超番外編ー待ち続けた少女ー
冬の童話祭に参加しようと思ったら参加表明期間過ぎてたorz
あるところ、ある世界にエルフが住むとされる村がありました。
その村はエルフの里と呼ばれており、1,000人にも満たないエルフ達が住む小さな村でした。
少女はその村で生まれました。ですが少女は周りとは違ったのです。
そう、少女の父親は人族、人間でした。少女の母はエルフ。彼女はハーフエルフとして生まれてきたのです。
エルフ族の特徴である尖った耳はなく、人間と同じ耳。その肌は白く、エルフの物。
けれどハーフエルフは混じり物とされ、純潔を尊ぶエルフからすれば忌まわしい存在でした。
それでも時は経ち、少女は徐々に自分は周りの子供達とは違うことを悟り始めます。
母は自分を産んで死んでしまい、父はどこにいるのかも分かりません。
少女は母の妹である叔母に引き取られることとなりましたが、叔母も純潔のエルフ。姉の忘れ形見とは言え、自分の子供達もいじめられてしまうのではないかと思い、少女に冷たく当たりました。
けれども少女はなんとかみんなと仲良くしたくていっぱい話しかけました。
「ねえ、遊ぼうよ。」
「混じり物とは遊ばないよ!!」
同年代の子供達も皆、親から少女とは仲良くしないように教えられていました。
そのせいで彼女には友達と呼べる友達もおらず、一人で遊んでは、ふと悲しくなって泣いてしまう。そんな日々が続きました。
少女が一人ぼっちの生活を送る内、15年の時が経ちました。
エルフは長寿の種族です。周りの子供達はまだ幼い容姿のままでしたが、少女は人族よりも成長が遅いとは言え、半分は人間です。周りよりも早く成長し、それが更に少女を一人ぼっちにしてしまいます。
そんな折、少女が叔母に命じられ、近くの川まで水を汲みに行った時でした。
人族の盗賊が目の前に現れ、少女をさらおうとしたのです。
ハーフエルフは純潔を尊ぶエルフ故に珍しく、高く売れるからという理由でした。
彼女が全てを諦めようとした時、全てが始まりました。
少女をさらおうとした盗賊が急に吹き飛んだのです。
少女は何がなにやら分かりませんでしたが、自分が助かったのだと思いました。
けれども盗賊は何人もいました。吹き飛ばされた盗賊も身を起こし、何やら怒鳴っています。
そこからのことは少女はよく覚えていません。輝く剣を持った人族の男、同じく剣を持ってすごい速さで動く人族の女。それから遠くでその二人を見ている人族の男。
もしかしたら別の盗賊かもしれない。彼女は警戒しました。でも警戒したところで自分に何が出来るわけでもない。売られる場所が変わるだけだ。と、警戒することすら諦めてしまいました。
最初に自分をさらおうとした盗賊達は何やら叫びながら逃げ出し、一人の男が近付いてきました。遠くから少女を見ていた男です。
「怪我はないか?」
男が少女に話しかけます。
「うん。ボクは大丈夫だよ。」
少女は知恵を絞り、自分が男の子だと思われるように、自分のことをボクと呼びました。売られるのは女の子が多いと聞いていたからです。
「おっと、男の子だったか。ならこのくらいは心配ないな。ほら立てるだろ?」
「あっ。」
男は少女の言葉を信じたのか。少女の腕を引いて立たせます。
「しっかし細い腕だな。ちゃんと食べてるのか? 肌も白いし、まるで女の子のようじゃないか。」
「えっと……」
少女は困ってしまいました。今更自分が女の子だとは言い出せずに。
「ちょっと何バカなこと言ってるの? どう見たって女の子じゃない。」
「全く、君、心配しなくていいよ。別に俺達は君をさらうつもりはない。お母さんのところまで送ってあげるから案内してくれないか?」
どうやら少女の嘘はバレていたようでした。
「えっ? だってこの子自分で男の子だって言ったし、まぁこういう子だっているかなーと。」
「全く貴方という人は……」
少女の目の前で男が怒られています。きっといつものことなのでしょう。彼女もおかしくなってしまい。
「クスッ。」
つい笑ってしまいました。初対面の、人種も違う人族の前だというのに。
「お、笑った笑った。いやさっき遠くから見てた時はさ、さらわれそうになってるってのに全然抵抗しないからちょっと心配しちゃったよ。」
「それは……諦めてたから……」
どうやら少女が抵抗せずに諦めていたことを見ていたようです。少女はなんとなく後ろめたくなってしまいました。
「諦めてた、か。確かに大人の男が何人もいればそうなるのも分からなくはない。でも諦めても何も解決はしない。諦めなかったら解決するかもしれない。」
「それは、でも。」
男が言うことは分からなくはありませんでした。けれども仮に諦めなかったとしてどうすればよかったというのでしょうか。
「簡単だよ。自分じゃどうにもならないなら、ただ助けてって言うだけでいいんだ。さ、帰らないと家の人が心配するだろ? 案内してもらっていいか?」
少女は今まで一人ぼっちでした。何度も助けて欲しいと思ったこともあります。
けれど声に出してそれを伝えたことはありませんでした。少女にとって男はとても眩しく映りました。
容姿はもう一人の男の方が整っているのに、それでも気になってしまったのはどこにでもいるような、目立たない赤毛の男でした。
それから少女は三人組を村に案内します。道中、怪我をした兎がいたので、唯一の取り柄と言ってもいい回復魔法で怪我を治してやりました。
そして一行は村に着きましたが、やはり叔母は冷たく、少女のことを心配する素振りすらありませんでした。
そんな少女を見かねてか、またあの赤毛の男が声をかけてきました。
「なあ、俺達と来ないか? 見ての通り俺達は旅をしてるんだが、回復魔法が得意な奴がいなくてな。さっき兎に使った君の回復魔法は凄かった。出来れば俺達と来てくれると助かるんだが。」
少女は驚きました。自分の回復魔法がそれほど凄いものだと考えたからもなかったからです。
少女は少し戸惑ったものの、すぐに男の一行に着いていくことを決心しました。
それから3年の時が流れます。
実は男達は魔王を討伐する目的を持った勇者達の一行でした。最初はまさか自分が着いて行けるとは思っていませんでしたが、それでも少女は精一杯頑張り、唯一使える回復魔法の腕を磨き続けました。
そして辿り着いた魔王の間、仲間達と今までの思い出話をしながら、勇者が扉に手をかけます。
しかし魔王は予想とは違って、勇者達と話をすることを提案してきました。
彼等は戸惑ったものの、赤毛の男、魔法師がその提案を受け、魔王と話をすることになりました。
けれどその話も長くは続かず、少女達を堕ちた神が襲います。
勇者が剣を折られ、女騎士は吹き飛ばされ、とても勝ち目があるような戦いではありませんでした。
少女はすぐに勇者の治療に向かいました。堕ちた神はそれをさせじと少女を襲います。
その時魔法師の男が間一髪で少女を救いました。けれど魔法師の男も酷い怪我を負ってしまいます。
それでも魔法師の男は言いました。
「俺よりも勇者を治せ。俺達の中でアイツに勝てるとしたら勇者だけだ。だから今は勇者を守れ。」
少女はすぐには聞き入れず。魔法師の男を治療しようとします。
「早く行け!!」
魔法師の男は少女を突き飛ばすようにして勇者の元へ向かわせました。
そして何やら魔法師の男と堕ちた神が話をしています。
一心不乱に勇者を治療する少女。急いで勇者を治療し、彼のことも治療しようと一生懸命でした。
すると自分の後方で大きな光が生まれ、堕ちた神の元で爆発が起こりました。
きっと魔法師の男がやったのでしょう。普段は頼りないけどいざという時に頼れる人だと、彼はそう呼ばれていました。だから彼が何かをやったとしても不思議はありません。
「……これが人間か。--ハハハッハハハハハハハ!!」
けれども堕ちた神は狂ったように笑っているだけでした。魔法師の男を見れば、先ほどの魔法の衝撃か、両腕がありません。
「約束だからね、彼等は見逃してあげるよ。良い物を見せてもらったお礼だよ。」
「そりゃどうも、でももう一回見せろって言われてももう無理だからな。なんてったって腕が足らん。」
それでも尚、不遜に堕ちた神に向かって言い放つ魔法師の男。そして少女達を見逃してやると言った堕ちた神。言葉通り、少女達に向けて何かすることもなく、ただこちらを見ているだけでした。本当に少女達を見逃すつもりなのでしょう。
--ですがその言葉には、魔法師の男は入っていませんでした。
少女は魔法師の男に治療させるように言いましたが、彼はそれを拒否しました。
魔法師は言いました。
「お前に責任はない。これは俺が選んだ行動だ」
「でも僕なら……私なら治せるかもしれない!!」
少女は男の前で、初めて自分のことを『私』と呼びました。
「私ってのは初めて聞いたな……流石にこの状態が治せるのかどうかは俺自身が理解してる。それにまぁ、なんだ、お前の目の前でくたばるのも嫌だし」
「でも……でも……!!」
それでも男は治療を良しとしません。少女の目の前で死ぬのは嫌だから、ここに留まるな。と。
「ならこうしてくれ、ここでお前は転移する。俺は残る。だったら俺が死んだかどうかは分からない。そして次に会った時には俺とデートしようか」
「そんな……次なんて」
「大丈夫だ、信じろ。俺はお前に会いに行く。例え神や魔王が無理だって言っても、俺は俺が決めたことは曲げてやらない。だから信じろ。な?」
両腕が既にない男。少女を助けるために負った深手。いくら信じろと言っても少女がその言葉を信じられるはずがありませんでした。
けれども無情に、少女を包む光はどんどん強くなっていきます。
「それじゃあな、長いようで短かったけど楽しかったよ。こんな俺と一緒に旅してくれてありがとうな。」
「--!!」
勇者も、女騎士も、少女も、ただ彼の名前を叫びました。その声が届いたかどうかは分かりません。
少女が気が付いた時には、もう魔王城の外だったのです。
それから少しの間、3人は一緒に旅をしましたが、少女は失意に暮れ、いつしか旅を続ける気力を失い、ある街に滞在することに決めました。
いつしか彼に惹かれていたのでしょう。魔法師の男を失った少女の落ち込みようは激しく、見ていて痛々しいほどでした。
それでも生きるためにはお金が必要です。少女はある日、お金を稼ぐために冒険者として活動することを決めました。
そこで出会った剣士と魔法師の兄妹に声をかけられ、何度か行動を共にするうち、仲間になって欲しいと頼み込まれました。
少女は彼のことが忘れられませんでしたが、それでも彼の最後の言葉を信じて、今度は絶対にどんな怪我でも治療出来るように、自らを成長させるために再び旅に出ました。
それから3年と少しが経ったある日、とある街で少女はある魔法師と出会います。
赤毛の彼とは違い、髪は黒く、容姿もそれほど似てはいませんでした。
けれどその魔法師の放つ一言一言が、話し方が、失った彼を思い出させます。
それに気付いてはいませんでしたが、少女もまた3年の間に大きく成長し、背丈は伸び、体つきも女性らしく丸みを帯びて来ていました。
更に真っ白なローブを頭からスッポリ被っていたのですから、当然誰が見ても3年前の少女だと気付く人はいなかったでしょう。
たまたま出会った黒髪の魔法師。彼は驚くほどの威力の魔法を使い、空を飛び、見たことのない道具を使いました。
いくらなんでも中級魔法師だった彼とは実力も違いすぎる。そう思ってはいても、何故か彼のことが気になってしまいます。
そんな折、王都が多数の魔物に襲われている。王女がこの街で助けを求めているとの話を聞き、仲間達とともに話の真偽を確かめるべく、王女がいると言われている場所に向かいました。
そこには既に彼の姿はありませんでしたが、かつての女騎士がそこで助けを求めていました。
辺りを見回せば、かつて勇者だった男もそこにいます。
少女は王女に声をかけ、自分がかつての仲間だったことを打ち明けます。
王女も、男も少女との再会を喜び、そして助力を求めました。そして黒髪の彼が、かつて自分達を守って死んだ魔法師その人であることを知ります。
そうなれば少女としても断る理由はありません。自ら助力を申し出、一行は王都に向かいました。
王都は惨憺たる状態でしたが、それほど多くの魔物の姿は見当たりません。きっと彼が、あるいは後から追いついた勇者達が魔物達を倒していったのでしょう。
少女は怪我人を治療する傍ら、黒髪の彼の姿を探しました。
しかし探せど探せど彼は見当たらず、少女は彼に会えなかったことを、確かめなかったことを後悔しました。
それから半年間、少女は彼が戻ってくることを信じて、王都の復興に尽力しました。
そしてまた、あの悪夢がやってきたのです。
彼を殺した張本人、堕ちた神がやってきたのです。
勇者ともう一人、彼と一緒にやってきたという剣士が堕ちた神と戦いを繰り広げます。
しかし堕ちた神はやはり強く、剣士の腹部を切り裂きました。
「待ってて! ボクがすぐ回復するから!!」
少女は剣士を治療しようと、慌てて駆け寄ります。
「やめろ! 嬢ちゃん来るんじゃねえ!!」
「なんだいキミは。チョロチョロと鬱陶しいなぁ。ボクは彼を殺さなきゃいけないんだから邪魔しないでよ。」
そしてまた、少女に堕ちた神が迫ります。
「じゃあね。苦しまないように首を跳ねてあげるよ。」
少女は迫る堕ちた神を見ながら、いつか見た光景だと考えました。
(あぁ、確かあの時はあの人が助けてくれたんだっけ。)
自分との約束を守り、世界を超えて戻ってきてくれた、今はいない彼のことを思い出します。
--簡単だよ。自分じゃどうにもならないなら、ただ助けてって言うだけでいいんだ。
少女はどうすることも出来ません。だから助けを求めました。
「コウさん……助けて……」
少女は初めて声に出して助けを求めました。そして目を閉じ。
「どっせええええええええい!!」
という大きな声を耳にしました。
「むぐっ!」
そして続く堕ちた神のくぐもった声。そう、この声は。
「しっかしレイン爺さんの言った通りだったな。もうちょっと遅かったら色々手遅れになってたっぽいのが怖いわ。」
『一応僕も言ったはずだけどねー。』
彼の声ともう一人、誰かの声が聞こえてきます。
「すまないなロッテ、怖い思いをさせて、でももう大丈夫だ。」
「コウさん、ボク……」
「あれ? ロッテまでボクっ娘に?」
それでも男は少女のことが分からないようで、間の抜けたことを言います。
「いや、だからボクは……」
「うーん、ロッテの外見だとボクってイメージじゃないよなぁ。どっちかというとワタクシとか言ってそうなイメージなんだけど。」
「いや確かに外見は変わっちゃったと思うけど……」
「ミリィもそうだけど一人くらいですわー。とか言ってくれた方がキャラも分かりやすいんだけどなぁ。」
ふざけたことを繰り返す彼に、ついに少女の堪忍袋の尾が音を立てて切れました。
「コウさんのバカあああああ!!」
「ふぐぅっ!!」
苦しくも楽しかったあの日々を思い出しながら、少女は黒髪の彼を思いっきり殴りました。
「いってて……容赦のない威力、肝臓を抉るこの角度……もしかして……」
「やっと気付いたの? しかもこれでってのが納得出来ないよ!!」
どうやら彼も気付いたようです。非常に、非常に残念ながらこんなことで。
「冗談だ。やっと会えたな、シャル。」
「本当だよ……全く……遅いよ。」
少女はそれでも、約束を守って戻ってきた彼を見て、溢れる涙を止めることは出来ませんでした。
ただひたすらに待ち続けた少女の物語は、ここからまた、始まりました。
超番外編です
本編はこのあとー




