第1章27話 「剣に宿りし者」
剣に生きる者、剣に死ぬ者はそれを見る。
剣の中に宿る小さき魂を、
さぁ目覚めよ炎の魂よ。
(ここは……どこだ?)
汽車内にて孕子と慶は向かい合って座っていた。
孕子も慶も正装、動きやすい百鬼夜行の
派閥を示す制服のようなものを着ていた。
行先は日本のある山奥。
利用しているのはほとんどが妖気を隠したり
化けたりしているが妖怪だ。
「-…聞いてる?慶。」
と坂崎孕子がそう俺に聞いた。
あれ……俺は何を考えてたんだ…?
思い出せない…
「ちょっと!むむむ…」
「ごめん。」
とため息まじりで言葉を吐く。
とその時、乗っている汽車の中に
異変があると気付く。
汽車が曲がって-……ぇ?
「もう…次は-…」
くるくると視界が歪みぐらりと俺は
孕子の前に倒れるようにして気を失った。
「え……けっ…慶?!」
意識が遠退いて行くとき俺は
不意にも左手に鬼の蹄を持っていた。
・
「うっ………ここは……?」
辺りは何もなく白い。
ただただ白い。何もない。
一瞬誰なのか忘れそうになる感覚が伴い
俺は自分に言い聞かせた。
「俺は俺。山城慶-…」
とそのとき何かが背中を走った。
悪寒?違う。これは………
と後ろを向くとそこには
見覚えのある姿が。
「あんたは……あんときの蜘蛛……?」
結城と一緒に倒したはずの鋼蜘蛛。
なぜここに?あいつは倒したはずだ。
(命……イノチ……)
とそれは黒い手を伸ばして俺をつかもうとする。
するとそれの後ろが黒い闇に覆われる。
「なっ……!」
訳が分からない。
でもこれだけは言える。
闇に、呑まれたら死ぬ。
そう感じ取れるような深い深い闇。
逃げようとしたとき躓き足首が捕らえられる。
闇はにぃっと笑い引きこもうとする。
そうだ。鬼の蹄。あれがあれば。
と左手を見たが何もない。
あるのは空気だけ………?
(もうやめろ!)
と懐かしい声が闇を遮る。
そして闇はたちまち消滅した。
「……あ……ああ………え……」
全身は裸だ。だが白装束で頭からは狐耳。
背中のお尻部分には白い大きな尻尾。
そして俺くらいの身長。
(よう。慶。)
「………え、………ぎっ」
嘘だ。
「銀次郎………?」
久しぶりにあうその友の姿がそこにはあった。
・
黒鳥によって殺されたはずの銀次郎がそこにはいた。
「なっ……何で……?」
(それはこっちも聞きたいな。
まずこっちから喋るか。ここは鬼の蹄の精神の中。
鬼の蹄によって斬られた魂が集う空間だ。)
精神?
鬼の蹄?
空間?
やばい。
頭が混乱していく。
鬼の蹄によって斬られたというのは
どういうことだ?
「斬られた……?いやだってお前は黒鳥に………!」
(埋葬の儀式。
俺ら妖怪の中に命を落とす者を弔うものだ。
それは代々鬼の蹄によって斬り骨以外の肉体と魂を
すべて吸収する。多分俺もそうなったから…ここにいるのかもな。)
ということは……鬼の蹄は死んだ妖怪100体で
鬼の蹄によって斬られた妖怪1体を蘇らせるから…
このまま斬っていけば銀次郎は助かるということか!
「ってことはこのまま行けば銀次郎!お前は!」
(蘇生なんていらない。)
……
…………?
え…………?
「いやだって蘇生しないと、お前―…」
(だからいらないって言ってるだろ!)
と銀次郎は敵意むき出しで俺に殴りかかる。
が、銀次郎の姿は半透明でパンチどころか
呼吸や息すら当たらなかった。
(妖気が、ないから実体化できないんだよな。)
「銀次郎……くっ…………」
思わず下唇を噛み締める。
どうすれば、どうすれば銀次郎をここから…
(俺はただ能力と力が強いから
頼られてるだけにすぎない。
だってそうだろ?じゃないと…あの…俺が死ぬとき
皆は何で動かなかった?
どうすればいいって
俺に助けを求めたんじゃないのか?)
「……違う。」
(何が……何が違うって言うんだ!何が……)
俺は実体のない銀次郎の肩を持ち
銀次郎の目を見てゆっくりと続けた。
「確かに俺は自分の命を掛けてまで
香山を守れるかって思ったよ。
美世や孕子だってそうだ。
でも……銀次郎が命を掛けて改めて思ったんだ。
自分が動けるのに動かないと皆がって…だから次は俺の番だ。」
(お前だけじゃ無理だ……)
「俺だけじゃない。
孕子だって美世だって
香山だって獅神さんだってお前の帰りを待ってる。
皆がお前を、銀次郎が再び戻ることを
待ってるんだ。だから銀次郎……」
と俺は手を銀次郎にさし伸べす。
「一緒に戦おう。」
(………………ああ、わかった。一緒に戦おう。)
銀次郎の身体が赤く色付き
そして銀次郎を銀次郎の魂を包んで消えた。
・
「……い?…………け…ち…………慶!」
孕子の声で目が覚める。
そうだ。
俺は倒れて………
「いてて………ごめん」
と苦笑しながら起き上がる。
大丈夫?と孕子が声をかける。
俺はその返事だけに笑顔で
「ああ、大丈夫だ。」
と返した。
「本当に?もう……あ…見えてきたよ-…っ?!」
と窓を見て驚く孕子。
俺もその先を孕子を見やったのだが。
「どうした?孕こ…えっ」
俺の実妹、天谷柚子がいるとされる
反百鬼夜行の村(元百鬼夜行の村)が
赤オレンジ色の龍によって山が
焼き尽くされている光景がそこにはあった。




