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crimer's high

商店街に続く通り、見慣れた横断歩道の模様が見える辺りで、ソータ、とぼくを呼ぶ声がした。振り返ると、そこにはベンケイが立っていた。もちろん、武蔵坊弁慶その人ではない。ベンジャミン・カブレラ・ランドウォーカー、通称ベン・K。ぼくの犯罪仲間であり、貴重な友人だ。日本に帰化したアフリカン・アメリカンな彼は、元アメリカ陸軍所属にして、現在はとある寺の修行僧という、なんとも奇妙な経歴を持っている。その上、坊主なのに肉食、しかも夜な夜なチンピラから金を巻き上げるという破戒僧ぶりは、あだ名に通ずる所がある。

髪を剃って黒い肌がむき出しになった頭をさすりながら、ベンケイはぼくを呼んでいた。修行の途中なのだろうか、袈裟を着て草履を履いているところを見ると、なるほど弁慶と呼ばれるのも当然だと思う。

そんなベンケイが、振り向いたぼくに向かって、流暢な日本語で言う。

「ソータ、今から用事あるかな」

「……ううん、特には。どうしたの」

「ドンが呼んでる」

ベンケイが親指で後ろ、正確には後方に見える小さな喫茶店を指す。一見どこにでもある店に見えるが、実はそこはぼくとぼくの犯罪仲間達の集会所(ケンジはアジトだと言っていた)だ。

「ドンキーが呼んでるんだ。携帯にかけてくれればいいのに」

「ソータ、電話に出ないからさ」

「学校に行ってたもの。電源はつけてないよ」

ぼくは苦笑しているベンケイを見る。彼は背が高いから、ぼくは彼を見上げる格好になる。

ドンキーはぼくたちを束ねる首領だ。一年中黒スーツにワッチキャップ、サングラスとストールを身につけた、マフィアのボスみたいな初老の男。漢、と言った方がいいかもしれない。そんな彼が何故ドンキーなのかと言えば、彼の名前が鍵宮だからだ。首領・鍵宮、ドン・鍵、ドン・キー。安直だが、彼らしくて格好良いと思っている。

そんなドンキーが束ねる組織こそ、ぼくたち犯罪仲間、“犯罪社”だ。元々はドンキーが犯罪でお金を貯めたい、という妙な願望を叶えるために生まれたもので、構成員はドンキーが直々に選んだという。ドンキーは職業柄、人を見る目には長けているので、犯罪の才能を持つ人を選りすぐって犯罪社を立ち上げたらしい。ぼくもケンジもベンケイもドンキーにヘッドハンティングされて、ぼくはそれがきっかけで万引きに手を染めたと言ってもいい。

「それで、ドンキーがどうしたんだろう」

「なんでも面白いことを計画中なんだって」

「面白いことって?」

ぼくが首を傾げる。

ベンケイは口元に意味ありげな笑みを浮かべると、

「来てからのお楽しみ」

そう言って人差し指を口に当てた。

「なんだ、残念。それなら、続きを聞きにいこうかな」

ぼくもベンケイと同じように笑う。

ドンキーがなにか計画していると聞いて、ぼくは彼が良くないことを考えていると直感した。それが何かは分からないけれど、きっと刺激的なことに違いない。高揚感を、快感を、緊張を。マラソン選手や登山家が味わうのと同じ類の、犯罪的興奮が得られると感じた。それを考えただけで、今からドキドキする。

ぼくは行こう、と言ってやや速歩に喫茶店に向かう。胸の高鳴りが、全然抑えられない。後ろから着いてくるベンケイの声が、少し遠く感じた。


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