第1章33話 「神は見る、牛耳る。」
「それよりもっ…だ!
俺たちはそのツキネとやらから解放されないのか?
お前の話だと俺たちはいわばそいつに行動を制限されているといっても
過言じゃないぞ?」
慶の言葉には嘘はない。
しかし審議を問うものがあった。
話を要約すれば"ツキネという神様が今まで出会ってきた不可解な謎に
関わった者であり、慶と銀次郎はその神様に命を助けられた"ということ。
優破も謎に思っている通りどうして慶と銀次郎を助けたのか。
それが今審議を問う問題であった。
しかし優破は何も答えない。
優破にはある癖があった。
考えを自問自答してから考えるということ、
その際自問自答の質問を口に出してしまうということだった。
しかし優破は何も答えない。
柚子にはそれが何の意味を指しているかを理解する。
「お兄ちゃん…ユウハさんはその答えを出せないのかもしれない…よ?」
「ああ?」
と怒り口調になるがすぐ平静を取り戻してどうしてかを尋ねる。
「だって…ねえユウハさん…?
分からないんでしょ…?」
「…」
優破は答えない、いや応えることができない。
何を言おうにもその先が優破には理解できないからだ。
優破は確かにツキネ様よりある指令のようなものを出されている。
しかしそれが何を意味するのか分からないのだ。
優破はやっとの思いでその続きを出そうとしたが。
それは失敗に終わる。
『申し上げます!!!』
突然開かれたこの場の誰かの部下によって。
「どうした?」
「黒鳥様…反鬼の者どもが次々と謀反を…!」
何?!と優破は立ち上がり驚きを見せる。
しかしそれだけでは終わらなかった。
「山城様、ならびに坂崎様!
至急百鬼夜行の会合にお集まりください!
緊急事態です…陰陽師がこの怪村に向かっているとの報告が…」
緊急事態、その言葉に慶や銀次郎は驚き立ち上がる。
その時だった。
『捕らえよ!』
その言葉と殺気に気付き優破は柚子を抱きしめて
後ろにジャンプする。
前方には槍を持った多くの百鬼が構えていた。
その中には夜叉もいた。
「これは…どういうことだ…?」
優破が呟く。
しかし構えられる槍は未だ優破を捉えていた。
夜叉は殺す気の眼で確かに答える。
「反鬼謀反のもと、百鬼夜行本拠地にいるすべての反鬼を
殺すことにしたのだ。これは総大将の言いつけであり
命令には従わなければいけない。
どうする?従うか?」
「…いや?そんなことになってるだなんてなぁ…
これもツキネ様の…予想通りていうわけなのか…」
と慶と銀次郎に目配せをして
柚子を抱きしめながらカラスの翼を広げる。
そして槍のある方向へと突進をして弓矢の矢を避け上へと飛翔する。
外はあいにくの曇天だったが構わず優破は飛び去る。
「追え!」
「夜叉様!俺たちは変化をして追います!」
と銀次郎が白銀の九尾の姿に、慶が鬼となって乗り
その後を飛び去るように追いかける。
夜叉はまかせた、とだけ言い追いかけようとはしない。
何度か飛んで追いかけるうちに本拠地のすぐの林にたどり着く。
するとやはりそこには優破と柚子がいた。
しかし柚子は泣き優破は唇をかみしめて憤っていた。
「これは…どういうことだ!!!?」
と優破は慶の胸ぐらを掴む。
その場の憤りではなさそうだった。
それは継続して起こる怒り。
ここに来る前に何かを見たようだった。
「な…何が…」
「みんな…みんな死んでた…透も…死んでた……」
柚子がそう呟き鼻をすすり泣く。
話では見覚えのある仲間やパートナーが串刺しにされ
死んでいたという。
謀反という名のもとすべての反鬼が処刑されていたという。
優破は握りこぶしを立て胸ぐらを掴んだ慶を殴ろうとする。
慶は唖然としていて何もしない。
それだけ驚愕だからだ。
柚子は殴りかかる手を止める。
「ユウハさん!やめてくださ―」
その時だった。
何か短く、長く重い音がその場を突き刺した。
『いたぞ!ヒットした!やった!!反鬼を…陰陽師に
この場所を伝えた裏切り者を殺せ!!!』
遠くからそんな歓喜の声。
紅い飛沫が慶と優破にかかる。
九尾から人間に戻った銀次郎が倒れた彼女を
抱きしめるがもうすでに
温かみは失われそうになっていた。
だらっと腕に力は入らずそれは表していた。
「どうして……!
…死ぬなぁぁぁああ!!!柚子!!!」
銀次郎の声に我に返る慶は自分の左半身にかかる
彼女のものに腰を抜かす。
嫌だやめてくれ俺はまたこうして罪を犯すのか。
そんな嘆きの声がついに慶の心を蝕みはじめた。
天谷柚子が死んだ。
「…あ…あああああああぁぁあぁぁぁああ!!!!!」
慶は叫ぶ。
しかしその声は彼女にも銀次郎を突き飛ばした彼にも届かない。
カラスは無言で涙を流しながらその場を飛び去った。
絶望が始まろうとしていた。
・
「お加減は良いのですか?…また彼らの心配ですか?
…はぁ…それではあなた様が先に逝ってしまいますよ?
"ツキネ様"?」
「ディオミス…山城慶はああ見えてまだ心は生きている。
だがあの願いを託した黒鳥優破はもう駄目だ。
アナスタシオスのように破壊の限りを尽くすだろう。
……駄目なのか?無理なのか?
幾多の人生を経験してきた。
だからこそあの世界は変わらなくちゃいけない。
私の願い…"絶対に戦争を起こさせるな"は駄目なのか?」
「ですからツキネ様…人間も妖怪も同じなのです。
幾万の罪を起こしていながら変わろうとしない。
あの天使と少年の時と同じように自滅で終わるだけですよ。
……では失礼しますね。」
「……峰崎紗々との約束は絶対だ。
私は…あの世界の戦争を止めなくてはいけない。」
「…ではこうしませんか?鬼と狐どちらが生き残るかで
その次の運命を任せるか…と。」
「…良いな。じゃあどちらかが生き残ったとき
私は最後の選択をするよ。
どちらも死んだときは…私は約束も何も守れない
役立たずの神様だと死を全うしよう。
ああ…また見なくてはいけないのか。
この世界何度目かの絶望の終わりを。」
一方である狐も動き出していた。
少し急展開でしょうか…まあやっと動き出します。




