第2章6話 「転生した世界」
誰かが泣いている。
助けを求めて泣いている。
嗚咽を出そうとする喉を斬られながらも
誰もいない火の海に手を伸ばして、
その手も斬られて血管も吹き飛んで
細い管が刀にまとわりつく。
まとわりついた管もろともとどめを刺すのは
血も涙もない無慈悲なる者だった。
この世に或るは正義と反正義―正しいのは己自身。
迷わず自信を信ぜよ、若武者よ。
家名に、名に。恥じぬよう刀を振るえ。
その言葉はその無慈悲なる者の信条だった。
きっと救われる。俺は刃を突き刺す。
夢の中とはいえ光景に対して笑みなど、
明るい色を見せる顔はできそうにない。
それに炎が俺を照らしている。
ガラガラっ!
振り向いたところに歳二桁ともいかない
少し鱗が見える子供が腰を抜かし俺を見て驚いている。
岩陰に身を寄せて隠れていたのか。
無慈悲なる者は子供に聞こえるほどの舌打ちを見せ
刃を子供に向ける。
そう遠くはない距離だ、と思ったがその筈
刃の先は子供の頬に当たっていた。
どう駆除するか考えていた無慈悲なる者に
子供はガラスを投げつける。
そして無慈悲なる者の頬を傷つけるとその思いも晴れたのだった。
『同じことを…してやろう』
声は子供の耳をとらえる。
子供が今までで聞いた中で最も低温でかつ冷たい。
そう刀の切っ先も見えぬ素早さで子供に触れた頬を翳ませる。
通常、斬ったときに音や衝撃は同時に発生する。
そうして血や液体が噴き出すものだ。
紙によって手を切った時も痛みのあとに血が出る。
だがそれでは遅い。つまり何が言いたいか。
『…山城流、閃』
頬から血と肉が綺麗に直線を描きながら抉り
悲鳴も上げることなくまた音も無音で
すべて終わった後に響く。
響いてその上げたはずの声もただの"音"になっている。
つまり今ここではただ音が鳴っただけで元からそこに
生きている者はいなかったということだ。
そう部下には伝わるだろうと無慈悲なる者、山城慶は考えていた。
遅れて到着した部下はその光景を見て唖然とする。
もう既に焼け果てた大地に落ちる死の数々。
全員すべてが喉を掻っ切って死んでいた。
『俺が来た頃には誰もいなかった。
何も妖怪らの動きはなかった。
もう既に焼け死んでいたんだ。
異論は?無ければ浄化したのち帰還する。』
血にまみれたはずの刀身はギラリと輝いていた。
自分でどうにかして敵を消せばこちらに不利益はない。
なら自分で殺せばいい。
憎しみの種となる子供も赤ん坊もすべて殺せばいい。
そうすれば何の問題も不利益は起こらない。
それが俺がこの世に向ける刀の意味だ。
マイナスを押し付けるものがいれば
そのマイナスがない状況にすればいい
そのための犠牲などただの小さな問題だ。
1+1=2というただそんな。
陰陽道の世界の山城慶はそう自分を保っていた。
・
目覚めた布団には珍しくぬくもりが残っていた。
僕は…確か眠って…転生……転生?
「はっ!!!」
あちこち体を触って確かめる。
下部を触りあ、男か。と安堵し立ち上がる。
疲れはなく自分がどうも見知らぬ部屋にいるというのは理解する。
そして行く前、紗々さんに教わったことをその場で展開する。
『これは?』
紗々さんはそう俺に札を渡す。
何かの模様が描かれた札だが…
『それは今までの自分が経験してきたことをまるっきり
思い出すそんな便利な道具だよ。
源代に…君のお父さんに貰ったのを思い出してね。
かなり前のだから使えるかは分からないけどまあ
お札ではあるから大丈夫かと思うよ…―』
術式、とここでは言うらしい。
夢の中でいや、誰かの経験の記憶がそういっている。
多分上書きする前の自分自身だろう。
確か頭に着けて…
「"思い出せ(コールバック)"!!!!!」
そして慶は思い出す。
生き続けてきた17年間の歳月を一気に頭に流す。
待て、17年?それは…俺が年を取る前の話だ。
なら今俺は17歳。確かこの時期だったはずだ、
香山が慶と美世の秘密を知ってしまったのは。
なら俺は元いた世界の過去に転生した?
…これは
「好都合なのか…?」
『山城さま、目覚めましたか。
頭領がお待ちです。』
と障子の奥の人物にそう言われて我に返る。
確か俺は戦って…
力か何かの使い過ぎで倒れてたことになってるはずだ。
だが本当は俺自身が転生してしまたことで起きたこと。
本当は違うが転生後のほとんどはそうなるのだろう。
いきなり意識を失う、と。
ああ、了解したと前より
ワントーン下がった自分の声に驚きながら
黒服ではなく陰陽道での着物、つまりは制服と言っていいか。
それに身を包み障子を開け出る。
そして慶を呼ぶのは頭領、山城源代。
転生後久しぶりに俺は家族と対面する。
障子を開けるとそこには自分が持つ部下がいた。
名前は分かるがそれだけ口にしているほど俺は
時間を費やしたくない。
そして頭領のいる部屋の前に立ち障子を開け
失礼、と断りながら目の前に座った。
あぐらをかいて目と顔を頭領、父に挨拶をする。
自分のその姿に何も感じず言わない源代はただ慶を見ながら
「早速だが…慶、お前の妹が見つかった。」
会話に始点を置き始めた。




