第1章30話 「目覚めた日」
目覚めは上々。
ぽちゃぽちゃと滴る水の音
ひんやりと冷たい布が俺の頭に被さる。
気持ちいい……って。
「うっ……痛ててて…あれ?」
起き上がれない。
何か重石が乗っかったような。
いやいや乗っかってないのに
なんだこの重圧感は。
身体か?と俺山城慶は辺りを見渡す。
障子が開いた庭先で浴衣姿の彼女は
花に水をやっていた。
「ふんふふーん♪
あ!目覚めたの?!慶ちゃん!!!」
とその庭先から一直線で飛びかかる
峰崎美世は俺の身体を更に重くした。
ぐへっという音ともに懐かしい声が。
「堂々イチャコラやってんじゃねぇぞコルァ」
「あ!銀次郎!無事甦ってて良かっ痛ててて…」
なんだこのずっしり感は。
「初めて妖怪になった証拠だ。
半妖ではまだあるけれど筋肉が倍ついたんだ。
それに伴う筋肉痛は凄まじいだろ。」
そんな難しい話…
でも分かる気がする。
今まで以上に拳に力が入る。
「まぁ?
起き上がれない分幸せなことがあるだろ。
存分にイチャコラしてろリア充さん?」
と立ち去ろうとする銀次郎。
俺は気には止めておかなかった。
「お前には詩織がいるだろ!」
「……ああ!」
沈黙が怪しいなぁと思いつつ天井を見る。
さっきから横で抱きつく美世に聞く。
「なぁ美世、俺が寝てから何日経った?」
「えへへ…んー?1ヶ月だよ?」
「1ヶ月?!嘘だろ……そんな日数……はぁ…」
身体がガチガチになるだろっての。
さて俺が鬼になって一か月経った。
黒鳥もとい美世の話ではアナスタシオスという男が
美世の身体に呪いをかけ銀次郎が殺し損ねた犯人。
…あの後俺は無意識化で鬼の蹄の中にある溜まった魂を
生贄に銀次郎を再び召喚することに成功した。
そしてあの瞬間で銀次郎はアナスタシオスに斬りかかり
殺そうと鬼の蹄で突き刺した。
しかし。
「刺した瞬間やつの身体は消えてさ…
蹄の中にもいないし…まったく振り出しに戻るだな。」
銀次郎は言うが
念のためにと鑑定のできる妖怪総出でこの騒動に関わった者すべての
健康状態を確かめたが異常はなし、呪いもなかったという。
実際のところ脅威は去った。
しかしそれどころじゃない問題も出ている。
一部の反百鬼夜行派が仲間に加わったという事実に
それの引き金になった陰陽師の再暗躍。
平和は長続きしないのかもな、と。
慶は今ある風景を楽しむのだった。
・
~道場~
弓を構え静かに矢を放つ。
中に打たれた円形の的は真っ二つに割れ落ちた。
それを拾おうと駆け寄ると、
「おじょーさん?今日もやってるね」
と銀次郎が天井から的を拾い
射撃主に渡す。
「こうやって会うのは久しぶりだな香山」
「慶のおかげで生き返れたんだね。銀次郎」
袴を着た香山由理がそこにはいた。
・
「へぇ……最終的には自分が
どんな妖怪かは分からないんだ。」
と銀次郎は床間であぐらをかきながら酒を飲む。
まだ20ではないけれど妖怪には関係ない。
「そうなんだ。
魂を吸収する……夢魔じゃないかとも言われてるよ。
でもそんなこと分からないし、
慶同様まだ自分を人間だって思ってるからさ、
あはは……はぁ……ねぇ銀次郎、」
「んー?」
「詩織さん…捕らえられたんだって?」
酒を飲むのをやめた銀髪狐は立ち上がった。
そしてコクリと頷いた。
「俺が死んでから何があったのか…
反百鬼夜行に行っちまってさ。
最近捕らえられたんだけど解放はされないそうだ。
理由はよく分からんがな…」
「……。」
飲んだ盃を置き銀次郎は立ち上がった。
「まぁ俺も助けれるように
なんとか頑張るつもりだよ。
……じゃあ俺は慶に会ってくる。
俺の勘が正しければもう…すぐだな。」
意味深なことを言って銀次郎は立ち去った。
香山はぎこちない笑顔で見送った。
「……慶……かぁ…私…会う義理あるの…かな?」
慶が鬼になり
銀次郎が死ぬことになったのは私が原因だ。
と由理は自分を責め一人うずくまり泣いた。
・
「で、なんだ銀次郎」
なんとか少し立てるようになったものの
ふらつきながら銀次郎に話しかける。
一応布団の上に座っている。
「俺の勘が正しければもうすぐだ。
慶、俺と朝暮町に来てくれ。」
平和はまたしても崩れることとなる。




