第1章4話 「吸血鬼の嫉妬」
釈明しよう。
自分はともかくとしてあのときの行動は確かに倫理に反し
欠けるものがあったんだと。
確かに俺、慶はこの頃ついてない。
詩織の頼み事から始まり仮部屋…つまり今住んでいる部屋以外で
美世に俺の血を吸わせてしまい、
よもや見つかってしまうなどとは。
まあこれは思わず吸わせてしまった俺が馬鹿であり
そして思わず起こってしまった事態だろう。
だからといって、すべてがすべて俺は悪くはない、と考える。
吸わせろと言ったのは美世なのだから。
俺は止めろ、と言ったはずが
まさかこんな結果になるなんては思わなかったし、
そしてその理由説明としてファミレスで飯を
奢りながら説明するとは………
災難というより俺はその被害者。
元々はあいつ……美世が悪い―――
「煩いわ!」
ゴスッ
「痛ぇ!何すんだ!美世!!!」
「慶ちゃんが悪いんだからね!
こんなことになったのは!」
「はぁ?!ふざけんな!俺は言われたから
そうしただけで別に俺に責任は―――止めろ!
フォークはケーキに使うものだ!
突き刺すのは―っ!!!」
「あのう……良いですか?」
と俺と美世が争っているとその仲介に入る香山由理。
それに2人は素に戻り謝る。
「「ん?……あ、ごめん。」」
「あの……あまり信じ切ってはいないんですけど……。
峰崎さんはその…吸血鬼?ってことで良いんですか?」
その応対にあからさまに不機嫌になった美世は
由理を見ながらぼそぼそと呟く。
「まーだ……疑うの?香山さーん」
「いやぁ……だっていきなりだったから……。」
と、受け答えはしっかりとはしないものの普段の常識に当てはめたら
当然出てくる返しにまたぶーぶー駄々をこねるように不機嫌になる
美世に由理も慶も溜め息をつくばかりだった。
由理の溜め息は確かに常識とは相いれない存在だから受け入れられない
どこぞのファンタジーじゃあるまいし……といった感じだ。
だが慶は違う。
由理の困ったような疑うような目は俺に向けられる。
確かに疑わしいことだが【峰崎美世は吸血鬼】
つまり妖怪だ。
信じられないのは分かる。
主に小説などで見かける吸血鬼、それが目の前にいるといっても
信じる方がどうかしてる。まあその身にいきなり置かれた奴なら
そう感じるんだろうが。
―――まぁ、俺はそんな環境にいたからこそ
この状況、違う妖怪が出たとしてもあまり驚かないのだが。
「じゃあ、どうやったら信じてくれる?」
「ええ……そんなの私も知りたいですよ」
「てか香山さんは慶ちゃんの何なの?」
「もう、止めとけ。面倒臭くなる。
うーんと……由理さん?一応言うが俺と美世があそこに
いたのはこいつが―――"血"を欲してたからなんだよ」
タイミングの悪いことになっ、と美世の髪を掴む。
掴むというよりは、手をのせるか。
「『早く血を吸わせて、お願い!』
とまぁこんな感じでなぁ。」
と手を合わせ、お願いします!のポーズをするも、
美世は少し不機嫌な顔になっている、その時。
俺の携帯が鳴った。
タッチして見るとそこには電話したかった相手がいた。
丁度良い、外の空気を欲してたところだった。
「すまん、席を外す。」
「ええー……もう。」
と、美世が俺に言った。
俺はそれを見やってから少し笑う由理を見る。
まさか…いやそれは無い。
あのときみたいに堕天するような事態には…
あのときにみたいにすべてを改ざんするようになることはない。
決してやってはならない。
考えているとファミレスの外に着きそこで
その主の電話をもう一度かけ始めた。
「もしもし、銀次郎か?」
『やぁ慶。今後について話があるんだけど……』
「……ああ。…了解した。じゃあ―」
少し軽い長話を慶は話の相手、"銀次郎"という男と始めた。
そしてそれは今後の運命を左右する
大事な会議の場所や内容についてだった。
一方で不安と焦燥が漂う空間、女子2人らは
「あのう……怒ってます?」
「んん?別にー。怒るというかまぁ私の不手際もあるんだけど……
早く信じてくれないと終わらない話なんだよねこれ。
どうなの?香山さん??」
「えぇー……いやぁ。どうと、言われましても。
信じられないとしか。だって吸血鬼ですよ?
そんな与太話にしか出ないようなもの……。」
「そう。じゃあさ一旦……トイレ、行こう?」
「え?」
そこでの由理の嫌な予感は今にも当たりかけていた。