきとは違う風景ね。
―――うっ、手足が……』
由理は一時的な妖怪変化による強化で手足が
徐々に痺れ筋肉が収縮していくのを感じる。
それにより慶をそのまま持ち上げることができず森林の中、
大きな木の下に置かざるを得なくなった。
もし追いかけてもここは死角のため見つかることはない。
そう思って慶を下ろすと下された本人は朧気に由理を見つめた。
『……ゆ……り……?』
『……!慶?!意識はあるの?!』
だが慶の眼は薄く開いたままで大きく開かれることはない。
途切れ途切れの声で慶は由理にここから
避難するように促すが由理はそれを聞かない。
『どうしてあなたがここにいたの……?
そしてどうしてあなたがアイツと戦っているの?』
慶の思考は徐々に鈍くなっていき由理の質問に真面に
受け応えることはできずその質問の中にある重要なヒントにも気づけずにいた。
『……どうしてあなたが……。
―――取り敢えず今仲間を呼んでくるからここで待ってて!
必ず戻ってくるから!絶対に待ってて!!
もうこれ以上……大事な人をアイツに奪わせはしないからっ!!』
涙ながらにそう呟くと慶はうなだれるように頷きそのまま意識を失う。
由理はそれを見届けそのまま通と柚子がいるであろう方へと向かう。
道中どこだか分からずにいたため由理は妖気探知で
2人を探しそしてようやく2人を見つけると2人は帰ってきた由理の腕に驚いた。
『なっ……!由理っ?!その血は一体?!』
『説明は後!とにかく今は来て欲しいの2人とも!
慶が……死んじゃう!!』
由理は慶が百鬼夜行内部で慶の父であり死んだはずの
源代が生きていたこと、またその2者の親子が争っていることに
ついて道中で話しながらそれについて理解はできなくとも状況だけは理解するよう求めた。
柚子と通は由理の言うことに異を唱えることはせずただただ頷き由理についていく。
さきほど慶を止めた木に近づくと由理は早めていた足を
徐々に止めてその木の下に誰もいないことに顔を歪め歩き、また駆け付ける。
だが駆け付けてもその場所に慶はいなく血痕だけがその場所に残っていた。
『け……い……?慶はどこに……?』
茫然とするなか通は由理を一瞥しながら木を見やる。
木にはもたれかかった状態でついたと思われる複数の血痕があり
それがここにいたことの証明になっていた。
『……どこ……まさか……でもついては……』
『由理』
『でもなんで……動ける身体でも、ましてや連れてかれてもここじゃ……』
『おい、由理』
『妖気は……ない……じゃあ本当に?いやでもあれは幻だった―――』
『由理!』
通の一喝に目を覚ましたかのように振り向かえる由理の眼には大粒の涙があった。
通ははぁと溜め息をつきながら話す。
『お前は反鬼のトップだ。
だから俺らは別にお前がもし妄言だろうが嘘だろうが
本当のことだろうが何でも言うことは聞くし信じるよ。
だけど!今!この場じゃお前は俺らより上で俺らを率いらなきゃいけねぇ。
だったら……今が辛くても何が起こったか分からなくても
取り敢えず反鬼の総大将として百鬼夜行内部で起こっていたことを報告しなくちゃいけない。
そうだろう?』
由理はハッとして涙を拭いながらそうね、と言い木の方を見やる。
再度、何度も確認しても痕跡は血の跡だけ。
周囲にある妖気の反応はこの場にある由理を含めて3人しかいない。
『辛くても良い、そんときは俺らを頼れ。
励ましでもなんでもしてやる。
だから今は総大将としてここで何があったのかを帰ってみんなに伝えて備えるんだ。』
何に備えるのか?柚子は考えたが敢えて聞かなかった。
由理もまた聞かなかったためだ。
多分2人は理解していた。
この世界において柚子は慶とほとんど面識がない。
故に兄妹と言っても親しい間柄じゃない、そのために柚子は
慶がそんなに重要なのかを理解できない。だがそういうことじゃなかった。
由理は頭の片隅にでも考えているだろうが通にとっては
これがいかに重大なことが起きるかを予想だてて考える。
それは慶が源代と争い、結果的に源代は倒され重傷を負った慶もまた
いなくなったことをを示している。
(陰陽師の中で最も力のある2人がいなくなったこと、
百鬼夜行もまた力を失っていること。
傍から見れば反鬼は好機だ。
―――そう考えられたら陰陽師の矛先はきっと……!)
通はそう考えながら由理、柚子と共にその百鬼夜行から
反百鬼夜行の方へと引き返したのだった。
・
「―――きっと俺は由理に助けられたんだ。
そして気を失い状況を知った雲雀さんがディオミスを寄越して救助
……ってところで俺に起きた話は以上だ。」
ツキネに全容を離し終えるとツキネは頭をかきながら慶を見つめる。
だがその瞳の先には希望がない。光がない。
ツキネは立ち上がって慶に後ろ背を見せて呟く。
「それであなたは私に何を聞きたいの?」
「複数あるがまず1つ、俺はここで何日寝ていた?
俺でもあんな傷今までじゃ1か月経っても治せやしない。
……今でもあれを1日で治せるほど強くはない。」
「―――1週間よ。」
「じゃあ2つ目、ここ……狭間の世界は他の時間軸とを繋ぐために
狭間の世界だけが止まっている。だけれど他の時間軸、
つまり他の世界の時間は進んでいる。だったよな?
確かそんなような話だったはずだ。今ようやくその意味が理解できたところだ。
じゃあこれに関連付けて聞く。―――今あの世界はどうなってる?」
ツキネは振り向えらずどうしてそんなに焦る必要があるのかを落ち着いた声で聴くと、
慶は迷わず自分と源代が同時にいなくなったことについてを語り始める。
「俺は源代、親父が死んだと聞いて死んだ場所である百鬼夜行に向かった。
でも本当は生きていて戦い、負けてこの場にいる。
今あの世界じゃ陰陽師の制御の役目を負っていた2人がいなくなったことになる。
妖怪を倒すこと、それを役目とする陰陽師を抑え込んでいたのは親父と俺だ。
でも今あの世界に俺はいなく親父は死んでる。
だったらあの世界の陰陽師の制御が外れたことになる。
今一度聞く、今あの世界はどうなってる?」
ツキネは溜め息をつく息を呑み込み振り向かえりもせず
書庫の階段を上がり、2階の本を取りつつパラパラとめくって本を閉じる。
ボソッと読む気にもならないわね、と呟きながら慶の質問に答えた。
「―――あの世界にはもう行かない方が良い。
今あの世界は陰陽師と反鬼による戦争が起こっているわ。」
まだ背を向けたままの淡々と喋るツキネに慶は真剣な眼差しで見つめ話す。
「ツキネ、3つ目の質問だ。
あの世界はまだ行ける世界か?」
「―――行ける、けれどあなたそこまで死にたいの?」
後ろ背を向いていたツキネは振り向かえり呟く。
その顔には諦め、悲嘆……と負の感情が勝っている印象があった。
「ここに運ばれてきたときあなたの容態はどうだったか知っているの?
意識不明、左腕は肉と皮が少しだけしか繋がっていない状態。
心臓はまだ外れてはいるものの左肺は潰れ修復しようにも
あなたの妖怪としての細胞は何故か機能を果たさず修復がままならない。
今の話を聞いて納得したわ。
あなたは現状、アナスタシオスに勝つことは出来ない。
術式という陰陽師の持つ切り札のようなものが強いのも分かる。
だけれど敗因は他にも多すぎる。
アナスタシオスの挑発に乗り力を出し過ぎたところを狙われたところ、
仕留めたと思い油断して調子に乗ったところ。
力量の差も浮き出てるし何より戦闘の知識も甘い。
自分は強い、だから何の対策もしなくて良いって思ってたの?
正直アホよ、あなた。戦闘知識をすべて理解していないやつが
理解したやつに勝てるとでも本気で思ったの?
―――まぁ過ぎたことは良いわ、でも。
あの世界から何とか助け出せたあなたはそれでもまだあの世界に執着する気?
何のメリットもないのに?むしろデメリットしかないのに?」
ツキネの言葉のほとんどは的を得ている。
正直これ以上反論もしきれないほど慶を攻撃しつつある。
だけれど慶はそれでもやらなくちゃいけない、と考えていた。
「ああ、そうだ。
メリットはない、これはただの自己満足だ。
力量の差を知った、相手のずる賢さを知った、残虐さを知った。
正直今の俺はアイツには勝てない。
でもそれ以外に俺はあの世界に向き合ってきたものがある。
助けてもらった礼を、俺は彼女に言えていない。
すっげぇ短い間だったけれどそれでも俺はあの世界にいる彼女に大きな貸がある。
それにまだ聞いていないものもある。」
朧気に聞いたあの言葉、それを慶は思い出す。
―――どうしてあなたがアイツと戦っているの?
「由理はアナスタシオスのことを知っていた。
なら彼女に奴の何を知っているのかを聞きたい、聞く必要もある。
ほとんど俺の自己満足だ、けじめだ。
でもそのけじめをつけなきゃいけない気がする。」
「……気、ねぇ……。
そう、分かったわ。でも―――私、ツキネの名に置いて
こちらにおいてのバックアップ、及び援護はすべて許可しない。
もしも”勝手に”誰かが援護をしに行こうならば私は強制離脱をさせ
あなたごと次の世界へと飛ぶ準備に移るわ。良いわね?」
「ああ、それで結構だ。」
慶は立ち上がりありがとう、と礼を重ねてツキネになおるがツキネはそれに
受け応えもせずそのまま無言のまま本を眺めて早く行け、と手を上下に振る。
目を瞑ってツキネは慶に背を向け慶はまたそれに礼をしつつ足を早める。
すべてはあの世界にけじめをつけるために。




