幕間-Side Earth-
あの人達でごわす
「そうか、行ったか」
「ああ、恐らく間違いないと思う。妻が言うにはあの子の魔力を感じたと言っていたからな」
もし次に戻されるとすれば俺だと思っていたがまさか息子がとは、全く世の中何があるか分からない物だ。
「それにしても妻、ねえ。あちらにいた時の君からは想像も出来ないが」
「お前が言うな。わざわざアイツの真似なんかして、義理立てのつもりか?」
そもそもアイツは死んだわけじゃない。まあ彼にとっては死んだようなものだろうが。
「別に彼に義理立てしたわけじゃないさ。私だって今や道場を預かる師範なのだからね。厳しくもなるさ」
「どうだかな」
コイツにしてもアイツにしても不器用に過ぎる。ちゃんと説明すれば理解出来ないような子じゃないだろうに。
「それに君だって自分の息子に何も教えてなかっただろう? お互い様だよ」
「一緒にするな。--いや、そうだな。人のことは言えないか」
こんなことになると分かっていればもう少しやりようもあっただろう。浅慮に過ぎるのはむしろ俺の方か。
「で、どうする? ここで手をこまねいているわけにはいかないが、かと言って私達に出来ることなんて特にないだろう?」
「ああ、残念だが待つしかない。口惜しいがな」
だがそれなりにやれることはやったつもりだ。
「息子にはアレを持たせてある。こっちに来てからはうんともすんとも言わなくなったがな。喋ると騒がしい奴だが、それはそれで話さなくなると寂しいもんだ」
「本人に言ってあげるといいよ。きっと喜ぶだろう。なんせある意味では君の子供のようなものだしね」
ふん、使い手は貴様だろうが。俺はあくまでアレを作っただけに過ぎない。
「君が息子にアレを持たせたのと同じように、私も彼には教えられるだけの技は教えたつもりだよ」
「と、なると彼は使えるのか?」
神を殺すための剣術。コイツはそれだけを目標に腕を磨き続けてきたからな。他でもない、俺が一番知っている。
「生憎試せるような相手もいなかったしね。それでも流石は彼の息子だと言っておくよ。身体能力に関して言えばこの世界の人間の力量を遥かに超えている。そういう意味では君の、いや、君達の息子と出会って良かったかもしれないね」
「どういうことだ?」
息子のことは時折報告は受けていたが、コイツまさか俺に言ってないことがあるんじゃないだろうな。
「君だって薄々は気づいてるんだろう? 君の息子はこちらでも魔法を使っていたよ。本当に小さな、小さな発現だったけどね。それでも器用なもんだ。わざと暴発させて加速したりね。あちらではなかなかやろうと思ってやる人間はいなかったろう?」
「魔法か……確かにあの子は家でも魔力を練っていることが多かったようだ。お前も知ってるだろう? 俺は魔法は使えない。残念ながらな。妻がそう言っていたから間違いはないだろうが」
なんせ妻の魔力感知の能力はあちらでも郡を抜いていたからな。間違いないだろう。
「奏君が言うならそれこそ間違いないさ。勝手な予想だが、君の息子はあちらの世界か、あるいは魔法のある世界から転生してきたんじゃないかな? ほら、それこそ奏君の妹に類似した魔力を感知したんだろう? だったら行き先も間違いない。私達が因縁を残してきた、あの世界だよ」
「だとすればアイツとも出会うか」
やれやれ、そうなると親子の対面となるわけか。彼にとっては幸か不幸か……いや、親が生きていて不幸なんてことはないな。
「いずれにしても私達は祈るしかないよ。君は自分の息子を。私は愛弟子二人の無事を、ね」
分かっている。そんなことは分かっている。
「子供は強くなる。親の想像を超えて遥かにね。だからクラウド、私達は彼等がいつ帰ってきてもいいように、今の日常を変わりなく過ごそうじゃないか」
「全く……お前のそういうところは変わらないな」
釈然としない点はあるが、かと言って今自分が出来ることはない。コイツの言う通りあの子達が帰ってくる場所として今を過ごすしかない、か。
「クラウド、君は本当に心配性だな。今にハゲるよ」
「ほう、面白い冗談だなムラクモ。もうお前に刀は卸さんからな」
「あ、いやそれは困るなぁ。ハハハ」
仕方ない。俺はこの生活を守るために今を生きよう。そしてヴィオラと共に息子の帰りを待つとしよう。そして巧が言った、綺麗な嫁さんを連れて帰ってくることを信じよう。
「五十嵐君、巧。俺達はお前達の帰りを待ってるぞ」
願わくば二人が無事に帰ってくるように。
遅くてごめんなさいいいいいいいいいいいい!!




