第2章13話 「初夜」
その日の夜は小姓含めの紹介をし食事を摂った。
陰陽道から選出された小姓は二人。
少ない人員だが…と話しながら紹介する。
「北園詩緒と言います。
僕は主に奥小姓ですので山城様の警護等を仕ります。
よろしくお願いします。」
水色の短い髪に青色の目で詩緒は話す。
声はどことなくハスキーだがその声と見た目に似合わず
しっかりとした態度だった。
そしてその次は
「林原恭二です…両方の小姓を務めます。
よろしく……お願いします。」
少し暗めだが黒メガネの恭二はそう呟いた。
元々恭二は俺直下の部下ではなく麻黒央…あの会議のときに
無断に発言し押し黙った麻黒の部下だ。
おどおどしてはいるがいざというときに
力を発揮するということで選ばれた。
まだ炊事に関しては詩緒のほうが上手らしく
一応表面上は表小姓らしいが奥小姓ともなるらしい。
ちなみにおさらいとして雑務を務めるのは奥小姓、
中奥に伺候して配膳役にあたるのが表小姓である。
(※ネットを介して調べた情報なので定かではありませんがご了承ください。)
と…陰陽道側もそう紹介したところで食事を摂る。
これで今この屋敷にいるのは俺、山城慶と香山由理
小姓の北園詩緒、須原雪南、林原恭二、吉崎通の
6人と少ない人数となっている。
半月経った後に良好関係であればこのままの生活のまま
そして小姓も増えるのだとか。
とは言えこの屋敷自体、結界のようなものが貼られているため
何かあればすぐさま行動できるようにはなっている。
例えば侵入者、など。
いるわけないか。と慶はその美味しい食事を摂りながら由理と話す。
他愛のないものから今後のことや同盟関係についても。
何より盛り上がったのは趣味のようだった。
小姓ともそれに盛り上がったが食事を摂り終わると
小姓たちは自分の仕事場へと戻っていく。
彼らには仕事がある。
慶はそう思い由理とともに寝室へと戻った。
慶は寝間着となる着物に着替えると自分のその部屋にある
"黒服"と名付けられた戦闘服を見る。
(……)
何も考えていないわけじゃない。
だが考えることはできなかった。
何かを考えようとした、だがその答えは見つからなかった。
黒服を見て思ったのは…―――虚無感と罪悪感の二つ。
(もしもあの世界を…生き続けれることができたのなら
今の自分はここにいない。)
黒服は俺がオーダーメイドしたとはいえ初めてそれを試着し
それを見届けたのは峰崎美世であること。
この世界に美世はいるだろうがそれはあのとき見届けた美世じゃない。
それに今この世界の俺は美世ではなく由理を見ている。
あの学校にいたときに告白されたことを慶は未だに昨日のことのように
思えて仕方なかった。
(まだ二十年そこらしか生きてないのにな…何だか懐かしく感じる)
慶はそこに佇んだ。
黒服と共に戦ったのはまだ少ない。
だが匂いはどことなく血の匂いではなく由理ではなく
美世の匂いだった。
美世が優しくいってらっしゃいを言ったときに抱きしめてくれた
温もりが染みついているように慶はそれを触りながら感じた。
(今、俺がこの世界で守るべきもの…それは本当に由理なのだろうか)
分からなかった。
正直何をしても何を食べても考えても
刀を振るってもその答えは見つからなかった。
今の自分はいったい何を見て考えているのだろうか。
「……今はよそう。」
そう自分の部屋を出る。
由理が待っている寝室へと廊下を渡ると由理はその寝室の前の縁側で
座って外を見上げていた。夜とはいえ快晴で雲一つない。
部屋の優しい光よりも明るい白い月の光が二人を照らしていた。
「今日も…綺麗だな」
「ううん。いつも綺麗なんだよ?
星って言うのは数えきれないほどの光で見飽きることがないんだ。
雲があっても月の光は突き抜けて差すし、
雨でも屋根から落ちる一粒一粒の雨音がぽちゃぽちゃって
軽い音楽を、ハーモニーを奏でるんだ。冬はね…あ。」
と声を漏らした由理はいつものように遠慮した感じではなかったと
謝ろうとするので慶は何も言わず
由理の傍に座ると首を傾げ顔を覗き込んだ。
「冬は?」
「あ……えっ…えとね。冬はしんしんと積もる雪が灯篭にかかるんだけど
灯篭の中の火は消えることがないの。白い雪の中に見える一つ一つの灯が
とても綺麗で…庭石はよく人が通ったりするから浮かび上がってるんだけど
置物や砂利よりも良い雰囲気や景色を見せてくれるんだ。
…ごめんね、慶。私こういう景色を見てる時がとても気分が落ち着くというか…
責めてるとかそういうのではないよ?!でも一人で居たいときと言うか…
見てると落ち着くというか…ああ!もう…上手く言えないや。」
「分かるよ由理、確かに景色はその場その場でしか見ることができない。
だからこそその一瞬を切り取るように見ることはすごく共感できる。
あと、謝ることはないよ?君と俺は対等なんだしそれに…夫婦だ。」
としどろもどろになっている由理の髪を撫でながら笑うと
由理は最後の一言で頭が爆発するくらい顔が赤くなると
えとえと…とお礼を言いたいのかどうかは分からないが
その続きを探そうとする。
俺はその姿に答えを求めていたのだろうか?
「あ……」
左手が自然に動いて彼女の左肩に触れそして身体の意識ごと
その月の景色から俺に移動させる。
そのときに由理はそう呟いたが嫌というわけではなかった。
だからこそ俺はその唇に口づけを交わした。
由理の目は驚きで満ちていたようだったがすぐに幸せに満ちた顔になった。
「今はまだ緊張しているかもしれない。
まだ慣れていないかもしれない。
まだ自分の気持ちが本当なのか分からないのかもしれない。
でも俺はこれから君の傍にいるから安心して。」
自分に言った言葉かもしれない。
まだ緊張しているし慣れてない。
自分の気持ちが本当なのかどうかは分からない。
だが本当であっても嘘であっても今の自分が
守るべきものは由理なのかもしれない。
俺は強くそう思い感じた。
由理をそう抱きしめると由理は涙を流しながらうん、うん。
とそう抱きしめ返した。
「うん、慶の言う通りまだ私緊張して慣れてないかも。
だから失礼のないようにって思ってたんだけど
やっぱりそれだと自分に正直になれないや。
ありがとう、慶。」
そう隣人は顔をニコッとさせるともう一度慶を強く抱きしめ
慶もまたああ。と抱きしめ返した。
「それでね…慶?言いにくいことなんだけど…」
「??どうした?」
「私今日お布団一つで…寝たいな…って……さ?」
そう隣人は恥ずかしそうに呟くが
天然は気付かない。
いや正確には気付くまで時間を要したということか。
意味を理解した慶は隣人と同じ顔で顔を赤らめていた。




