第2章3話 「置き、変わること」
ここのパートはとくに重要であるため
前回同様長いかと思います。
「あ、そういや
さっきアナスタシオスって言わなかったか?」
慶が呟くと目覚めたようにクロが目を見開き
ツキネはああ、と呟いた。
『ああ、"復活者"のことだろう?
私が……殺し損ねた罪人のことだ。』
そうツキネは話していたのを慶は思い出したためである。
殺し損ねた、とは?復活者とは?
関りは少なかった気がする相手だが
だがもう二度と関わりたくない相手だからこそ覚えていた。
なのにツキネがそうあっさりと
呟いたのを見て気になったのである。
それに…今慶が呟いた際にクロの動向が
少し気になったのもあるからだ。
「まず、山城。
お前は能力を持っているか?」
「能力?」
能力とはなんぞ?
と思っていたが今まで補足していたクロは
下を向き俯いたまま答えない。
慶は疑問に思ったがツキネがそれに答えた。
「私たちはスキルと呼んでいるよ。
細かい説明を省くがすべての生命が
持つと言われているものだ。
化け狐なら化けることができるし、
吸血鬼なら夜目は良いが日光に当たれば死ぬ。
まあこういった具合に。で、そういうのは"当たり前"という
言葉の前では霞んでしまうのだが稀にそうでない者もいる。」
ツキネは話す。
クロは俯いたまま慶は耳を大にして聞き入れる。
「先ほど世界が4つに区分されているといったな。
またの機会に話そうと思うが…
私はもともと狭間の世界ができる前の世界、"下界"出身者だ。
山城のいた常界に酷似した世界と、頭に記憶しておくといい。
そしてその下界出身者と呼ばれるものがその稀なケースに当たる。」
また新しい単語が出てきたが慶は言われたとおりに
常界に酷似した狭間の世界ができる前の世界と、頭に記憶した。
ツキネはそのまま語り続ける。
「その例としてアナスタシオスが当てはまる。
―彼は"復活者"」
「復活者?」
「アナスタシオス"様"は…一度殺した者の寿命を吸い取り
二度目以降は生きている周囲の生物の寿命を自分の寿命へと
変えられる…それが……元主の復活者の詳細です。」
クロは目を瞑りながらそう言った。
慶は元、あるじ?と驚きながらつぶやくと
クロはまた同じようにただただ目を瞑って話し始めた。
「私はもともとアナスタシオス様に仕えていた給仕係でした。
戦争が起きて以降殺されそうになったところ
ディオミス様に助け拾われ今の職務についています。
気分を害したのでしたら…ここで謝罪を。」
そうクロは席から立とうとするが
それはツキネによって止められた。
膝をつくな、そう一喝したことで止まったのだった。
「アナスタシオスのスキル説明は以上だ。
まあそれはよしとしてほとんど聞くものは無くなってきただろう。
というよりここは元々ディオミスに説明してほしかったところだ。
…さて、山城。
話は冒頭に移るのだが"終焉"について君に教えなければならない。
先刻言った通りここでの時間が延長されるのだが
よく聞いてほしい。君はそれを決断する権利があるからね」
そうツキネは言うと慶にこれから起こることの
重大さを築きあげていた。
・
「まずおさらいだが山城、君は今狭間の世界にいる。
そして君がいた世界線をAとするならば君はAの住人となる。」
慶はツキネの今までで真剣なまなざしに
恐れを抱きつつそれでも頷いていた。
クロは奥の椅子に座りなおしていた。
「パズル…とするならば
世界線Aに当てはまるAの住人という
君自身がピースだと思ってくれ
終焉とは…大まかにそのもう既に
埋められている世界線Aを消すことで
君がすべての世界線での山城慶というピースに
置き換わるということなんだ。
…つまるところ終焉を行うことで君はもう二度と
元いた世界に帰れなくなる。
そして世界線がリセットされるため君を知っているのは
この世界の者だけということになる…とうことなんだ。」
「…ちょっと待ってくれ…」
慶は理解できないほどの情報と困惑に頭をねじらせる。
つまり終焉というのを行うことでこの世界が保たれる。
だがもう二度と元いた世界には帰れない。
18年間のすべての僕を知るみんなは、その記憶は
ほぼ無いに等しくなるということだ。
そして孤独に…ってあれ?
「なあ…それってほかの目的あるのかよ?
これだったらなんで僕を選んだのか分からない。
他に目的があるから、それを達成してほしいから呼んだんじゃ…」
するとツキネはクロに首で合図をし
クロは障子の扉を開け閉めるとすぐさま戻ってきた。
手には見知った刀が握られていた。
確かそれは…
「青龍刀…?」
「ああ。それで目的といったな。
それは…この刀であの男を、
アナスタシオスの存在を抹消してほしい。」
慶は思わずその言葉に疑いを持つ。
存在を抹消?
「ちょっ…と!待ってくれ!
存在を消すって…どういうことだよ…?」
するとツキネは立ち上がり
青龍刀を手に持ち語り始める。
今回山城慶を元いた世界から切り抜き呼んだのは
アナスタシオスを殺すためにその協力をお願いするために
呼んだということをツキネは語った。
「どうして反百鬼夜行派と百鬼夜行派が同盟を結んだのにも
関わらず互いを殺しあう真似をしたのか。
そしてタイミング良く陰陽道までもがその戦いに参戦したのか。
少なくともアナスタシオスがあの世界に行くまでは
こういうことは起こらなかっただろう。」
あの世界…ツキネは常界つまり慶のいた世界について喋っている。
でも何故だろうか、今の口調だとどうしても気にかかるところが
慶にはあった。
「あの世界に行くまでは…?もしかして…あんた…」
ツキネは下を俯きその態度が肯定を表していることの事実に
慶はわなわなと震え歯ぎしりをする。
つまりツキネは常界に行くまでのアナスタシオスとの経緯を知っている。
そしてどうしてか常界に行ってしまったことも
すべて分かっていて話していたのだ。
憎しみなのか、その言葉を紡ごうとしたときツキネから口を開いた。
「ああ…そうだ。
私はアナスタシオスが君の世界へ行った経緯を知っている。
とはいえ当事者なのだが。……説明しよう。
わたしはアナスタシオスと戦い
同時に下界を狭間の世界へと変え世界から
アナスタシオスを追放した。
それですべて終わった気がしていた。
だがアナスタシオスは生きていた。
それも君のいた世界で暗躍の限りを尽くしてね。
わたしは…どうにかして奴を止めなければいけないと思った。
だから紗々やディオミスに何度もお願いをして
また黒鳥優破という男にもアナスタシオスの撃破を命じた…が
結果は分かっているだろう?」
紗々とディオミスは瀕死の重傷を負い、
運んだ現在も目を覚まさない。
"時間"が止まっているせいで目を覚まさないのかもしれない。
そして黒鳥優破も消えてここに戻ってすらいない。
「何度も命じてその度に世界は戦争という終着点に辿り着き
奴はゲラゲラと死体の道を踏んで歩いた。
私が赴けば早いと思うだろう?
だが私はここで"時間"を調整しなくてはいけない。
この世界にいながらじゃないと無理だということは知っているのでね。
そして当たったんだ大きな壁に。」
アナスタシオスのスキル"復活者"は二度目以降に
使う際には生きている生命であれば何でも吸収して
生きられるというもの。これは青龍刀でさえも貫けない。
そして大きな壁にツキネ達は当たった。
それこそ"復活者"を使う前のアナスタシオスに
直接青龍刀で殺さなければならない、ということだったのだ。
「過去には行けずとも年代はこちらで調整すれば
その時代に転生できる。
だがどうやってもアナスタシオスは現れず戦えず
同じ運命を世界線は辿ってしまう。
元々これは私がやってしまった罪であり罰だ。
死をこのまま受け入れるというならばそうしよう。
だがそれでは奴が生きたまま何度でも運命を狂わすだろう。
…こんな虫のいい話分かってる。
でも君にこの件を解決してほしいんだ。」
確かに虫が良すぎる。なんで僕なんだ?という疑問は拭えない。
だがそれに似合う答えはツキネ自身が語った。
「君には前世、前のいた世界に対して果敢に抗っているのを
見つけてね。君になら任せられると思ったのだよ。
それに君は陰陽師と妖怪の間に属する、いわば両刀使い。
どちらにでも属せるしそして力をつけれる。
それなら君が一番いいと思った…
まあ結局は押し付けだ、私のただのね。」
慶の母がどれだけ偉大なのか慶自身は知らない。
慶の父であり陰陽道の総大将である山城源代は何も言わなかった。
だが世界を束ね監視し"時間"を調整するツキネは分かっていた。
まあだからと言ってその答えを口にするほど馬鹿ではないのだが。
「…それが僕を推す理由…?」
「ああ、たったそれだけだ。
でもそれだけでも君に任せられると思っている。」
慶は自分がどれだけの力を有しているのか
それは分からない。
虫が良すぎてそしてその役目が自分にしかできない。
考える時間をゆっくり取れるほどの時間は無いだろう。
ならば覚悟を決めるか…?
慶は自分を疑う。
本当にそれで良いのか。
慶は任せられる、だとか
一番いいだとか誉め言葉に興味惹かれたわけじゃない。
そこまで単純ではない。
慶は考えた。
無理して涙までこらえて。
本当は今すぐにでもここから抜け出したい。
銀次郎に会いたい。
由理に会いたい。
孕子に会いたい。
美世に会いたい。
獅神さんにも南海にも緊那羅さまにも。
良いから誰でも良い。
会っておかえりなさいって言ってもらいたい。
でもそう思うのはただの逃げなんじゃないのか?
僕の前にいる神様はその終焉ってやつに
囚われているわけでも無さそうだった。
囚われているなら聞く前に
もうすでに消しているはずだから。
それに。本音はある。
やめたい、やりたくない、やる気なんて出ない。
「もしも…僕が外れてパズルの1ピースになったら
僕はどうなる?アナスタシオスの存在を消せばどうなる?」
「…どこかの世界線にそのピースを上書きする。
そうすれば元いた世界とは少し違うかもしれないが
少なくとも誰かが書けたりするような世界にはならない。
それだけは保証しよう。」
一呼吸おいて慶はつぶやく。
「世界線が一緒ってことはアナスタシオスはまた
僕の友人や恋人、無関係な人たちまで消しかけるだろう。
なら僕はそれを止めてみんなと一緒に平和に暮らす。
それが夢だったしな。分かった。……やるよ」
決断は早かったか?
いいや。
だって僕は、山城慶はそんな本音と建て前で
生きてきた奴じゃない。
いつだって全力で最善を尽くしてここまで来た。
ならこの次だってそれをやるだけだ。
頭の回転が追いついていないわけではない。
でも何故か決断は早かった。
早いなりに理由はある。
一つじゃない、無数に。
大好きな友を守るためにも。
美世、ごめん。
生きてると思って僕は胸の中で
君にメッセージを送ってる。
届くかはわからない。
でもいつかまた君に会えると信じて、
君にもう一度"愛してる"を言うために
僕は前に進むよ。
「やってやるよ…ああ、やってやる。
勝ち取って絶対みんなを救う…!」
重厚感のある声が響く。
だがそれだけの誓いと決意と大きな想いがあった。
ツキネは柔らかく微笑むと
「ありがとう。」
そう呟き涙を流した。




