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僕と妖怪少女と常日頃 Re:salvation  作者: 工藤将太
第1章【百鬼夜行所属の世界】
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第1章44話 「進退両難」

慶と銀次郎、そして今さらになって静かに動き出した由理。

物語は遂に終盤を迎えます。

立ち尽くした慶に戦う意思はなく

銀次郎おれをただただ見下ろしていた。

何も言わず何も語らず何も思わなかったのか。

一瞬目をつむるとどこからか聞こえてきた轟音に

耳と目をその方に向かせる。


「…?」


「…さ……紗々さんとあの男が戦ってるのかもしれない。

 ここに来る前に紗々さんとディオミスっていう奴と会って

 戦ったんだ。」


「紗々さんとディオミス…さん?」


確かすらりと高い身長に黒縁のメガネの好青年。

紗々さんの旧友と聞いたな、と慶は思い出す。

またそれを銀次郎にも話すと


「…ディオミスってやつと戦った時

 アナスタシオスと同じことを言ってた。

 "不老不死を信じるか信じないか"

 あとは…そうだな。

 ツキネってやつのことも言ってた気がする。」


その二つを聞いて慶も銀次郎同様の驚きを見せた。

眉が上がりそれはどういうことなのか?

と言わんばかりの構えを見せた。


「……慶。

 俺はお前に殺されることが…今の……希望だ。

 だけどそれが出来ないなら頼みがある。

 紗々さんは絶対アイツと戦うだろうしそのために

 ここに来たんじゃないかって思う。

 だから……手伝ってアイツを、

 アナスタシオスを殺してくれ…!」


その言葉には慶はうんとは言わず何か思いつめた

表情で頷き轟音のする方向へと足を進めて

小さい声で"無事でいろよ"とだけ呟いて颯爽と走り駆けたのだった。

そんな慶を見送ると後ろの邪悪な何かに対して

蒼くなった目と九本の尾を構える。


「…お前は何者だ…?」


獅子口の能面の中は笑い目にも留まらない速さで

銀次郎を斬りかかる。

斑模様の刀身は九尾を貫き銀次郎の首すれすれに掠り

銀次郎の後ろにあった大木の肌を露出させる。

だが刀身に一切の傷は見受けられなかった。

それほどまでに美しく切れ味が良いと見えた。

銀次郎はへらへらとした独り言を呟く能面に対して

九本の尾のうち三本を能面の立つ地に向け突き刺し

残り六本を本体の四肢に対して過敏に尋常に反応していく。

九つの触手がまるで一匹の餌を前に四苦八苦している。

それが今他者から見て感じ取れることだろう。

それほどまでに優勢を見せた銀次郎だったが

すぐにそれは劣勢へと変わる。

六本のうち二本が能面の腹を円形状に抉り出すも

能面の中は吐血し倒れそうになるもまだ笑っている。

そして。


「なっ…?!」


地面に突き刺していた三本の尾がその倒れそうになる能面が

持っていた刀で切断し尾は血をあげる。

痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い

痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い

痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い

痛い痛い痛い痛い……でも、まだ六つある…!


(痛くて痛くて痛くて痛くて苦しい。

 でもまだ勝たなくちゃいけない。)


どうして?どうしてって…。

いや考えるのは止そう。



"今は六つの尾で確実に相手の意識を打ちのめすことだけを考えろ。"



正直戦わず殺されてもいい。

それで苦しみから解放されるのなら。

でも心に何故か引っかかっているものがある。

必死に戦いながら能面の中身を探るように残りのぶき

必死に必死に考える。

考えては頭を止めて

思考を停止して攻撃は止めず防御はするな

破壊やれ破損やれ看破やれ打破やれ破れ(やれ)

相手の意識を穿つことだけに集中して

でもなんでだ?なんで俺こんなに


「生きたいって思ってるんだよ…」


死にたかった。

なんでって?だって放っておけば俺の意識は

深い水の底に落ちて消えてなくなってしまうから。

だからって死ねば確実に今死ねば、

みんなに迷惑がかかる。

それだけは嫌だ。


「神様…俺はいったいどこで誤ったんだ?」


『それは…神のみぞ知る、ってね。

 ちぇっくめいと♪』


いつの間にか背後を取られた俺は悲鳴を上げることなく

呆然とした意識の中で九本の尾をすべて

能面によって屠られていた。

すべての攻撃もすべての手段も無理だったわけだ。


「…」


『ねぇ死にたかったんでしょ?銀次郎くん??』


「…ああ…やっと理解した。

 その声……由理か。」


歪な二人は目を合わせる。

だが能面は素顔を出さない。

さらけ出すことなく刀を首に押し付けている。

少しでも妙に下手に動けば死ぬ。

確実に首が取れて死ぬ。

…。


『なんで死にたいって思ってたやつが

 泣いてんのよ…?』


「…ごめん……本当は生きたかったんだよ」


『なんで生きたかったの?』


「みん…なと平和に……暮らしたか…った」


『それは生きたいという理由じゃない。

 私的にはそう思う、それは理由じゃなくこじつけよ

 私が生きる理由はその生きる目的と

 生きた証を残すためだから。』


「……それぞれ…ある……んだ……よ」


銀次郎はひゅーひゅーと虫の息であることを

確認した能面は静かに能面を外して呟いた。


「……そう。

 それがあなたが生きたいと思わせた理由で

 今まさにその姿が証になるのかもね。」


銀次郎がそれを聞くと何か不安が拭われたのか

安心しきった様子で吐血しながら由理の方へ向く。

抵抗する気もないか、と由理はそう感じていた。


「…お、れは…かっこうわりぃけど…生きたぜ。

 慶、詩織、そして由理。」


「……ええ、良い死にざまだわ。」


そう白銀の狐は静かに息を引き取った。

いつの間にか蒼くなっていた模様もなくなり

綺麗な白銀の姿を晒すのであった。







綺麗な死にざまを拝み慶の向かった方向へと

足を進めようとしたとき

息が白くなるほどの異常な温度変化に由理は異変を感じる。

そして能面を被り刀を手に構えようとしたとき

応急処置で直したはずの腹部に何か違和感を感じ

触るとぬめりとした生暖かいものが溢れていることに気が付く。


「は?」


血だった。

先ほどの戦いで止血したはずの傷から血があふれ出ている。

激しい運動はしていない。だがその原因もすぐ理解する。

元々この戦い、戦争は陰陽師と妖怪の争いであった。

今の時刻がどのようなものかは知らない。

だが仲間のほとんど、警備のほとんどは

偽物の大将が殺していた。

すべては戦争のために、そう黒鳥さんから伝えられていた。


じゃあそういえばその戦争っていつ始まるんだっけ?


と、いうか、いつ始まってるっけ?


何かのピースが当てはまり由理は逃げようと交代するが

そう決断したときには遅かった。

一本の槍がすでに突き刺さっていたからだ。

幻影か何かの一種で見えなくなっていたのだろう。

だが見えたということは。


「……ははっ」


由理を囲む白い、顔の見えないフードコートの複数の陰陽師によって

一斉に槍で足や腕や頭を一突きにされ由理は死んだ。



語源:進退両難

進むことも退くこともできない困難な状態のこと

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