昔の話
お待たせしました。本日帰宅です。
「腹減った……」
歩き続けてはや数時間、結局ここがどこかも分からないまま、ただひたすらに歩き続ける。
先のフラッグ戦で魔法を使い過ぎた影響もあってあまり魔素を取り込むことも出来ず、スラスターも満足に使えやしない。
それにこの状態でもしキング級の魔物にでも出会おう物ならそれこそ一巻の終わりだ。せめて緊急時に逃げるために魔法は温存しておくこととした。
「なぁ、結局お前は何がしたかったんだ?」
特にすることもないのでビゼンに話しかける。そもそも父さんに持たされた刀が喋るなんて話は聞いていない。一体どういう了見なのか。
『そう言われてもなぁ。僕は眠りにつく前にヴィオラに命じられただけだよ。この刀の持ち主をある場所まで導くようにって。』
「ある場所ってどこだよ。」
『イシュタの街っていうクラウドの故郷だよ。そこには僕の弟がいたはずさ。つまりコウ、君のお兄さんでもある。』
勝手に兄弟にされてしまっている。うーん、本当にビゼンを打ったのは父さんなのか?
「そもそも兄弟っていうけど、お前の言うクラウドってのは本当に父さんのことなのか?」
『間違いないと思うよ。コウからはクラウドと同じ魔力の質も感じるしね。たださっきも言ったようにその器は比較にもならないけど。そもそもクラウドは魔法が苦手だったしね。』
父さんの名前は如月蔵人といったはず。確かに日本人にしては珍しい名前だとは思っていたが……
「でも母親はヴィオラって言ってただろ? 父さんは確かにクラウドって名前だけど、母さんの名前は奏って名前だったはずだけど。」
『意図的に名前を変えたのかまでは知らないよ。そもそもクラウドがヴィオラ以外とくっつくとも思えないしね。彼は不器用だったから彼女以外と結ばれるとは到底思えないね。』
我が父ながらいくらなんでもな評価である。確かに不器用そうではあったけども。それにヴィオラ、地球で言えばヴァイオリンか。演奏で「奏」とかまさかな。
「だとしたら何故父さん達はこことは違う世界にいるんだ? それにビゼンはフラッグを知っているようだったけど。」
『フラッグは僕の敵でもあるね。クラウド達は別の世界にいるの? 道理で魔力を感じないと思ったよ。ストームの魔力はなんとなく感じるんだけどなぁ。』
また知らない名前が出てきた。知ってる情報と知らない情報が混在しているから余計に混乱してしまう。
「ストームって誰よ?」
『さっきからコウは質問ばかりだなぁ。ストームの名前は誰でも知ってそうなものなんだけど。そもそもアイツはいけ好かない奴だったけど、一応勇者なんて呼ばれてたみたいだしね。』
「勇者? 俺の知ってる聖剣の勇者はアランって奴以外いないぞ? まぁカナリアにも勇者って呼ばれてた奴がいるくらいだから、場所によって勇者と呼ばれる人間がいてもおかしくはないけど。」
『あれえ? 僕の知ってる勇者は後にも先にもストームだけだよ? ムラクモに言わせれば豪放磊落な性格ってやつらしいけどね。』
豪放磊落って今日び聞いたことないな。それにそれって日本のことわざじゃないのか?
「それにムラクモってこっちでは珍しい名前だな。日本にいた時にお世話になった師範の名前と一緒だけど。」
『なんでも違う世界から来たらしいよ。僕の刀は元々彼の持っていた刀を見本にして作られたらしいしね。』
「おいおいマジかよ。俺以外にも他の世界から来た人っていたのか。そうなると色々辻褄があってくるな……」
頭の中で情報を整理してみよう。今更否定しても仕方ないし、ビゼンの言うことを信じるなら、クラウドは父さん。ヴィオラは母さん。ムラクモは師範だとする。ストームってのは知らないから置いておくとして、ビゼンは父さんが打った刀ってことになる。
どういう経緯か、この世界に召喚されたかで師範がこの世界に来て、父さん達と知り合った。そしてフラッグと一戦交えたってことなんだろう。ストームってのが勇者で、ビゼンが知ってるってことは恐らく勇者パーティの一員としてフラッグと戦った線が有力だ。
そうなると幸か不幸か、俺は二代に亘ってフラッグと戦っていることになる。なるほど、フラッグが言っていた出会う運命ってのはそういうことだったんだろうか。
それともう一つ気になるのが母さんの名前だ。俺はよく似た名前を知っていたはず。
「なあビゼン。」
『なんだい? まだ聞きたいことがあるのかい?』
「ヴィエラって知ってるか?」
そう、元魔王の名前が余りにも酷似している。もしかして何か関係あるのか? いや、関係あった場合には俺とも関係があるってことになるんだが。
『ん? コウはヴィエラのことを知っているのかい? ヴィオラの妹だろう?』
「はあ!?」
ドンピシャだった。母さんの妹ってことはつまり……
「俺の叔母ってことになるのか……」
『そうだね。そういうことになるね。』
そりゃ異性に見えないわけだよ。血縁かもしれないんだもの。しかしイガさんとヴィエラがくっつくとイガさんが俺の……
いやいや、こういうのは考えるのはよそう。
「しっかしそうなると俺の周りの状況が一気に様変わりしたな。そうなるとイガさんもなんかありそうな気がするけど……」
『ごめん、イガさんって名前はちょっと心当たりがないや。』
あっても困る。だが俺と一緒にこの世界に来たこと事態が何か運命めいた物を感じざるを得ない。今はまだなにも分からないが。
「考えるのはここまででいいか。ビゼン、また父さん達の話も聞かせてくれ。」
『いいよー、僕もクラウド達の話は聞きたいしね。お互い情報交換ってことで。』
しかしよく喋る刀だな。誰に似たんだろうか。
「それにしてもビゼンはなんで喋れるんだ?」
『僕は元々風の精霊だったんだよ。それなりに高位のね。ただ昔僕が宿ってた木が寿命を迎えちゃって、僕もそのまま木と一緒に一度死んでしまったんだ。で、クラウドが僕が宿った木をこの刀の材料にした時にそのままくっついた形になって、ヴィオラが僕を目覚めさせてくれたんだ。』
なるほど、見たことはないが精霊なんてのが実在したんだな。何気に俺ってすごく貴重な情報を得てるんじゃなかろうか。
「そうなると魔素と器の関係ってやっぱり精霊も関係してるのか?」
『もちろん、そもそも魔素って僕達のご飯みたいな物だからね。君達の呼んでいる器っていうのは僕達精霊とどれだけ相性がいいかに寄る。言ってしまえば、君達は魔素を体内に取り込んで属性に変換するだろ? その変換された魔力を僕達が食べて力を蓄えるんだ。で、そのお礼に力を貸して魔法として対価を支払っていると思ってもらっていい。』
「なるほど、じゃあ体内に残る砂はなんなんだ?」
『これも言ってしまえば僕達の排泄物さ。』
「ウ○コかよ!!」
知りたくないことまで知ってしまった。畜生。今俺の身体は精霊のウン○でいっぱいってことか。
『まあまあ、時間が立てば無くなるんだから気にしないで。それよりコウ、そろそろどこかの街に着きそうだよ。人の気配を感じる。』
「おっと、そんなことまでわかるのか。便利だな精霊って。」
『魔力を感じた時だけだけどね。あんまり良い雰囲気じゃないかも。』
魔力を感じるってことは魔法を使おうとしているということだろう。あまり良い雰囲気じゃないってことは戦闘中とかだろうか。とは言っても、このまま飢え死にするわけにもいかないし、行ってみるしかないだろう。
「まあいざとなったら飛んで逃げるさ。とりあえずこのまま突っ込んでみよう。」
『適当だなあ。まあそういうところはクラウドの息子らしいね。』
誉められてるのかけなされてるのか。
とにかく、まずは街に辿り着くのが先決だな。
色々詰め込んだから説明くさいかな? 設定が意外だと思ってもらえれば幸いです。




