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プロローグ 〜旅の始まり〜

俺、近藤 翔太 は、高校三年の12月1日、センター試験まで1ヶ月弱のところで特殊能力を手に入れた。


【時間停止能力】


読んで字のごとく時間が止まる能力である。

きっかけはささいな日常の授業でのこと。

教師に隠れて水筒を傾けていたのが悪かった。

手が乾燥してすっぽ抜けた水筒。

だから、願った。


“時間よ止まれ!!”


正直、自分でもこんなことで最強の異能が発現すると思わなかった。

教壇の上で黒板に文字を書き(つら)ねる教師。

それを必死にノートに書き写す生徒。

はたまた、隠れて漫画を読みふける生徒。


周りを見ればそれら全てが『一切の停止』。


その時、ひどく混乱したが一時間かけて状況を把握した。

とりあえず、近くの女子のスカート中を見てみたが、罪悪感しか生まれてこなかった。

本当に罪悪感しか感じなかった。


「本当にすみませんでした。」


時間が停止してる中、その女子に向かって土下座をした。


その後、いったん時間を元の流れに戻して家に帰った。

時間は、「動け」と呟いたら動いた。


家に帰って時間を止めて1ヶ月弱この能力を研究した。


1、おそらく時間停止に制限はない。

現に、この1ヶ月ずっと停止し続けたままだ。


2、止まっている物体を動かしたり、壊したりすることは可能。

浮いてるボールを蹴っ飛ばし校舎の窓ガラスを割ってしまったことから確認済み。


3、コンセントからの電気は使えて水道水は使えない。

電気は回路の中で電流が流れる状態を保存しているから電気が使えるのだろう。

水道水は回路ではないから水が流れる状態を保存することはできないのだろう。


4、他人は時間停止中に意識が戻ることはない。

これはどうやってもできなかった。


以上。


一応受験生ということもありここから3ヶ月勉強した。

時間を動かして授業を聞いたら知ってること、わかっていることばかりで退屈になった。


二週間がたち、授業中だが時間停止能力を使った。

実は、時間をおいても能力が使えるかどうか試したかったこともあり二週間能力を使わなかったのだ。


無事に使えるようだ。

この能力、いつか消えるのだろうか。


教室は相も変わらず静か……


ガタンっ!!


時間が止まった世界で音が聞こえた。


聞こえたのは一番右の廊下側の席からで、俺とはちょうど(つい)になる席になる。

かなり驚いている。

何をしても人の意識を停止中に覚醒させることはできなかったからだ。

俺が顔を右に向けるとクラスメイトの女の子だった。


佐倉 優里

成績は普通。

運動神経、良。

容姿、美少女ではないがブスでもないから、良少女。

ちっこい、150cmぐらい。

結構、落ち着きない。


はたから見た俺の印象としてはこんなところである。

なぜ、彼女は動けるのか気になるところだが、向こうは混乱してるから、このまま気づかれないように観察することにする。


「あれ、なんでみんな止まってるの?これ、夢?…あ、ほっぺた痛い。え、じゃあ夢じゃない!?え、え、どうなってるの!?ねぇ、ねぇ、動いて!……ダメだ、誰も動かない。」


隣の女子の名前を必死に呼んでいた。

結構焦ってる。

廊下に出るみたいだ。


「誰かぁ!! 誰かいませんかぁ!!」


変わらず静かだ。

また、教室に戻ってきた。


「動け! 動け! 動けぇ!!…どうして、動かないの?ぐす…。動いてよぉ…。」


さすがに泣き始めた。

かわいそうだ。


「大丈夫か?」

「ふぇ? 近藤くん?」

「ふぇ、って……ぷふふ。」

「え、え、動けるの? 動けるの!?」

「はいはい、まずは落ち着こうね。はい、吸ってー、吐いてー、吸ってー、吐いてー。」

「スー…ハー…スー…ハー…」

「落ち着いたか?」

「う、うん、落ち着いたよ。」

「……落ち着けたのか…。すごい適応力だな…。」

「え?」

「なんでもない。」

「そう…。で、どうして動けてるの?」

「それはこっちのセリフだが。まぁ、そりゃ、俺が時間を止めたんだから動けて当然だろ。」

「え、どういうこと?」


俺は、全て包み隠さずここまでのことを説明した。なんとか、分かってくれたらしい。


「パンツ覗いたんだ。」


余計なことまで言ってしまった。


「安心しろ、罪悪感しかなくて興奮なんてしなかったから。」

「でも、覗いたんだよね。」

「はい。」

「……。……聞かなかったことにするよ。男子だもんね。」

「…恩に着ます…。」

「うん。…で、近藤くん、時間を戻してよ。ずっと、このまんまだとさすがに困るよ。」

「そうだな。席に戻ろう。」


お互い席に戻った。

時間が停止したことは秘密にすると約束してもらった。


「動け。」


時間が動き出し、授業が再開した。

誰にも変化は見られなかった、ただ一人を除いて。


チラッ…チラッ…


「交流電流はそれぞれ、表で覚えればほぼ解けるから、時間がなかったら覚えろ。」


物理の教師の話が続く。


チラッ…チラッ…チラッ…


「で、この問題は…、おい、佐倉、どこ向いてる。」

「あっ、スミマセン。」


教師の話がなおも続く。


チラチラチラチラ


「ねぇ、優里、さっきからどこ見てるの?」

「え?べ、別にどこも見てないよ。」

「いや、左側の席をちらちら見てるじゃん。」

「み、見てないよ。」

「もしかして、好きな人でもいるの?」

「いや、それはないよ。」

「それはいるってことね。でも、それなら言ってくれても良いじゃん。」

「………。」

「無視するんだ。わかった今は聞かないよ…今は。」


チラチラ見るからややこしい事になった。

こっちに飛び火したら最悪だ。

てか、好きな人云々で即否定されたのは傷ついた。

向こうは話が一旦終わったようだ。

遠慮なく時間を止めた。


「おい、さっきからなんでチラチラ見てくるんだよ。」

「ちょっと、まだ授業中…、あっ、止まってる。え、見てないよ。自意識過剰じゃないの?」

「…まぁいいや。で、なんで、また佐倉さんは動けているのでしょうか?。」

「なんで…って、私に聞かれても。」


本当に彼女だけなぜ今になって動いているのか分からない。

能力を無効にできるのか。

俺が3ヶ月の勉強の息抜きに選挙カーを拝借して都内のあちこちで呼びかけを行っても誰も反応しなかったのに。

これ以上は『計画』に支障をきたす。

しょうがないから俺は彼女にこう切り出した。


「なぁ、俺と一緒に旅をしないか?」

「旅!?」

「そう旅。」


俺の親父は四国の出身だ。

その親父はお遍路巡りをやったことがある。

その後、野宿をしながら自転車で四国を一周したこともあるという。

それを聞いて旅に出たいと思った。

今が絶好のチャンスである。

だが、問題は彼女だ。


「時間を止めて、日本中を旅しようとした矢先に佐倉さん動いてるし。だから、一緒に旅に出ようかと。」

「えぇー…。でも、確かに、このまま近藤くんが旅に出たら時間が停止したまま私ひとりなんだよね…。」

「そういうことだ。一応、聞くけど彼氏とかいるか?」

「え、いないけど。どうして、そんなことをきくの? もしかして私のこと?」

「いや、彼氏いたら可哀想だからな。これから、一年以上時間を止めようかと思ってるし。」

「あ、そういうことね。」

「佐倉さんのことはこれからの付き合い次第だな。」

「えっ!?」

「うん?どうした?」

「いや、なんでもないよ。(どうしよう、なんか緊張してきた。)」

「じゃあ、改めて、俺と一緒に旅をしませんか?」

「はい、いいですよ。」


彼女は笑顔でこう答えた。

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