第1章34話 「0の世界:黒鳥優破の最期」
カラスは必死に逃げる。
もう冷たくなった最愛の人を腕にかかえ走る。
側近としてパートナーとして天谷柚子は良き隣人だった。
攻撃の支援を主に行ってもらいそして俺が狩る。
そうして紡いできた日々だった。
だがそんな日々も通り過ぎ柚子は透を好きになり
自分とは関係性も大幅に開いていつしか上司と部下になった。
(次の戦いで私はこの職務を全うし、やめます。)
透と真剣に恋をするとそう告げてきた。
俺は内心唇をかみしめながらも二人を祝った。
(おめでとう…良きパートナーだった)
「嘘ですよね」
「っ!!!!」
雨が降ってきた中優破は立ち止まり前を見る。
重々しい光をバックに眼鏡をかける
好青年はこちらを見やっている。
すらりと高い身長、そして黒縁のメガネ。
常に敬語のような相手を見下しているのかいないのか
それが分からない口調で話す男。
優破はそう解釈していた。
「なんで…あいつの側近がここに…」
「もう"ツキネ様"とは言わないのですね。
残念です…あなたを」
失くしてしまうなんて、と自分の背丈ほどの
長く鋭利な鎌を取り出す。
「私は…ツキネ様のような"取って食う"より
"取られそうになったら食う"派です。
ツキネ様の従者として、また一介の死神としてあなたを
規約により殺します―つきましては」
「ごちゃごちゃうるせぇ!!!」
優破は相対するディオミスを相手に
身体の羽を硬化させて黒く染まった身体で殴り掛かる。
柚子は相対した路地の上で寝かしつけるように置いている。
「妖怪"装甲変化 哭の手"!!」
「何とも厨二らしい。
良いですか―"技"というのは名乗り、出すものではない。」
と身体の黒い装甲の右手をディオミスは受け止め
反時計回りに右腕を270°捻り、
身体を床に叩き付け腹を右足で踏みつぶす。
口からいろんなものを吐き出しながらもディオミスは続ける。
ただ一言。
「汚い」
捻った右腕をそのまま脱臼させ引き千切る。
路地裏では反響するほどの悲鳴が木霊するが
ディオミスはそれでも続ける。
「ああ汚い」
引き千切られた部分に鎌を突き立て
左腕も270°時計回りに捻り腹を右足で踏みつぶしながら
脱臼させて後引き千切る。
またしても反響する悲鳴、だが助けは来ない。
「カラスは綺麗好き、とどこかで聞いた気はしましたが
そんな"気"がしただけですか。
あなたは本当に醜い。
私は眼鏡を外すとですね…心が可視化して見えるのですよ。
だから今あなたの心が本当に醜い。
こんなことになってもずっと保身だけ。」
ひゅーひゅー言う優破に
ディオミスは冷たい視線を向ける。
それだけ醜い感情が渦巻いて見えるからだ。
「"いつ逃げようか"」
「……や……ろ」
「"柚子はいいや"」
「…や…め……」
「"どうせ死んでるんだ"」
「やめ…ろ…」
「"死体を置いて逃げた方が助かりやすいだろう"」
「やめろ…!」
「"もう冷たくなった柚子を腕にかかえ走るなんてああ面倒くさい"
側近としてパートナーとして
天谷柚子は良き隣人で紡いできた日々だったのでしょう?
自分とは関係性も大幅に開いていつしか上司と部下、
正直あの男のどこがいいのか分からない。
へぇ…あなたはパートナーをなんと見ていたのでしょうかねぇ。」
「やめろやめろやめろ!!!!」
「答えは簡単ですよ。
天谷柚子をあなたはパートナーとして見ていない。
あなたはいつかなればいい性玩具として…
見ようとして自分で思い焦がれ自滅した、それだけのこと。
あなたのようなクズはアナスタシオスと同じだ。
では…本人に聞いてみましょうか」
と突き刺したまま天谷柚子に何か声をかける。
すると柚子はそのだらりとした姿かたちのまま
頭だけを黒鳥に向けた、そしてただひたすら目で見ている。
軽蔑、侮辱、貶め卑しむ。
生きた心地のしない目で柚子のようなものは
優破を見ていた。
優破は両手で赤ん坊のように丸まりそして懺悔する。
「許して許して許して許して許して許して」
懺悔は終わらない。
眼も終わらない。
ディオミスはそれを見て安堵する。
そして突き刺した鎌を抜く。
「あなたにはもう一生消えない呪いをつけました。
違う世界でも自分のものとしたとき、アナスタシオスのような
考えに至ったときにこの"幻覚"が見えるように。
…あなたの魂は確かに頂きましたよ…生魂をね。
では確かに貸した"青龍刀"は返してもらいます。
……天谷さんは…紗々さんに頼みますか。
では黒鳥さん、次の世界で会いましょう。」
死神は去った。
「そうそう放った最後に"技"は言うのですよ…名前をね。
まあ私の幻覚に名前など不要ですがね」




