第1章21話 「救出」
百鬼夜行本部では。
「ではまた頼むよ、ようこちゃん?」
とそれは私の下着を手渡し
一人、服に着替え去っていった。
腹の辺りが痒く、
キリキリと痛め付けるような
感覚が私を襲う。
慶はどうしているだろうか………
こんな私を見て彼は…。
2ヶ月前、彼が行方不明となったと聞き
私は希望を失った。
銀次郎も好きだった。
お兄ちゃんとして。
私も妹として大好きだった。
だけど慶だけは違った。
慶は昔から人間なのに
私は妖怪なのに
銀次郎みたく私を妹のように
可愛がってくれた。
そんな私は妹としてではなく、
いつの間にか一人の女として
振る舞ってたのかもしれない。
「あ……香美…。」
覚の妖怪、
上野香美は襖を開けて
私の裸を見て一瞬たじろいだが、
私は手招きをして中に入れた。
入ったところで私は服を着始めた。
「孕子……大丈夫?」
「ん?…もう普通になったからなぁ…」
「違う。……慶のこと。」
香美は覚というすべてを見透かす目を持ってる
ため隠し事はすべて見られてしまう。
わたしは包み隠さず言った。
「大丈夫………じゃないかな。
香美はこの気持ち分かるかな?
大事な人を…また亡くしてさ。
お姉ちゃんとかは皆居ないし。」
「孕子………慶くんのこと好き?」
「……黙っていてもバレちゃうもんね。
大好きだよ。結婚して結ばれたいくらい。
慶のことが大好き。でも……慶は…。」
「孕子。」
と、いつもは無口で控えめな香美が私の
肩を掴み言った。
「今日の会合まで3時間ある。
その3時間ここで過ごして。
奇跡はちゃんと起こるから。」
「………。」
私は只その言葉を受け流すことしか出来なかった。
言われた通り私は廊下の横にある庭で
着物を着ながらずっと待った。
だけど……もう1時間経ってて…誰一人来なかった。
「ははっ………やっぱり奇跡なんて
起こらないよね。
私は何もかも亡くした。
居場所なんてもんは…どこにも………」
「孕子。」
「え―………」
聞き覚えのある声が背に響く。
「久しぶり…かな?」
「けっ………い………。」
ぼろっと水の玉が溢れだす。
だが私は今になって自分の境遇を思い出した。
私の名前である孕子。
この本当の意味は私と性交した妖怪の子供を
私自身がその日のうちにお腹に宿してしまう。
つまり「孕む子供」=孕子なのだ。
銀次郎に隠してもらっていたが
この世から亡くなってしまったため、
この能力が明るみに出てしまったのだ。
その日からというもの私は緊那羅きんならの
幹部となったが、
慰安部という役目を負わされこの1年2ヶ月
休む暇もなく犯され続けた。
拒否権はあった。
だけど、そうすれば居場所が無くなると脅され
しぶしぶ役目を背負うことになったが…
実際居場所なんて無かった………。
「あっはは………慶じゃん。
どうしたの?行方不明って聞いたけど。」
目から溢れでる水は何故か抑えきれなかった。
「お前の境遇、夜叉様から聞いた。」
「え………」
衝撃だったがため私は足をふらせつかせた。
嫌われる。今度こそ亡くなる。
と思った瞬間………!
ぼふっという暖かみと温もりが同時に感じた。
慶が私を抱き締めたのだ。
そしてわなわなと肩を震わせ
「ごめんな……守れなくて…孕子……。」
「………そんなこと…………やだぁ…ずっと
我慢してたのに………本当に泣けてくるじゃ…
…ん……けい…!!!」
気付けば私は慶の胸の中でしがみつくように
服を濡らしていた。
わんわんと喚き散らせてただただ泣いた。
泣き終わり目が赤くなりながらも慶と向かい合う。
「服………濡らしちゃったね…ごめん。」
「もう大丈夫なのか?」
「うん平気………慶。」
私は廊下のところに座り、
慶も並んで座った。
慶は相も変わらず目は真剣に私を見ていた。
「なぁ、孕子。
お前確か幹部だったよな?」
「え………なんで―…」
知ってるの?と呟こうとした瞬間。
私にとっては都合の良くないことを耳にした。
「俺、夜叉様の幹部になったからさ。
だから―…」
と言った所で慶が立ち上がり
何もない廊下の奥に声を張り上げ、
鬼の蹄と書かれた刀を片手に
「おい!誰だ!」
「なんだよ………私はそこにいる孕子ちゃんに
用があるだけだよ………?」
「用かぁ………へぇ………―…。」
私は今少しゾッとした感覚に襲われた。
今慶が小声で何かを言ったからだ。
それに気付いた慶の目の前の幹部は
「あァ?何か言ったか?」
と、慶に掴みかかる。
いくら人間であっても敵わない相手だ。
だが、慶はふふんと鼻を鳴らした。
「本当のことを言っただけさ。
醜いなってな。」
「ンだと?!」
今にも殴りそうになった瞬間、
私には慶からは聞き慣れない言葉を聞いた。
「―…妖怪変化、鬼の目。」
ぶわっと慶の目が赤く光り、
とてつもない妖気を発した。
「まさか…この程度でビビってんじゃねぇよな?
幹部殿?」
「おっ………お前には用は無いんだ!
そこの孕子ちゃんゥだけに…!」
「孕子?」
と慶は私の手を持って立ち上がらせ、
ごめんな、と小声に私の唇を奪った。
ただのキスかと思っていたらディープだったため
私は足がすくみ、力が抜けその場にへたりこんだ。
「今は俺が貸し切りしてるからな。
邪魔はすんじゃねぇよ?
抱くのは俺だからな?」
「くっ………あっ、あとでね!」
と、そそくさと幹部は逃げていった。
「妖怪だったんだ…。」
「正確に言えばなっただな。
ふぅ………孕子…初キスはいつだ?」
顔を赤らめながら慶は言った。
でも逆に聞きたい、初キスはいつだ?と。
「今日だよ………キスは奪われないように
してたから。慶は?」
「き………」
「き?」
「今日。」
私は久しぶりに大いに笑った。
そうして1時間が経って会合が始まった。
「それでは会合を始める。
今日は新たな幹部を紹介する。
夜叉の元に就くことになった山城慶だ。」
ぬらりひょんの紹介で俺は正座をしながら礼をする。
実際行方不明になっていた者なので注目はされる。
そして遠い場所にいる孕子と目が合った。
「それではまず非協力となっている妖怪の件について―」
「ぬらりひょん様、
ここで提議して戴きたいことがあります。」
「おい!慶!!ここでの個人的な提議は今の
お前の地位を棚にあげることになるぞ?!」
「はい、それで構いません。」
「銀次郎との約束はどうする?!
銀次郎がお前に託した仲間を救うのでは
無かったのではないのか?!」
「坂崎孕子はその一人です。
ぬらりひょん様よろしいですか?」
ここまではOKだ。
ただ、ここからはぬらりひょんが
提議を許してくれればの話だ。
「面白い、よかろう。」
「はい。ではここからは私の提議を始めます。
先の私の失策により坂崎銀次郎を死に追いやり
峰崎美世、坂崎孕子、香山由理をそれぞれ
厳罰対象に追いやったことも確か。
ですがここから私のすべての権利を持ってそれを解消して頂きたい。」
「解消…カラスの呪いの者を解き放ち、
慰安婦部を消去、そして…牢獄から出すこと…か。
しかしそれでは慰安婦部の消去しか行えん。
それだけやるというのか?」
ぬらりひょんが答える。
それを背に激しく否定を繰り返すあいつら。
「いいえ、確かに。
それしかできません。
しかし、慰安婦部を除けば自ずとほかの選択肢は執り行えるというもの。
総大将、天竜八部衆、並びに幹部の皆さま。
坂崎孕子以外にも慰安婦を務めるものがございますが
別段無くてもよいのでは?と思いまして。
ここの紙には慰安婦を利用した者が明記されています。
はて…幹部の者はわずか3人しか利用されておりません。
3年もの間ではありませんでしたがその幹部を利用した者は
果たして腕前が上がったのでしょうか。
……総大将。
慰安婦部は今日を以て破棄として取り扱い
他の論争をしていただきたい。」
「他の論争となるとカラスの呪いの件と牢獄の件か。
……よかろう。今日を以てその盟約、慰安婦部は破棄とする。
して他の論争の対象はこれからのお前の動き次第になるからして…―」
と、いつの間にか論争が終わっていた。
ぼーっとする頭を前にそして
坂崎孕子の前にはあの3人が集まり囲っていた。
今この場にはほとんどが退席した
ため俺と孕子、あと4名しかいない。
「今日だけ今日だけ…か。」
俺は合図通り孕子を俺の後ろに下がらせる。
それも瞬間移動のごとく早く
代わりに残ったのは一緒に作戦を考えたあの少女。
「おじさんたち…反百鬼夜行なんだね」
覚であった。
・
「これは何かの間違いだ!離してくれ!!」
捕らえられた3人は慶によって切り殺されかねないような
覇気を背に訴えかけていた。
するといつからかいた、
ぬらりひょんは孕子のところまで歩き、
手を握りながら
「坂崎孕子。すまないことをしたのう。
元は慰安部は反百鬼夜行派だけを対象にしたもの。
彼らは本心を妖気で隠すでの…囮のようになってしまった。
すまない…わしの居ない間に出来てしもうて
わしも手に負えんかった。
この1年と2ヶ月辛かったであろう。
夜叉、鬼神。
リストに載っている者を追放せよ。
2度とこのようなことが起きぬよう。」
「「ははっ。」」
リストに載ってある者たちは追放され
孕子はもとの生活に、戻ることとなった。
「慶………ありがとね。」
「いいや。したいことをしたまでさ。」
「………好きだよ。」
不意に口から出てしまった。
「え?何か言った?」
だが聞き取られていない
ようで助かった。私は笑顔で何でもないと、
大好きな彼にそう呟いた。
「そういや今だから言えるけど子を孕むって…
そのあとどうなるん?」
孕子に対してそう慶は呟く。
「今だから言えるけど私実はまだ産めない体なの。
まだ10歳だし。孕むといっても拒めば
流産っていう形になるし」
それを聞いて慶は安堵する。
「そうか…それは良かった…え………10歳?」
と縁側に座っていた孕子に立ち上がって驚きを隠せない
慶に対して?マークを浮かべながら対応する。
「え?うん。11歳だよ?」
「俺、7歳年下にキスしたのか………」
その刹那孕子の顔がニヤリと悪い笑みが浮かばれる。
「ねぇねぇ、本当にキスってしたことなかったの?」
「は…?」
演技のない素の声に孕子はさらに言及する。
「美世ちゃんとはどこまで行ったの~?」
ここまでくると流石にやばいと
察知したのか孕子の手を振り切ろうと
慶は立ち上がる。
「逃げ―」
「どこに行くの?」
とニコッと笑う瞳には笑顔はなかった。




