-魔導師去りし王都にて-Side アラン
コウが転移した直後の王都防衛線です。
しばらく別人物の視点が続きます。
「ひでえなこりゃ……」
イガラシが絶句している。無理もない。俺だって同じ気持ちだ。
コウを追いかけて俺とイガラシは休憩を挟むことなく走ってきた。数日かかる距離ならともかく、ミリィが馬車を借りるから少し待てとは言っていたが、俺達二人の能力なら走った方が速い。実際俺達は半日も経たずに王都に辿り着くことが出来た。
だが、そこは既に賑わっていた街ではなく、ところどころで建物が半壊しており、地面は抉れ、人や魔物の死体が打ち捨てられているという惨憺たる光景が広がっていた。
「ともかく生存者と合流しないとだ。イガラシ、すまないがギルドを見てきてくれないか? 俺は城に向かって団長を訪ねてみる。」
「おう、俺もそうしようと思ってたところだ。ギルドの様子を見て助力が必要ならそのまま残る。無事なようなら俺もそっちに行くからよ。」
「そうしてくれ、じゃあ後で会おう。」
見た目が歴戦の傭兵を思わせる風貌であったり、無愛想なところはあるが、イガラシは基本的に善人だ。コウが異世界で生活していた頃は面倒を見てくれた人だし、人は見かけによらないものだと思う。
「しかしコウの姿が見当たらないな。アイツなら今頃無茶をして大魔法でも使ってそうなんだが。」
姿が見えない幼馴染みを思って呟く。アイツは昔からそうだ。自分が一番損な役割を引き受けたがる。しかも一度やると決めたらとことんにやる。そういう時のアイツは周りを巻き込む悪癖があったことを思い出す。
今思えばイガラシもその内の一人なんだろう。コウと長く接したから巻き込まれた。そう考えると彼が不憫に感じることもある。
「城は……無事か。」
今なお王都の中心に構える王城を見て少し安堵する。団長達が頑張って魔物を撃退したか、それともコウの助けが間に合ったか。いずれにしろこの様子なら王も無事だろう。
城の前まで辿り着いた頃にようやく人の姿が見えてきた。どうやら騎士団のようだが、それほど人数がいない。やられてしまったか、あるいは他の場所に派遣しているんだろう。騎士団の後方に一際巨大な斧を持った男がいる。団長も無事な様子だ。
「団長!! 無事だったか!!」
「勇者か。思ったより早かったな。小僧とともに助力感謝する。」
「ということはコウもここに来たんだな? アイツはどこへ?」
「この辺りの魔物を全滅させてギルドに向かったぞ。しかしあの小僧は無茶苦茶だな。我等騎士団が防戦一方だったこの戦況を一人で覆しよった。つくづく敵に回したくない男だと思ったぞ。」
アイツ一体何したんだ。
「そうか、ギルドにはイガラシも向かっているが、あちらも大丈夫そうだな。」
「だろうな。正直言ってワシも信じられんよ。壊滅寸前だった王都を一人で守ったようなものだ。まだ数人の魔族とその取り巻きである魔物の群れは残っておるが、既に数の利は得た。それに貴様等の助力もあればこれより掃討戦に入ることも出来るだろう。」
「分かった。俺は何をすればいい?」
「ここはワシが守る。腐っても王を守る騎士団じゃ。勇者よ。貴様にはこの付近の魔物を手当たり次第滅してもらいたい。今この王都で単独行動がとって生き延びられるほどの実力者は貴様とイガラシくらいだろうからな。」
「分かった。なら俺は行く。何かあれば魔法で合図するなどで呼び戻してくれればいい。」
「承知した。すまんが頼む。」
まず城の周りをぐるりと周り、魔物がいないことを確認してからギルドの方向とは逆に向かう。先程団長はコウがギルドに向かったと言った。だとするとその逆の方向の殲滅が甘い可能性があるからだ。
「やはりいたか。」
露店が並ぶその一角にそいつらはいた。牛のような顔に二足歩行の人型の魔物。恐らくはコイツが魔族なんだろう。
「ふん。まだ人間が生き残っていたか。どうやら多少は腕に覚えがあるようだが、オレの相手にはなるまい。」
「あいにくだが無駄話をしている暇はない。貴様等に殺された人々の恨み、この俺が晴らさせてもらう。」
これ以上の会話は必要ない。俺は背中に背負った剣を抜き放ち、魔族に向かって駆け出す。
「オレが相手をするまでもないだろう。ガツ、ギアラ。あの人間を殺せ。」
「ギギッ!」
同じく牛のような形をした魔物と馬のような形をした魔物が前に立ちはだかる。上半身が人間で下半身が四足の動物のままだ。
「悪く思うな。遊んでる時間はないんだ。」
俺は牛の魔物に斬りかかる。恐らく見た目通り力はあるだろう。だが俺の剣は元々力で圧倒するような剣技じゃない。悪いがその腕から貰う!
「ハァッ!」
横薙ぎ一閃、牛の魔物が俺の剣を破壊しようと斧での一撃を繰り出そうとしてくる。が、それも予想通り、俺はライトニングを発動させ、急加速とともに斧をすり抜け、相手の腕を斬り落とす。
「グガアァァァッ!!」
イガラシとの模擬戦を繰り返す間に、俺のライトニングを操る技量も増したと実感している。特にイガラシが目標としていた瞬間発動についてもなんとか習得することが出来た。おかげで急加速によって相手の狙いを逆手に取ることも出来るようになり、攻撃の幅も広がっている。
「恨むならあの魔族を恨め。」
そのまま魔物の首を跳ねる。首と胴体が離れたことを確認し、すぐさま後方に振り返り、馬の魔物の様子を確認する。これも予想通り、といったところか。魔物がこちらに向かって突進してきた。
--獲物は槍か。
腕が伸びきったところを狙うのが定石だが、相手は四足だ。恐らく途中の方向転換も可能だろう。人間と同じように考えるのはダメだ。
「シッ!!」
再度ライトニングを発動させ、地を這うように姿勢を低くする。そして槍を潜り抜け、恐らくはこの魔物の要であろう足を斬る。流石に四足全てとはいかなかったが、片側の二足を膝から斬り落とし、姿勢を崩したところで先と同じように首を跳ねる。
そして剣についた血を払い、魔族を振り返った。
「次はお前だ。」
「ガツ……ギアラ……よくもオレの可愛い部下を! 許さんぞ人間!! 貴様の首を跳ねたあとは肉片一つ残さず喰らい尽くしてくれるわ!!」
「そう言ってまだ食われたことはない。」
素っ気なく返し、ライトニングを発動させる。恐らく先程の魔物よりも遥かに強いのだろうが関係ない。ただ全力で相手を滅するのみ!
「ハァッ!」
様子見の意味も込めて斬りかかる。相手の獲物は斧だ。油断してお互いの斬撃がぶつかるようなことがあればこちらの剣が折られてしまうかもしれない。
--ザシュッ!
俺の攻撃が魔族に当たる。だが思ったより傷は浅い。かのベヒモスと同じように皮膚が強固なんだろう。
「ヌウ、やりよるな人間。オレに手傷を追わせるか。だが貴様の剣は軽い! そんな攻撃ではオレの鍛えた身体は切り裂けんわ!!」
そう言って斧を振りかぶり、こちらに向かってくる。思ったよりも動きが速い。だが今の俺よりは遅い。これなら相手の斧を避けてこちらの攻撃を重ねていけば……
だが相手の身体は予想以上に固く、斬っても斬っても致命傷には至らない。皮膚の表面を斬ったところで剣が止まってしまっているようだ。
「フハハハハ、人間よ。貴様もよく戦ったが、所詮このミノタウルスのテッチャン様の相手ではなかったようだな!! 貴様の攻撃はいくらオレに当たっても掠り傷しかつけられぬ。対してオレの攻撃が一度でも当たれば貴様はただの肉塊と化すだろうよ!!」
うるさい牛だ。だが確かにこのままでは奴の言う通り、いつか相手の攻撃が避けきれなくなって殺されてしまうだろう。そうだな、このままでは。
「テッチャンとか言ったか。さっきも言っただろう。俺は殺された人々の恨みを晴らさせてもらうと。」
「ハーッハッハ!! 面白いことを言う。満足に傷も負わせられぬ剣でどう晴らすというのか!!」
せいぜい笑っているがいい。
「清浄なる光よ。我が求めるは魔を断つ剣。闇を切り裂き、光をもたらす希望の刃。」
「今更魔法か。最初から使っておれば良いものを。」
テッチャンがこちらを伺っているが、その表情は余裕を表している。その余裕が命取りだと後悔するといい。
「ライトニングセイバー!!」
イメージはかつて振るったあの聖剣での一撃。コウは光刃とか呼んでたっけな。光が剣を包み、輝いていく。
コウにも話していないが、俺が銀で出来た剣を使っているのには理由がある。このライトニングセイバーとの相性が一番良かったからだ。聞いた話では更に魔法との相性のいいミスリル製の武具があるらしいが……
剣に十分魔力を送り込み、剣を振りかぶる。
「切り裂け、光刃。」
幼馴染みの名付けた名前とともに、一気に剣を振り下ろす。名前の通り、光の刃が高速でテッチャンに向かい、その身体を通過する。
「なんだそれは、光が身体を通り抜けるだけか? そんな魔法がこのテッチャン様に通用するとでも--」
「その台詞は自分の身体を見てから言うんだな。」
「なんだと?」
通過した箇所が光り始め、ちょうど真ん中から縦にテッチャンの身体がズレていく。
「なんだ、なんだこれは!? 何故オレの身体が! 痛みもないのに何故だ!?」
「痛みがないならいいじゃないか。じゃあな、今まで殺してきた人にあの世で詫びろ。」
「こんな、こんな人間如きにオレが、アァァァァ……」
そして身体が縦に真っ二つになり、地に倒れ伏す。相手の油断があったが勝ちは勝ちだ。残った魔物を掃討してギルドに向かおう。
俺はテッチャンの死を見て指揮を失った魔物の群れに飛び込み、一匹残らず斬り伏せていった。
今までは幕間のみの別人物視点でしたが、本編に導入することにしました。
賛否両論あるかとは思いますがご容赦ください。




