第1章18話 「目覚め」
とぽとぽ………かこんっ
「うっ………ここは…和室?」
何があったのか状況が分からぬまま
俺、山城慶は辺りを見渡した。
どうやら寝てたらしく
和風ホテルにありそうな掛け布団、
桶に入った水とタオル、
高価そうな巻き絵に、
[天地鳴動]と書かれた書道の字。
俺は、でこにある水に少し濡れたタオルをどけ
ドア………いや襖ふすまを見る。
誰かが来たのかスススッと音を立て
襖は開かれた。
「そろそろだと思っていたんだ。
久々だな、山城。」
「夜叉さ…ん?」
「お前が熟睡してるなか色々あったんだ。
まぁ、あれから日数が経ってる訳だし…
さて、まずは総代将のところに行かねばな。」
「………えと…熟睡って何時間寝てました?」
「あ?あははは…数えたくねぇな。
24時間ちょっとじゃねぇし。」
「?………あの今って何月何日ですか?」
「敬老の日、9月16日。えと………西暦は…」
その西暦は俺が思っていた年月より3年上だった。
「―夜叉さん…僕を騙してるんですか?」
総代将のところへ行くために
廊下を渡り歩きながら俺は夜叉に話し掛けた。
だが、先程から一切無言状態で聞こうとしない。
少しふてくされながら
庭の生け花を見て歩いていたとき、
その生け花を丁寧に添えている少女がいた。
誰だろうと見ていると、それと目が合った。
「………けっ…慶……!!」
坂崎銀次郎の妹、坂崎孕子だった…のだが
俺を見てたじろぎすくんだような目で
こちらを軽蔑している。
失礼なやつだ。
近付こうとすると夜叉に肩を掴まれ
「今はやめとけ。事情を知らないお前でも
今近付けばこれから二度と近付けなくなるぞ。」
「はぁ?何言って…―」
と、言ってる後孕子は瞬間移動するかのように
生け花をしていたところから
廊下の離れたところに着地。
孕子は行ってしまった。
だがおかしい。
いつものあいつならそういう事が
一切出来ない。一体何故?
「行くぞ。」
「あ、銀次郎だ。」
俺は口からほろりと無意識に出た。
夜叉がものすごい剣幕で睨む。
「何を言ってる?早く行くぞ、たわけ者。」
「え?いやだってそこに………」
確かにそこに居たんだ。
あれ?今は、どこかに行ってしまったようだ。
と、思ってるうち総代将の前に着いた。
そういえば…
「銀次郎も、孕子もそうですけど、
美世や、由理はどこに居るんです?」
「失礼します。総代将連れてきました。」
話を聞かず、総代将の前に案内させられる。
総代将の横にいつの間にか
移動した銀次郎が立っている。
座れば良いのにと思いながら
俺は口にした。
「やっぱいるじゃないですか。
夜叉さん、そこに銀次郎が―」
俺はぬらりひょんの横を指さす。
「おほほ…山城、お前は気が狂ったか?
居ない妖怪を口にして何になるというのじゃ?」
「だってそこにいるじゃないですか。
総代将の横に―」
と、言った寸前
妖怪総代将ことぬらりひょんが目の前に現れ
たじろうこうとしたとき―!
「頭を掴まれるのは3年ぶりだったじゃか?
二回目じゃのう。一回目はあの鴉か。」
ザッパーンンンン!!!!!!!
俺は頭を掴まれそのまま庭の池に落とされた。
鯉はいなく、只只、冷たい。
その冷たさは色んな冷たさを表現した。
「ぶはっ………だっ…だってそこに…いる―」
「良い加減目を覚ませ!」
と、夜叉に池から引きずり出された挙げ句、
右頬を思いっきり殴られ、
俺は土と共に舞い上がり地面に叩きつけられる。
襟を掴まれ、放心状態となった俺を見て
怒号を飛ばす。
「居ない者を居る者として何になる!
坂崎銀次郎は死んだ!
もうこの世には居ない妖怪だ!
お前が見ているものはただの幻想だ!
もう一度見てみろ!居ないだろ―」
「うるせぇんだよ!
知ってるよ!銀次郎はあのとき死んだよ!!
胸から腹まで無惨にも斬られて死んだよ!!
でも………!
あのときの記憶が景色が、
あのときの目が、あのときの声が温かさと
消えたあとの冷たさがまだ…!
体に染み付いて、
消そうと思っても消えなくて……頭から…頭から………!」
『―………ごめんな。』
それは銀次郎の最期の言葉。
「………!!頭から離れないんだよぉぉぉぉぉ!!!!!!!
うわぁぁぁぁぁ!!!!!!!銀次郎ぉぉぉぉ!!!!!!!」
見ていた方向に銀次郎はいなく、
あったのは何の変哲もない空気、そのものだった。
「………夜叉……様。
どんな汚れ仕事でもなんでも良いです。
死んだ人間を救う方法があればお願いです。教えて―」
「お前が今やることは現実を見ることだ。
救う手立てなど………。」
「あるぞ?山城。」
「え…」
「ぬらりひょん様!あれは彼にやらせては
いけません!自分がどんな妖怪かも知らず!」
「良いであろう。山城、慶。
今、峰崎美世ならびに
香山由理はどうなってると思う?」
「え…どういうことですか?」
「峰崎美世はカラスの呪いにより、
香山由理は妖気吸収放出能力により
監禁されておる。
坂崎孕子は自身の本当の能力により、
まぁ、かごの中の鳥じゃの。
そこでだ。汚れ仕事でも構わないのじゃろ?」
「はい。俺のことはどうでも良い。
俺を犠牲にしてまでも救えるのなら…!」
ぬらりひょんは一枚の刀を俺に手渡した。
「これは…鬼の蹄…?」
「鬼の蹄は斬った妖怪100体とこの中に眠る妖怪1体を蘇らせる能力がある。
また50体に対してどんな呪いも解くことが出来る。
坂崎の死体はこの中にある。
やってもらいたいことはもう分かるな?
殺すのは反百鬼夜行派。
山城慶、妖怪を殺せ。」
それは殺された銀次郎の戒め、
いや復讐ともなる
妖怪を殺すことだった。
だが慶はゆっくりと呟いた。
「お願い致します。」
「よろしい、では渡そう。」
慶は、ぬらりひょんから鬼の蹄を手渡された。




