試してみたいこと
戦闘描写、若干クドくなった感が否めないですが、なんとか書いてみました。
--二刀流。
基本的には左手の竹刀は防御用兼相手へのけん制、、右手の竹刀が攻撃用として用いられ、利き腕でない左手の竹刀での攻撃は有効打とはなり難いそれは、手数さえあれば余りある攻撃力を発揮する。
にも関わらず、使い手が少ないのにはそれだけのワケがある。
一撃の威力は一刀と比べても軽くなってしまうことは然ることながら、右手と左手の攻撃が順番になってしまう。あるいは同時になってしまうことから単調になりがちであること。また前述の一撃の軽さが仇となり、一刀の渾身の一振りを受けようものなら、最悪剣を弾かれてしまうことも想定される。
人間の身体とは不思議なもので、身体をバラバラに動かそうとした場合、逆に意識して動かさなければならなくなり、結果としてそう上手くはバラけて動いてくれない。よしんばタイミングをズラしたとしても力のない一撃は相手に致命打を与えることもなく、単純に肉を切ったが骨を断たれてしまうことも考えられ、よほど器用でもなければ使いこなすのは難しいとも言える。
と、前置きしつつも俺があえて二刀流で挑むことには理由がある。
一つは相手との圧倒的な体格差、筋力量の差である。
9歳になる俺と成人男性、且つ鬼のように身体を鍛えているイガさんとでは同じ土俵で戦うには差がありすぎる。技術的なモノで言えば、前世で培った戦闘経験も上乗せされ、剣術、という土俵ではまだ及ばないが、実戦の経験は俺の方が上だと自負している。だからこそ相手の意表を突く目的もあって二刀流を選んだ。
もう一つは思考の並列処理能力である。
これは誰もが持ち得ている能力だが、基本的に人は2つ以上の違う行動をとることが出来る。身近な例を上げれば、ご飯を食べながらテレビを見ること自体もそうだし、ご飯おいしいなーと感じながらアニメを面白いと感じたり、ニュースで憤りを感じたりと様々なことを並列的に処理している。
これも前世で魔法を使用しながらある時は剣を振るい、ある時は魔法を当てるために相手の死角に入ったりと実戦では考えることに事欠かなかった経験があり、それなりに鍛えられていると自負している。
この3ヶ月間、イガさんには内緒で二刀流の修練に取り組み、付け焼刃の感は否めないが、そこそこに使えるようになってきたと思う。
と、考え事をしながらもイガさんからは目線を外さない。俺を殺さんばかりの威力を秘めた竹刀ばかりを見るのではなく、相手の目、肩、足、果ては息づかいまで感じられるように集中する。同時に、使うかどうかは分からないが身体に魔素を取り込んでおく。
開始から30秒ほどは経過しただろうか、まだどちらも動かない。勝負の構図としては、俺が竹刀を何度も打ち込む必要があるだろうことに対して、イガさんは俺に一撃当てれば勝ちだろうという構図だが、真剣であれば基本的に一撃貰えば終わりだし、元より当たるつもりもない。
何より少しでも使えるようになった魔法で試してみたいこともある。
ジリジリと距離を詰め、時には相手の前足側にすり足で移動しつつ、距離を測る。
イガさんの肩がピクリと動くのが見えた。フェイントかもしれないが、動くならここだ!!
「ハッ!!」
一気に距離を詰めるべく、イガさんが前に出している左足を踏み抜くつもりで一歩を踏み出す。リーチの差もあり、距離を詰めなければ話にならない。
「甘いぜボウズ!!」
やはり読まれていたのか、イガさんがバックステップを取る。と同時に右手一本での横薙ぎが来る。やはりフェイントだったか!!
「うっ!!」
慌てて頭を下げ回避する。身体を起こすと同時に右手を振り上げ、逆袈裟の一撃を放つが、思ったより距離があったため空振ってしまう。
お構いなしにもう一歩を踏み込み、左手での刺突を繰り出す。利き腕ではない腕で突きが来るとは思っていなかったのか、少しだけイガさんの反応が遅れるが、半身になることで回避されてしまう。
「だっ!!」
イガさんが上から竹刀を打ち下ろしてくるが、そのまま走りぬけ回避、背中をかすめるような感触を感じた直後に右に反転しつつ、遠心力を得て両手の竹刀を横薙ぎに振りぬく。右手を上段に、少し遅れて左手を下段にズラした二点攻撃を繰り出すが、上段は竹刀によって止められ、下段は少し後ろに下がってかわされてしまう。
押し合いになってしまうと不利なのは明白なので、お互いの体勢が整う前にバックステップを取る。が、それを許してくれるイガさんではない。一気に上段から竹刀を振り下ろしてくる!!
「残念だったな! なかなかいい動きだったぜ!!」
(かわせるタイミングじゃない……試すしかないか!!)
あらかじめ体内に取り込んでいた魔素を風の属性魔力に変換し、右手の竹刀に通す。武器に通すのは初めての試みだが、思ったより上手くいった。どうやら前世で媒体を使わなかったのは単なる食わず嫌いだったらしい。
ぶつかる竹刀と竹刀の間に、僅かな風の塊を発生させる。本当に小さなそれだが、数ミリ剣先を逸らすことに成功した。俺は竹刀の剣先を僅かに立て、イガさんの一撃を受け流す。
今の一撃で決まりだと思ったのか、地面に竹刀を打ち込むイガさん。それでも流石と言っていいほど気を取り直すのが早く、体勢を立て直そうとする。
(だが遅い。今なら間に合う!!)
体内に残っていた魔素を再度風の属性魔力に変換、魔法に変換するイメージで、右足で発動させる。
(これで……!!)
「終わりだあああーー!!」
発動した魔法は初級魔法ウィンドの派生、『ウィンドバースト』だ。
フラッグ戦でシャルを助けるために背中で炸裂させたこの魔法は、基本的にはウィンドを炸裂させ、衝撃波を生む魔法である。
但し今回は体内で発動するということもあって、衝撃波を生むことよりも、方向性を持って物体を『押す』ことをイメージした。あえて名付けるなら『ウィンドブースト』とでも言ったところだろうか。
威力の弱いウィンドブーストは、それでも軽い俺の足をドンッと前に押し出す。
その衝撃に逆らわず、倒れこむように前に右手を突き出した。
右手から伝わるメリッという感触。前を見る余裕はなかったのでどこに当たったかは分からないが、イガさんの身体を捉えたことは間違いない。
ウィンドブーストで加速された速度と、当たった衝撃とが相反した威力に耐え切れず、たまらず右手を竹刀から離してしまう。そしてそのまま前方に転がるようにして倒れこみ、慌てて立ち上がる。
これで決まっていなければ左手の竹刀一本で勝てる相手ではない。どうか決まっていてくれと祈りつつ、後ろを振り向いた。
--そこには脇腹を押さえながら座り込むイガさんがいた。
(やったか!?)
このフレーズはなんかマズい気がする。と思いながら注意深くイガさんを見る。追撃も可能そうだが、こちらを誘っている可能性もあるので迂闊には近寄れない。
10秒ほどしてイガさんがこちらを振り向き、そして立ち上がる。若干フラついてはいるが、竹刀を握る手にはそれでも力が篭っているように見える。
慌てて竹刀を構えなおす。
「まあ待て、今ので勝負はついた。あんだけ見事に脇腹を突かれちゃあ真剣なら死んでるレベルだ。俺の負けだよ。ボウズ」
どうやらちゃんとやれてたらしい。そのセリフを聞いて一気に脱力する。
「しかし最後の突きはすごかったな。いきなり飛び出して来たように見えたが、あんな加速出来る奴なんて見たことないぜ」
すいません魔法です。
「だが負けは負け、ボウズが俺の知らない技を使ってたとしても、死んだ人間にゃ文句は言えねえ。だから自信を持っていい。お前の勝ちだ」
こういうところはイガさんらしい。結果は結果として受け入れ、子供相手でも自分が負けたなら負けた。とハッキリと宣言する。
「だからと言って調子に乗るな? まだ剣筋が甘いのは事実だ。だからこそまだまだ伸びる。ここで慢心すれば剣士としての先はないんだからな!!」
すいません魔法師です。剣士じゃないっす。
とも言えず、気をつけの姿勢で「はい!」と大きく返事をする。いやしたつもりだった。
「は、いいいいったああああああ!?」
右足に激痛が走った。どうやらウィンドブーストで無理をしたのが良くなかったらしい。
「お、おいどうした? どっか当たってたか?」
いきなり痛がりだした俺に驚いたのか、イガさんが心配そうに覗き込んでくる。
「い、いや最後のアレで足が……」
「ちょっと見せてみろ。あー……こりゃ腫れてるな、見た感じ肉離れみたいだが、腫れないより逆にいいだろ。ちゃんと冷やしてから家に帰れ。んで家でもキッチリ冷やして寝ろ」
「は、はいいぃぃ……」
なんとも情けないが、マジで痛い。でも今俺9歳だから泣いていいよね? いいよね?
それから三日間は歩くのが辛かった。
--ちなみにこの五十嵐という男。肉離れを起こしている俺に対して、「怪我してんのは足だからな」と言って座りながらの素振りを命じた。正に鬼畜の所業である。
ちなみにそれから一週間後。約束通りベレッタちゃんは頂きました。
二刀流ってカッコいいよね!?