第2章24話 「対局」
「由理はどこにおるんだか…」
眠気を押し殺して昔の幼馴染の名前を呼び捨てにする
香山家の警護役、吉崎通は廊下を明かりを持って歩いていた。
警護は毎日交代制なのだが山城家の警護役である北園詩緒が
急遽二人がいなくなったことを話したのだった。
初めは心配したのだが夜逃げや失踪は考えにくいと
手分けして探しているというわけだった。
だがいない。
残るは道場付近か、と廊下を歩いていると
何やら明かりが漏れ出ているのに気付く。
通は透明人間という種類の妖怪に属している。
本人は人間じゃん、と豪語しているがそれは割愛する。
そして透明になって道場に近づいてその光景を見て驚く。
「なっ…ゆり―」
「様はつけろよ、吉崎」
透明から元の姿に戻りその光景に驚く
通を北園詩緒は口を塞ぐ形で
止める。それに驚き後ろを見てまた驚く。
そこには林原恭二を除いて
もう一人須原雪南もいたからであった。
なんでここにいるねん!と小声で話す
通に詩緒は事の経緯を話し始めた。
・
「分かった、本気でやろう。
……この姿はあまり見せたくなかったけど…」
竹刀を構えた二人は寝間着だというのに
それを思わせないほどの気迫を見せている。
そして慶は竹刀を鞘に納めるような態勢を取ると
また真剣な眼差しで、
または獲物を狩る瞳で見つめて竹刀を構える。
もしも二人の次の態勢を漢字一文字で例えるなら
慶は「払」、由理は「突」だった。
次の態勢に移った時慶は呟く。
「―10分だ。その間は一切本気を出さない。」
「―!!本気でやるって言ってやらないって言うの…?」
挑発に乗る由理に慶はニヤッと笑い
そっちからかかってこいと手と目で合図する。
更なる挑発に由理はそれを呟いた。
「―――憑依変化"屍"」
その刹那由理の顔が歪む。
目は黒く態勢は更に低く横に両腕を伸ばしてまるで獣のように
竹刀を慶の脳天目掛けて突き刺した。
慶は見切ってたかのようにスルッと左に態勢を崩して交わし、
由理もまた突き刺した竹刀を獲物を追うように右に払う。
そして間合いを詰めて×印のように
竹刀を下から上に上げるように
突き、払い、また突いて払うを繰り返していく。
だがそれを嘲笑するかのように慶は
それを同じように左へ右へ上に下に。
交わし交わして後ろに跳んで着地し
それを見計らった斬撃までもを
すべて瞬間的に交わしている。
竹刀から出るような音ではない
まるで真剣のぶつかり合いかと思わせる
ぶつかり合いに山城の警護役もまたそこに駆け付けていた。
「これは一体…」
「―稽古だ、詩緒。
手を出すなよっと!」
詩緒の手を止め由理の竹刀を自分の竹刀で受け止める。
由理の行った憑依変化の時間が尽きているのか
顔は理性に戻りつつあった。
慶は嘲るような体術とは別にその変化についてを考察する
眼差しで由理の状態をチェックする。
妖怪変化には様々な変化が存在する。
半妖が主に使うスタンダードな"妖怪変化"、"部分変化"
妖怪が元来の力を使って完全に能力を解放する"完全変化"
いつの日かの黒鳥優破が使っていた"武装変化"
そして今回お初となる由理の使用した変化は…
本人も言ってはいたが"憑依変化"
武装変化と原理は同じで自分の中に眠る能力を部分的に
解放するものだ。例えば武装変化であれば鳥類系の妖怪が
自分の体毛を硬質化することで得られる防具のようなもの。
憑依変化は己自身の力を暴走化させて、
それを己の身体に憑依させる
一時的なバースト化が可能な妖怪変化だ。
由理が何の妖怪なのかは知らなかったが
まさかここで判明するとは思わなかった。
由理の妖怪の種類は―――屍
妖怪の中で唯一痛みを忘れさせて完全、
攻撃特化に身体強化ができる種族だ。
また他種族の肉を食うことでしか生きながらえれない
他種族から"化け物"と揶揄される種類。
まさかそんな種族だったとは。
でも戦いの場においてその話は関係ない。
竹刀の攻防を繰り返し
(とは言え未だこちらから攻めていない)
戦っているこの場においてその話など無用。
さあ、もうすぐで10分。
「憑依変化は終わったか?由理」
「はァ…ハァ……はぁ…ハぁ……まだまだ…イケる」
由理は憑依変化状態から通常状態に戻すと
はぁはぁと息を切らしながら慶を、俺を見つめる。
何だよ照れるじゃないか…と冗談を口にしてしまっては
怒られかねないので口の中に飲み込んでおこう。
―なっ、ゆり―――
そして現在に至る。
それはさておき由理は俺に攻撃を10分もの時間をかけて
色んな主に刺突技を繰り返してきた。
体力が尽きかけてるのを見て思う。
確かに由理の戦闘能力は凄い。
速さが尋常ではないし攻撃を一撃やったあとにすぐさま
隙を見せずに二撃、三撃とを繰り返してきた。
その分体力の減りが酷い、
だが確かな明確な気持ちに答えるように
身体は動き、相手に攻撃のチャンスを与えない。
由理は短期決戦に向けた暗殺者のような
存在なのだと慶は頭の中にインプットする。
だが短期決戦は長きにわたる戦争の中では
役にはあまり立たず戦闘の回数も少ないがために
動きにムラができるようになる。
効率化を求めるものならば敢えて短期決戦を選ぶかもしれないが
いざという時に体力が無くて使えないは
己も周囲も傷をつけることになるだろう。
俺は由理の指導者ではないからこれ以上は憶測になる。
「"鬼人化"」
由理の表情が変わる。
また小姓たちもだ。
由理はだから"この姿はあまり見せたくなかったけど"と
言ったのかを理解する。
また詩緒はこれが山城慶の本気のお姿と
他も揃って畏怖を浮かべている。
手足が鬼のような骨が浮き出た禍々しい鋭利な爪を
頭には二本の角を生える。
そして変わった瞬間に振り下ろされる竹刀に由理は
圧倒されながら後ろに倒れるのを確認して
慶は元の人間の姿に戻ると手を差し伸ばす。
「悪い、本気出し過ぎちまったか」
「…いや、大丈夫。
はぁ……びっくりしたー
…へぇ…慶ってあんな見た目になるんだね」
「だからやりたくないんだよ…」
「あっちも格好良かったよ!」
そうして始まる痴話話に小姓らは
ポカーンとして二人を見つめた。
後日談。
慶と由理との仲は深まった、だが二人で道場に上がって練習することは
以後禁止になってしまったのだった。
そして小姓らはこの話を報告することはなかった。




