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転生しました。

 静まり返る病室で聞こえてくるのは、両親が私を呼ぶ声。それも次第に彼方へと遠のいていくのを感じながら、私は今までの生涯を振り返っていた。

 思えば短い人生だった。生まれつき体が弱く、幼い頃からずっと入退院を繰り返して、人生の半分は病院で過ごしたと言っても過言じゃない。なんとか高校には入学できたけど、一学期の途中から容体が急変して、それからずっとこの病室が私の居場所だった。

 

 最期に両親の顔をちゃんと見て、お別れもきちんと言いたかったけど、それも無理みたいだ。自分の力ではもう瞼を押し上げることも叶わないのだから。

 せっかく産んでくれたのに、先立つ親不孝者の娘を許してね、お父さん、お母さん。

 私のことをいつも心配してくれて欠かさずお見舞いに来てくれた幼馴染のあっちゃん。退院したら行こうって言ってた甘味屋さんに行けなくてごめんね。

 そういえば、あっちゃんから借りてたあの乙女ゲーム、結局最後までプレイできなかったな。あっちゃん一押しの隠しキャラ、見たかったなぁ。

 

 そんなことを考えながら、私の意識は完全に暗闇の底へと落ちて行く。

 そうして秋の紅葉が散る前に、私こと岩崎明美は17年という短い人生に幕を下ろしたのだった………。







 目を開けると、超絶ナイスバディの色気むんむんお姉さんと、ダンディズム溢れるイケメンのおじ様がにこにこと微笑みながらこちらを見ていた。 

 

 ………ん?あれ?

 ここ、どこ?

 この人たち、誰???

 ていうか、私、つい今しがたこの世とおさらばした気がしたんだけど。


 いやいや気のせいじゃなくて、暗転したからね、あの時。確かに私、病室で静かに息を引き取ったはずなんだけど。

 じゃあこれって死後に見る夢みたいなやつ?にしてはやけに目の前の二人の姿はリアルなんだけど。


「わわぃあばば」


 「これは一体どういう状況?」って発音したはずなのに、なぜか口から出たのは言葉になっていない謎の音。


 え?

 え?? 

 え?????


「やいわぁばぁだっ!」


 嘘!?うまく喋れないんだけども!?またしても謎の音声が口から飛び出してきて、混乱極まりない私は更に発言を繰り返し、やっぱり喋れなかった。

 ていうか今気が付いたんだけど、私、歯がないよ?ついでに前に伸ばしたお手手が、えらくちっちゃいよ?あと、足の位置が顔のものすごく近くにあるんだけど!


 待って、プリーズ待って。 

 本当に誰か今の私の状況説明してほしんだけど。自分の姿は自分じゃ見られないから確証はないけど、私、もしかして赤ちゃんになってないですかい!?

 神様仏様、もしもそこにいるならきちんと教えて下さい!


 と、思っていると、男性とも女性とも区別のつかない何者かの声が頭の中に響き渡った。


「呼んだか娘よ。私は神だ」


 ちなみに姿は全く見えない。キョロキョロすれど、あるのは変わらず満面笑みのイケメンの男女の姿は

だけ。

……なんとも胡散臭い自称神様である。幻聴だろうか。だとしたら私の妄想力、逆にすごい。


「妄想ではない。私は本当に神だ。状況を説明してほしいのだろう?きちんと話してやろう」


 自称神が言った。

この際神だろうが悪魔だろうが、例え妄想の類いであっても、なんでもいい。訳分かんない状況の中取り残されるよりはましだ。

 彼(彼女?)の言ったことをまとめると、前の世界で私があまりにも不憫な人生を送っていたことを知った神様が、私のことを憐れみ、順番をすっ飛ばして早く転生させてくれたらしかった。ついでに言うと、すっ飛ばす過程で、私の前世での記憶を消すのを忘れたという超アバウトな神様。

 俄かには信じがたい話だけど、現実問題として私は岩崎明美の記憶を持っている。そして私の体は間違いなく赤ん坊そのものだ。夢オチ、でもなさそう。

 と、言う訳で、元来物事を深く考えない私は、素直に神様のいうことを信じることにした。

 

 だけど神様も粋なことをしてくれる。この世界の私は至って健康な体の持ち主だそうだから、前世で人生を満喫できなかった分、思いっきり生を全うしてやろうじゃないか!


 そう心の中で意気込んでいると、満足げな声で神様が言った。


「そうそう、その意気だ。ついでにそなたが最後に思い残した望みを叶えてやったぞ。そちらの世界で最後の一人と必ず出会える仕組みになっておる。そなたの人生が薔薇色になるよう、私も空の彼方から願っておるぞ」


 そしてふぉっふぉっふぉっとなんともじじくさい笑い声と共に、すーっと神様の声が消えていった。

 

 なるほど、状況は理解した。

 しかし、私の思い残した望みってなんだっけ。えーと、確か……。

 割とすぐに思い出せた。あれか、攻略断念せざるを得なかった、乙女ゲームの隠しキャラ云々のやつか。いや、まあ、あれ、別に人生の幕を下ろすタイミングで急に思い出したことで、未練を残すレベルのか願望ってもんでもなかったんだけどな。

くそぉ、死ぬ前にしょうもないこと思い出さなきゃよかったよ!

 しかも、正直あれは特別好きなゲームって訳じゃなかったし、どうせならそれの二つ前にしたゲームの世界に生まれ変わりたかったなぁ。まあ、贅沢を言える立場じゃないか。こうしてもう一回人生をやり直せるんだからさ。


 最後の一人と必ず会える……ってのは、あっちゃんイチオシの隠し攻略キャラと会えるってことか。じゃあ、私ヒロインに生まれ変わったってことかな。彼女はとっても愛らしくて絶世の美少女だった。そんな子に生まれ変われたのなら、悪くはない。むしろラッキー。

 ということは、目の前のこの二人は私の両親、かな?道理で二人とも美形な訳だ。ただ、私がイメージしてたヒロインのお父さんお母さん像とは若干違うような気もするんだけど…。


「百合香ったら、さっきから百面相しているわ。一体何を考えているのかしら」

「だけどどんな顔もとても可愛いな。さすがは真理子さんの子だ。特に笑った顔などそっくりじゃないか」

「あら、私はあなたに似ていると思いましてよ?」


 うん、おかしいよね。ヒロインの名前、胡桃ちゃんだったから。呼ばれた私の名前は百合香。

 そしてすぐさま気付いてしまった。

 あのゲームの世界で『百合香』と呼ばれた女性が一人だけ存在することを。そして彼女は目の前の二人に顔のパーツがそっくりだ。

 あろうことか私が転生したのは他でもない、あのゲームにおいて、ヒロインを虐めぬき、最後はぎゃふんと言わされ破滅ルートを辿る悪役お嬢様、一条小百合だったのだ。


 その瞬間、私はやっぱり言葉にならない叫び声を、天まで届くほどのけたたましい音量で叫んでいた。


 なんでよりにもよってそっちなのぉっ!!!

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