第1章8話 「帰郷する妖怪たち」
新王山。
それはこの町とあの村…怪村を
繋ぐゲートの役割を果たしており、
そして何よりその山を越えるには条件が存在する。
それは妖気を持ちながらでないと越えることは
永遠に不可能。同じ道に戻されまた、
永遠に出ることが出来なくなる。
これは妖怪や人間が持つものとは違うこの山が発する妖気によるものだった。
主に妖気の密集地帯と呼ばれ半妖であるものは一時的に
姿が変わったりするらしい。銀次郎の場合耳が狐耳へ、
手も肉球のある指に変わっていた。
邪魔だと思ったり考えたりするものがいたりするかもしれない。
だがこれは陰陽師や不特定多数の反抗者に対する対策でもあった。
またこの山を抜ける条件として妖気を持たないといけないと言ったがそれに
ついては条件が三つ存在した。
一つ、幽霊にとり憑かれること。
幽霊もまた妖気(磁力に近い)を持っており、
とり憑かれることで妖気を発し稀にその山を
越えることが出来る。
二つ、妖気を放つ器具を所持すること。
その類いとして妖気を持った刀、妖剣や
妖怪が使っていたとされる器具などが
挙げられる。
三つ、半妖であること。
俺、山城慶のように妖怪と長く居たせいで
半妖になってしまったのは異例であるが、
半妖は本来人間と妖怪の間に産まれた子が
なるもので最終的には妖怪になる。
とまぁ、こんな風に例を挙げてみたが
まずいくら妖怪の総大将並の妖気があるから
って…この山を越えることは到底無理であり
それが、たかが人間に…この
「どうしたの?慶くん。」
人間に出来るはずなど皆無なのだ。
「え?…いや何でも無いよ!あはは…。」
と、誤魔化しながらため息をつく。
原因不明の妖気が大量に溜め込んでいる
謎の少女由理は今俺と美世、銀次郎と
共にこの町から数キロにある新王山の中を
歩き怪村を目指している。
その道中枯れた林木や酷く茂った雑草を
避けながら歩いていていたその時。
「あ…」
と、山の下を見下ろす銀次郎に慶は呟く。
「え…?何かあったのか?銀次郎。」
「……いやなんでも。」
と目をそらした。
??マークになる慶もまたその後同じく声を上げる、
「え」
と、山の下を見下ろす。
美世もその先を見て驚き
「ぅえ?!」
と下を見下ろしながら香山も驚いた。
直後周りの温度が一気に下がった気がした。
今は真夏だ。気温も炎天下だから30℃近くある。
こんな真冬のように15℃になるはずがー…
「いよう!諸君!」
長い少し水色の混じった髪の毛、妖怪の姿である
唯一妖怪で氷を操ることの出来るそんな…女。
「はぁ?なんで…北園お前がいる」
北園詩織、雪女だ。
「なんでって里帰りだからだよ、山城くん。」
ピースサインを出しながらニッと笑うと
ツッコミする慶をへらへらと軽笑しながら応えた。
「んなもん見れば分かる。
だから何でここにいるんだ、って聞いてんだよ。」
「里帰りだとここ通るし?それに色々銀次郎には
聞いたからねぇ…大変なことになったね~♪
あっはははは!!」
根本的な問題は銀次郎であることが分かった。
とにもかくにも銀次郎は屋上に着き予鈴が鳴ったあとせっかくだからと
そのまま元の姿に戻り校内を探検していたらしい。
(※この時点で問題があるのだが)探検中、詩織と遭遇したらしい。
手短にここにいること、その経緯を語っているうちに詩織は
里帰りも含めて転校することを知る。
すると詩織は"じゃあだったら私も帰る"ということで
上手く先生に事情を話して…そして今ここにいるということだった。
上手く…というのは上手く事を運んだという意味だ。
慶は追及しなかったがおそらくは妖術をバレずに使ったのだろうと
考える。そしてそれも含め慶は銀次郎を睨む。
―――だからあのときそんなに驚かなかったのか、と。
(銀次郎恨むぞ‥………?)
(ごめん。)
そんなやりとりをしてるうち目の前に
車道が見えてきた。
すると銀次郎はいつの間にか狐耳から人間の耳に戻る。
妖気の密集地帯を抜けたせいだろう。
詩織もいつの間にか髪が
元の黒髪のー‥………え?
「お前白髪だったけ?」
「染めたんだよ!でもちょっと失敗して
白髪と青い髪が混ざっちゃって‥…あはは。」
「そうか。」
とまぁ、皆もとに戻りそして見えてきた。
久しぶりの怪村。
そんな故郷に。
「帰ってきた…な」