デートの約束
そろそろ日常回も終了かなぁ。
「さて、貰ってきたはいいけどどうしたもんかな……」
折れたテンペストとハープを前に頭を抱える。テンペストもハープもちょうど半分くらいの場所で真っ二つになっている。
ハープに関しては杖としての機能は短くなったとしても、魔力の通りがよければそれでよし。だから別に元の形にこだわる必要はない。
ただテンペストに関しては元々剣として一級品だった武器だし、前と同じか、それよりも強度を上げたいところなんだが……
とっとと繋ぎ合わせて修復したい。と、思うところではあるが、実際折れた剣を繋ぎ合わせるなんて芸当は不可能に近い。いや、繋ぐだけなら出来るだろうが、いったん金属部分を溶かして再度剣の形を取ったとしても、切れ味は格段に落ちるし、そもそもそれだと飾りにしかならない。
「なぁビゼン、このテンペストの材質に何が使われてるか分かるか?」
『知ってるよー。テンペストはミスリルで出来てるよ。長い時間が経ったからかかなり劣化してるみたいだけどね。保管されてた状態があんまり良くなかったんじゃないかなぁ。』
「ミスリルなんて本当に存在したのか。初めて聞いたな。」
よく漫画やゲームで使われる金属だが、やはり魔素を取り込んだ金属がミスリルとなるんだろうか。深く考えても分からないが、それでもアランのシルバーソードよりも硬度も魔力の通りも上だろう。どうにかテンペストを甦らせたいところだが……
「ビゼン、ちなみにミスリルってどこで取れる?」
『昔は鉱山で稀に発掘されたって聞いたけどね。ただ今はどうかなぁ。』
「うーん、ツテがないからなんともだな。今度誰かに聞いてみるってのも手だけどそんなに時間もかけられないし……」
事の発端は前回のフラッグ戦だ。
イガさんがビゼンを振るう姿を見て、武器さえあれば俺の魔法じゃなくても奴に攻撃が通じることが分かったが、いかんせん毎回ビゼンを手放すわけにもいかない。
特にイガさんとアランに関しては一人で魔族を倒したって話だし、武器さえあればライトニングももっと活かせるはずだと思う。それにイガさんの場合はビゼンですら悲鳴上げてたしな……強度は必須か。
そうなるとますますいい考えが思い付かない。せめてビゼンがもう一本あれば……
「ん? そういえばビゼンって何で出来てるんだ?」
ふと気になって訪ねてみる。いくら精霊が宿っているとは言っても元々は一本の刀だし、何かしらの金属が使われているはずだろう。
『ん? 僕はただの鉄だよ? 確か純度の高い鉄に僕が元々宿っていた樹の化石? を使ったって言ってたかなぁ。何しろ作られてから生まれたようなものだから、この姿になる前のことはよく覚えてないんだ。』
「鉄……なのか。」
樹の化石ってことは鉄に炭素を混ぜたのか。となると結局は玉鋼から作られたってことかな。こっちの世界の住人である父さんが知ってたとは考えづらいし、その辺は村雲師範の知識なのかもしれないな。
「ミスリルに炭素を混ぜたらどうなるんだ……?」
ふと気付く。その樹の化石がまだ残ってるかは分からないが、もし残っているなら試してみる価値はあるのかもしれない。テンペストの刃の部分を溶かして化石に含まれている炭素を混ぜればあるいは……
未だ何の根拠も確証もないが、それでも試してみるだけの価値はある。なら早速父さんの工房に向かうべきか。
必須事項だとは思うが、そればかりに時間をかけるわけにはいかない。イガさんとアランが強くなるのは大歓迎だが、肝心の俺がなんの進歩もないんじゃ意味がない。
色々考えたが、俺がこれ以上強くなろうと思ったらやはり魔法をどうにかしなきゃいけない。剣術に関してはあって困るものじゃないが、それこそイガさんとアランがいる以上、優先すべきは魔法だろう。
アスモデウス形態やケイオス・ペンタグラムはフラッグにも有効だったが、それでもまだ足りない。今度会う時には更に再生能力が向上してるだろうって話だし、今と同じじゃ意味がないんだ。
--もう一度自分自身を見つめ直すいい機会かもしれないな。
「……さん! コウさんってば!!」
「うおっ!?」
考え込む俺のすぐ隣にシャルがいた。考え事をしてたせいで気付かなかったのか。
「もう、さっきから呼んでるのに気付かないんだから。」
「ごめんごめん、ちょっと考え事してた。」
にしても近い。最近になってよく顔を合わせているが、何しろ昔とは違ってすっかり女性らしくなってしまってるもんだから、未だにシャルの顔を見続けることに慣れない。
「考え事? あ、これってアランさんが昔使ってた剣だよね? どうしたのこれ?」
「オルデン君にくれって言ったらくれた。」
「適当過ぎだよ……それでこれ、どうするの?」
「直す。もしくは強化する。イガさんにしろアランにしろ、二人の実力に武器がついていってないからな。武器さえ十分なものがあればもっとフラッグと戦えると思うんだ。」
「ふーん。この杖は?」
「ああ、それはとりあえず直そうと思ってるんだけど……そうだ、直したらシャルが使えばいいか。」
「えっ?」
そういえば未だにシャルも杖らしき物は使っていないようだ。多分俺の影響かもしれないが、魔法に道具を使うということをしてなかったからな。
実際ベレッタやデザート・イーグルを使うようになってから俺の魔法も威力が上がったり、発動が安定したりとメリットは十分に受けている。
もしかしたらシャルもハープを使うことで更に回復魔法の治癒能力が上がるかもしれない。
「それは嬉しいけど……いいの?」
「そもそも壊れて使えないもんだしな。直して誰かが使えるならその方がいいだろ。別に直したら返すなんて言ってないし。」
使えなかったら使えなかったで仕方ない。その時は返せばいいし。
「じゃあ楽しみにしてるよ。でもこれコウさんが直すの?」
「まぁ腐っても刀工見習いだしな。刀を打つのとは勝手が違うだろうけど、どうにかやってみるよ。」
「コウさんはすごいなぁ……何でも出来るんだね。」
「そうでもないぞ、たまたま父さんが刀工だったってだけだしな。何かあったのか?」
「そういうわけじゃないけど……」
どうにもそういうわけっぽいな。なんか歯切れが悪い。
--そうだな、これからまた忙しくなるし、今がちょうどいいか。
「よし、ならこれを直すのにも時間がかかるだろうし、俺も風呂の修理で疲れた。息抜きに明日俺とデートだ。」
「えっ!? 明日!?」
まぁ急だとは思うが、今を逃すと今度はいつになるか分からないしな。
--それに次にフラッグと戦った時に何があるかは分からない。何度も何度も見逃しては貰えないだろう。勝てば良し、負ければ……だ。
「でも私、まだ料理ちゃんと習ってない……」
「そこは気合いと根性でどうにかなる。なぁに、別にデートは一回きりなんて言った覚えもないしな。明日じゃなくてもその次の時に作ってくれればそれはそれでいい。」
「つ、次? う、うんそうだよね。確かに一回とは約束してなかったよね。」
そもそも一方的に俺が言っただけで、シャルが了承してたわけでもないけどな。だけどこの反応を見る限りではOKってことで良さそうだ。
「じゃあ明日だ。俺もそろそろ切り上げて風呂入って帰るよ。シャルはどうする?」
「あ、私もお風呂行きたいな。どうせなら一緒に行ってもいい?」
「もちろんだ。じゃあすぐに片付けるからちょっと待っててくれ。」
「うん、分かったよ。」
テンペストとハープを箱に戻す。着替えは……いいか、今日は特に汗もかいてないしな。
「よっし、じゃあ行くか。」
「うん!」
シャルを伴ってスーパー銭湯キサラギへ向かう。
ちなみにイガさん達に改装後の感想を聞いてみたが、やはり風呂以外に休憩スペースを設けたことと、食事処を作ったのが好評だったようだ。改装から一日しか経ってないが、風呂上がりのミルクの売り上げも上々なんだとか。
そんなことを考えながら隣で歩いているシャルの顔を伺い見る。先程とはうって変わって上機嫌に見える。よっぽど風呂が気に入ったようだ。
「ん? なに? 私の顔に何かついてた?」
どうやら見てたことがバレてたらしい。
「いや、随分機嫌が良さそうだなーと。そんなに風呂が気に入ったか。」
「そうだね。お風呂は好きだよ。」
笑顔で答えてくれる。
--ヤバい、この破壊力は半端じゃない。
鼓動が早くなったのが分かる。全く、思春期か俺は。
「よし、じゃあ休憩所で合流するか、一時間もありゃ十分だよな。」
「そんなに入ってたら逆に身体壊しちゃうよ……」
そんなことを言いながら男湯と女湯に分かれていく。あれ? これってもう既にデートな雰囲気じゃね?
明日もデートだし、もしかしたら今が幸せの絶頂期なのかもしれない。そう考えつつ、男湯と書かれたのれんをくぐり、脱衣所に入っていく。
「おうボウズか、やっぱりお前も来たんだな。」
「小僧か。ワシもすっかり風呂の魅力に取りつかれてしまってな。今では騎士団が訓練の終わりにこぞって入りに来るようになったわい。」
--のれんをくぐるとそこは漢の園でした。
あ、オルデン君もいる。子供達に囲まれているようだが……何やってんだあんなところでポージング決めて。アンタこの国の王様だろ?
その後ガチっとしてムチっとした男共の相手をしながら長風呂をした結果、湯中りをしてしまってシャルに心配された後に叱られました。
いや絶対俺悪くないだろ……
本当はもっとのんびり書きたいところではありますが、ダラダラしてしまうのもなんなので次話からまたストーリーが動き始める予定です。……多分。




