第2章39話 「奪取」
身動きが取れず最悪な状況の中放たれた術式は意外なものに弾かれ、
また山城源代の身体はそのままその弾くものを持った少女に
よって蹴り飛ばされ横へと吹き飛んでいった。
これにアナスタシオスは初め笑ってこれが行われたことで
いきなり山城源代の意識が飛んだことで急遽駆け付けることを止む無くなってしまう。
アナスタシオスが重い腰を上げすたすたと歩きその場へと
駆け付けると既に無力化された術式の札と
もう流れることも珍しい赤い液が滴る山城源代の身体があった。
源代の身体に複数の刀で刺された跡、そして首筋に噛みつかれた痕が残っている。
アナスタシオスは笑い振り向かえるとそこには蹴破られた障子の残骸が四散していた。
『こりゃ……想定外……いや、
想定はしていたがこんなにも早いとは。
どこぞの骨かは良いとして……もうコイツは使い物にならんか……はぁ。
さて、と。適当に残党操って占いでもやってどっち襲撃するか決めるかぁ……』
アナスタシオスはそう言ってどちらにしようかな、と
言って指を回しながらその場から消えるようにいなくなった。
一方で何があったか。
それはある意味でここまで話した慶自身が
どうして生きているのかに繋がる話である。
だがそれを語る上で現状ここではもう一方の目線で語る必要がある。
―――香山由理の目線だ。
それは深夜に起こった出来事だった。
深夜の夜更け、屍である由理にとっては静かだが
眠ることができない時間帯である。
彼女はただ起きて本を読み漁る。何でもいい。
どうに彼女が楽しめるものは少ない。
都会というものは辞書で見たことがあるだけで何があるのか、置いてあるのか。
そういったものを彼女は知らない。
彼女にとって娯楽というのは古典的な遊びか食事か
友達との会話くらいだったのだ。
そこに新たに結婚という幸せの時間、政略結婚とは言え
好きになってしまった男との時間。
今思えばもっといちゃついて既成事実を作って離れなくても
良いようにしたかったが今としてはただ問題が過ぎ去るのを待つばかりだ。
彼女はそんなことを頭の隅に隠しながら本を読み漁る。
すると閉じた障子の奥、そこがドタドタとした音が聞こえ
彼女はそれを聞いて何事かと本を閉じると同じタイミングで
幹部の者が火急の知らせだと言ってきた。
彼女はそれに答える。
『何事?何かあったのかしら』
『火急の知らせです……ですが公にはしない方が良いと
判断し既にその人物を中に入れております。』
(客人か?いやでもそれはすぐ私に話を通すはず。)
『どうして言わなかったの?』
『それが百鬼夜行の女子供を中心とした一行でしてどうか匿ってほしいと願いが。
こんな夜更けに、また百鬼夜行となると何かがあったのではないか
と考え私、吉崎通めが勝手に判断した次第です。』
由理はその言葉に気付き沙汰はあとで言いますと呟き
どこにいるのかを聞くと応接間にて全員入ることができたそうで
由理はすぐにその応接間へと向かった。
応接間には由理の友人である峰崎美世をはじめ北園詩織、猫又夏梅、
坂崎孕子の姿があった。特に孕子は涙をひっきりなしに流しており
それを美世や詩織が慰めていた。
彼女らを率いていたのは由理は初対面となる天竜八部衆の一人、
緊那羅と美世の母である峰崎紗々である。
由理の存在に気付くとかしこまって礼をしようとするのを由理が止め事情を聴いた。
『礼はいりません。
無礼に無礼を積み重ねてますし別にもう気にすることもありません。
紗々さんと確か緊那羅様、でしたか?私が現総大将香山由理です。』
『ああ、本当に無礼で申し訳が立たないよ。
本当にありがとう。
気になっていることだろうしすぐに話を始めるわね。』
と紗々は今現状起こっている問題について話し始めた。
紗々とは別に坂崎銀次郎の母である坂崎裕子が動いていたとの話だが、
彼女の調査により百鬼夜行内部で不審な動きがあり、
すぐに百鬼夜行を離れて別の場所に避難した方が良いという決断が行われた。
その際、坂崎裕子は百鬼夜行内部の者により殺され、
また共犯者として覚がその行いを助長したために覚を連れ出すことはなかったそうだった。
坂崎裕子は調査中自分の娘でありほとんど瓜二つの坂崎孕子に
扮して動いていたらしく、孕子には自分が死ぬようなことが起こった際に
燃える人形を渡していたことでこれが明らかになったという。
坂崎銀次郎はまだ百鬼夜行内部にいるとの情報だが望みは少ない、
と考えたほうが良いというのを猫又夏梅が進言した。
『どうして……そう言えるの?夏梅ちゃん』
『……ここで言ったら一部の人が半狂乱になりかねないから言えない……
でも端的に言うと見ちゃったから……その光景を」
と夏梅は呟き話した。
どうやら夏梅は起きた時間が遅く起きた時には既に誰もいない状態だった。
その後は本質(個々それぞれ妖怪が持つ特性)である
黒猫の姿になり百鬼夜行内部を探し、
銀次郎が横たわり何か虚空を見つめながら死んでいるのを
襖の隙から目撃したという。
『念のために聞くけどそこに裕子さんはいた?』
首を振る夏梅は見てはいない、というよりは見ることができなかったと
話し少し悲しそうなだが無表情のまま瞳を閉じて頭を軽く下げる。
由理はそんな夏梅を含め逃げてきた者に今後について
どうする予定かを聞くとそれに紗々が答え始めた。
『取り敢えずここに来たのは百鬼夜行が現在危険だということを知らせたかったの。
でも動向をチェックするためにも調査する必要はあるかも。
私たちは百鬼夜行の総本山となる場所から
緊那羅様のいる地域へと移住する予定よ』
『そのほうが安全だろうしな。
移住、というよりは移動というべきかもしれんが……
取り敢えず生きている者を中心に組織は作れんでも生活をする予定だ。
―――そこで香山由理、貴殿に相談なのだが……』
と紗々の答えたあと緊那羅が補足説明をして由理に問いかける。
由理ははい、と答えてその続きを待ち緊那羅はそのあとを話した。
要約して緊那羅が話したのは生き残った百鬼夜行の者たちが
反百鬼夜行へと一時的に加入するというもの、
一時的に反百鬼夜行派の助けを借りたいというものだ。
だがそれを説明し終わるうちに由理はそれに断りを入れる。
『やめてください、緊那羅様。
私は別に加入する以前に同じ妖怪として今回の事態を受け止めて
あなた達に無償で助けを致します。それに反百鬼夜行派は
あくまで百鬼夜行派のやり方に異を唱えて抜けたものたちです。
こちらの妖怪が反発してしまっては申し訳が立ちません。
私の部下の中で最も信頼でき、また百鬼夜行派に異を唱えても
暴力的ではないものを手配させます。』
そう由理が言うと緊那羅はしかめっ面から目を見開くと
ありがとうと呟きその助力を承諾した。
取り敢えず一安心だと百鬼夜行らの生き残った者たちが
安堵しつつ休息を入れているのを見届けると由理は立ち上がり、
生き残った者たちは緊那羅がまとめ由理に呼ばれてやってきた部下の妖怪とすぐに話を始めた。
由理はと言うとその中にいた紗々を呼ぶと自らが調査に赴くことを話す。
それに紗々は驚いた。
『どうして?!今さっきの話聞いてなかったの?!』
『いや聞いていましたよ、だからこそ何か違和感……じゃないけど
何か嫌な予感がして。行かないとダメなんじゃないかって思うんです。
だから行こうと思って。でもこのことはほかの妖怪には言わないでください。
心配しちゃうと思いますし異常を確認できればすぐに引き揚げるつもりです。』
そう言い由理は自分がいま作れる笑顔を浮かべて
紗々になおると紗々はため息交じりに由理を抱きしめた。
『昔からあなたを見てるけど何も変わらないわね。
組織とか立場とは違えどあなたは私の娘のようなものだわ……
助力は感謝するわ。
でもくれぐれも気を付けて。絶対にまた後で会いましょう。』
『……はい!紗々さん
……次会ったらお母さんの話聞いても良いですか?』
すると紗々はええ!と答えて笑いそれに由理もまた笑みを返した。
話し終え由理はその後反百鬼夜行派の幹部を集め現在の状況を説明する。
それを踏まえ逃げてきた百鬼夜行派には何の罪もなく
また助力するべき者たちだと告げて、今日の朝から昼にかけてだが
調査に一緒に行く妖怪は誰にするかを話すとそれに由理もついてくるのか!
幹部らわ少し驚いていた。だが由理の真剣なまなざしに幹部らは
話しその結果吉崎通、天谷柚子が取り敢えずは立候補としてともに
調査をしに行く者たちとなる。その後幹部らには他の所属する妖怪に
事情を説明するように指示し、由理は通と柚子の3人で調査の過程を説明する。
『調査は取り敢えずはどうなっているのか、だけで良いわ。
前から行くのもありかもしれないけれどそれは通に任せる。
透明になって正面玄関に異常がないか調べて。
柚子は私と通のサポートを。』
『香山様はどうするんですか?』
『私は後ろから侵入するか偵察するかだけどもしかしたら
別の誰かがやってくるかもしれないからその時に対処するわ。
良い?2人ともくれぐれも戦うという選択肢に出ないで。
罠を張られている場合もあるから慎重に。』
そう言って柚子と通ははっ!と声を上げて承諾の意を示した。
そして早朝となった時間、由理は柚子、通を連れ
百鬼夜行派へと移動し幹部らは念のためにと戦いの準備を始めるよう
指揮し百鬼夜行派の生き残った者たちはそのまま避難を開始した。
早朝から出立して昼頃、百鬼夜行の総本山となる本部へとついた
由理はすぐさま違和感を感じ取った。
違和感は増大しそれは正面玄関の前へと移動し偵察する通も感じ取る。
(どうして妖怪がいないんだ……?)
正面玄関の前へと本質である透明化を使い向かうとやはり正面玄関も
また開きっ放しで妖怪はどこにもいなかった。
奥まで入ろうかと考えた矢先誰かに気づいて正面玄関から
離れ遠くからそれを見つめるとそれは大きな背丈をした男だった。
(あれは……確か陰陽道の大将?)
通はそのまま中へと入り正面玄関を戸を閉めた山城慶の姿を見届け
すぐに百鬼夜行本部の後ろの森林へと移動して、由理のところへ急ぐ。
幸いにも慶が中に入ったことを知らず由理が偵察していると、
由理は通が透明化を解除し近づいてきたのを振り向かえって確認する。
『何かあったの?』
『はい。実は陰陽道の大将、山城慶の姿が正面玄関のほうに見えまして
……どうやら中へと入っていた様子にございます。』
『慶が……?!どうしてここに?……嫌な予感がする……。』
そんな嫌な予感は的中しようとしていた。




