第2章21話 「過去に浸る Part1」
二人が去った後雲雀はふぅと
溜め息をつきながら奥の書庫に目を細める。
「…―最初からいたという訳か。
あまり私を侮るなよ?ツキネ」
「その割に指摘しないのが雲雀さんの悪いとこだよね。」
と二人と雲雀が座っていた机と椅子から
何メートルか奥の書庫への手すりに座るツキネを
雲雀は注視しながらそれを言い放つ。
それに答えたツキネの答えは肯定か否定か。
雲雀は頭では考えながらもどうでも良いような笑みを浮かべる。
「会った時から思ってたんだけど、
何か隠し事あったり企んでるときって
そういう風に笑うよね、雲雀さんて。
何かあったりするの?信条とか。」
「信条…か。
まああるにはある。」
雲雀はそう言い、また笑う。
だがその笑いはさっきのような企みの笑みではない。
どこか懐かしむような笑み。
「―"目が見えないなら常に笑え。
それが盲目の者の仮面となる"
私の感情を真に読み取ることなど
唯一の旧友を除けば誰もいない。
あのアリスでさえ、紗々でさえ、
アナスタシオスでさえ…山城慶や君…も。」
「じゃあ質問だけどその仮面、割れたりしないの?」
雲雀は笑いながら黙る。
一定の間黙り終えると雲雀は答えた。
割れたことは…ない、と言うと嘘になる。
「一度だけ旧友が死んだときに割れたよ。
旧友は私と同じ女でね、ある男を好きになって結ばれたんだよ。
結ばれたことを私はとても喜んだ。
今みたいに不気味には笑わないで心の底から感動したよ。
好きな人が出来てその人と結ばれてそして一生涯のパートナーになる。
こんな喜ばしいことはない。
私は当の本人のようにとても嬉しかった。」
「寂しくなかったの?」
「寂しい?いいや!そんな感情は無かったな。
いつでも会えたしいつでも話せた。
目の見えない私の周りに花を咲かせてくれたのだから
私はこの上ない喜びに満ち溢れていた。
…旧友が結婚して子供を宿したときも感動した。
今でも覚えているあの感触…お腹を撫でたら中の子が蹴ったのか
動いてな。あれもこの手に今も濃く残っている。」
そう喜々として語る雲雀の姿をツキネは珍妙そうに見つめる。
ここまではきはきと、生き生きとした彼女を見たことが無いからだった。
とても楽しそうに話す雲雀の姿を見てツキネは疑問を呈した。
「…その人はどうなったの…?」
それに雲雀は溜め息を吐きながら遠くを見つめる。
目はしっかりと開きながらそれでも笑っている。
だが瞳の中の雲雀自身は…
「子供を産んで死んだ。
私も付き添って応援してやっと産んだねと
喜びを分かち合っている最中息を引き取ったよ。」
「その子は今も生きているの?」
「……さぁ。」
その質問だけはいつもの雲雀に戻った気がしたとツキネは笑う。
そして手すりから立ち上がって軽々と
下に降りた彼女に雲雀は苦笑しながら
こう質問した。
「ツキネ、その子が仮に生きているとして
君はどう思う?その彼女の母親を。」
「うーん…幸せかってこと?」
「そうだ。幸せかそうじゃないか。
親には長く生きて欲しいと思うものじゃないのかなってね。」
するとツキネは小さく笑いながらひらひらと踊りながら
雲雀の前に出て答える。
「私の意見からしたら幸せなんじゃないかなって思うよ。
だってそうじゃないとその子供は産まれて来れなかった訳だし。
私がその子ならいなくなった母親には感謝するね。」
そう目の見えない雲雀にウィンクをする。
分からないが雲雀はあははと笑う。
そうか、そんな回答が。
雲雀は旧友の名前を口の中で呟きながら
旧友の愛娘の元気な姿を想像する。
(ツクモ…君の娘はどうやら感謝してるみたいだ…)
自分が旧友の死後、娘を頼むと
その夫に頼まれたときは流石にどうなるかと
思ったが案外そうでもないようだったね。
でも…それでも私とツキネ(むすめ)はお互いに旧友の顔を見ずに
別れてしまったことが今でも私は辛いよ。
「……どうしたの雲雀さん…?」
「え?」
そう大粒の涙を流す雲雀にツキネは心配そうに見つめる。
だが何でもないさとすぐに顔を上げようとするも涙は止まらない。
……
「いや……大丈夫さ。
……そうだな、このまま…泣かせてくれないかな?ツキネ」
「……うん。」
雲雀がどうして泣くのか真にツキネは理解していない。
でもそれでも良いとツキネは俯き
わんわんと泣く雲雀に寄り添った。




