形勢逆転(悪い意味で)
あの方を忘れて貰っては困る。
--考えろ。考えろ。考えろ……!!
次々と放たれる真空刃をかわしながら、思考を続ける。
今や形成は逆転し、先程まで攻め立てていた姿が見る影もないほど、俺の身体は無数の切り傷がつけられてしまっている。
かろうじて直撃は避けているものの、いつ終わるかも分からない攻撃の嵐にかわすのが精一杯、皮一枚で生き延びているようなものだ。
「アハハハハッ!! どうしたんだい? さっきまでの威勢が見る影もないじゃないか。」
「くそっ!!」
悪態をつくが状況は変わらない。フラッグの猛攻を凌ぎきり……いや、仮に凌いだところでどうする。魔法に賭けるか? それともビゼンを刀に戻して斬りかかるか?
どちらにしても今の状態では隙を作ることさえかなわない。ただ蹂躙され、首を跳ねられるのを待つだけなのか!?
「絶対に死んでやらない。シャルと約束したんだ。」
「約束? その約束はボクにとってはなんの価値も意味もなさないよ。ほら、早く反撃するなら反撃してみなよ。」
口調は軽いが、その攻撃には容赦はない。直撃すれば一撃でやられてしまう。それだけの威力があるだけに安易に突っ込むわけにもいかない。
「くっ、ビゼン! モード大太刀!!」
『コウ、それでいいのかい?』
「四の五の言ってる暇はない! いちかばちかだ!!」
ビゼンがその姿を長い太刀へと変える。こうなったら無理矢理にでも状況を変えてやる!!
左手に握ったベレッタでブーストを発動し、フラッグへと迫る。発動後、急いでベレッタをしまい、太刀を強く握りしめる。
「焦ったね。ボクの勝ちだよ。」
俺が迫るスピードに対し、向かい来る真空刃。身をよじりながら、かろうじてかわしつつフラッグに迫る。もう少し……
そこにかわした真空刃の後ろから、フラッグが飛び出してきていた。いつの間に!?
「これで何度目かな? 今度こそさようなら。」
手刀が繰り出される。
「くっ!!」
太刀で受けるが、身体が宙に浮いていたこともあり、踏ん張ることが出来ない。
--ギィンッ!!
大きな音を立ててビゼンを弾かれてしまう。その衝撃のあまり、俺は思わず手を放してしまった。
「しまっ!!」
「これで終わりだね。楽しかったよ。でももう生き返ってこなくてもいいかな。キミの存在は危うすぎるからね。」
そう言ってフラッグの手刀が迫る。
「やられてたまるかあああああ!!」
「むっ?」
慌ててベレッタを握り、ラピッドを発動させる。僅かに距離を取るが、すぐに距離を詰められてしまう。
「往生際が悪いよ。こんなことをしてなんになるというんだい?」
ラピッド、ブースター、ブースター。
二丁の拳銃を握り、縦横無尽に逃げ回る。が、その全てに遅れながらもついてくるフラッグ。もう少しでも距離が空けられれば……
「しつこいな。落ちろよ。」
なんとか逃げ回っていたところに真空刃が迫ってくる。
「くそっ、またか!!」
ブースターを発動しながら真空刃をかわす。だがその動きがロスとなってしまい、フラッグに肉薄されてしまう。
「いい加減諦めなよ。もう打つ手なんてないんだろう?」
「誰が諦めるか!!」
確かに打つ手なんてない。それでもただ諦めて死んでやるなんてゴメンだ。
「解せないね。こんな意味のないことを続けたって……」
「例え神や魔王が無理だ。諦めろって言ったってな!! そんなことは俺は知らない! ただ生きて約束を果たすために! 俺は絶対に諦めてなんかやらない! 諦めてやるもんか!!」
あぁそうだ。一度死んだ時だってシャルに向かってそう言った。例え相手が神だろうが、諦める理由にはならない。見苦しくても、這いずってでも、俺は生き延びてあの日の約束を守って見せる!!
「そうかい、だったら諦めなくていいよ。後悔する間もなく死ねばいい。」
追い付かれて腹を蹴られる。
「グハッ!」
その衝撃にブースターを維持出来ずに地に落ちてしまう。くそ、もう一度……
なんとかベレッタを握り直そうとするが力が入らない。まだだ、まだ諦めるわけにはいかない。
「どうだい? 流石にもう諦めるしかないよね。」
「うるさい……絶対に諦めて……やるもんか……」
虫のように這いつくばりながら、それでも俺は諦めない。フラッグを睨み付けることしか出来ないが、それでも諦めてしまったらそこで終わってしまうから。
「そっか、もういいよ。これで終わ--」
「よく言ったぜ。ボウズ。」
フラッグのセリフが終わる間もなく、その身体が真っ二つに切り裂かれる。
「わりぃな。ちょっと借りるぜ。」
この声は……
「イガ……さん……」
間違いない。イガさんだ。それにしてもどうして?
「キミは。キミがビゼンを? そうか、やはりキミは彼の--」
「うるせえよ。オレァ今無性に腹が立ってんだ。いちいちその甲高い声で喋るんじゃねえ。」
既に胴体が修復しているフラッグに向かい、流れるような動きで迫るイガさん。一瞬の動きで再度胴体を切り離し、腕を、足を、バラバラにしてしまった。
「イガさん、その動きは……それにその刀は……」
「ああ、嬢ちゃんがオレに何かしたみたいんだが、詳しくはわからねえ。それとこの太刀はボウズが落としたのを拾ってな。ちょうどいいからちょっと借りてるぜ。」
ビゼンは他人にも使えたのか……いや、確かに契約したとは言え、魔法を使う以外は外に干渉して、具現化が済んでいる。それを他人が使えたとしてもおかしくはないか。もちろん俺が拒絶すればこの手に取り戻すことは出来るかもしれないが。
「さて、そこの道化野郎。さっきはよくもやってくれやがったな。それにヴィエラやボウズにも手を出しやがって。わりぃが手加減してやる義理もねえ。」
おかしい。ヴィエラには手を出せなかったはずじゃないのか。そういえばヴィエラもあそこで倒れているが……だが俺の思考を余所に、二人の会話は続いていった。
「だったらなんだって言うんだい? これくらいじゃボクは殺せないよ?」
「んなこた知らねえ。オレから言えることは一言だけだ。--殺すぜ。」
「ハハハッ。面白いことを言う人間だね。邪魔だよ。」
俺と話してる間に身体の修復が済んだのだろう。距離が空いているのに手刀を振りかぶっている。まさか例の真空刃か!!
「イガさん、アレは危ない……」
「黙って見てな、ボウズ。」
イガさんに向かって真空刃が縦横無尽に繰り出される。
「イガさ……!!」
だが俺の心配を余所に、イガさんには真空刃が当たらない。それこそ紙一重でかわしてるんだろう。その証拠に、イガさんはその場からほとんど動いていない。
「はっ! こんなおせえ攻撃でオレが殺せるか!! ナメんじゃねえぞ道化野郎が!!」
イガさんがフラッグを挑発する。
「なるほど、確かにキミもコウクンと同類のようだね。これでもボクを切るなんて芸当。そこらの剣士じゃかなわないよ。それにこの技だってそうだ。一体キミ達は何者なんだい?」
「いちいちテメェに名乗る必要は感じねえな。とっとと去ね。」
「全く、ふてぶてしいところまで彼譲りかい? 本当に腹が立つよ。」
言うが早いか、フラッグがイガさんに猛スピードで迫る。
だがイガさんは動じず、手刀を太刀で受け流し、返す刀でフラッグを袈裟斬りに断つ。まさに一刀両断だった。
それでもやはり斬ったところから傷が修復してしまう。どうやったら奴を倒すことが出来るんだろうか。
『ねえ? 聞こえるかい? 聞こえたら返事して欲しいな。』
「うお、なんだ!? いきなり声がしやがる。」
「この声はビゼンか! どうしたんだ?」
『良かった。コウも無事なんだね。それより今僕を持ってる君、確かイガさんって呼ばれてたっけ? 君も僕の声は聞こえてるよね?』
ビゼンは俺ではなく、イガさんに話しかけているようだ。一体どうしたんだろうか。
「ああ、聞こえてるぜ。ボウズと知り合いってこたぁ敵ってわけじゃなさそうだな。で、なんだ?」
『うん、僕はコウと契約した精霊だよ。イガさん。君の動きを見ていて思ったけど、君はムラクモの後継者だね?』
「ムラクモ? ああ、村雲師範のことか。後継者かどうかは知らねえが、確かにあの人に師事してたのは確かだ。」
『そっか、なら君は使えるかな? 神殺しを。』
神殺し? 俺は聞いたことないが……
「……テメェ、なんでその名前を知ってやがる。」
『詳しい話は後だよ。なら使えるんだね。』
「ああ、確かに教わってはいる。」
『じゃあフラッグに、奴に神殺しを使って。大丈夫、あとはコウがなんとかしてくれるはずだから。』
「えっ? 俺がか?」
イガさんのおかげで体力は回復してきているが、傷が治ったわけじゃない。魔力にも余裕はあるが、俺にどうしろと?
『コウ、アレを使うんだよ。大丈夫、コウなら出来るから。』
「アレって……アレだよな。」
『そうだよ。イガさんが神殺しでフラッグの動きを封じた後に、アレでトドメを刺すんだ。倒せるかどうかは別にしても、効果はあると思うよ。』
「ボウズ、ゴチャゴチャ考えても仕方ねえ。今は他に手もねえんだ。ならやるしかねえさ。」
「イガさん、ビゼン……分かったよ。」
レイン爺さんの元で剣の修行を重ねる傍らで、当然魔法の修行だってしてきた。その中で、ビゼンの精霊としてのキャパシティを最大限に発揮する方法を試行錯誤し、ついに編み出した魔法がある。
だがアレは直接生き物に対して使ったことはないし、フラッグ相手に通じるものか……
「本当にキミは強いね。いいよ、キミのことも覚えておいてあげるよ。名前は聞けず終いだったけどね。だけどキミにボクは殺せない。ボクはキミを殺せる。この意味がわからないわけじゃないよね?」
もう復活してきたのか。フラッグが悠々とこちらに歩いてくる。
「ボウズ、あとは任せたぜ。オレはオレに出来ることをやる。ボウズはボウズにしか出来ないことをやれ。さっき言ってただろ? 絶対に諦めねえって。だったら最後まで希望は捨てるんじゃねえ。自分の中にその可能性があるなら尚更だ。」
「イガさん……」
「辛気くせえ顔してんじゃねえ! テメェはもっとふてぶてしくやってりゃいいんだ。--じゃあ行くぜ。」
そう言ってイガさんが駆け出していく。
でも確かにイガさんの言う通りだ。自分の中に可能性があるなら、その可能性を試さずに終わるなんて許されるはずがない。
だったらやるしかない。誰でもない、俺が。俺自身がこの戦いに終止符を打ってやる!!
マジイガさん主人公キラー。
ほんまこの方の活躍を書いてる時はサクサク進みますわ。(ダメである)




