第1章29話 「狂人との対峙(Part.1)」
美世を探しに山城慶は願いの森へと急いだ。
途中駄目だと、危険だと獅神さんや他の妖怪に阻まれたが
止める足などなく。
ひたすら無我夢中でその森へと急いだ。
足を止め着いたその目の先を見た。
大きな緑と黄色に光る大樹が生えた場所で
わさわさとした妖気がそこら中を飛び回るほど
その場の空気が濃かった。
乗り物酔いでもしそうなそんな気がした。
奥に上を見上げ手を胸に握りしめまるで、
天使のように願う少女がそこにあった。
間違いない、美世だ。と名を叫ぶ。
気付いた少女は振り向き口を動かした。
微かだが確かにそれを言っていた。
助けて、と。
そのときだ。
慶は上、天を見上げた。
淡い青色の夜空に黄色の点々とした星が光る中
赤い赤い稲妻と凄まじいビリビリという
音ともに慶の目の前にそれが落ちた。
奥の少女は倒れていた。
意識を無くしたような感じで
苦しく喘ぐように体を曲げている。
慶はその娘を救うために
反射的に体を前に倒すようにして走ろうとした
はずだった。
「そう。筈なんだよ。
仮定法だ。仮定はただの仮の定理に過ぎない。
いつも結論が出てハッピーエンドになるなんて
そんな数学の証明のように簡単じゃない。
現実は仮定すらも意図も簡単に壊せちまうからな。
山城慶、お前は人間から妖怪になって
また俺はこの美世おんなを殺して生き返ったのさ。
さてこれがお前には証明出来たかな?
ハッハハハハハハハハハ!!!!」
狂人の演説は続く。
美世の身体…背中からそれはずるりと姿を現していた。
彼女の意識はない。
「死んだって別に良いじゃないか。
それまでの運命だったってことにしときゃさ。
犬とか動物の死体に可哀想とか言ったら
幽霊とかなんかが自分についてくるって、
そうならないためにそれがお前の運命だったって。
言わなきゃ駄目なんだぜ?
だからよ俺はこう言うんだよ。
俺のためにしっかり働いて良かったでちゅね、
吸血鬼の美世ちゃんっ?てな。」
「てめぇ……!!!!!!!」
あと少しだったのに。
あと少しで助けれたのに。
「久しぶりの身体だ……ってなんだこれ?
胸あるし筋肉は昔よりねぇし…女?!
呪いの副作用かっての。まぁ力はあるから良いか。」
こうなったら、
「黙ってないでよ……あ!そうだ!
お前なら許して良いからこの女…」
イヒヒヒヒヒと笑う狂人
「好きだったんだろ?なら俺を犯して殺せば
二度の快楽を味わえるぜ!
一度は殺しの、二度は性の快楽さ!!!
あはっ…あはははは!!!!」
と倒れた美世に指をさす。
乗っ取られたわけではなく魂を奪われ
身体をコピーされただけ、だから身体は存在する。
だが今の俺には関係ない。
いつも以上の力を。
妖怪の完全変化へと姿を変えるだけだ。
前に一度孕子に言われたことがある。
完全変化をしたときの大半の妖怪が自我を失うって。
でもそれも関係ない。
俺はただあれを殺すだけだ……!!!
「反応がねぇならこっちから行くぜ、山城慶!」
(来い…鬼よ…完全変化)
目が赤く光りまた
それが黒く目の色が暗くなり
慶の意識は消える。
・
(最後のトリガーなら用意してある。)
そう美世は呟いた。
これは昔の話。
死ぬときについて話していた香山とああなる前の
教室で話し合った際の会話。
(トリガー?なんだ?)
(私は吸血鬼は二度死ぬの。
一度目は死んで二度目に本当の吸血鬼になって
甦るの。甦ったらもう日光とか浴びたら死んじゃう
身体になっちゃうけどね。)
(えー…ある意味不死身じゃねぇか。)
(慶は?)
(うーん……妖怪じゃねぇからな
…まぁぼちぼち良いことして死にてぇな。)
・
……。
あ…れ……私……いつのまに寝たの?
てかここどこ…あ…そっか願いの森。
あいつは?
あれ?
いない?
てか私なんでこんなに爪も歯も長い…の?
……あそこに…いるのは……鬼?
慶…なの?
『ウォガガァァァァァァ!!!!!』
あそこに、いる女の子はあいつ?
……駄目。
あいつは……アナスタシオスは……
慶……だめ……駄目…!
吐血し涙も血となったアナスタシオスは逃げようと
戦いを放棄するかのように
また慶は思うままに腕を鳴らしていた。
駄目。これじゃあ慶が元に……もう人間で…
人でなくなる…!
『ウォガガァァァァァァ!!!!』
『やっ…め……!』
「やめてぇ!!!」
『ウォガガァァァァぁぁぁぁ……あ……あ……?」
「もうやめて…もう!」
「………み……よ…」
バサリという音とともに慶は倒れた。
美世が駆け付けて介抱する。
美世も安堵した顔を浮かべ慶を抱きしめ眠った。
でもこれじゃあ
「なんだよ…これじゃあ……俺は死ぬことも
出来ないじゃねぇか。
こんなことで戦いやめられた俺の身にも…
なってみろよ……!!!!!」
アナスタシオスは慶の鬼の蹄を抜き取り
抱きしめあう二人に向かいなおり血で染まった
目でその刀身をあげた。
「死ねぇぇぇぇぇ!!!!」
キィィィィィンン!!!!
「残念ながら死ぬのはてめぇのほうだ。
前負けた分お前に返してやる。」
後ろ背に刀を入れた青年は
アナスタシオスが倒れた後で声をあげた。
「まったく……無茶させやがって。
蹄で蘇ったはいいが死んだら元もこうもねぇだろ?
なぁ?慶くん?」
白い銀髪の九尾は刀を納めた。
語源:アナスタシオス
ギリシャ語で復活を意味する




