おデート-中編-
中編でーす。
「で、ここでミリィの名前を出したせいで逆に怪しまれちゃってな。あの時に団長と出会ったんだ。」
「コウさんって時々何も考えずに行動するよね。」
辛辣なお言葉である。でも確かに自分の容姿が変わってることにすら考えが及ばなかったことは間違いない。
「いや俺も久々に仲間に会えると思って浮かれてたのもあったんだよ。なんせこっちじゃ三年って話だけど、俺からすれば二十年も待ったんだからな。」
「よく二十年も忘れずいられたよね。私なんてこの三年間は気の遠くなるような時間だったよ?」
「毎日が必死だったからな。特にイガさんが面倒見てくれたおかげってのもあるだろうけど、一日たりともこっちのことを忘れたことはなかったよ。」
「そっか……すごいね。コウさんは。」
「なんせ約束したからな。必ず戻ってくるって。」
「うん、守ってくれたね。」
あの時約束したこと、今まさに実行中だが、それでも俺がこっちに戻ってこれたのはシャルとの約束のおかげだろう。
「まあ覚えてくれるかは半々だったけどな。それに俺からすれば二十年経った状態で戻ってきたと思ってたから、もう忘れられたか、誰かとくっついてたりしてるんじゃないかと思って不安もあったけど。」
「私が誰かと? うーん、考えたことなかったかなぁ。」
当の本人がこれだから心配はなかったのかもしれないが、それでも結果論と言わざるを得ない。だってこの子可愛いんですもの。
「俺としてはシャルがそんなで良かったけどな……」
「そんなってどういうこと? どういうことかな?」
おっと、拳を握るのはノーサンキューですよシャルさん。
「誰ともくっついてなくて安心したってことだよ。」
「え? それって、え?」
よし、拳解除に成功した。我ながら少し恥ずかしいセリフだったが背に腹は変えられないからな。
「よしじゃあ次行こうか。流石に牢屋に案内するのはなんだから、そこはすっ飛ばしてギルドに行こう。」
「ちょっとコウさんさっきのって……もう、待ってよー。」
「HAHAHA早く来ないと置いてくぞー。」
アホみたいなやり取りである。ごまかすのに必死なんだ言わせんな。
そんなこんなでギルドに到着した。
「知ってると思うけどここが王都の冒険者ギルドだ。俺とイガさんはここで冒険者登録をして、依頼を受けてた。とは言ってもほとんどイガさんが積極的で、俺はその頃剣を研いでばっかりいた気もするけど……」
そういやマリオさんは元気にしてるだろうか。まさか魔物の襲撃の時に……
いや、あのオッサンが死ぬとも思えないな。きっと鍛冶屋に籠ってるんだろう。そうに違いない。だから忘れてしまおう。
「どうしたの?」
「いや、ちょっと思い出したことがあってな。大したことじゃないよ。」
なんかこんなこと言ってるとその内バッタリ出会いそうな気もするが、そんなフラグは立たないことを祈る。
「じゃあちょっと入るか。」
扉を開けて建物の中に入る。まだ少し早い時間だからか、思ったよりも人は少ない。
何人かがこちらに注目している様子が伺える。やっぱりシャルが目立つんだろうか。特に今日は冒険者って格好じゃないし仕方ないか。
「おい、アイツ確か暴風のツレだぜ……」
「ああ、なんでも暴風と銀閃を飼い慣らしてるって噂だな。」
「おいおい、あの二人を飼い慣らすなんて出来るのか? だったら一体アイツはなんなんだ……?」
あれ? なんか俺の噂っぽい。つかイガさんやっぱり暴風なんて呼ばれてるのか。ピッタリ過ぎて突っ込む余地すらないけど。
「アイツ自信も相当な魔法師らしいぞ。なんでもあのベヒモスを倒すのに一役買ったんだとか。」
「本当か? ならアイツにも相当な二つ名がついてるんだろうな。お前、知ってるか?」
なんと、俺にも二つ名がつくようになったのか。ちょっとこのまま聞いてよう。
「知ってるぜ。確かアイツの二つ名は……空気だ。」
「は? なんだそれ、もっと強そうな二つ名じゃないのか?」
「それがな、噂では聞いてるんだが、アイツが直接魔法を使ってるところを見た冒険者は少ないんだ。今のギルド長や騎士団の奴等は見たことがあるって話なんだが……」
「目立たないから空気ってか? そりゃ笑えるな。」
おい待てコラ。誰が空気か。
「プッ。ククク……」
「シャル……」
「だって空気って、空気って……もうダメ。おかしい。」
いくらなんでも空気って酷くないか。つか俺フラッグが来たとき散々活躍したじゃないか!!
「おや、誰かと思えばキサラギ君じゃないか。それにシャルロッテ君も一緒か。珍しい組み合わせだね。」
「あ、ヒースさん。お邪魔してます。」
「こんにちは、ヒースさん。」
この王都で一番の良識人と言っても差し支えないだろうヒースさんが姿を見せた。そういえばイガさんの試験はヒースさんだったけど、俺の場合は何故か団長だったんだよな……
「二人ともどうしたんだい? 依頼の受注かな? それともシャルロッテ君の姿を見る限りでは逢い引きの最中だったかな?」
「逢い引きって……まあそうです。せっかくだから俺が王都に来てからのことを話ながら色々案内しようと思って。」
「なるほど、確かにここでも色々あったからね。特に君とイガラシ君の試験は骨が折れたよ。」
「その節はどうも……いや、でもアレは団長が悪いんじゃないか?」
ちょうどいいからシャルにもその時の話をするかな。
「ヒースさんは今でこそギルド長だけど、俺とイガさんが冒険者試験を受けに来た時の試験官だったんだ。イガさんの試験はヒースさんが担当したんだけど、俺の試験の時に何故か団長が乱入してきてな……」
「団長ってそんなことするんだ……でも試験官だったってことはヒースさんって強いんですか?」
「いや、流石にイガラシ君には完敗だったけどね。恐らく今キサラギ君とやりあったとしても勝てる自信はないよ。あれから私も腕を上げたつもりだが、アラン君を含めて、君達は異常過ぎるくらいだよ。」
まぁ暴風に銀閃だもんな。俺は空気ですけど。
「でもヒースさんの実力は王都の中でも指折りだと思いますよ。イガさんとアランが異常なのは俺も同意しますし。アレはもう人外。」
「誰が人外だって? ええ?」
oh……なんてタイミングで出てくるんだ。
「あ、イガラシさんこんにちは。」
「おや、君達も来たのかい。イガラシ君……と、そちらはヴィエラ君だったかな?」
「おう、ヒースさん邪魔するぜ。で、ボウズ。誰が人外だって? ああ?」
「いや、人外じゃなくて化け物の間違いです。」
「よし表出ろ。」
「ちょっと、そこ二人で何してるのよ。」
おっと、ヴィエラは素の状態か。最近はフード外してることが多いな。イガさんが何かしたんだろうか?
「ヴィエラもこんにちは。最近よくイガラシさんと一緒にいるね?」
「なっ!? 違う!! イガラシがしつこく誘ってくるから仕方なくついてきてあげてるだけよ!!」
「おいヴィエラ! お前も何言ってんだ!?」
よし、ナイスパンチだシャル。これで注意が逸れる。
「シャル! 逃げるぞ!!」
「えっ? あ、ちょっとコウさん!!」
「おいボウズ逃げんな!!」
シャルの手を引いて走り出す。開いたままのギルドの扉を潜り抜け、しばらく走り続けた。
--よし、イガさんは追いかけてきてないな。
安全を確認して立ち止まる。あ、いけね。シャルは……
「ハァ、ハァ……ちょっとコウさん……早すぎだよ……」
「す、すまん。」
「全くもう……あっ……」
「ん? どうした? まさかイガさんが!?」
慌てて周りを見るがイガさんの姿も気配もない。いやあの人なら気配を消すことくらい出来そうだけど……でも違うならどうしたんだ?
シャルの目線を追ってみる。ん? 下か?
「あ……」
そういえばシャルの手を引いて走ってきたんだった。つまり今もその手は握ったままで……
「えっと、コウさん?」
さてどうしよう。無我夢中だったとは言え、半ば無理矢理掴んで来たようなもんだしな。離すべきか。
シャルの表情を伺うが、気にはしているものの、シャルからは手を振り払うような気配はない。
それになんとなく。なんとなくだけど、この手は離すべきじゃないと、そう思った。
--だから。
「ちょっと走りすぎたな。疲れただろうから少しこのまま歩こうか。」
「う、うん……あっ。」
その手の温もりを確かめるように、改めてシャルの小さな手を握り直す。繋いだこの手を、二度と離さないように。
さぁもっとラブラブしようぜ!!




