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神殺しと悪魔

なんとか年内に一区切りつけることが出来ました。

「作戦会議は終わったのかい?」

「あぁ、おかげさんでな。後はテメェをぶっ殺すだけだとよ。」


 イガさんとフラッグが再び向かい合う。現状を見たところ、優勢なのはイガさんだが、フラッグはいくら斬ってもすぐに身体が修復してしまう。結局決め手に欠ける状態が続いている。


 会話の中にあった神殺しという技も俺は知らないし、それがフラッグに通用するのかも分からない。だがビゼンが知っているということは過去に村雲師範が使い、フラッグに有効だった。ということなんだろうが……


「ったく、トカゲ顔負けの再生能力だな。斬っても斬っても生えてきやがる。」

「仮にも神だからね。そう簡単に倒せるとは思わないで欲しいかな。」

「別に神だからとか関係ねえだろ。トカゲだろうがしぶといヤツはしぶとく出来てるもんだ。」

「本当に口が減らないね。」


 これは挑発なのか、それとも思ったことを言ってるだけなのか。いずれにしても豪気なお方である。


 さて、俺も集中して魔素を取り込んでおかないと……


「それじゃボウズも集中し始めたみたいだし、そろそろ行くぜ。ビゼンっつったな。神殺し、思いっきりやっていいんだな?」

『もちろん、アイツ相手に手加減は無用だよ。』

「違う。本気でオレがお前を振るって大丈夫なのか聞いてるんだ。」

『え? 僕はこれでも鋼の精霊だよ? 人間の力くらいじゃなんともないよ。遠慮なくやっちゃってよ!』

「そうか、鋼の精霊なんてのもあるんだな。分かった。なら本気でいかせてもらうぜ!」


 イガさん達の会話が漏れ聞こえてくる。うん、ビゼン大丈夫かな。イガさんって実際こっちに来てから人外まっしぐらなんだけど。しかも今って確か絶賛身体能力ブースト中じゃなかったっけ……


 イガさんが本気で刀を振るう姿を想像し、なんとなく嫌な汗が出る。


 --いや、いかんいかん集中せんと!!


 今はとにかく魔素を取り込むことに集中する。もっと、もっと。この空間の魔素が枯渇するまで。


「ん? 何かするのかい? いいよ。ボクはいつでも。どうせボクの攻撃はキミに当たらないし、キミの攻撃はボクには通用しない。なら疲れたところを狙って殺すしかないからね。」

「ハッ! その余裕がいつまで続くか見物だぜ!!」


 イガさんが動く。遂に例の神殺しとやらを使うんだろうか。


「村雲流剣技。」


 刀を上段に構える。動きはスローに見えるが、その動きに淀みはない。むしろ途中で攻撃するのが無粋に感じられるほどだ。


「壱之太刀。四肢威し(ししおどし)。」


 言葉を発した後、刀を降り下ろす。


 --速すぎる。複数回斬ったのまでは見えたが、どこを何回斬りつけたのかが把握出来ない。


 これでもレイン爺さんのところで鍛えられたつもりだったんだけどなぁ……あの人やっぱ化け物だよ。


「うん? どこを斬ってるんだい? 確かに凄いスピードだったけど、ボクを真っ二つにでもするんじゃなかったのかな?」

「状況を把握してから喋るんだな。このトカゲ野郎。」

「とは言ってもね、痛くも痒くもないし、ほらこの通り腕だって……」

「腕だってなんだ?」

「まさか……腕が動かない! 足も!? 一体何をした!?」

「言う義理はねえよ。ただオレは斬っただけだかんな。」


 言葉少なに、既に次の動作に入っているイガさん。何をしたのはかは分からないが、フラッグの手足が動かないようだ。なにそれこわい。


「まだまだ行くぜ。弐之太刀。獣殺し。」


 フラッグと至近距離のまま、その刀を振るう。


「ま、待って、身体がうごかな……」

「誰が待つかよ。」


 ーーズパァッ!!


 フラッグの首が飛ぶ。そのまま頭を狙えば良かったのに、と思うのは無粋なのだろうか。


 --でもイガさんの剣閃はそれでも止まることはなく。


「参之太刀。人殺し。」


 縁起でもない言葉が聞こえた気がする。いや、技名だ。技名。深くは考えないようにしよう。


 ビゼンがフラッグの胸--人間で言えば心臓がある場所を貫いていた。


『ちょ、ちょっとイガさん。もうちょっと抑えて……』

「あん? 大丈夫だっつったろ? もう少しだ。我慢しな。」


 うんそうだよね。全く刀振ってる動きが見えないもんね。さっきから見えるのは刀を振るった後の結果だけだし。


「終之太刀。--神殺し。」


 --ドッ!!


 一際大きな衝撃音とともに、フラッグの眉間辺りが貫かれていた。最後のは見えないどころじゃない。普通突きって衝撃音鳴ったりしないだろうよ……


「それにコイツはオマケだ。取っときな。」


 イガさんが刀を腰だめに構える。傍目から見た感じでは動きが止まっているように見えるが、恐らく体を捻転させているんだろう。少しだけ身体が後ろに捻っているのが見える。


「--暴風。」

『ちょっと!? これってストームの!? やめてえええええええ!!


 なんかビゼンの絶叫が響き渡る。この後俺も使うんだけど大丈夫だろうか?


 それに声が聞こえた時にはもうイガさんの姿勢は既に刀を振るった後の体勢だった。フラッグの身体を斬ったようだけど、何も起こってない。


「ボウズ、終わったぜ。後はお前の仕事だ。たのんだぜ。」


 そう言ってこちらに向かって歩き、ビゼンを差し出してくる。


「いや、あれ? 終わったって最後のは?」

「ああ、それならそろそろだ。」

「え?」


 ビゼンを受け取りながら首を傾げる。まぁいいや、とにかくここからは俺の役目……


 --ドパァッ!!


 と、何かが爆ぜるような音が聞こえて、音のした方向を見る。


「うわぁ……」

『なにこれもうおかしいよ。人間じゃないよ。』


 音のした場所はフラッグの身体があった(・・・)場所だった。今や見るも無惨な肉片が散らばっているだけだが。


「うーん、これって俺が出る必要なんてないんじゃあ……」

「ボウズ、それは終わってから言やいい。とにかく手は抜かねえこった。」

『僕もどうかとは思うけど、相手は神だからね。やり過ぎてもやり過ぎってことはないと思うよ。』


 なんとなく釈然としないものを感じるが、ビゼンを手にとって精神を集中させる。


「じゃあイガさん、俺の後ろにいて。」

「分かった。」


 集中しろ。制御を誤るな。手を抜けば死ぬと思え。


「我が身に宿る精霊よ。その姿を現し、我が願いに応えよ。」

『はいはーい。いっくよー。』


 ビゼンが大太刀から羊の姿に変化する。いつ見てもなんとも言えない光景だ。


「……羊?」


 後ろからイガさんの訝しげな声が聞こえた。うん、普通はそうなるよね。


「凄惨なる闇よ。我が精霊に力を与え、その存在を昇華させよ。汝は食らい、与え、混沌をもたらす悪魔。」


 別に羊単体である必要はなかった。結局精霊行使だってイメージだ。ならきっかけがこの姿であればこそ。


「其方は単騎にて万の軍勢。蹂躙し、破壊し、焼き払い、混沌と破壊の地獄へ誘う偉大なる王。」


 どうも俺の魔法には悪魔を冠する名前が多い。地球でラノベばっか読みまくったせいか。いや、おかげ、なのか。


「さあ闇を食らえ、敵を食らえ。そして世界を食らい尽くせ。」


 さあ神よ。堕ちた神よ。悪魔と神、どちらが勝つか勝負しようじゃないか。


「ビゼン!! モード・アスモデウス!!」

『グルガアアアアア!!』


 羊、牛、人の頭を持ち足はガチョウの足、毒蛇の尾を持つ身体をしていると言われているが、俺のイメージではそこまでグロい姿には出来なかった。


 頭は羊の姿ながら、人の形となり巨大なドラゴンに跨がりながら、これまたとんでもなく巨大な槍を持った巨人兵のような姿である。


 --ゴオオオオオオオオッ!!


 アスモデウスと化したビゼンがその口から火を吐く。羊が火を吐くとか怖すぎる光景だが、それは今は言いっこなしだ。


『グルルルルルル……』


 唸りながら辺り一面を焼き尽くしていく。


 --やべっ、アラン達がいるのを忘れてた。


 少し焦りながら辺りを見回す。が、仲間達の姿は見えなかった。


「コウさん、みんななら大丈夫だよ。私が治療して避難させておいたから。」


 後ろから声が聞こえた。


「シャルか? 助かった。巻き込んじゃったらどうしようかと……」

「どうせコウさんのことだから何も考えてないんじゃないかと思って。」


 図星である。別に何も考えてないわけじゃない。ただ忘れてただけなんだ。だから許して皆。


「シャルも後ろにいてくれ。巻き込まれたら危険だしな。」

「うん、私はコウさんの側にいるよ。」


 それはどのような意味なのでしょうか。ちょっと詳しく聞いてみたいところです


「ったくお熱いこって。つか本当に熱いな。ボウズ、大丈夫なのか?」

「っといけない。集中しないと。」


 思考が逸れてしまった。ちゃんと集中しないと理性を失ったビゼンが俺達を襲いかねない。


「ビゼン、トドメだ!」

『グルッ!!』


 俺の言葉が理解出来ているんだろう。ビゼンが返事っぽく唸る。でもとても怖い。


『オオオオオオオッ!!』


 ビゼンが叫び、槍を持った腕を振り上げる。


「カオス・スピアー!!」


 ネーミングは至極単純。混沌をもたらす槍の名だ。


 神話などでよくある槍の名前をつけようとも思ったが、神と悪魔、相反する存在の名前を付けるのはよろしくない。なので直感的に名前を付けた。


 その名の通り、闇を纏いながらフラッグの頭部があったであろう場所に向かって槍が飛んでいく。


 --ゴッ!!


 風を切り裂き、自らの吐いた炎をかき消しながら、巨大な槍が炸裂する。そして地面に到達した時、音もなく槍が消滅した。


 --周辺一体の空間を削り取りながら。


 そして辺りは静寂に包まれた。


「すげえ……な……」

「すごい……」


 イガさんとシャルの声が聞こえてくる。どちらの声も掠れるような小さな声だった。思わず漏れ出た、という感じか。


「ビゼン、モード小太刀。お疲れさん。」


 ビゼンの姿が輝き、いつも携帯している小太刀の姿に戻る。どうやら上手く制御出来たようだ。


『コウ、お疲れ様。イガさんが上手く足止めしてくれたおかげで準備も十分だったし、上手くいったね。』

「だな。イガさんえげつなかったし。」

「今の見せられた後でボウズに言われたかねえな。」

「私からすればどっちもどっちだよ……」


 シャルにも呆れられる。やり過ぎた自覚はあるだけに反論は出来ないが。


「それにしてもフラッグはどうなったんだ? 自分で言うのもなんだけどアレだけやれば流石に……」

『どうだろうね? 消し飛んだとは思うけど。』


 なんの音沙汰もないのは逆に不安もある。もしかしたら逃げられたんじゃないかと。


『安心しなよ。ボクはまだ死んじゃいないさ。』


 肉声、ではないな。ビゼンと話している時に近い。耳ではなく、頭に直接入ってくるような感じの声が聞こえた。


「これでも生きてるのか……全くどうやったら消滅させられるのやら。」

『言っただろう? 人の姿はあくまで仮初めの姿だって。だけどさっきのには参ったよ。僕の概念ごと消し去ろうとするんだからね。おかげでボクはしばらく肉体を顕現出来ないし、今は概念体となって逃げるしかないよ。悔しいけどね。』

「オレらが逃がすと思ってんのか?」

『うん、悪いけど逃げるよ。今なら直接的な干渉は出来ないだろうしね。--ああ、ヴィエラに伝えておいて。次はキミだよ。って。』

「オイ!! 次はヴィエラってどういう意味だ!! 答えやがれ!!」


 イガさんが激昂する。


『その質問に答える必要はないよ。多分コウクンなら分かるんじゃないかなぁ。じゃあね。時間をかけてまたさっきのような魔法を使われても困るし、ボクは行くよ。--次は、殺す。』

「オイ! 待ちやがれ!!」


 イガさんが叫ぶが、返答はない。どうやら本当に逃げてしまったようだ。


『逃げたみたいだね。でもアレだけ痛めつければ回復にもしばらく時間がかかると思うよ。ただでさえハープの封印を解放したばかりで休養が必要だったはずだし。だけどいつになるかまでは読めない。恐らく半年は大丈夫だろうけど……』

「半年か……意外と短いな。さっきのでも倒しきれないとなると、またアイツを倒す方法を考えないといけないな。」

『大丈夫だよ。コウとイガさんならやれるさ。なんてったってクラウド、ヴィオラ、ムラクモ、ストームの血と力を受け継いでるんだから。』

「ストームの? それって……」

「おーい!!」


 と、離れた場所から声が聞こえてきた。この声はアランか。


「コウ! イガラシ!! 無事だったか!!」

「アラン、お前も無事だったんだな。」

「ああ、シャルのおかげでな。それで、フラッグはどうした?」

「すまん、逃げられた。」


 正直に話す。出来れば倒したって言いたいところなんだけどな……


「そう、か。いや、俺には手も足も出なかったんだ。撃退してくれただけでも感謝してるさ。」

「そう言ってくれるとありがたい。ビゼンが言うには、半年間は姿を見せないだろうとは言っていた。」

「ビゼン?」

「ああそうか、そういえばその辺も説明してなかったよな。それも含めてこの後集まって話をしないか? お互い報告しなきゃならないこともあるだろうし。」

「分かった。それじゃあとにかく皆のところに行こう。皆心配してるぞ? 特にアイラとアイサがな。」

「コウさん? 僕も色々話聞きたいな。今まで何をやってたか、よーく、ね?」


 シャルさん? 足踏んでますよ? それとまた僕っ娘に戻ってますよ。あ、痛い痛い。足が痛い。


「全くお前らは……まぁいい、ほら先に行ってるからな?」

「ボウズ、お前は後からゆっくり来い。」


 アランとイガさんが先に行ってしまう。ちょまっ、待って!


 この後めちゃくちゃリバーブローされた。


ここで完結させることも考えたのですが、まだ書き足りないので続けようと思います。

是非来年も引き続き、本作をよろしくお願いします!!

皆様良いお年を!

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